第19話 ノリで生きる者
ファームシティがあれこれされる前の、ちょっとしたお話。
オールドスランガーズ。彼らは、ファームシティの最も近い基地、通称キングベヒんもスにて会議を開いていた。目的は、ファームシティの偵察。というより吟味に近い。攻めいることは確定しているのだ。
彼らの会議は基本、陸軍と海軍に別れて話し合う。単に案の賛成、反対で別れている。だがなぜ陸軍と海軍なのかは解らず、いつの間にか彼らの間で常識とされた。
「それでは、第八百九十三回目の会議を始めます」
海軍派のメガネ男が話を切り出す。普通司会とか進行役がいるだろうに、いつも彼に任せられる。ちなみに八百九十三回も会議はしていない。
「陸軍としては海軍の発言に賛成である」
全身を鉄板で固め、巨大な剣を持つ巨漢が答えた。彼の名はブロンド。自称、黄金の鉄の塊でできたナイト。この基地の首領だ。
「では。今回の目的はファームシティの定期偵察です。しかし、ここ最近拳銃警察隊が壊滅するなど不穏なニュースが入っています。さらに、ファームシティに新参者が入りそうとの情報も得ています。そいつらは、まんぷくテロリスト、と名乗っているようです。先の拳察隊の壊滅と関わりがあるとか。我々はそのまんぷくテロリストを炙り出し、あらかじめしつけておく。ついでにラスルネもいい加減従わせる。手段は問わず。以上が目的です」
「陸軍としては海軍の説明に納得である」
「そこで、やることの不足にならないように、この基地の部隊を多く派遣します。ファームシティにおいて、まんぷくテロリストなどの前戦争以降の新参者達を従わせる。その必要もあります」
「陸軍としては海軍の提案に反対である」
「何か問題が?」
「陸軍としては海軍の質問に反対である」
自分で考えろということ。多分ノリのまま言っているだけだが。入隊したはいいが、こいつらはノリで誤魔化そうとよく画策する。まだ入隊して日の浅いメガネにとっては苦難だ。
おそらく、気に入らないのは部隊についてだろう。ここの部隊の大手を渡したくないらしい。別にメンツとか気にしなくてもいいのだが。何かそのほうが陸軍っぽいからやっているだけだろう。オールドスランガーズの長もそうだが、空気を読まないのだ。
「了解しました。ではこの基地から十分の一を引き抜く。それでいいですか?」
かなり下げた。目的は、建前上偵察なのだ。それに脅威があるとはいえ、オールドスランガーズに勝てるものなどいない。ある意味で原作再現をしてしまった。
「陸軍としては海軍の提案に賛成である」
ホッと吐いた息が空気に混じる。そして、オールドスランガーズ副隊長を筆頭に、ファームシティへ。近くにキャンプまで設営した。いつ戦闘が起こってもいいように。最も、起こすほうだが。
結局、戦いになった。今キャンプでたむろしている者達の前。その眼前で、一台のバンが止まった。
助手席のドアが開け放たれた。かと思うと重なった銃声が六人を撃った。草食だ。BBとオサムも出る。BBが先行。正面から行く。
格好の的が走ってくる。オールドスランガーズがBBへ銃を向ける。弾道、引き金を引く指先の動き、着弾までの距離、時間。そして空間を見た。どこに何の弾丸があるか。全神経を昂らせて探る。
来る!BBはナタを振り弾丸を斬った。相手の銃はボルトアクションライフルか拳銃。連射でなければ斬れる。鉄と鉄の衝撃音。
キャンプに進入。敵は銃器を捨てナイフを取る。動きからして戦い慣れている。BBへナイフが投げられる。そのナイフをキャッチ。投げ返す。棍棒を振るわれる。屈んで避けた。足を斬る。斧を使う輩をジャンプしながら斬り上げる。着地。 同時に地を蹴り槍持ちを一閃。敵の両腕が消える。
オサムも加勢。左手にナイフ。右手にナタ。ナタで斬ると見せかけナイフで突き。抉り引いた。同じくナタを持っている敵が攻撃。ナイフで受け肩をナタで叩き斬る。斬。斬。
レモン、プロペインはとにかく射撃。草食はあえて戦闘に参加しない。やろうと思えば彼女一人で殲滅可能。でも弾の無駄だ。最終兵器、切り札、それらはここぞと言う時に使うのだ。
キャンプの敵はあらかた掃除し終えた。そこらに散らばっているベッドアイテム、つまり寝袋を次々破壊する。しかしこの程度で収まることはないだろう。こいつらはあくまで前哨戦。安全の確保のために来ただけだ。
「街にいるオールドスランガーズをやるぞ! 車に乗れ!」
プロペインは乗車。他も乗る。ハンドルをさばき街中へ戻る。街は一部一部が燃えていた。あの街の再来か。オサムの目は暗澹としていた。
車を進めていく。けれども街中へ入ると暴れる敵に抑え込まれる。全速前進。轢いていく。オサムは外へ飛び出した。BBも続く。乱戦。
オサムは流水の如く敵を斬り捨てていく。キルには至らない。オサムは雑兵相手に苦戦はしても負けはしない。彼女に槍が突いてきた。体を捻り躱して袈裟斬り。剣で斬りかかろうとする奴の足を蹴る。ナックルで殴りかかる女が来た。右腕を斬り落とす。同時に先の足を蹴っておいた奴も斬る。
ナタで攻撃される。オサムもナタで防ぐ。押されている。地に膝を突きオサムは耐える。体全体を斜めにすることで敵のナタが滑り難を逃れる。素早く移動。ナイフで背を一刺し。息吐く間もなく新手が来る。
バンを止める。降りる。レモンが進行上の敵を狙撃。プロペインも続く。草食はBBとオサムがピンチになる時のみ発砲。ただしBBは全く危機に陥らない。あっという間に辺りの敵は片付いた。
「次は市場だ。行くぞ!」
プロペインの言葉で皆車に乗る。アクセルを踏む。邪魔となる者はみな轢いた。車が凸凹になりだす。この状況ではどうしようもない。
市場だ。応戦する市民も多々。
「フレンドリーファイアに注意しろ!」
プロペインの喚起に身が引き締まる。
やられそうになった酒場の店主を、颯爽とBBが救出。返事を聞く前に酒場へ突入。案の定オールドスランガーズ達が掠奪をしていた。
狭い屋内。戦闘開始。男が銃のストックで殴ってきた。腹へ斬撃。深く斬った。グラスをポイポイと投げられる。ショットガンでそいつを片付けた。跳躍して頭上へ女が来る。こちらも跳んで空中でキル。着地。それを狙う者をショットガン。制圧完了。
外へ出ると、形勢は逆転していた。まんぷくテロリストの助力によりオールドスランガーズは次々やられる。市場はもう任せていいだろう。
「次は歓楽街だよ! 急いで!」
やけに焦る草食。車に帰り爆走。ネオンのない、しかしロストアイテムが転がる場所に来た。元々荒くれた人が多いお陰か、圧倒している。
それでも草食は飛び降りて急行。乱射。全弾ヘッドショット。メンバーは止めようとするも、草食によって敵は全滅した。
「ここはいいでしょう。ラスルネさんのところへ戻りましょう」
レモンの提案。誰も異論なし。
また車に乗り込んでチェリーの家へ。だいぶ落ち着いてきた。敵がボコボコにされていることを除けば。
ラストルネッサンスの家に着く。だがどうも様子がおかしい。手を縛られた少年と、チェリー達が向き合っている。縛られた少年は座らされ、震えていた。対するチェリーは、地獄が故郷であるかのような顔をしていた。絶望と憤怒が混在している顔だ。
車から降り、ゆっくり近付く。空を見れば、黒煙が昇っている。ウッドハウスまみれの街なのだ。よく燃える。
「あの、チェリー」
草食は恐る恐る声をかけた。こちらを見る。その目は、チェリーを見るBBと同じく、殺意に浸かっていた。BB達の足回りには、ロストアイテムがごろごろ。銃、弾、刃物、などなど。
「あぁ、まんぷくテロリストの皆さんでしたか」
声は怒りにより冷えていた。必死に作った笑みが、苦痛を呼び覚ます。
「捕まえたんですよ。街を焼いた奴を。ボク達が造った家を焼いた奴を。見てくださいよ。捕まえたんですよ? ボクらの芸術を焼いた奴を」
「芸術……? お、おれは街を焼いただけだ。おれの上官の指示だ」
仮面を着けた少年は怯えていた。この時のチェリーの想い。それはそれは苛烈なものだった。彼にとって、建築は芸術の一つ。ファームシティが、かつてあばら家まみれだった頃、彼らはやってきた。そしてここを美しい街にしようと資材を集めた。何から何まで造り上げた。
「焼いた、だけ?」
誰しも譲れない一線はある。チェリーにとって、街は芸術であり、子だ。人々が住む、大きな家なのだ。文化なのだ。
「ここにはいっぱい人が住んでいるんだぞっ」
「さっきから何が言いたんだ。おれを解放しろ!」
傲慢不遜な態度を見て、治まらぬそれは殺気。
「人が住んでいたんだぞっ。ここにはいっぱいの文化があるんだぞっ。ただ物を造るだけではできないものがあるんだぞっ!」
その気迫に、縛られている少年も口出しできなかった。チェリーは般若顔のまま泣き始めた。結局、あの街もこの街も、何もできやしなかっだ。チェリーは自戒する。BBに殺意を抱かれて当然なのだ。
「おれをキルするつもりか」
「当たり前だ。全部貰うぞ。全部、全部だ!」
「な、なら刀だけは許してくれ!」少年特有の高い声で懇願する。
「なんでそっちが要求するのさ……」
「頼む! これは総隊長から貰った刀なんだ! お前だって街が燃えて嫌になったんだ。気持ちは解るだろう? な?」
チェリーは、今更ながら怒りを沈めようとした。人は怒ろうとした時、なぜかブレーキをかけたがる。どれだけタイヤが空転して熱せられようと、限界まで堪えてしまうものなのだ。
BBは足元に転がっていた拳銃をチェリーのほうへ蹴り跳ばした。クルクルと回転しチェリーの下へ滑り込む。チェリーの意識が銃へ、BBへ向く。
BBの目に殺意はない。ただ観察がある。試されている。獅子の親のような、厳しさを思わせた。
チェリーは銃を拾う。胸が殺したくてうずく。目が再び仮面の少年へ向かう。銃を向ける。瞳は既に暗かった。銃は、しっかり握られている。震えはない。
「た、頼みます!」ついに敬語。「刀だけは! 死んで詫びるから!」
「一回死んだだけで許されると思うなァッ! あと三千回死ねェッ!」
少年へ至近距離から乱射。弾切れまで激情に任せて撃つ。反動が激しい。それになお苛立つ。だが、相手はすでにキルできていた。
BBがそっと歩いて来る。チェリーは息を弾まし、ロストした刀を見ていた。意味もなく。
「やればできるじゃないですか」
瞳孔は開き、笑っていた。BBはチェリーを褒めたのだ。BBにとってこの美青年は、ただの裏切り者だった。信条もないクソ野郎だった。しかし、今思想信念を露にしたことで、BBの中で評価の変動があった。
「刀、持っても?」
答えは聞かなかった。少年の大事な物らしい刀を手に取り、眺める。どちらかというと脇差し程度の大きさ、長さ。
「自分の造った街がお好きだったんですね」
BBはあえて挑発するように尋ねる。チェリーは冷静になる頭を自覚した。口は滑り出す。
「あぁ、好きだ。でももっと大事なのは、そこにある生活、その文化だ。そこに人の暮らしがなければ、街はただのハリボテだ。ボクらは文化を創りたかったんだ。それを、こいつらは、破壊した」
BBは芯のある人間ほど信じれる人はいないと考えている。その理由は、もしかしたら己自身に軸がないからかもしれない。自覚はある。それでもBBは知らないふりをしていた。
「さて」BBはその場の全員を見渡す。「次は民衆への演説といきますか。オレ達でも奴らに勝てることが証明された以上、この街の協力を取り付けるのは簡単です」
「よし。じゃあ誰がやる」
プロペインが来ていた。彼の発言にだんまり。演説に自信があるとは、確かに中々言えない。
「ボクがやる」
決意を見せたのはチェリーだった。
「頼んだ」
皆市場へ向かった。そこが最も人がいる場所。大勢いた。チェリーはベンチの上に立ち、群衆を見た。視線を感じた人々は、思い思いにチェリーへ向く。
チェリーに原稿はない。だが叫びはあった。
「皆さん、聞いてください。ラスルネのサンドロチェリーです」
静まり返る人々。BBはことが上手く運んでいることに感謝した。
「我々は痛手を被りました。家は焼かれ、生活は破壊された。でも勝った。我々だけで。このまままた襲われるのを待ちますか? それともこっちから打って出て、生活の破壊者を完膚なきまでに潰しますか? ボクは戦います。この家々の仇討ちのために」
人々は歓声をあげなかった。ただし胸に静かな闘志を抱いた。目には決意が 充満し、抑圧から脱しようとしていた。
「今まさに、ファームシティは自由を掴みとろうとしているのです。これは聖戦です。自由への凱旋です!」
やっと歓声があがった。オサムとBB以外はこれを素直に受け取った。BBにとってもオサムにとっても、こうやって安易に感動する様は、いささか滑稽だった。




