第21話 火蓋はよく切れる
オサムは物思いに耽る。決してポジティブなものではない。けれども時間を潰すには丁度いい。すっかり朝だ。まだ少し眠い。ベッドもないのに二度寝はできんだろう。
「サム」
後ろからかけられた声で、完全に目が覚める。振り返ると、やはりBBがいた。
「ご、ごめん」オサムはなぜか謝った。
「いいって。それより、寝れた?」
そんなつもりはないだろうに。皮肉に聞こえた。冗談で返せばいいのに、ちょっと言葉がつまった。
「あんまり」
「そっか。この戦いに勝てば、よく寝れるよ」
「それ、これからやられる人のセリフだよ。ハチはどうなの? 休めてる?」
「ちょっと眠い。寝れるのなら寝たいけどね。それはサムも一緒でしょ」
「そうだね。お互い様ってやつ」
「そういうやつ」
小声で喋りあったので、周囲には聞こえない。何だか猫の毛繕いみたいだ。自虐混じりにオサムは思った。
プロペインがレモンと話し、草食を揺さぶり起こそうとする。だらしなく、夢の中へ深く沈んでいる。彼女は揺さぶられた程度では起きない。
大声で起きてとせがみ言っても、赤子が羨むほどスヤスヤ。見かねて、BBがそばまで行く。さてどうしてくれよう。オサムやレモンを見習ってほしいと内心思う。期待しても仕方ないとBBは結論。彼女の耳元に口を近付けた。
「姉さんまたスロットやったの?」
「やってなあぁぁい!」
BBが耳を塞ぐほど叫び起きた。息をきらし、周りを急いで見渡す。今の声に驚いたまんぷくテロリストしかいない。
「BB、なんて言ったんだ?」眩しいくらいニヤッと笑うプロペイン。
「テキトーに姉さんがやってそうな悪行を」
「そらそんなこと言われたら誰だって飛び起きるわな」
「BB、朝から心臓に悪いよ……」
帽子を被り直し、車から草食が降りる。うんと伸びをして、朝日を堂々と浴びる。そこへ、ラストルネッサンスが木材を荷車に積んでやってきた。
不信そうにそれを見たのは草食だけ。他のメンバーは頼もしそうにそれを見ていた。これからバリケードが作られるのだろう。
チェリーが代表として来た。顔には少し疲労が窺える。しかし意思は城の如く堅牢だ。
「皆さん。おはようございます。早速ですが、偵察隊が敵の基地を発見しました。すでに再攻撃の準備を敵はしています。こちらから打って出ようと考えているのですが、協力お願いできますか?」
「こういうの、愚問ってやつだよね」草食は帽子を傾け不敵な態度。「もちろんやるよ。いいよね皆」
反対者はいない。やる気は充分だった。
「細かい作戦はすでにこちらが用意しています。といっても、ほとんど貴方方頼りですが」
「俄然やる気が出るよ。さ、出発しよう。もたもたしてられない!」
チェリーはうなずく。すでに連れている仲間を従え、先行した。方向は西。ファームシティ防衛要員を残し、全員出動した。
一方その頃、オールドスランガーズ。
「陸軍としては海軍の提案に反対である」
その声に応ずる小さなため息。それを聞きながら、兵士二人が基地内をウロウロ。すでに攻撃準備は整っている。それなのに、この基地の隊長であるブロンドさん(ブロントではない)が出撃にこだわり、それを引き留めるのに無駄な時間を割いていた。
二人には、もうすぐ倉庫番の交代が迫っている。二人は攻撃に参加しない留守番。何もないところから造ったこの基地、キングベヒんもスは全てが木製。だから話し声なんて漏れる漏れる。二人は廊下を抜け外に出る。倉庫へ。とりとめのない雑談をしながら。
倉庫に着き、交代を言い渡した。前の奴ら三人は、風呂上がりみたいなテンションでビールを求めた。この世界にはノンアルの酒しかない。
二人はまず、倉庫に座する我らが秘密兵器、爆薬を確認した。異常なし。次はTNTを。これでファームシティを木っ端微塵に吹き飛ばすつもりなのだ。
「あれれ~? おっかしいぞ~?」
一人が間抜けそうに言った。もう一人が近くで確認する。TNTが足りない。これは必ず報告しなければならない案件だ。
だがしかし。我らはオールドスランガーズ。バカと阿呆のどんちゃん騒ぎ。ここでネタに走らずばオルスラにあらず。彼らは、ある意味最もこのゲームを謳歌している奴らなのだ。
二人は右足を上げる。次に左腕の肘を曲げる。そして右手を指差しの形にしてポーズをとった。少し猫背になるのも忘れない。
なんだか知らんが、とにかく、
「ヨシ!」「ヨシ!」
それをやって満足した。その後倉庫から抜け出した。誰かが監視してるワケでもないし。いくらサボってもいいでしょ。ゆるゆるの脳と環境が怠慢を求めた。
彼らはまた基地内をウロウロしだした。特にやることは、いやあるのだが、それを無視したので実質なくて、暇していた。
寝室、ベッドルームの辺りまで来た時。ドアが乱暴に開け放たれた。仲間が必死の形相で駆け這いずっていた。何かを叫び、狂乱の中にいる。
「メーデーメーデーメーデー!」
そう口にしていた。しかしオールドスランガーズは動じない。「なんだフィクションか」「お、映画かな?」「こんな事件あるワケないだろ」「架空のことだな」と言って取り合わない。多分報告の仕方が悪い。
その安静の一瞬一瞬に変化が。TNTによる爆発。壁が吹き飛び近くの者をデスに追い込む。
「フィクションじゃないのかよ! 騙された!」
と言ってももう遅い。何者だ。おそらく二人。そいつらが次々オルスラを斬り裂いていく。対応できない奴らはみな逃げ惑った。
その二人とは、BBとオサムだった。
「まずはベッドを破壊する。サム、TNTは?」
「まだまだある。行くよ!」
オサムがTNTを仕掛ける間、何とか戦う選択をした兵士達が来た。BBが迎え撃つ。
狭い廊下。そこはBBの舞台であった。そして刀の切れ味を確かめる試食会でもある。近くの敵を刀で刺す。刺す。このようなことができるとは。ナタでは無理だ。回しながら抜き、ダメージを増やす。引いた勢いで後ろの敵を袈裟斬り。止まらず別な者の頭を割る。また斬る。まだ斬る。
オサムが加勢した。仕掛け終わったようだ。次のベッドルームへ向け突撃。BBとオサムが刀やらナイフやらナタやらで突き斬る。敵は倒れる。「サム!」BBの声に合わせ、敵を斬り腰を落とした時、オサムがBBを踏み台にし奥へ飛ぶ。
オサムが拳銃を抜き乱射。刹那敵の体勢が崩れた所を、BBと挟み撃ち。二人の牙にかけられデスしていく。BBとオサムが対面できた。「今だ!」オサムは躊躇わずスイッチを押す。先の部屋が爆発した。
その爆音に隠れ、銃弾が六つ、頭をそれぞれ貫いた。草食が来た。ここは彼女も本気だ。リロードを秒で終わらせ六発。やっと敵は草食に気付いた。もうすでに止められるものではない。
そう悟ったものは外へ逃げる。だが彼方からの弾丸に倒れる。レモンの狙撃だ。全弾必中。外でさえも、キルゾーンだ。
外に出た者は室内の爆音でさらにパニックに陥る。木々の部屋は全て宙をゴミとして舞う。
さらに、状況はオルスラにとって悪化。どさくさにまぎれラストルネッサンスが突撃。その中にはチェリーとプロペインがいた。
蹂躙とはこの事だろう。突然の奇襲に対応できる人間はここにいない。いやしかし。この基地の隊長、及び何人かいるオルスラ四天王の一人なら。そう考えたプレイヤーは団結したように司令部へ向かう。爆発と銃撃に晒され、多くの人が倒れる。リスポーン地点は破壊された。よって別の所で起きる。この基地、キングベヒんもスではない。
司令部の小屋では、隊長のブロンドが装備を整えていた。すでに幹部連中は逃げた。レモンもスコープで確認済みだ。無線がないので伝えられなかった。
TNTの喪失を見逃した兵士の一人が、扉を蹴破った。
「申し上げます! 伝説のスーパープレイヤーが現れましたぁ!」
「ダニィ!?」
そんなこと知っているだろうに、律儀にネタに乗る。彼らはパロディを面白いと思っている。しかし忘れてはならない。己はブロンド。黄金の鉄の塊でできたナイトだ。忍者とは違う。
「俺の怒りが有頂天になった!」
小屋から飛び出し、大剣を肩に担ぐ。別に金ぴかではない鉄板まみれの鎧。それは目で相手を威圧した。盾を持ってないからナイトではないし、語録も全て知っているワケでもない。なんちゃってナイトだ。お前それでいいのか?
弾丸の交差する戦場。その中にゆらゆらと進むブロンド。その異様さは、誰も彼もの注目を集めた。BBらが主戦場に到着した。謎の静けさが風となっていた。
「あんたが、ここのボスってワケね」
草食が飄々と前に出る。内心穏やかではない。頭もヘルメットでガードしている。自分ではやれないだろうと早々に判断。BBとオサムを見る。BBはうなずいて前に出た。意図を察したオサムも同様。
「一つ、提案があるんだけど」
草食が人差し指を上げて、挑発。
「一騎討ち、しない? この子とこっちが負けたら退くよ。でも、勝ったら、判るよね?」
草食を止めようとする者はいない。かのBBだ。確実に勝利をもぎ取ってくれるだろう。これに応じないのは腕がないということを表明するようなもの。
ボスにとって、これ以上の屈辱はないだろう。短気なキャラを突き通しているブロンドにとって渡りに船と言える。それに、自分は強いという確信がある。
「お前、ハイスラでボコるわ」
ズシン、と一歩踏み出す。部下の期待は今着火した。
「来た!」「メイン盾キタ!」「これで勝つる!」
BBにとってメンツは重要ではない。例え卑怯と言われども、勝てばそれでいい。
「へぇ。ガキ一人相手に誇れるもんなんですか」
「俺は別に強さをアッピルなどしてはいない」
「謙虚ですね。憧れますよ。じゃあ二人がかりでもいいですよねぇ。勝てるんでしょう?」
どちらかというと大反対とも言えない。しかしこういうことも稀に良くある。この破壊力ばつぎゅんの剣を持ってすれば、ガキ二人など容易い。とかをブロンドは考えた。
「仏の顔も三度までだ」
「一度でいいですよ。オサム、行くよ」
「おーけー」
双方、構える。草食が天に銃口を突き付けた。ニヤリと笑い、この場を制した。
引き金は引かれた。
二人は地を蹴った。ブロンドは不動。オサムが仕掛ける。ナタで斬りかかる。素早くバックステップされる。その後ろにBB。首を狙うが顎で防がれる。すぐにショットガン。発砲。これも躱した。だがナイフの連打。全て籠手で弾く。二度目のショットガン。当たり吹き飛ぶ。
オサムが乗りかかる。体重をかけるも無造作に振り払われた。起き上がり剣が無駄に振り回される。二人は離れていた。ちょっとの困惑を突きBBが突く。頭を傾け剣を振り下ろす。これも避けられた。剣の上にBBの足が乗る。全体重をかけているから容易に抜けない。そこへオサムの銃撃。体を横に滑らせブロンドは回避。この間にBBはショットガンを装填。
次はブロンドが攻める。剣を横に薙いでBBを斬る。ジャンプで回避。そのまま空中で回し蹴り。よろめいた。BBはそのまま落ちて倒れる。隙を逃さずブロンドが突き。だがこれは罠。ショットガンが向けられ撃たれる。鉄板が剥がされ胸が開く。オサムが寸分も待たず攻撃。
それを上段からの振り下ろしで対応。咄嗟のことにオサムはナタでまともに受けてしまう。ナタが割れた。横にスッと移動。ナイフでブロンドの胸を突く。それを気にせず殴ってきた。
「サム!」
BBが使わないのに持っていたナタを投げる。拳をよけナタをキャッチ。胸を浅く斬る。そして後方へ下がる。拳銃をリロードしている瞬間にBBが飛び込んだ。跳躍。オサムが銃撃。ブロンドは大剣を盾にした。それがいけなかった。
BBが頭に引っ付き体の重みでブロンドは倒れる。地に伏せられた衝撃と同時に、心臓の辺りへ刀を、BBが突き刺した。宙へBBが飛びながら手首を回転させ刀を抜いた。ブロンドは出血状態になり、HPがジリジリ減っていく。
勝った。BB達の勝利。
この時のために憶えていたセリフがあった。やられようとしているのに、それを言えることでブロンドは嬉しくなった。
「これで勝ったと思うなよ。もう勝負ついてるから。俺は四天王の中で最弱。総隊長のねこ殿に至っては、お前達では勝つこともできない。調子ぶっこきすぎた結果だよ?」
「はいはい、三下みたいなことを言うのはやめようねぇ」
一発の銃声によってこの戦いに終止符が撃たれた。草食はわざとらしく銃口に息を吹きかけた。
「もうダメだ。おしまいだぁ」「逃げるんだぁ。勝てるワケがないよ」
そう言って、続々とオールドスランガーズが逃げていく。
何だかイマイチ、奴らを満足させたような気がする。だが初戦は完勝であった。




