第25話 針一本の集中攻撃
自分で提案したロシアンルーレットで三回以上負けている草食。彼女は不正があったのだと、自分で弾を込めて撃つ。もちろんデス。チェリーに銃が渡ることは一度もなかった。
それはもう喜劇で、賭けなんて皆忘れていた。草食のドジを見て笑う。だが草食に恥はない。ただ運のなさに怒るだけだった。
そうこうしていると、人々は疲れ始めた。誰が言い出したワケではないが、自然の流れ解散。家がある者は家へ。行き場のない者は路上で寝た。
まんぷくテロリストもそうなるハズだった。しかしチェリーの好意で、建設中の家を貸してもらった。途中といっても内装がないだけだ。彼らは寝袋を敷き、横になる。
プロペインと草食はあっさり寝入った。BBはそもそも前日も朝も寝れてない。寝落ち。密かに起きているのはオサムとレモンだ。
「皆、寝ちゃいましたね」
レモンが小声でオサムに囁く。二人の中に非日常への童心が蘇った。今は昼だから、月光に照らされてのお茶会とはいかない。けど、二人は寝そべってお喋りしたくもあった。同性で同年代なのだから、積もる話もある。
しかし。オサムはこういう時こそ戸惑う。オサムに友人は少ない。というより、いないと言ってよかった。SNSのフォロワーはいても生身となると悲惨。だから今、何を話せばいいのか。悩んだ。
だが相手がレモンだ。この不安は捨ててよかった。彼女は気軽に話しかけてくれた。
「質問なんですけども」悪い笑み。オサムは気付かない。「BBさん、ハチさんとはどういう関係なんですか?」
「えっ」すっとんきょうな声が、家具のない部屋に響く。思わず口を塞いだ。それを見るレモンの目に暖かさがある。
「付き合ってる、というワケではないんですね」
「そ、そうだね。付き合ってはいないかな。でも、どうなんだろ。友達? なのかな」
「友達、なんですか?」
「そうだと思う」
「距離感が計れない。とか悩んでません?」
図星。自分は人に読まれやすいのか。オサムは目線を横に逸らす。それって、単に迂闊なだけでは。自嘲が混ざっていく。
でも、藁にも縋るといった気分だ。彼女はこの際、人に悩みをぶつけようと考えた。そのやけくそには大きなリスクがある。それを、考えに含まず言うことにする。
「ハチはさ。なんだろう。口説くというか。距離を近付けてくるというか。いやじゃないし、なんというか」
「ボディタッチとか多いですか?」
「多いってほどじゃない。でも触れてくれる。慣れてるみたいに」
気があるのか。レモンは真っ先にそれを疑う。しかし慣れているとはどういうことか。レモンの見るBBは、そんな、悪く言えばチャラい感じはしない。
いやだからこそだろうか。思考を巡らす内に、再びオサムが口走る。
「でもなんか、ちょっと離れたりするみたいな。そんな感じが……しなくもない。判らないけど」
レモンの中に一瞬、青春ラブストーリーが創られかけた。それをすぐに打ち消す。ここまでで判ること。それはオサムはBBに対して気を許しているということ。BBのことは判らない。
そういえば自分もよく知らないことに気付く。BBがどういう人間で、どんなものが好きなのか。仲間として、知らないことが多い。それらは他のメンバーに対してもだ。まだ仲間になってそんなに経っていない。レモンはこの戦いが終わったら、もっと交流しようと決意した。
「ハチさんって、ミステリアスなんですよね」
「まぁ、よく判らない奴って感じだね」
「そうですね。とは言っても、プロペインさんのこともあんまり知らないんですけど」
「プロペインさんは筋トレが好きらしいよ」
「なるほど。だからあんなに筋肉質なんですね」
「プロペインさんは筋トレが趣味だとして。レモンは何か趣味あるの?」
「もちろん。音楽とかよく聴いてますね。J-POPとかをよく。サムさんは?」
「わたしは漫画かな。大体何でも読む。少年漫画も少女漫画も」
趣味談義は意外と白熱した。好きなミュージシャンの話。好きな漫画の話。オサムの特に好きな漫画は二十年前のもの。レモンはEDMが最も好きとのこと。
オサムは、レモンと『二人だけの秘密』を手にしたことに感動。でもそこにBBと交わしたような糸はなかった。緩やかで安全な縄跳びだった。どんなに動かしても楽しめる秘密。彼女はそれを、友情と呼ぶのを知らなかった。もっとも、知っていたとしても否定しただろう。
「あの戦いでのサムさんの投擲。凄かったです」
「そう?」
「私、運動っててんで駄目で。ボール投げても見当違いの方向へ行っちゃうんです。だから羨ましくて」
「わたしは自慢になっちゃうけど、運動はできるかな。運動会で一位になることもよくあった」
「凄い! サムさんスポーツとかもうまそうですよね。ソフトボールとかやります?」
「やってないなぁ。部活とか入ってないから」
「そうだったんですか」レモンの交遊経験が語る。ワケありだ。
「レモンは吹奏楽部とかに入っているの?」
「いやそんな。あそこって体育会系ですよ。私にはとても」
「わたしも体育会系ムリ」
少女らはクスクスと笑い出す。感覚としては、修学旅行の夜だった。
だから、プロペインがのそりと起きた時も、先生がやってきたかのようになる。冒険と危機感でいっぱい。レモンは口に人差し指をあてた。寝たフリをすることにした。
プロペインは背を伸ばし元気に起きる。レモンとオサムが起きていることに気付かない。彼は立ち部屋を出た。必死に忍ばせている足音に、彼の気遣いを感じた。
レモンはオサムを見る。彼女はそのまま寝ていた。やはり疲れていたのか。レモンは母性の眼差しを向け、自分も寝ることにした。
……しばらくして、オサムはBBに揺さぶられて目覚めた。何度も声をかけられていたらしい。今も「サム、サム」と呼んでいた。夢を疑った。けれどそのBBの目は現実を告げていた。
「おはよう」
眠気の覚めぬオサムがそう言った。二度寝への移行を認めぬよう、BBも「おはよう」と返す。ちょっと呆れ気味。笑顔だ。
「ほら、姉さんも起きて」
草食の元へ向かい大袈裟に揺さぶるBB。BBと草食にある、本物のような姉弟関係に少し、少しだが苛立つ。オサムはそれをひた隠しにしてレモンを起こす。
レモンは素直に起き上がり「おはようございます」と静かな眠気をもって答える。オサムも「おはよ」と返す。
一方BBは苦戦していた。この女、眠りが深い。のみならず、起きたと思ったらすぐ寝る。二度寝の才は人類トップではないか。さてまたスロットで脅そうか。いや、この声の響きやすい環境では気が引ける。第一奇声を聞きたくない。
仕方なく拳銃を抜き上へ発砲。流石にこれで飛び起きた。天井に穴が空く。そういえばここは借りているのだった。後悔。草食は素早く辺りを見渡すが何もない。あるのはBBの不満顔だけだ。
「……朝?」
「いや、プロペインさんとチェリーさんが呼んでいる。今後のことについてだって」
「了解。それじゃ行こうか。寝袋は車に入れておこう」
そう言って四人は家を出た。車に寄り寝袋を入れる。プロペインの分も。そしてBBに着いていく。街は未だ厳戒態勢だ。柵の補強、堀を掘るなどしていた。
着いたのはラストルネッサンスの家。ノックをし開ける。中にはすでに、チェリーとプロペインが座り待っていた。テーブルを椅子で囲む。テーブルの上には水入りのコップが複数。
「集まったな」プロペインが四人を見る。
「何度も呼び出してすまないね。しかし、ここからが我々の攻勢なんだ。ぜひ作戦を聞いてほしくて」
「ま、ブリーフィングってことだ」
プロペインに促されて各々席に座る。オサムは当然のようにBBの隣。その隣にレモン。草食はプロペインの傍にどっかりと。
プロペインは水を少し口にした。
「さて、まずは現状の確認だ。今、俺達ファームシティは防衛に成功した。だがこれで終わりじゃない。今度は攻めに転ずる。そして、ここで問題がある。俺達の戦力が単純に足りないということだ」
「もちろん、まんぷくテロリストの戦力を加味しての結論だよ」
プロペインとチェリーが交互に語る。
「戦力が足りないというのは別に、攻める力が足りないワケじゃない。攻めて、奴らの基地を落とした後。その後の保持が困難ということだ。人が足らん」
「だから、一つ一つ基地を落としていくのはマンパワー的に不可能なんだよ。基地を更地にすれば保持する必要はないとも考えたけど」
「だがそうなると今度は拠点間を結ぶ補給の問題が出てくる。オールドスランガーズの本丸はどこか知らんが、順当に戦っていけば補給線が伸びきる」
「さらに付け加えると、そんなにだらだら戦っていたら、この街の物資が尽きるよ。そういうワケで、ボク達はこの戦いを短期決戦で終わらせないといけないんだ」
「ここまではいいか?」
BB、オサム、草食のメイン火力達は頷く。そういった戦術に疎いためそれしかできない。レモンは今の発言の問題点、疑問点を探し、ないと判断した。
全員が納得したと理解。プロペインは話を進める。
「俺達の戦いは馬鹿みたいに単純明快だ。まんぷくテロリストが急襲。パニックの所をラストルネッサンスが加勢、追撃。潰す。これを繰り返す。そして、本丸まで一直線だ。本丸の場所は捜索中だ」
「そして、決着。でもここにも問題があって、その本丸までの際、足で走って電撃戦はムリだね。だから移動用の車を用意しなければいけないよ」
「というワケで、ラストルネッサンスは全力で車を捜索。俺達は街の守りとして待機だ。その間に敵の基地へちょっかいをかける案もあった。だがガソリン切れが怖いからなしだ」
「捜索隊はすでに出してる。廃車であっても資材があれば使えるようになるから、そう長くはかからないだろうね。実際、すでに調達の報告がある。おそらく明日には準備完了さ。寝ずにやってるからだけど」
「まとめよう。本丸までの車は調達中。明日には攻撃開始。俺達が掻き乱してラスルネが一気に落とす。攻撃中の詳細は偵察が終わってから行う。いいか?」
「異論はありません」レモンはいち早く表明。納得の表情。今は捜索待ちか。
レモンが頷くならと他三人も了解した。
「ありがとう」チェリーは背にもたれる。「皆はこの戦いにおける要だ。ゆっくり休んでね。英気を養って、明日に備えてほしい」
「いいけれど」草食が珍しく口を挟む。「ラスルネさんらは休まないの? 聞けば多忙だけど」
「街の人々も協力してくれているからね。気にすることはないよ」
「それなら、ゆっくり二度寝させていただきますよ」
まんぷくテロリストメンバーは立ち上がり、礼をして家を出た。明日までまだまだ時間はある。夕方の陽が木々の家々を照らす。
「皆はこれからどうする?」
草食の言葉に全員迷った。悩んで、オサムが言う。
「わたしは今のうちに特訓したいです。いいかな、ハチ」
「いいよ。やろ」
「ハチ?」
草食が目を丸くする。あっと気が付いた時には遅い。そういえば、まだ草食やプロペインはあだ名で呼び合うのを知らない。
草食とプロペインは気に入ったようだ。
「BBのあだ名? いいじゃん。これから使おう」
「確かにな。ビービー言うよりこっちのがいいな。よろしくな、ハチ」
いい加減慣れてきたオサムに喪失感はない。少し不快ではあった。オサムは内心でため息を吐き切り替えた。BBが話を戻す。
「じゃあ、何を鍛える? サムのカウンター戦法?」
「……何それ」
彼ら二人は話しながら広場へ向かった。サムというあだ名が草食達に聞こえた。




