第34話 家は正直平屋がいい
まんぷくテロリストが戦勝記念パーティーをラストルネッサンスとやった。朝を遂げる。眠る際、ベッドを破壊したことを悔やんだ。だが他人のベッドで寝るなんてと考えると、悔いはなくなる。この世紀末で何を言うか。
もうすでにラストルネッサンスは各基地を制圧。オールドスランガーズの必死の抵抗も虚しく散った。劣勢で勝つには英雄が足りなかった。四天王はいたが。
あとはファームシティに帰るだけだ。車に乗りエンジンをかける。みな眠たげだ。ラスルネはほぼ全員が寝ている。起きているのはチェリーとその側近のみ。彼らも街に戻ると言っていた。確かに、残党が街を襲ってないとも限らない。
「着いたら教えて。あたしは寝る」
草食はそう言ってキレイに二度寝をキメる。帽子で目を隠し、ぐっすりスヤスヤ。
「なんか、あの街に戻るのも久々な感じ」
「サムもそう思う? オレも」BBのハッキリしない声。「あそこってどんな街だっけ。着いて早々戦うことになったから何もしらない」
オサムとBBの会話も覇気がない。これまでほとんど休みなしで戦ったのだ。眠くなるのも、当然といえる。気を遣い、プロペインが後部座席を見る。
「二人共眠っていいぞ。俺はまだ起きれるからな。レモンも眠っておけ」
「いいんですか?」ちょっと期待しているレモン。
「なぁに安心しろ。伊達に鍛えちゃいない。体力面もバッチリだ」
「じゃあオレは寝ます。プロペインさんも休んでくださいね」
「ああ」
BBの気遣いと共に発進。BBもオサムも座席にもたれかかって寝始めた。レモンだけ、目を瞑っても寝付けない。狙撃手の性として、窓の景色を気にしてしまう。
帰省から帰るかのような空気。田舎道を通って、青い静寂に包まれている。
レモンはふと、現実のことを思い起こした。車の空気が、懐古を覚ましたのだろう。
記憶の中にあるのは、中学生らしく、学校のこと。出席してないことも気がかりだ。それより単純に、あの場所にいない寂寞感。私立の中学。受験は大変だったとやはり思う。
連想して、登校風景も浮かぶ。二○五二年では、学生に、学校の雇う警備員が付く。彼らに守られながら登校する。決められたルート以外を通ることは許されなかった。青春の自由を求める少年少女にとって、それは鬱陶しかった。だが育ちの良い私立の方々は、それから外れることはない。犯罪に巻き込まれるつもりはない。
さらに回想は戻り、家のことへ。彼女の父親は一流企業に勤めるサラリーマンだ。しっかり正社員。この時代サラリーマンであっても価値があった。レモンはそれを聞かされても実感がなかった。だが確かに、金に不自由することはなかった。自然と親に感謝でき、自信もあった。
彼女が現実に帰りたがるのも解るものだ。彼女は、恵まれていた。
オサムはすでに夢の中。夢では、普段共働きの両親が家にいる。三人で夕食をとるという場面。いつも一人で食事をとるオサムにとって、至福の時間。
そこで学校の話はされない。彼女には友人がいなかった。SNSではいたが。だがこれは悪夢ではない。彼女に都合のいい話ばかりされる。食べているのはカレーと味噌汁。夢でなくても、三人の時はいつもカレーだった。
対して、BBの夢は暗黒。義理の親が何度も変わる夢。何度見たかも知らない夢。一度親に捨てられて、それから親が代わる代わる変わる。愛の知らない少年は、愛の夢を見ない。殴られる夢なら、見るが。
彼らは街に着いた。子供達は喧騒で起きる。BBは目覚め悪くしかめ面で。オサムはうんと伸びをし気持ち良さそうに。草食はまだ寝ている。
「草食、着いたぞ」
「んぐあ?」
草食も起きた。と、ここで寝床はどうしようか。プロペインはそこに思い至った。だがもう眠くて仕様がないので、考えも巡らない。
チェリーも車から降り近付いてくる。彼も辛そうだ。同時に晴れやかだ。
「今いいですか? この作戦の報酬について何ですが」
「あぁ。家のことか」
「そうですプロペインさん。着いて来てください」
五人は車を降りてトボトボ歩く。チェリーの背に着いて行き、着く。そこは以前、まんぷくテロリストが仮眠をとった空き家だった。増築され、だいぶ大きくなった。
「ここがあたしらの家?」
寝起きで、現状を目にしても処理できない。草食だけでなく皆そうだった。
彼らは中に通された。ウッドハウス。中を見て、五人は目覚めた心地になる。電気などはない。しかし暖かみのある暖炉。つまりリビングがあった。玄関の近くには階段もある。
「ここが、飯テロさんの住居です」
言葉を失った。代わりに「おお」と感嘆の息が吹かれる。BBは好奇心に背を押され歩き始める。
まず入ってすぐのリビング。暖炉がある。気付かなかったが、屋根には煙突もあるのだろう。そしてソファ。日差しがこぼれる窓。奥にはダイニングテーブルがあった。
キッチンはあるのか。探したがなかった。大して残念とも思わない。暖炉をコンロ代わりにすればいいだけだ。ここまで来ると、遠慮なく好きに動き回る。
「うおお!」
オサムの、喜びに満ちた声。そこにあるのはお風呂。シャワーはないが浴槽はある。古めかしい、焚き火で熱するタイプ。BBが来た。
「これは嬉しいね」
「ハチ、覗かないでね」あくまでもふざけた口振りのオサム。
「どうかな? 不慮の事故もあるよ。その時は土下座してあげる」
「だーめ。許さない」
気楽な冗談に冗談で返す。さて一番風呂は誰になるか。オサムはそれが楽しみだった。
「二階に来てください! すごいですよ!」
上からレモンの声。BBらのテンションは高め。だから駆け足で確認に行く。
階段を一段飛ばしで登る。見えたのは廊下T字路になっている。行き止まりに窓。左に二部屋。右に三部屋。扉を勝手に開けてみた。
そして私的に、感動で信じられないものを見る。ベッドだ。これまでは寝袋か車の座席でも眠りだった。ベッドは敵しか持ってない。それをついに我らが手に。
オサムは走って、ベッドに身を投げる。スプリングが心地よい音をたてて、オサムを迎える。
「気持ちいい?」
BBは壁に手をかけて尋ねる。オサムは仰向けになり目を閉じる。眠気が、ダムの開放の如く流れ出る。
「さいこー」
その一言に全てが表れている。備え付けの毛布にくるまり、もう我慢せんと目蓋をチャック。現世から夢へ。
BBはそんな彼女に安心。レモンのほうへ行く。部屋のレイアウトは変わりない。彼女も部屋にベッドが一つ。レモンはベッドに腰掛け、窓から朝日を浴びていた。
「ベッド、ありますよ」
見れば判ることが、彼らにとって最も幸福だった。何もない部屋なので、声がよく響く。
「レモンも寝たら? 車よりずっといいし、オサムはもう寝てる」
「サムさん、もう気に入ったんですね。では、お言葉に甘えて」
彼女は靴を脱いで毛布を被る。「おやすみなさい」と一言言って横に。「おやすみ」と返して廊下に出る。扉を閉めた。
草食はすでに寝ていた。プロペインだけが起きていた。
「寝ないんですか?」
開きっぱなしの扉から部屋を見る。プロペインがストレッチをしていたのだ。
「もちろん寝るさ」
「チェリーさんは?」
「もう行ったよ。今後の話し合いは休んでからだそうだ。さ、お前さんも寝ろ。俺も寝るから」
「そうですね。おやすみなさい」
BBは扉を閉めて一階へ。リビングのソファに腰掛け、暖炉を眺める。
ふっと息を吐く。この焚き火を利用して、風呂を熱しよう。あぁそうだ。焚き火の移動方法はどうするか。ソファに腰掛けていると、だんだん夢が近付いてくる。風呂に水を貯めないと。何とか起きようとして、やはり眠ってしまった。
また悪夢を見ていた。彼は、貧困層の捨て子だった。二○五二年では、その治安の悪さから捨て子は普通だった。彼は親に捨てられた。正しくは蒸発された。それを知ったのはかなり後だったが。そして施設に拾われた。義理の親が見つかり、連れられた。
殴ってきた。酷いことをされた。でも、人のご機嫌取りは得意になる。そして、仮面までできてしまう。人に優しい味の、偽りの仮面。
起きたのは深夜だった。朝から寝たので、むしろ遅起きとも言える。なのにメンバーはまだ寝ていた。
BBは起き上がり、燃える暖炉を見る。近くに鉄ばさみを発見。これを使って燃える木を掴み、風呂場へ。入れるべき場所に入れ温める。バケツを持ち出し外へ出る。月が照明の代わりをしていた。
家の周りをウロウロ。あそこまでやっといて、水がどこにあるのか知らなかった。幸い、近くに井戸を見つけた。真新しい。戦後できたものか。汲み上げる。それを浴槽に入れ、熱せられるのを待つ。
車の中から食糧を取る。家に運ぶ。キッチンはないが空き部屋はあった。勝手だが、ここを一時的に倉庫としよう。
風呂場を見る。湯気がたっていた。先に女性陣から入らせるべきだったかとは考える。だがやってしまったものは仕方ない。そもそもなぜ湯を沸かしたのか。無意識に入りたいと思っていたのではないか。
というワケで入ることに。脱衣所。そこで気がつく。この世界ではどこまで脱げるのか。前にオサムに脱がされた時はシャツまでだった。
自分でどんどん脱いでみた。ズボンは落ちた。スパッツを履いていた。シャツは脱げた。インナーがあった。あったのか。BBは驚く。インナーを見下げる。体のラインが浮き出ている。彼の、可愛げのある肌。それが黒いインナーによって、妖艶さが露になる。
だがこれ以上は脱げなかった。自分が脱がすのと、相手が脱がすのとでは制約が違うのだろう。風呂場に入る。シャワーはない。シャンプーも何もない。気は引けるが、そのまま湯船へ浸かる。
足先から、肩まで。湯気が体をソフトタッチ。体温を上げようとする。
まるで憑き物が取れたように、体から疲労が逃げていく。湯気を見つつ、目を閉じる。
さっきまで悪夢だったものが隅っこへ。思考が洗われた。気分が晴天へ。
久々に休めたかもしれない。これが家を持つということか。しかし長風呂は嫌いだ。数分も待たずに立ち上がった。
脱衣所まで来て、タオルがないのに気付く。もう選択肢がないので、衣服で肌を拭いた。せっかくの気分も台無しである。
インナースパッツのまま二階に上がる。衣服は着れない。途中、レモンが朧気な目付きで歩いて来た。ばったり廊下で会う。
彼女の顔が紅潮する。
「あぁごめん。風呂に入ってたんだ。オレの後でいいなら、空いてるけども」
BBは何事もないように言う。コクリと頷きつつレモンは階下へ。彼の体は、月明かりに照らされて、耽美であった。
前回投稿忘れてしまった。したと思ってたんや。すみませぬ




