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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
24/137

第24話 くらげなうたげ


プロペインが先導して被害状況の確認をしていた。中央に集まった人々は勝利に酔う。しかしまだまんぷくテロリストは気を抜かない。基地方面の情報がないから。


だが悲しめるほど被害は多くない。北は突破されたがBBとオサムがどうにかした。農場方面、東側も二人がどうにか。西の門は死守された。南ははなから攻撃を受けず、配属されたプレイヤーは退屈さえ食べれそうだ。損害はデスした程度。ロストしたアイテムも拾えた。


終わってみれば完勝と言えた。それもこれもまんぷくテロリストのBBとオサムの奮闘のため。ピンチを抑えたのはこの二人。その事実を、二人は受け取ろうとしなかった。


「皆さん、まだ警戒を解かないでください。俺が基地の様子を見てきます。それまでは待機してください」


プロペインは、全員に行き渡る声で告げた。その後、車に乗り基地へ向かった。気を抜くなと言われても、やはり守れたことは誇らしく、ちょっと無駄話はする。


BB、オサム、レモンは、そんな街の人々を見た。より身が引き締まった。なんだかんだ三人は真面目なのだ。言い付けを守り警備に徹する。


BBとオサムは南に来た。今おそらく最も気が抜けている場所。そこの者らは、いつの間にか戦闘が終わって気落ちしている。そんな士気の中、襲われたらたまらない。


だがじっと水平線を見ても敵は来ず。そして大活躍の英雄二人がいる。休まるものも休まらない。


二人はその場を離れた。また中央に戻る。フレアが上がるか、プロペインが来るか。どちらかを待つ。しかし流石に暇になってきた。


丁度その頃。門の先から歓声が湧く。喜びの声。


「草食さん達が帰って来ました!」


レモンが晴れやかに言う。レモンは高台から降り二人を促して迎えに行った。


「基地の様子はどうだった」


「全員撃ち抜いたよ。射的の気分だった」


プロペインと草食が会話。プロペインは固いインタビュアーのよう。草食は相変わらずヘラヘラ。その変わりようのなさに、レモンはかえって安心した。


「草食さん、お疲れ様です。どうでした」レモンが目を輝かせる。


「あたしの武勇伝が聞きたい? ありったけの弾ぶちこんで何十人もキルしたよ。キルレ見たらショックでデスするかもね」


「敵はどのぐらいでした?」


「うーん、あんまりかな。やっぱここが本隊だったみたい」


「……作戦成功、ですね」


「こりゃ宴を開かないとね」


傍らに現れたチェリーも頷く。プロペインも異存はない。


「皆さん!」チェリーが締めを飾る。「勝利を祝いましょう! 飲んで食べて休みましょう!」


それへの答えは、狂喜の雄叫び。まさにこの時を待っていたのだろう。


そして、貯めていた食料、ジュース、ノンアルなどが並べられた。全部好きにしていいらしい。暴れるように飲み食いされる。


BBはジュースと焼きトウモロコシを取る。ベンチに座った。


「お疲れ様、サム」


「そっちこそ。乾杯する?」


「乾杯」「乾杯」


二人はビンを軽くぶつけ鳴らした。チビチビ飲む。やけに旨い。もうすぐ朝になろうとしている。その空は色のミックスにより絵画のよう。


「今日はサムがMVPだね」


「やめてよ。わたしはできることをしただけ」


「それが助かるんだよ。サムはいつも頼りになるからね。プレゼントでもしたいけど、今はオシャレな物ないし」


「んじゃあ今度一緒に散歩しようよ。それでチャラにしてあげる」


「判った。じゃあオアシスでも探そうか」


「オアシス? 何で?」


「何でだと思う?」


その美少年の笑みには、サディスティックであった。BBにとっては、ただ距離の確認に過ぎないが。


オサムはそうとも気付かず顔を赤くする。


「……バカ」


「酷いなぁ。ただ一緒に泳ごうと思っただけなのに」


「水着ないじゃん」


「そうなんだよね。ラスルネの人に頼もうか」


「もう、散歩でいいってば」


「そうだね。サムはどこ歩きたい?」


その問いへの答えは窮した。どこでもよかった。でもそれを言うと、勘のいいBBのことだ。考えがバレる。


だから話を逸らすことにした。約束も、うやむやにする。


「それより、ハチから貰ったこのナタ。いつ返せばいい?」


「あげるよ。オレには刀があるし。それとも交換する?」


「いや」どうしてか、このナタは手放したくない。「いいよ」


「そっか。ところで、次はいつ撫でてほしい?」


飲んだジュースを吹き出しかけてむせる。この男、人をおちょくるのが相当好きらしい。


「べ、別に。もういいし」


「そうなの? 残念だよ。あれ好きなのに」


「そんなに好きならレモンにやれば」


言って、オサムは後悔する。これでは仲間を売っている。感情のままに話すもんじゃない。必死に言い訳を考える。そっと、BBが顔を近付ける。


「じゃあ、レモンのところに行こうかな」


「え……」声は悲壮に満ちていた。


「冗談だよ」


「……ハチって、ほんとサディスト。わたしじゃなかったらどうしてたの」


「君だからやってたんだけど。他の人にしてもつまらないよ」


もうオサムには、BBのことが解らない。なぜ自分にここまでこだわるのか。どうして口説いてくるのか。そこで『もしかしたら自分のことが好きなのかも』とは思い至らない。彼女の自尊心の欠如が窺える。


オサムは返答に窮していた。何を言おうにもBBの手の平の上。それが悔しいワケではない。でもやはり、彼に一歩先を行かれているように思える。リードしてくれてるような。だから、一言では表しきれないような、ごった煮のの感情が体を上下するのだ。


BBもBBで考える。自分が彼女をなぶるのは、サディズム以外に思い付かない。彼にとって、恋も愛も偽りだ。なるほど自分はオサムが好きなのかもしれない。しかしこの年頃の恋はただの遊びだ。BBはそう達観していた。


それになにより。恋愛は嘘の厚塗りだ。BBに熱はない。口説いていても。無情なほど、情が冷たかった。


「BBさん、オサムさん。ここにいたんですか」


二人が黙っているとレモンが来た。彼女も焼きトウモロコシとジュースを持つ。空いているベンチに座る。会話に加わり始める。おかげで先までの空気は払拭できた。


「お二人は大活躍でしたね。通りではお二人の話で持ちきりですよ」


「そうかい。ありがたいね」BBはニヒルに笑う。「でも、一番はオサムだよ」


「それもそうですね。オサムさんの手榴弾捌き、実に見事でしたね」


褒められ慣れてないオサムはそっぽを向く。悪い気持ちはないのだけれど。やはり恥ずかしい。


「ところで、何ですけども」身を乗り出して、「お二人はあだ名で呼びあっているんですか?」


「何でそれを知っているの?」


隠せぬ心の動きを見せるオサム。鎌にかけられた彼女へ、BBは優しく微笑む。しまったと口を塞いでいるオサム。それを見ると、どうしたって優しい気持ちになる。


「やっぱりそうだったんですね」


レモンの表情は嗜虐ではない。あるのは猫のような好奇心。別に隠すものではない。「そうだよ」とBBは易々答える。


オサムにとって、それは裏切りに近い行為。でもそんな約束をしたワケでなく。素直に秘密にそようと言わない自分。それを磔にするほど責めたいがもう遅い。


「じゃあ、私もあだ名で呼んでいいですか?」


「いいよ。オレはハチって呼ばれてる。オサムはサム」


「オサムさんがサムなのは判りますが、なぜハチ?」


「ビーだから」


「なるほど。憶えやすいですね」


「レモンのあだ名はどうする?」


会話から断絶が読み取れた。オサムにとって、その名で呼び会うのは特別だった。そう、考えていたのは自分だけだったのか。


彼女は、またBBから離されているような、親を失った赤子のような感情を味わった。


「レモン……。これで完成されているんじゃ?」


「そうですか? じゃあハチさん、サムさん、私はレモンのままで!」


レモンとBBは笑いあった。オサムも何とか笑った。その顔は痛々しい。泣いていないのに泣いている。


「お、三人共ここにいたんだ。いい遊び思い付いたから来てよ」


草食がノンアルをがぶ飲みしながらやって来た。


「遊び? 何ですか?」レモンが聞く。


「来てからのお楽しみ。さ、こっちこっち」


レモンはすぐに立ち上がる。草食は歩き始める。オサムはうなだれないよう自分を律する。そこへ、立ったBBの手が差しのべられる。


それを拒否しようとして、次の言葉に遮られた。


「オレは言葉じゃなくて、行動で示すから。安心して」


差しのばされた手はさらにのび、彼女の髪に触れる。スッと撫でた。髪を撫でながらさらに肩を撫でた。耽美であり、官能的な触感。オサムは心臓の高鳴りを実感した。


肩から離れようとする手を握る。相変わらず素直にならない表情。その頬の赤らみは少女性の具現か。BBも少し驚く。彼女がここまで来るとは思わなかった。もしや想像以上に好感を持たれているのか。ひねくれた性根は、この歩みよりに眼を開いた。


決して表には出さず、優しく手を引きオサムを立たせる。手と手が暖かく触れあっている。オサムは話さず握る。それが数秒続いた。


BBから手を離した。無意識に、離れた手を追うオサム。BBはそれに気付かないフリをする。爽やかに笑った。


「それじゃ、行こうか。良い見せ物になるよ」


彼が先導してレモン達を追う。オサムと背も大して変わらないのに、BBは後ろのオサムと歩幅を合わせた。


オサムはできる限り距離を開けないように歩いた。彼から離れたくない。だけどもその理由が解らない。なぜ自分はこうもBBを、ハチを信じているのか。何度も助けられたから? ずっと一緒に居たから? 気遣ってくれるから?


馬鹿げている。自嘲は止まらない。全部勘違いだ。自分だけに特別なんじゃない。そうだ。彼女は必死になって己を説得した。そうでなければ、もし裏切られた時に立ち直れない。


BBも似たようなことを考えていた。彼もまた、オサムの裏切りを、オサムのそれよりも警戒していた。彼にとっては人は信用ならざるもの。それがたとえ仲間でも。今はまだ兆候はない。だがいつか敵対する。不信による確信が、彼の中で大手を振っていた。


草食が着いたのは歓楽街。すでに噂を聞きつけて、誰もが眠らずに遊びとやらを見物しに来た。


チェリーが人垣から現れた。草食も人の波を通り抜け彼と向き合う。早撃ち勝負でもするのか。BBも含めのそ可能性を疑う。


ラストルネッサンスの一人が来た。ダウナーな、最初まんぷくテロリストを迎えた女性だ。何やら持ってきた。それを見た人々の表情。驚異のものである。なぜなら、その人はアサルトライフルを持ってきたのだから。


「これは見ての通り」チェリーが饒舌になる。「アサルトライフルです。オールドスランガーズが持っていました。今日は、これを賭けてまんぷくテロリストのリーダー、草食さんと戦いたいと思います!」


「おっとご安心ください!」草食が大げさに体を動かしアピール。「これはあたしの提案です」


「そして、この戦いのルール。簡単です」チェリーの言葉と共に、草食がガンプレイをしながらリボルバーを抜く。


「今日の勝負。ロシアンルーレットです!」


チェリーの宣言に、歓声があがる。大衆にとってどちらが勝ってもいいのだろう。BBとしては、ライフルは喉から手が出るほど欲しい。そもそも弾がないことに気付いた。どうでもよくなった。


「公平性のため、弾はこの場にいる皆さんの中から一人、やっていただきます。さぁそこの貴方、どうぞ」


女性が選ばれ、一発、リボルバーに弾を詰める。ハンマーを少し上げ、シリンダーを回した。


「それじゃ、あたしからだね。皆さん賭けでもしていてください!」


さらに盛り上がる。各々どちらかに賭けをした。草食かサンドロチェリーか。BBら二人はこの勝負を降りた。


「さ、いきますよぉ」


そう言って、草食は自分の頭に銃口を向ける。人々が静まるのを待つ。そして、引き金を引いた。


興醒めの一撃が、草食を貫いた。


人々が呆け、チェリーが困惑する中で、一人、BBだけが笑っていた。


つられて、人々も笑い出した。草食にとって災難な出来事であった。

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