第23話 空白での二人
夜のファームシティ。月光以外の明かりはないと言っていい世界。松明を掲げる者は少数だ。この木の街で火は厳禁。江戸の街と変わらない。
ファームシティは長方形に広がった街だ。所々突きだしてはいるが。そして、三分の一は農場に使われている。この街の命だ。だがここが襲われることはまずない。オールドスランガーズの目的はここなのだ。ここさえ手に入れればあとは焼いていい。逆に農場に傷はつけたくない。
だから、農場方面の心配はしなくていいことになる。ならば、『街』の部分を死守すればいい。
レモンは自作の高台に登り、月光を頼りに偵察していた。スコープから見える景色は黒ばかり。面白味がない。面白いことはつまり敵の襲来。願わくばつまらなくありたい。だが来るのは確実。身を引き締める。
そんなレモンとは対照的な下の三人。プロペインとオサム、BBだ。
プロペインは戻った時、困惑した。顔を真っ赤にしてうずくまるオサムと、満足げなBB。何が起きたか聞いても、のらりくらり。さらにオサムが必死に止めるから話にならず。
それは今も続いている。主力の二人がこの調子で大丈夫なのか。プロペインの不安は拭えない。
その様子を知らぬ真面目なレモンの目が光った。すぐに傍らのフレアガンを取る。上空へ向かい引き金を引く。敵発見の合図だ。
「BB、オサム」
強い声で二人を呼ぶプロペイン。BBがすぐに反応。オサムはむくりと顔を上げ、空を見て狼に変わる。二人は、支給されたボルトアクションライフルを手に取る。ガチャガチャ動かした。スコープもついている。使わないだろう。
「俺達の目的は迎撃だ。そして守れればそれでいい。追撃はするな。フレアガンで呼ばれた場所に行って、転戦するだけだ。おーけー?」
「いいですけど」BBが確認する。「オレ達、銃より剣のほうが使えますよ」
「それは突破される時だ。俺達は突破されそうな時に駆け付けるから、まあ結局、そのライフルはおまけだな。でも使える時は使う」
「了解です。じゃあ待機ですね」
「言う必要もないが、気を抜くなよ」
早速、上では開戦の弾丸が放たれた。おそらく命中しただろう。柵から銃口を突き出して、バカバカ撃つ人々が見える。
相手は、愚かにも走っていた。西方、急造の門に向かっている。数は、確かに多い。だが……だが多すぎる。レモンは異変に気付く。スコープで一人一人確認する。その動きはわざとらしいぐらい非人間的だ。
ゾンビの一群。頭をよぎった。しかしそれはあり得ない。点と点の繋がりが別へ向かった。
改めて見る。凝視する。発覚。
「プロペインさん!」
その声には、大いなる焦りがあった。
「どうした?」
「敵の大半はbotの可能性があります! まだ距離的にbotの名は表示されていませんが。とにかくプレイヤーにしては多すぎます! 確認してください!」
その言葉の意味をプロペインは瞬時に理解した。botであろうがなかろうが、今攻めている奴らが囮である可能性が高いのだ。突っ込んでいることを加味すると、遠距離武器を持っていない。囮。ブラフ。本命は他に?
情報が少なすぎる。仮説で断定するワケにもいかない。その危険性は重々承知していた。
「BB、オサム。ここを頼む。フレアが上がったら駆け付けるんだ。俺は門の奴らがbotか確認してくる」
「了解です」とBBは返事した。何か腑に落ちないが。プロペインが解ったことがBBには解らない。それを説明する時間もなかった。
「bot、そんなに危険なのかな」
走り去るプロペインを見送りオサムが言う。彼女を見て、首を振る。そのBBの目の先。フレアが輝いていた。
「サム、フレアだ。行こう」
二人は走り出した。道中弾を確認。充分ある。しかし門に敵が来ているのではないか。プロペインらの疑惑を知らぬ二人は状況が飲み込めない。
着けば、怒号の嵐。オサムはただ危機が来ていることを知った。BBはその怒りが混じった声に、少し過去を刺激された。息を吐き吸う。今はナイーブになるにも、トラウマを再現する暇もない。
すぐに柵まで行く。敵が一望できる。弾が顔を掠める。二人は背を低くした。
「まだ突破はされてないな」
「でもかなりいるよ」
「ここはサムの出番だ。手榴弾を」
「やってみる」
ピンを抜きレバーを弾いた。キレイなフォームで敵へ投げる。落ちていく。爆発。
敵は持ってきた素材で、銃撃の中クラフトをしていた。彼らもバリケードを作ろうとしていたのだ。しかしそれらは全てオサムが破壊した。見事な投球。
さらにもう一球。BBも撃ってはいた。手榴弾の爆発。遮蔽物を失った敵は敗走していく。取りあえずはしのげた。大空を見れば、また別の場所でフレアが昇っていた。
「ナイスボール。次に行こう」
「大忙しだね」
BB達はまた移動した。門の近くだ。恐らく最も激しい戦場。なら、呼ばれるのも納得。
まるでマラソンだと愚痴を溢しつつ到着。全力の銃撃が敵へ放たれていた。BBらにとって衝撃的な光景が広がっていた。
死体が転がっていたのだ。人形の。幸いか、血などのグロ要素はない。
プレイヤーならデスしたあとポリゴンになって消滅する。持っていたアイテムはロストする。なのに姿形が残っている。ならば奴らはプレイヤーではない。
そうかbot。やっとレモンの言葉を二人は理解した。プロペインも戦闘に加わっている。誰かにこの窮状を伝える余裕がないようだ。彼はリピーターを取り出しがむしゃらに撃っている。
二人もライフルを柵から出し発砲する。オサムはすでに手榴弾に手をかける。幸いbotの中で銃持ちはいない。プロ野球選手もかくや、というフォームで投げる。
BBは銃を肩にかける。オサムにもっと手榴弾を与えないと防衛線が崩れる。
「プロペインさん! 手榴弾持ってきます!」
「頼む! 急いでくれ!」
爆発。多くのbotが倒される。それを背にBBは走る。ライフルの支給を受けた武器庫へ全力疾走。体力なんていくら削ってもいい。
着いた。暗い。松明は持っていない。勘で探る。箱に手を突っ込んだ。一つ目はない。二つ目。これは拳銃だ。持って行きたいが今は手榴弾が先決。三つ目。あった。箱を持ち上げてまた走る。
着いた時、オサムは銃を使っていた。そしてbot共はまだ来る。すでに柵を乗り越えようとする者まで。遅かったか。いや、この時こそ自分の出番だ。
「オサム! 手榴弾持ってきた! オレは突っ込む!」
「頼んだよ!」
箱を置いて抜刀。柵を乗り越えた。何の武器も持っていないbot共を斬り捨てる。動きは単純故、全て急所に当てれた。死体の山ができる。BBはそれを踏みつけさらに斬る。
拳銃を抜き来ようとするbotを牽制。botとはいえ恐れはあるらしい。たじろいだ。柵まで近付いた者はだいたい片付いた。
BBは柵の内側へ。それを見届けたオサムは手榴弾をポイポイと投げる。爆発は絶え間なく続く。BBもライフルを手に奮闘。
だんだんbotの数が減ってきた。オサムがいなければどうなっていたか。あとで褒めちぎっておこう。BBは、安心と共に思った。
どこかでフレアが上がっていないか見渡す。おかしなことが起こっていた。農場方面から昇っている。BBは訝しみながらも準備する。
プロペインもそれを目にした。まさかオールドスランガーズは自棄になったのか。ありえる話だ。
「BB、オサム。農場に行くぞ」
「了解です」「了解」BBとオサムは無論快諾。
三人はまたも走った。シャトルランのような苦痛を味わう。真反対へ急ぐ。
辿り着いた。だが、すでに占領されていると言っても過言ではなかった。そして、プロペインはその光景の理由をよくよく理解した。
彼らは農場を襲ったのではない。農場を通ったのだ。農場をあくまでも進攻のための道として歩んだだけで、手は一切加えていない。あまりにも単純。そして明確かつ理知的。どうしてこんなことも思い至らなかったのか。プロペインは頭を打ち付けたかった。
BBとオサムは銃を捨て得物を抜く。農場に展開している敵の部隊を全滅させるべく、突撃。プロペインはリピーターで援護。レモンも狙撃してくれている。
オールドスランガーズは接近してくるBBに発砲。これらは弾かれ斬られ、全くダメージを与えられない。彼のすぐ後ろにオサムがつく。彼女は狙えない。
脅威となるBBを始末しようと、引き金を引き続ける。だがレモンの狙撃で次々倒れた。BBが眼前に迫ってしまう。あとは三分クッキング。ただの狩り。近くにいた者の胸を斬り背後に来る敵を横薙ぎ。銃撃をスライディングでかわしそのまま足を斬る。
立つと見せかけてジャンプ。弾丸を避けると同時に、銃剣で突こうとした敵を空中で一閃。着地してさらに弾丸を斬る。撃った者を駆けて斬る。
不味いと思ったのか、BBを狙う兵士は逃げた。オサムは一人で複数を担当。彼女はまだ戦っている。全ての行動はカウンターだ。攻撃をナイフで受け流しナタで攻める。逆にして攻める。守りを固めたオサムは、どれだけ攻撃しても、無駄骨を折る。
そこへBBの追撃。とにかく攻めるBBに、あっという間に全滅させられる。農場は解放された。
そして頭上でフレアが輝く。二つ。一つは北の方角。もう一つはレモンが。レモンがフレアガンを撃つ時は開戦の時か、どこかが突破された時だけだ。危険。それが三人を黙って走らせた。
そこは、柵が破壊され人がなだれ込んでいた。誰が敵で、味方なのか。もう判別できない。これでは戦えない。二の足を踏む。プロペインは素早く判断する。
「二人共、柵の先へ行って敵を潰してくれ。敵を分離させるんだ」
「判りました。行くよサム」
「まずは手榴弾。いい?」
「よし」
まずは全力の助走。そして跳躍。人々の群れを越え柵をも飛び越える。人がいないちょっとの空き地へ着地。同時にオサムは手榴弾を投げる。爆発する前に足を動かす。爆発。爆煙を抜けるのはBBとオサム。突然の襲来。オールドスランガーズは驚愕する。さらにもう一個手榴弾投擲。ナタだの刀だのを振るう。
「グレネードだぁ!」
その叫び敵方から聞こえる。その動揺が勝敗を別けた。BBの乱舞は刀の耐久を減らしていく。その数値の減りが、敵の減り。
BBは腰の引けてる敵をまず瞬殺。狙いをつけようとライフルを構える敵。懐に潜り二度斬る。他に撃とうとしている敵へ、斬った奴を投げる。さらに拳銃を抜き敵兵に牽制。すぐ伏せられる。そこへ手榴弾。爆発。煙の中へ入ったBBを敵は見逃す。そこから現れるBB。二人キルされた。地を蹴り先の、盾にした奴らをショットガンで吹き飛ばす。また手榴弾の爆発。
さらに奥、また別部隊。たくさんの弾丸が来る。全て斬り落とす。オールドスランガーズはBBを最大の危険分子と判断。集中砲火。だがそれがかえって不味かった。オサムの手榴弾が豪速球で投げ込まれる。爆発がマシンガンのように鳴り響く。銃撃が止んだ。
その隙を逃すハズもなく。BBが突撃。生き残りに次々とどめを刺す。最後に、HPがふんだんに残った隊長格の女が挑んできた。
彼女は槍を振るい、横へ薙いだ。BBは後ろへ避ける。突きが来る。脇腹を掠らせる。そして左半身、上段に構えた刀を振り下ろす。槍は斬り落とされた。すぐに銃を抜こうとするが遅い。刹那、距離を詰め袈裟斬り。タックル。横へ斬る。隊長の女はこれで倒れ、ポリゴンとなって消滅した。
街のほうを見る。もえていない。敵はほとんど排除した。あとは残党狩りだ。
軽く走りオサムのそばへ。プロペインも一緒だ。
「様子は?」BBはすぐ聞く。
「待て。レモンの報告を待とう」
レモンがいる高台を見る。フレアが三つ上がった。終戦の合図。敵の本隊は全て倒したということだろう。
あとのことは易々なもの。BBとオサムが、逃げる敵を執拗なまでに追い、キルした。
まだ月が光っていた。朝になるほど戦ったと思っていた。そうでもなかったようだ。「オレ達の勝ちだ」オサムはBBの言葉を聞き、イタズラっぽく微笑む。そしてハイタッチ。
「だいたいオサムのお陰だね」
「そう? ありがと。BBも頑張ったでしょ」
「まぁ、この話はあとで。今は集合しよう」
二人は、勝利を粒さに確認する街へ戻った。凱旋を尊敬に乗せて。




