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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
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第28話 ジャイアントキリング


BBがHP残り一で、四天王と戦う窮地に追い込まれている時の地上。基地からの攻撃は止んだ。その状況に人々は困惑しているというのが本音だろう。


BBは、援護があったとはいえ一人で基地を征服したのだ。その強さは計り知れない。チェリーは安堵すると同時に、かつて彼と敵対した己を嗤った。


だがおかしい。とっくに銃撃は止んでいる。なのにBBが来ない。彼がデスしたかどうかも確認がとれず。指揮官にあたるレモン、プロペイン、チェリーの三人は、話さなかった。話さずとも、結論は同じ。BBを見捨ててでも進軍する。そこは一致。オサムや草食はまだかまだかおBBを待ち続ける。まるで本当に死んだかのように。


まんぷくテロリストは突出し、基地の近くにいた。オサムの手榴弾を投げ入れるため、近寄った。今は孤立しているだけだ。敵がいないので、安全だが。


プロペインがしばしの静寂の中、立った。この現状で二人を置いておくのは気が引けた。だが作戦は成功した。次の動きを話し合わないといけない。


「俺はチェリーと話してくるよ。二人はここで待機してくれ」


草食は渋々頷いた。だがオサムの様子が変だ。何かに耳をすましている。地面に触れ、何かを感じ取っている。


「サム?」


見かねたプロペインは近寄ろうとして、やっと異変に気付く。


ここまで来る地鳴り。振動。機械の擦れる音。巨人の足音であるそれは、プロペインに想起を促した。


バンの影から出て、その主を探す。音と揺れは確実にここまで来ている。牙を研いでいる。それが判るのに、不安から、それを見ようとするだけしかできない。


基地を回り込んで、ヌッと何かが出てきた。工業製品のように地面と接するキャタピラ。茶色の装甲。何物も貫く砲。


戦車。プロペインの予想は気持ちいいぐらいに当たった。その気持ちは奈落へ落ちた。


奴の砲が火を吹いた。滑空する砲弾はプロペイン達の背後、ラスルネの車列を狙った。プロペインは恐怖に足を引っ張られた。それ故に何もできない。彼だけでなく、戦車以外みな固まった。


爆発。オサムが幾度となくおこしたそれよりも、遥かに巨大。その鋼鉄の化け物に、プレイヤーは徹底的な畏れを抱いた。


恐怖から誰よりも早く復帰したのはオサムだ。今度狙われるのは、ラスルネより突出したまんぷくテロリスト。自分達だ。


「プロペインさん! 車に乗って!」


喉が裂けんばかりに叫ぶ。我に帰った草食とプロペイン。車に駆け込む。アクセルを踏んで戦車を背に逃げ始める。眼のようにゆっくりと動く砲塔。自分達を見ている。


オサムは車の中、ずっと後ろを見ている。狙われているのを確かめた。


「プロペインさん! 撃たれます!」


ハンドルを切り砲弾が通過するのを認めた。彼方で爆発が起こった。


こんな時、すぐに策を考えるのがいつものプロペインだ。だが今はそれどころではない。草食は必死に考えている。オサムは戦車の動きを見るのに忙しい。


草食の過去がヒントを今に渡した。映画のワンシーン。手榴弾を戦車の中に入れてやっつける場面。現在対戦車装備はない。持ってたら? 今ある材料で勝利を得るしか道はないのだ。


もう一発を蛇行運転で避ける。オサムは撃つ瞬間をプロペインに伝えていた。


「サム!」草食も必死だ。「戦車の中に手榴弾投げれる?」


「今は中への進入路がありません。直接飛び乗って開けるしか」


「やれる?」


オサムは一瞬、BBのことを考えた。彼なら、いとも簡単にやってのけるだろう。彼なら。彼なら。だが、今はいない。なら。


「やります!」


「聞いたプロペイン? 車をUターンさせて戦車に近付いて! サムが飛び移る!」


「無茶ばかりだな! いつものことだが」


アクセルやブレーキをガチャガチャ踏む。バンでドリフト。砲弾はまたも外れる。


「見たところあの戦車は移動しながらの砲撃は無理だ。だから今も止まって撃っている」


プロペインは冷静に言葉を続ける。


「だが近付けば近付くほど回避は、無理だ。着弾までが速すぎる。これは大きな賭けになるぞ」


「任せて。あたしが何とかする」


「どうする気だ?」


「運試しだよ」


草食はそう言って扉を開ける。揺れる車の上へ登る。振り落とされまいと指を車に押し付ける。車の上に登り、足を踏ん張る。立つ。


草食は戦車砲の原理なんて知らない。彼女はリボルバーを抜く。だがやってみなければ判らない。


戦車まであと少し。オサムが右側の扉を開ける。いつでも飛び移れるよう待機。プロペインはもう回避行動をしても意味ないと悟り、頭上の草食に全てを任せる。


草食の周囲が無音になっていく。感覚はカミソリより鋭利になり、車を狙う砲に、銃の狙いを定める。


砲から弾がニョキとあらわれる。そう見えた。その瞬間に草食は早撃ち。弾丸は砲弾に向かって着弾。弾頭を削る。わずかながら。そのわずかな傷に運命は託された。


砲弾は、本来進む予定だったルートから外れ、見当違いな場所に着弾した。弾に傷をつけることで空気抵抗を変えたのか。そう草食は理解した。これが現実でもこうなるのか、彼女には判らない。


バンは一気に加速する。その速さに草食は振り落とされ地面に落ち転がる。車は全速力。戦車の左側についた。オサムが飛んだ。戦車に着地。


後はハッチをぶち開け手榴弾を入れるだけ。それだけだと、オサムは思っていた。ここにきてナイスアイデアが浮かぶ。


これを鹵獲したらどうだろう。ここまで来てこいつも手にしないともったいない。そんな気がした。


ハッチを開け、ピンもレバーも動かしてない手榴弾を投げた。


「グレネード!」「もう終わりだぁ!」「出ていけぇ!」


しかし何も起こらない。オサムはそこへ、ナイフを持ち入る。車内で一人一人刺してキルする。その速さに誰も喋れない。


全員がポリゴンになって消える。オサムには勝利の気が湧いてきた。ハッチから体を出す。基地を迂回してきたオールドスランガーズの歩兵部隊が来ていた。


オサムは何も解らないレバーだの何だのを動かしていた。何かを動かしたら砲塔が動いた。何の部品だろう。ワケが解らない。取りあえず砲の先が歩兵部隊に向いた。引き金を引いてみる。


車内に爆音が響いた。空薬莢が砲塔内に転がってきた。ポリゴンになって消える。ハッチから頭を出す。もう敵はいない。全て吹っ飛んだ。


バンが近くに止まった。


「サム、どうした? まさか戦車を鹵獲したのか?」


「うん!」百点をとった子供のような笑顔。


「よくやった! ちょっと待ってくれ。次の手を考える」


本当にちょっとの間の後、プロペインは顔を上げて言った。


「あの山、基地に向かって撃てないか?」


「な、なんで」残酷とも言える発言に、オサムは意味を知ってなお聞き返す。


「戦車が来たということは増援が来たということだ。おそらく基地内に敵が再展開された可能性がある。なら生き埋めにしたほうがいい」


「でもハチが」


「その通りだが時間がない。撃てないなら俺が撃つ」


さらに追加すれば、戦車を投入するほどの本格さなら、本隊は手薄になっているハズだ。ここから最も近い拠点は、オールドスランガーズの本拠地なのだから。オサムも、それを理解していた。


オサムは必死に自分を抑える。心配なのは、BBに恨まれるかもしれない。裏切られたと感じられるかもしれない。そんな恐怖だった。


しかし、それが本当のことになったとして。個人の感情を全体の行動に影響させていいのか。言語道断。恨まれるような、責任のある決断から逃げるな。BBもそうしたじゃないか。


「わたしが撃ちます」


「頼んだ」


すぐ車内に戻る。操作。狙いは敵、アリの巣。発射。何度も発射。自動装填であることはこの際気にしない。基地が崩れていく。


そして何発目かでほとんど壊れた。残ったのは、コンクリートだけ。どうやら地下へ続く通路のようなもの。ほの上に土を被せていたらしい。崩れるのも道理だ。


オサムは何とか戦車を動かす。まだ走れる。これで本拠地を攻めよう。どうせ移動しながらは撃てない。自走する砲として使ってやろう。


「よし、そのまま戦車を動かしてくれ。ハチの救出、確認はあとだ。行くぞ」


そうして全部隊は、オールドスランガーズ本拠地へ侵攻を開始した。BBを残して。


その残されたBB。彼は、峠でも攻めそうなBGMがラジオから流れている地下にいた。鳥の仮面と虹色の布をまとった女と戦っている。HPは残り一。


二つ振るわれる刀は乱暴に使われた。BBは刀一本でいなす。ショットガンを抜く暇はなかった。


BBは体勢を立て直すためバックステップ。頭上から爆発の衝撃が伝わる。そんなのを気にする余裕は本当にない。


敵、四天王の一人パロットが突っ込む。刀を交差させ上段から振り下ろす。BBは腰を落とし刀を斬り上げた。二つの刀を弾いた。すかさず突きと斬撃。パロットは体をくねらせ攻撃を避けた。


刀を振り切ったBBはタックルを見舞う。ついに体勢を崩しふらつくパロット。そこへ拳銃の弾丸。転がって回避する。BBの弾はいくつか当たった。


パロットは地を蹴りBBの足を狙う。蟹のように足を刀で挟み込む。ジャンプしてかわし銃弾を一発。パロットは仮面の下に、悔しさが埋め込まれる。


お互い着地。弾切れのBBは次にショットガンを抜く。パロットにピンチが来た。察知。行動。


最早相討ち覚悟のラッシュを、パロットはかける。突き、斬撃、殴打。全てをBBにぶつける。


斬撃を弾く。次は突き。刀をショットガンで吹き飛ばす。これで彼女の刀は一本。しかし懐に潜りこまれ腹を殴られ、ない。膝で跳ね返し斬撃一本。パロットにダメージ。回転斬りで反撃。受け流した。回転して隙だらけの顎を蹴り上げる。


パロットは空中へ吹き飛ばされた。銃声。ショットガンの重い音。さらに飛ばされ、デスした。


回復剤は、落とされなかった。BBのHPは、雀の涙。


合流しなくては。BBははしごを登ろうとする。異変に気付いた。塞がっているのだ。もしや退路を絶ったのか。詰みか?


改めて周りを見る。ここが車庫に準ずるものであると知った。そしてはしごの反対方面。そこには巨大な扉がある。すぐ近寄り見てみる。


開けられそうにない。カギがないのだ。ショットガンでこじ開けられるものではない。そういう物には、人が通る専用の通路があるだろう。しかしそれもなかった。


KIAすることも考えた。自分をキルし、リスポーンする。だが希望を捨ててはならない。何より、そこらに落ちている武器を捨てられない。BBは集めることにした。


ガンガン音楽を鳴らすラジオを切った。武器を集め始める。拳銃、手榴弾、ライフル、ナイフ、弾薬。


ここもまた、ベッドルームだったのだろう。もう破壊したが。食糧もあった。BBはそれらを食べることにする。


まず開けたのはいつものポークビーンズ。豆と豚の挽き肉。トマトの味。おいしくはない。空腹を満たせればHPは自然回復しだす。満腹を目指す。


次はみかんの缶。甘酸っぱくおいしい。しかし実際は甘さがくどい。それが判るほどBBの舌は肥えていない。


ビスケットもあった。こうなると喉が渇く。ジュースをポンッと開ける。ブドウ味。シュワッと炭酸。ビスケットの上にポークビーンズを乗せて頬張る。まぁ旨い。


マカロニチーズも乗せてみた。あんまりチーズの味はしない。ベタッとしたマカロニとビスケットの組み合わせ。ビスケットの固さとマカロニの柔らかさが微妙に合わない。サンドしてみる。お菓子みたいで案外いける。


こうしてBBは一人宴会。HPを回復させていく。食べながら装備を再確認する。フラッシュバンがあった。使えるかもしれない。


最後の晩餐みたいだ。まさにポストアポカリプス。

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