第18話 百戦はやっぱり危ない
「オールドスランガーズね」
酒場の店主はため息と共に言う。話を盗み聞きしている客達も、同じように息を吐く。
「何か知っていることはありますかね」プロペインがカウンターに手を突く。「俺達、色々知りたいもんで」
「あいつらと戦うつもりなら、やめときな。マンパワーに潰されるだけだ」
チェリーの言う通り、数は多いらしい。では他はどうか。プロペインは話を続ける。
「では、奴らの居場所は知ってますか。基地の数とか」
「さてね。うちらファームシティは一度奴らと戦った。負けたが。今は、おそらくあの時以上に戦力は増大されている。あんたらが何人いるかは知らん。基地なら、少なくとも九個以上はあるんじゃないか?」
「ふむ」
プロペインの頭は回転をやめない。これだけ数に言及されるのだ。余程のことに違いない。たった五人でやれるのか。無理だろう。
「前の戦いではどこまで攻められましたか」
「多分半分まではやれたんじゃないかな。お互いに物資不足で不平等条約を結び、今ってワケだ」
「それはいつ頃ですか」
「二週間前だ」
「二週間? ずいぶん最近ですね」
二週間前は何をしていたっけか。草食との出会いもそのぐらいな気がする。BBはジュースを飲みながらそう思い出す。どうでもいいと一蹴した。
「いつかはやり返してやる。経済では俺らが勝っているんだからな。やれるさ。決定打には欠けるが」
店主は口惜しくそう言った。礼を言い、酒場から出る。日輪はなおも天に居座り地面を燃やしている。得られた情報を吟味。このぐらいか。
さて市場へ出る。活気は変わらない。確認できたのは、オールドスランガーズと戦う意志があるということぐらい。敵の居場所はすでに移動された可能性だってある。半分まで削れたとは言うが、リスポーンするのだからマイナスにはならなかったろう。
「そろそろ合流しません?」BBが横目で見上げ言う。
「そうだな。あ、いやでもどう合流するか話してなかったな」
「車で待っていればいいじゃないですか」
というワケで車に戻る。プロペインは車に背を預けた。BBはわざわざ車の上に乗り寝っ転がる。
ヒマだし、駄弁っておくか。プロペインは惰性に口を開く。
「BB。まんぷくテロリストなんて、誰が名付けたんだ?」
「姉さんが言い出したんですよ。自分のネームを草食にしている位ですし、センスは、うん」
「すごいとは言えないよな。BBだったらこのチームの名前を何にする?」
「うーん」
所詮雑談なのにBBは真剣に悩む。今まで読んできた小説の中で、いいチーム名なぞあっただろうか。
「思い付かないです」BBはお手上げ。
「俺もだ。BBは高校生ぐらいだろうから、何かフレッシュなアイデアが浮かぶかと思ったが」
「オレは中学生ですよ」
「え」
心底意外そうな目でBBの眼を貫く。
「BB、何歳なんだ」
「十四ですけど」
「マジかよ」
「本当ですよ。オサムとは同い年ですし。レモンは多分年下です。聞いてないですけど」
「それにしては皆大人っぽいな」
「ありがとうございます」
内心、複雑。子供っぽくあることが許される環境はなかった。大人の道を歩まねばならなかったのだ。
だがそんなことを話しても仕様がない。年齢の話で盛り上がっておこう。
「プロペインさんはいくつなんですか」
「二十七だ。おっさんだよ」
「もっと若いかと思っていました」
さてそれ以外感想が思い浮かばないぞ。そう苦戦していると少女達が戻ってきた。草食も一緒のようだ。草食だけ、満足そうな顔をしている。
「何か解った?」
「それはこっちも聞きたい。情報を共有しよう」
草食とプロペインの会話によって、整理が始まった。
「数が多い。基地を複数持っている。二週間前にファームシティと戦闘して勝利。それ以外は不明、か」
「二週間前っていつだっけ」草食が思い出せず聞く。
「まだこの世界が閉鎖される前だ。おそらく」
その頃からだとすると、中々因縁のある関係らしい。しかし、閉鎖のゴタゴタで何かトラブルが起きていないのか。
いや、あったら話すだろう。レモンやプロペインなど、頭脳担当はそう結論づけた。何にもしてない草食だけ話についていけない。
レモンが口に手をあてた。
「これだけ数が多いと言われるんです。私達だけのでの戦いは危険です。ゾンビ戦法でも難しい」
「ラストルネッサンスに協力を求めるべきだろう」プロペインが腕を組みつつ言う。「どうだ?レモン」
「その人達だけでは足りるかどうか。街全体で戦わないと」
「だが、ここを守るのも大変だ」
レモンとプロペインは深く話し合う。BBとオサムは聞きながら考えた。草食はスロット回してただけなので聞いていない。戦力的に困ればBBが何とかしてくれる。そう勝手な期待を抱いていた。ダメならば逃げればいい。
しかし逃げてはならないのが今なのだ。報酬として与えられる居住権は実においしい。ここを拠点に脱出の糸口を探せるのだ。草食はあまり気にしていないが。
「では、やはり外で戦ったほうがいいでしょうね」
「そうだな。そこで奴らの基地を奪う。そこを拠点にすれば」
話はレモンとプロペインが主導していた。BBもオサムも異論があるまで二人に任せた。
「つまるところ。一つ目の拠点を落とせて、それを継続できるかが一番の問題となるでしょう。現時点では」
「第二の問題は奴らの戦力図。数が多いことしか解らん。あとは強い奴がいるということ。銃器が行き渡っていないと聞いたが、もう過去のことと考えるべきか。粗にはならんだろう」
「そこを解決するにはまず、街の協力を取り付けないといけませんね。草食さん!」
呼ばれ、ビクッと反応。悪いことでもあるかのように。
「な、何?」
「今のことで異論はありますか?」
「オレ達はないよ」BBとオサムが合わせる。
「あたしも、まぁ、ないかな」
「ホントに?」
BBの発言。レモンは困惑した。時々、この人のことが解らないと彼女は思うのだ。静かな少年であるから、考えていることが読めない。草食は別のことで困り焦る。
「姉さん、ちゃんと話聞いてた?」
「も、もちろん」
「じゃあ簡単でいいから復唱してよ」
「え、えっと」
BBはため息を一つ。この人は信頼できない。それが一言感想。迷子になったとオサムから聞いてたのだが。大方遊んでいたのだろう。彼女の名誉のため黙ってやる。いつバレてもおかしくないが。
「まずはラストルネッサンスの所で協力をしてもらう。情報収集で忙しかったのは判るけど、まだまだ姉さんには活躍してもらう。シャキッとしてね」フォローも忘れない。これが良い方向に働いてくれればいいのだが。
草食はすぐ一転。自信満々の笑みで腰に手を当て、ふんぞりがえる。
「お姉さんに任させなさい! オールドなんたらの三十人や五十人、あたしがどうにかするよ!」
本当にこの女大丈夫かよと、そう疑ったのはBBだけではなかった。
ラストルネッサンス、チェリーの下へ行った。家の扉を開け、対面する。またBBが警戒する。さっきよりは控えめだが。それでもなお殺気は濃い。
オサムは後で、プロペインから話を聞こうと思いつつ座る。オサムとしても、BBのことを理解しきっているのではない。むしろ解らないことだらけだ。
「さて、情報は集まりましたかな?」
チェリーは爽やかな笑顔で問う。
「いや」プロペインが話を進める。
「ただ、解ることは一つ。戦力が足りない」
「貴方達でも?」
「そこさえ確定ではないというかな。まず、敵の基地を落として、探っていかないと、何とも」
「そう、か」歯切れ悪くチェリーは呟く。
「どうかしたか?」
「この街では、前に戦い、こっぴどくやられて、厭戦気分がある。ボク達が来た時からそうでね。何とか解きほどこうとしたんだけど。ダメだった」
プロペインは反論しようとした。それを言っても事態が深刻なのは変わりない。今はいいだろう。
難しい状況だ。こんな時にラスルネが裏切ったりしたら。BBは想像する。そしたら死にたくなるほどリスキルしてやる。
「では」プロペインが結論に落としこむ。「まずは市民の心理からどうにかしないとな。幸い、聞いた話では戦う気のある人もいる。コツコツやろう」
「もちろんボク達も協力するよ。何とかして、オールドスランガーズから脱しないと」
BBが異変に気付いた。即立つ。扉の外から足音複数。
「話は聞かせてもらった!」突如扉が開け放たれる。「ファームシティは滅亡する!」
「な、なんだってー!」
四人の見知らぬ男女が乱入。なぜかリーダー格の女の言葉にお伴が驚いた。騒動を聞き付けて車の警備二人が駆けつけた。
「何事ですか」
飛び込んだ二人。乱入者の銃撃であっさりやられる。BBはナタを抜き、殺意の方向を彼らに向ける。
メガネをかけた男が一歩進み出た。
「我々はオールドスランガーズ。今回の目的は敵の偵察。……のハズが、大当たり。敵が何をしているかの探りですが、農場をやっている腑抜け共、何をするでもない。と思いきや大当たり。敵は飼い主に噛みつこうとしている。我々にとっては大吉の日です。今すぐ我々に下っては? そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」
長話にうんざりしつつBBは言う。
「つまり、今この瞬間から、貴女方は敵ということで」
「えぇ」
BBの言葉にニヒルな笑みで返すメガネ。コンマ一秒後。目を閉じて開けたら、すでにキルされていた。メガネを斬りリーダーの女をショットガンで撃ち抜く。音に驚いた手下一人を頭から叩き割る。ようやく銃を向けた者も、もう遅い。ショットガンで吹き飛ばす。
外へ出る。あちこちから銃撃音。悲鳴。それを聞き付け家の中から全員が外へ。
レモンは家の屋根に登る。スコープで街を見渡す。必要なかった。よく燃えている。下のBB達にも確認できるほどの煙。雑多な格好をしている人物複数。そいつらが人々を襲っている。レモンは街の外へライフルを向ける。いつの間にか敵らしきものの簡易キャンプができている。
「敵の簡易キャンプです! あそこからやって来ています! 街の入り口の反対側!」
「車で強襲しよう!」
草食の即席な提案に乗り車へ。飛び込んで走り出した。パニックになった群衆を轢かないように運転。アクセルはほぼベタ踏み。
道中、オールドスランガーズと思われるプレイヤーから火炎瓶を投げられる。回避。他にも石を投げられたりやりたい放題。
だが、敵は目前だ。チェリーは燃える街に絶望していた。




