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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
33/137

第33話 非健康的酒盛り


BBとレモンは食糧庫へ歩いていた。未だあちこちが燃えている。彼らにとってそれは、非日常を彩る花火のようなものでしかなかった。火の先が火の粉を吹き、熱が二人に体温を与えた。


この基地の食糧庫は、空から見て中央にあった。激戦だったのだろう。幾多のロストアイテムが転がっている。後々これらも回収しなければならない。アイテムを踏み越えて中へ入る。心なしか、レモンはワクワクしていた。ここしばらくポークビーンズまみれだ。期待も膨らむ。


その中。とても広かった。これだけで何年籠城できるだろう。天井まで届く棚に、何から何まで陳列されている。


「こんなにいっぱい……」


目を輝かせたレモンにBBは微笑みかけた。レモンもBBを見た。握り拳を二つ作って、


「一緒においしそうなの探しましょう!」


と元気たっぷり言った。


「よしよし。パスタでも探そうか」


「おおパスタ! 確かに乾麺ならありそうです。私うどんが食べたいですね」


「オレはラーメン食べたいなぁ。でもうどんも食べたい。というか、ポークビーンズ以外ならなんでも食べたいな」


近くにあった台車を拝借しつつBBは言った。しっかり者として捉えているレモンに対しては、気さくだった。鈍感なのか無知なのか、レモンはそうとも知らない。


「お! 見てください、パスタありましたよ!」


「ほんと? 台車の上に置いて。好きなだけ持って行こう」


台車にパスタがどんどん乗せられる。ありがたいことに鍋も置いてあった。それも乗せる。


「あ、見てください。干し肉もありますよ。ファンタジーみたいです」


「ビスケットを挟んだら雰囲気出そうだね」


「でも、野菜も欲しいですよねぇ」


「野菜の保存食かぁ。ファームシティならトウモロコシがあるんだけど」


「あ! レトルトカレー! この中に野菜入ってないですかね?」


「あるかもしれないね。どんどん乗せてって」


二人は倉庫内をこれでもかと物色する。光ある目で食べ物を選ぶレモン。それを見守るBB。オサムとの関係性とはまた違った姿がそこにはあった。BBはあくまでも保護者だ。オサムに見せるような妖しさはない。


「そういえば、なんですけど」熊肉の缶詰めを手に取ったレモン。何気なく言う。「ハチさんとサムさんってどう出会ったんですか?」


「あれ、話してなかったっけ」


「憶えてないですね」


「うーん」


BBは歩みを止めて思い出し始めた。


「オレが荒野を彷徨ってた頃かな。プレイヤーに襲われているサムを見つけてね。あの時は誰か知らないけど。まぁ見返りを求めて助けたんだよ。でもサムは何も持ってなかった。だから立ち去ろうとしたんだ。そしたら、サムが連れていってくれ、って。で、仲間になったワケ」


「……ハチさんらしいですね」


「何が?」


「人をほっとかないところですよ。優しくていい人だなぁと」


その言葉を受け、BBの顔に影ができる。それも一瞬だけだった。すぐに微笑みという仮面を着け、応対を続ける。


「そう言ってくれるとありがたいよ。レモンは人を褒めるのが上手だね」


「そ、そうですか? 素直に受け取っておきます」


恥ずかしそうに体をよじり、彼女は上を見上げる。丁度BBに肩車してもらえば届くところに、うどんの乾麺があった。


レモンの目線を追い、BBはその心を察した。肩車しようとは互いに言えない。飛び乗れるBBが自然と行くことになる。


何も言わず、BBは台車から離れる。そしてヒョイとジャンプ。棚の縁を掴む。足は下の缶詰めの山に置く。うどんを取ろうとする。


レモンはBBを見上げる形となった。ただ眺めるだけだった。BBが更に上の段に行ったことでそれが変化する。彼のズボンの裾から、ふくらはぎが見えていた。


少年らしい、すべすべしたふくらはぎ。見えているのはほんの一部。奥はズボンの暗がりで見えない。そこに一種の神秘性を見出だし、気付けば見とれていた。


それもすぐに終わる。彼は足を外して地面に落下。着地する。途端に、レモンは赤面する。はしたないことをしたと感じた。


「どしたの?」


「あ、い、いえ」


顔を背けたレモンに対し、嗜虐心は湧かなかった。しかし我が子をからかおうとする童心はあった。少年らしく野性的な笑みを浮かべる。


これで肌が焼けていたら、もうグラビアだろう。レモンは赤い顔でじっと見る。何かを言おうとしたBBは、レモンの表情を見て困惑する。


「何見てんの?」


「何も見てませんっ」下を向きボソッと呟く。BBは、オサムと似た反応をするレモンを見た。どんどん不安になる。自分は一体、どんな目で見られているのだ。


だが、と彼は己を取り戻す。ここでいじってやらねば空気が吸い辛くなる。無理くり笑う。苦笑になった。


「何を見てたか言うまで、うどんは台車に乗せないよ」


「戻すんですか?」


「え?」予想外の反応だった。「あぁ、まぁ、言わなければ戻すけど」


「じゃあ言いません」


あまりにもピシッと言う。気圧され、BBは戻し始める。調子が狂うと口角を曲げた。レモンは、神聖を陵辱するような背徳感を抱きながら、BBの足を見る。


またBBが上に行く。レモンはマジマジとふくらはぎを見る。視線を感じたBBが下を見た。レモンはどこも見ず待っている。気のせいか。うどんを戻そうとする。また視線。オサムと遊んでた時とは違う、冷たいものが心に流れる。


「終わったよ」


どうしてか残念そうな目付きのレモン。不満そうに「行きましょう」と言った。彼女の心理が理解できない。BBはそれを会話不足と捉えた。レモンはただ自分に嫌悪感を抱いた。


結局、二人の間には気まずい空気が残った。レモンもBBも、この状況を打開したかった。しかし話すネタがない。ただ台車を持って倉庫内をウロウロしているだけだった。


「あの」「あのさ」


二人の声が被る。やっと二人は笑った。クスクスと。


「どうしました?」


「どう思う? オレは多分レモンと同じことを考えてた」


「ハチさんって、そういうことスッと言うんですね」レモンの小悪魔な笑み。


「レモンは言わないの?」


「恥ずかしいですよ」


「慣れ親しんだら恥ずかしくなくなるよ」


「じゃあそういうのを目指させていただきます」


「どんと来いってね」


彼らは食べ物をふんだんに積んだ台車を外に出す。ベッドルームまで行く。その間、微笑ましい空気が流れた。オサムが見たら恐怖にかられるほど。


彼らはベッドルームがある施設へ入った。台車を押して進む。三人の声が聞こえてきた。何かのゲームをしているようだ。


声のする部屋に入った。ベッドは破壊され、プロペイン、草食、オサムが、広く何もない部屋に座っている。三人はトランプで遊んでいるようだ。


「ただいま戻りましたぁ」


すっかり元通りのレモンがいつものように声をかけた。それに気付き、トランプを繰る手を止める。


「おかえりー。何か見つけた?」反応したのは草食。


「はい。パスタとかありましたよ」


「おお。じゃあ茹でないとね。鍋と、火がいるね」


「鍋はあります。火は?」


「木炭ストーブがあるぞ」


プロペインが取り出したそれに、一同は喜ぶ。早速鍋を持ち出す。火をつけた。水を入れた鍋を置く。


トランプを見ると、その近くにコインが置いてあった。レモンはそれを見た。こんなアイテムがあるのかと思うのに留まる。BBは、それがスロットのコインであることに気付いていた。


「何してたんですか?」


「お、カレーあるじゃないか。これも茹でよう。ブラックジャックをやってたんだ」プロペインが台車の上にあるものを物色する。


「三人でブラックジャックですか」


「草食が言ったのさ。ま、結果は見ての通りだ」


レモンは草食の場を見る。哀れなほど負けていた。草食は声は元気だった。だが肩を落としている。その背中を見ただけで己にも不運が移りそうだ。


賭け事が弱いのだな。BBはそう確信した。カジノでたかられる人物だ。BBの中の評価が少しずつ下がる。草食はそれを知ることはない。


BBがコインの量を見て、気付いた。


「サム圧勝じゃん」


「まぁ、何とかね」


オサムは頭をかき謙遜する。コインが山の如く積まれている。BBはブラックジャックをやったことがない。だから褒めようにも解らない。


「じゃあ、パスタ茹で上がるまでらやってますか」BBは鍋をチラ見しつつ言う。


「あ、あたしは」


「姉さん、今回は運が悪かっただけだよ。姉さんなら勝てるよ」


BBによる悪魔の囁き。草食は、水を得た魚のような目をして飛び付いた。


プロペインが親。それ以外が子。コインはスロットのコインを代わりに使う。カジノコインではない。一つ十の価値。一律。カードをシャッフルし、ゲームスタート。


とその前に。ルールを知らないBBに皆から丁寧に教えた。


「それじゃ、カード配るぞ」


各々に二枚ずつカードが配られる。BBの手札には2と9。悩むが、ヒットをする。5が来たさらにヒット。9が来たのでバスト。賭け金はとられる。草食もバスト。大量にベッドしていたのでほぼ負け確。レモンは、彼女も負けた。オサムだけが勝ち残る。


その後もオサムが勝ち続けた。一人だけコインまみれ。富の独占さえ感じる。


そうしている内に。パスタが茹で上がった。ゲームは終わり。オサムの独り勝ちである。


「手榴弾に続いて、またサムの得意が見つかったよ」


「そうかな?」


「そうだよ」


BBの言うことに多少は自信をつけたオサム。草食は、可哀想なので見ないことにしよう。


プロペインがパスタを紙皿に別けていく。その上にレトルトカレーをかけた。プラスチックフォークを添える。この世界では贅沢な食事ができた。


「カレーパスタなんて初めて食べますね」


「独身ならよくやるぞ。これが旨いんだ」


プロペインの言うことを信じ、お行儀よくパスタを巻く。レモンはパクリと一口。カレーのトロみと辛さが、パスタの麺とよくからんでいる。


感覚としてはミートソースパスタ。斬新な味わいに、レモンもオサムも顔をほころばせる。特にオサムは嬉しそうだ。


「おいしいです!」


草食とBBは手をつけようとしない。草食は自身の愚かさへのショックで。BBはパスタの食べ方をよく知らなかったから。


彼はコンビニのパスタを何とか啜った記憶しかない。それがよろしくないことは知っている。でも他のやり方を知らない。そんな教育は受けてない。


彼は他の仲間をよく見た。真似をする。やっとパスタを巻けた。食べる。悔しさの混じった味がした。

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