第17話 本日の種は変わり種
「オールドスランガーズ?」
草食はその名前に興味を持つ。古い、スランガー、つまりスラング。意訳すれば古い言葉か? まぁまぁ洒落ている。BBにとってはその名前よりチェリーの一挙一動が気になる。オサム達はまんぷくテロリストと言う名前から、そっちへ改名したかった
「うん、奴らはそう名乗っている」
「特徴は? 数は?」
「数は全く解らない。何度か戦ったことはあるんだけど。文字通り湧いてくる。同じ顔は見てない。リスしてきたワケじゃない。とにかく凄い数だ」
チェリーは顎に手をあてて考え、言う。
「一番目につく、というか、耳につくのは、変な喋り方だね」
「喋り方?」草食の疑問符。
「うん、その、なんというか。とにかく変なんだ」
「そう、かぁ」
現状、ほぼ情報なし。そんな量ではかなわない。BBも話は聞いている。なのでより殺意がたぎる。
その殺気を受けたのか。半ば脅された形で付け足す。
「他の特徴といってら、武装はさほどではないということ。全員に銃器が渡っているワケではないようだよ。しかし代わりに、一部のプレイヤーは強い。ボスキャラみたいに」
「そのボスキャラとやらの武装は?」プロペインが体を寄せる。
「リピーターショットガンで暴れる者、装甲をまとった剣士、ぐらいしか確認できてない」
「一応、他の特徴は?」
「すみません、これだけ。でも、この街はラストルネッサンスが来る前からあって、ボクらより詳しい人がいるかもしれない」
「そっか」草食が伸びをする。「じゃ、観光がてら聞き込みでもしようか」
「賛成です。チェリーさん、ありがとうございました」
レモンの誠意に、BBは一瞬殺意を忘れた。
「引き受けてくれるってこと?」
「あっ、えっと、どうします? 草食さん」
「もちろんやるよ。その代わり、弾んでね」
草食のウィンクにもちろんだと元気に返した。
「それじゃ行こう。お世話になりましたー」
草食、レモン、プロペイン、オサムが家から出る。草食以外も挨拶をした。BBだけ、扉の前で立ち止まる。
ゆっくりと、床が割れんばかりの憎悪を溢れさせ振り返る。目にはこう書かれている。殺す。
「次はありませんよ」
プラスもマイナスもない平常な音で言い残した。チェリーは、かの少年が恐ろしいほど根に持つタイプであるのを理解した。
BBが家から出る。車の周りではメンバーがたむろしている。BBを待っていたようだ。小走りで彼らのもとへ。BBの顔は実に穏やかだった。
「おまたせ」
「よしよし皆揃ったね」草食が腰に手を当てる。「じゃあ別れて話を聞きに行こうか。班はどう別ける?」
「二つに別けましょうよ。三人と二人。一人余ると寂しいですからね」レモンの言うことへ内心オサムは反論する。
「じゃあ、わたしはBBと」オサムが彼を気にかけて発言する。
「いや、俺がBBと組ませてくれ。頼む」
プロペインがオサムに頼み込む。そこまで言われると断れない。しかしあの様子を見ると、やはり不安だ。
プロペインはそれを察している。オサムへサムズアップ。どうやら意図は互いに伝わったようで、オサムは引き下がる。
「んじゃ、あたしらはしっかりうろちょろするよ。街だからって気を抜かないでね」
「姉さんに言われるまでもないよ。プロペインさん、行きましょう。それじゃ」
「おう。皆じゃあな」
そう言ってBBとプロペインは行動し始めた。車は相変わらずラストルネッサンスの保護下にある。安心していいのか、どうなのか。
かつて来た道を戻る。市場へ。その中心にはベンチがあった。回の形をして外向きに配置されている。プロペインは人目を気にせずどっかり座る。
「何しているんですかプロペインさん。市場の人に聞き込みをしないと」
「そうだけど、ちと休もうぜ。BBも色々疲れたろ? 俺は運転し続けでさ」
「……そうでした。すみません」
「謝ることはない。ほら、座りな」
横をポンポンと叩き誘う。BBは少し距離を置いて同じベンチに座る。そういえばこの二人で深く話し合うことはなかった。BBはそれに気付く。
おそらくは交友を狙っているのだろう。自分なんかより草食に取り入ったほうがいいだろうに。内心愚痴を言うが表情には出さず。代わりに意図して微笑んだ。
この笑みは果たして社交辞令だろうか。プロペインは判りかねた。
「しかしBB。お前さん、武道でもやってたのか?」
「どうして?」
「いや、戦い方がとても上手いからな。まんぷくテロリストで一番なんじゃないか?だから興味あってよ」
「プロペインさんのほうが強そうですけどね」
「お、この俺の筋肉を褒めるとは見る目があるな。よく鍛えているんだよ」
「へぇ、筋トレですか」
「おう、筋トレ後のプロテインは一番旨いぞ!」
ワハハと笑うのでBBも合わせて笑う。プロテインが名前の元だと知れた。だからなんなのだ。少し苦笑も混じっている。
「それで、武道とかはやっていたのか?」
「いえ、何もしていなかったです」
「そうかそうか」
数コンマ待った。それ以上喋ることはない。どうやらあまり話したくない事情があるらしい。プロペインはBBの笑顔から判断した。
BBは、何かを探られていると勘づいた。それは当然だと驚きはしない。彼としてもメンバーのことは知りたいだろうし。だが自分を選んだのは間違いだ。
「しかし、BBは気迫だけで相手をキルできそうだな」
「そんなこと。そこらのガキじゃできませんよ」
「そうは思わんぞ。さっきのチェリーにやってた殺気。凄かった」
「そんなことしていましたっけ」
すっとぼける。その必要はなかったと後悔。プロペインは燃えた街を知らない。だから喋っても害はない。BBは思う。オサムだったら信じてくらないだろうと。
「まぁ、ちょっとあの人といざこざがありまして。それを忘れてないだけです」
「ま、プレイヤー同士だからな。差し支えなければ、何があったか教えてくれないか」
「大したことないですよ」頬杖を突く。肘は右ももの上に。「ただ、食糧を巡って、ね。プロペインさんはそんなことありませんでした?」
話題を変えてきた。これは触れてほしくないことがあるということ。しかしだ。オサムは先の殺意の理由を知りたがっているだろう。それがただいざこざがあっただけ、なら話は簡単だ。
だが、BBにはどこか、何かを隠している節がある。プロペインの人生経験が調査を要求している。彼には友人知人からお悩み相談を多く受けた経験がある。
「俺もそういうことはあったな。このライフルも食糧争いで奪ったものなんだ。恨まれているだろうな。BBも恨んでいるのか?」
「何を、ですか」暗雲が唸る。
「チェリーのことさ。食べ物の恨みは深いだろう」
「えぇ。まぁまぁです」
「彼とは信頼関係があったのか? それとも貸しを返してくれなかったとか?」
プロペインはここまで追及する人間だったろうか。優しげな笑みに邪な考えは見通せない。が、相手は大人だ。何時も仮面をつけていておかしくはない。
だがとぼけても無駄だろう。BBは諦める。また嘘を吐いても仕様がない。それに、事実を切り取ればそこに感想は生まれない。瞬間的に答えをだし話を続ける。
「後者ですね。助けてやったんですけど、あとは話の通り」
「裏切られたってワケか」
「……はい」
裏切られた。その通りだ。改めて口にすると、かくも忌々しい。
「BBは、裏切られるのは嫌いか?」
「好きな人なんていないでしょう」
「だよな。俺も許せなかっただろう。BBは? 許せるか?」
何だ? BBは違和感を感じ取る。大黒柱にネズミが侵入したような危機感と不快感。自分は何を話そうとしているのか。
修正を試みようとする。だが。
「どうなんだ?」
退路は帰路だった。
「許せはしないです」
「そうか」
プロペインはそれだけ聞いて満足した。これ以上踏み込んだら逆効果だろう。BBは裏切りが大嫌いなことを知れた。それこそ殺したいぐらいに。
「チェリーのこと。改めて、許せないか?」
「許す必要が?」二人は市を行く人々を眺めた。
「許せなくてもいいだろう。それを決めるのはBBだからな。でもよ、仕事は仕事って割り切ろうぜ。な?」
かなりの遠回りをした。やっと言うことができた。お節介だが、これができるのは同世代の子供ではない。大人だ。
こういうことで重要なのは、まず相手の話を聞くこと。それで信頼を得る。得られないなら、答えざるを得ない所へ持ち込む。
そうすると逆に信頼を失う可能性がある。しかしプロペインはあえてそれを選んだ。まだBBの扱い方を知らないのもあるが、仲間なんだ。恨まれようと心を引き出してやるのも仕事の内だ。
「割り切ることはできますよ」
「ナイス。BBは大人だな。頼りになるよ」
フォローも忘れない。少なくとも意は汲んだようだ。それでも顔は険しい。
「ただ、裏切りは万死に値するということ、だけです」
BBはクラっと立ち上がる。BBという少年はとにかく誰からか裏切られるのを嫌う。それを知れた。収穫だ。プロペインはそうポジティブに受けとる。
立ち上がったはいいが、BBは困る。確かプロペインが座りたいから座ったのではないか。それを自分が打ち切り、行こうと言うのは違う。というか、失礼ではないか。だが今さら座ったら変だ。場違いな冷や汗。
「そろそろ、休憩も終わりだな。行こうか」
プロペインのフォローが再び。BBははにかむ。
「まずは、店の店主からですね」
「ああ。俺の交渉術見せてやるよ」
「話を聞くだけですよ」
二人は歩き出した。BBにとっては色々聞いてくるただのお兄さんという認識のプロペイン。だが端から見れば十分に親子だった。
一方その頃。
「草食さぁん! どこですかぁ?」
「草食さんどこー?」
レモンとオサムは迷子の草食を探していた。歓楽街に入ってから急に見失った。元は彼女の提案からここにきた。あちこちでギャンブルをやっている。危ない香りだ。いわゆる、「そういう行為」はゲームシステム上ないので安心だが、こんなところをか弱い女の子、女性が歩くのは、ちょっと気が引ける。
彼女達を助けたい人はいた。けれどもトラブルには巻き込まれたくない。女子に声をかけるのは、今や同じ女性でも大変なのがこの時代だ。
「草食さん、どこ行ったんだろう」オサムは途方に暮れていた。レモンは不安に打ち勝ちオサム強気の目をくれる。
「こうなったら、草食さんを置いて聞き込みをするしかありません」
「でも、わたし話するの苦手で」
「私に任せてください!」
「レモン……」
緩やかな信頼が気楽に結ばれた。割りと根っこは一緒なのだろうか。
ところで件の草食はというと。
「この店腐ってやがるっ。渋すぎるっ!」
スロットで遊んでいた。




