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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
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第26話 太陽と月の間


BBとオサムは農場方面まで出向いた。どこかに空き地はないかとウロウロ。いずれ作物が植えられるであろう空き地を見つけた。


二人はそこへ寝袋を敷く。リスポーン地点を変えた。今やベッドアイテムで寝るだけでリスポーン地点が変わる。ゲームらしい。二人は寝袋を脇のほうへどけて向き合う。まだ殺気は見当たらない。


「さて、訓練しようか。お互い遠慮はせず戦おう」


「それはいいけど、カウンター戦法って何?」


オサムの問いに、BBは感嘆の息を長めに吐く。そういえば話していなかった。


「オサムって、見たところカウンターを重視して戦っているからさ。その方が性にあっているのかなって」


「そうなの」「そう思うよ」「そうなんだ」


「とりあえずはやってみないとね。じゃあ、オレから攻めるからいなしてみてよ」


BBは言い終え、体内に流れる空気の温度を変えた。熱く、焼かれんばかりの殺気。それにあてられたオサムは怖じ気づく。しかしこれも訓練の内だ。ナイフとナタを抜く。


BBも刀を抜いた。お互いに構えない。オサムはどう構えればいいか判らないだけ。BBは相手に動きを予想させないよう、あえて構えない。


BBが一歩一歩ゆっくり近付く。すでに双方のキルゾーンに入っている。あと一歩踏みしめ顔を殴ることも容易い。


オサムの怖じ気は次第に防衛本能に移り変わる。体を見て、筋肉さえ見抜く。観察し、見逃さない。


BBが地を蹴った。すかさずオサム引く。斬り上がる刀をナイフでいなす。ナタで横薙ぎしようとする。腹を殴られた。よろめき下がる。BBが殴ったようだ。容赦ない。


オサムは唇を噛む。カウンターを防がれた。しかし攻めるな。好機を窺う。再び沈黙。


突如BBが刀を振り回しながら詰めてくる。意図が判らない。ぶんぶんと振るわれる刀。全くオサムを捉えない。確実に斬られる距離まで来た。しかし一切かすらない。これは好機、いや罠だ。


オサムは決して微動だにしなかった。いつか繰り出される攻撃を待つ。耳に風を裂く刃の音。殺意を示してくる。


腕の動きが変わった。明らかに斬ろうとしている。刀を待つ余裕はない。ナイフで突く。すぐ胸元に来た刀で流される。それをタックルで体勢を崩す。ナイフを逆手に突き。かわされたがその先へナタを振るう。刀で弾かれた。追撃の手を止めない。ナイフで三連続突き。全て弾かれてかわされる。四発目の突き。刀にナイフをぶつけた瞬間、逆手に持ち替え刀の軌道を変える。そして斜めからナタで一閃。


その動きに対しBBは、刀を投げ捨てた。上へ。ナタを持っているオサムの腕に一打加える。全体重を乗せた蹴りをオサムの足先にやる。さらに跳躍。空中に投げられた刀を手に、頭上から斬撃。オサムは負けた。


と、思うのは、今までのオサムだったらの話だ。


このオサム。何度も防戦をしてきた。たとえ負けるとしても、相手に損害を与えることはできる。一矢報いる。


オサムはナイフを投げた。BBの肩に刺さる。オサムは刀の振り下ろしをまともに受け、デス。


オサムに敗北感はなかった。あのBBに一撃食らわしてやった。その喜びの海に溺れ、ポリゴンとなって消える。


リスポーンしたオサムは、BBにピースサイン。ナイフが刺さったままのBB。笑いで答えた。初めて訓練した時と二度目の今回で、こんなにも強くなるとは。最初はただ脳死突撃をしてやられていたのに。


彼は成長を嬉しく思えた。


「ナイス判断だね。サム」


「でしょ? これが一矢報いるって奴なんだ。ただ負けるだけじゃないってのはいい収穫だよ」


「次はキルするところまでだね」


「そだね。ま、今回の反省点を言うなら、キルするだけなら最後のナイフはいらなかったな」


「確かに、投げても投げなくてもやられてたかもね。でも反省できたんだ。いいんじゃない」


「ハチって、人のいいところ簡単に百個見つけられそうだよね」


「皮肉として受け取っておくよ」


オサムは苦笑した。褒め上手でも褒められるのは下手だ。今度褒めちぎってやろう。赤面するBBが目に浮かぶ。そうオサムは計画した。


「あ、あと一つ注意するなら」BBは人差し指を上げて閃く。「もっと殺意を持ったほうがいいかな」


「何で」


「やっぱ殺る気がないとキルまでいかないからさ。ブッ殺してやる、ってメンタルで戦ったほうがいいと思う。経験論だけど」


その言葉には渋らざるを得ない。BBに、少なくとも仲間に殺意を抱けとは。残酷なことを言う。殺したくなるほど好きとは言うが……。いや別に好きとかそれではない。


いや待て。オサムの悪い癖、考えすぎが発動した。なぜBBはこうも簡単に殺意を持てるのだろう。オサムとて殺意が芽生えなかった、ということはないが、それを抱けるのは相手が余程憎くないといけない。


なら。彼は自分のことを、いつか殺す存在としてしか見ていないのだろうか。その考えは、実際三分の一くらいは当たっていた。


突然塞ぎこんだオサム。それを見るBBの目は兄のようだった。優しく、思いやりのある瞳。


「今の言葉で、悩んじゃった?」


「え?」予期せぬ語りかけに戸惑う。「いや別に……」


「話したくないならいいよ。でも、抱えすぎないでね。最低でもオレは、いつでも話を聞くからさ」


オサムは慎重に言葉を選び始める。自分は話し下手。だから、事前に言うことをまとめる必要がある。BBも話すのは苦手と言っていたクセに。話させるのか。今さら愚痴を心に灯す。


「ハチは、どうやって殺意を出してるの?」


杜撰だが、彼女げ吐き出せた言葉はこれだけだった。


「安いもんだよ。もし、相手がオレを裏切ったら。そう考えるんだ。そう、イメージするんだ」


言っている内に、どんどん顔色は暗くなる。怒りの刃が研がれる。BBの中で、嫌な記憶が蘇った。オサムも、僅かながら解る気がした。唯一の友達が、自分の敵になった時。それを思い出す。そこにあったもの。それは絶望、殺したいと願う気持ち。


オサムは目を伏せた。


「ハチが裏切るなんて、想像したくないな」


「ごめん。でも、その時が来たら、斬ってよね」


オサムはリス地である寝袋から立つ。ロストしたアイテムを拾う。また武器を取る。訓練は無言で再開した。数時間、彼らは戦い続けた。そして、オサムは全敗した。


確かに悔しい。しかし、あえて手加減をせず、叱責もしないBBの不器用な優しさに、オサムは感謝した。だが、最後まで殺気を向けたことはなかった。


数時間後。疲労困憊の二人は借りている部屋で横になる。夜は更け、街には巡回兵が行き交う。そして車の排気音。集められている戦力を心強く思う。BB達はその音で眠くなる。


常に訓練し続けているということ。他のメンバーは知っていた。彼らの邪魔をせず、そして、眠ることにした。




車のクラクションでまんぷくテロリストは叩き起こされた。各々が立ち、BBがいつものように眠る草食を起こす。


外に出る。そこには、車が大挙して押し寄せていた。チェリーがいた。


「おはよう。昼夜問わずの捜索で、オールドスランガーズの本拠地を見つけたよ。報告によれば、一つ問題が」


「どうしたの」草食が気軽そうに問う。


「最短距離を通ろうとすると、どうしても基地を一つ通過しないといけないそうで。回り込むことになると、この量だからバレるか、時間がかかりすぎる」


「それじゃ、そこをソッコーで潰そう」


「その言葉を待っていたよ」わざとらしい。「じゃあ、ボク達が先を行く。殿は任せても?」


「いいよ。後ろは任せて」


戦士達が車に乗る。キャンピングカー、バン、トラック、なんでもござれり。


エンジンを始動。片手でポークビーンズを流し込むプロペイン。車内に乗っているまんぷくテロリストはみな手早く食事を終わらせた。


「せめて、戦闘後はお肉が食べたいですね」


レモンがふと呟いた。その素朴な言葉は自然と場をなごませる。オサムがあることを思い出した。


「空飛んでる鳥、撃ったら食べれられるよ」


「え、サムさん撃ち落としたんですか?」


「ずいぶん前にね」車が発進しだす。


「じゃあクマも食べれるのかな」草食も思い出し言った。「ほら、ハチが倒した奴」


「いやぁ、素材確認してないから判らないよ」


BBの素っ気ない返事。その裏には戦闘への備えがある。その思考中にノイズが入ったので思わずこんな態度になった。


草食は気にする様子ではない。


「おいおいハチ、お前クマ倒したのか」


プロペインまで会話に参加。少々混乱してきた。またクマの話。死ぬまで語り継ぐつもりなのか。


その後も、連戦前とは思えぬほどのゆるやかな時間が流れた。車の列は敵の拠点まで一直線に走った。時折ふらついている車がいる。ただの無免許だ。


……あまり関係のない話。オールドスランガーズへ侵攻する部隊の先の先の。彼らの行く道の果てから対向車が来ていた。


オールドスランガーズの車だ。爆発物を大量に積んでいる。少しの衝撃で爆発しそうなものも。軽自動車。中で無理やり寝袋を敷いて寝た跡がある。リス地点は移動せず、寝た場所からリスポーンする。極めて無意味な行動だった。


乗っているのは二人の男女。オールドスランガーズに何人かいる四天王の一人、逆走青年という名のプレイヤー。と、またも四天王の一人、ホッケーマスクを被った女、十三番目。二人は近場の基地へ、早急に爆弾を届ける任務に就いていた。四天王が雑用している。


しかし運転手の逆走青年、こいつはとんだ方向音痴であった。彼は不安げに呟く。


「高速道路なんて何年ぶりかなぁ」ここは高速道路ではない。「乗り方も忘れちゃったなぁ」


何かを察した十三番目。この発言、ねこ総隊長に教えてもらったネタだ。


「孫に会いたいからって、慣れない運転で、おじいちゃん大丈夫かなぁ」


と十三番目は言った。惨劇は期待していない。曲がる道もなく、ただ一直線に進めばいい。それでも、ふざけたい青年は言葉を続ける。


「東京方面は右だったから、こっちか?」


そう言って進路から外れる。そのまま真っ直ぐ走行。予定の場所から離れ、ファームシティ方面へ。こんなことをしても、ネタに走ったからという理由で許される。それがオールドスランガーズだ。面白さは問わない。ちなみに逆走青年は本当に現在地が解らない。


前から黒点が接近してきた。


「ん?」


首を傾げよく見る。サイズが大きくなってきた。それが何かようやく理解する。


「うわ、前から車が!」


ハンドルを切ってももう遅い。車と衝突。内部の爆弾が起爆。連鎖して他の爆弾も次々と。そして、爆炎が路上を支配した。


これのせいで進軍に遅れが出た。だがラストルネッサンスの損害は軽微。オールドスランガーズは逆に、爆弾による作戦ができなくなった。理由は、呆れるものだが。

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