第14話 文字通り、テロリスト
拡声器で喋る男の周りには、三十を越える数のプレイヤーがいた。これまでの奇襲は通じない。そう思わせる陣形だ。
まんぷくテロリストの面々は集まり武装を解かない。先頭の男と共に拳銃警察隊はやって来る。自然と展開。囲まれた。この状況で生き残れるのはBBくらいか。奇しくも、レモンの言っていた防戦の危機に瀕していた。
男が一歩前へ進み出た。
「私はダーティハリー。拳銃警察隊の隊長だ。我々はここ一帯を支配している。我々に攻撃を行うこと。それがどういうことか理解しているのか」
「ご挨拶どうも。あたしは草食。まんぷくテロリストのリーダー。ここでおとなしく退くって言うなら、これ以上何もしないけど」
「立場を理解していないようだな」
ダーティハリーは腰に二丁差してある拳銃を抜く。同時に周りの者も抜く。草食以外に冷や汗が流れる。このままでは蜂の巣。
「ずいぶん過激だねぇ。従わなくてよかったよ」草食は過激に笑っている。「車をさ、あんたらに盗られそうになったんだからね。人の足をすっぱ抜くのは楽しい?」
「我々の保証する安全を提供するための、致し方のない代価だ」
「そんな説明受けてないし。あんた達の教育不足だね。そして、そんなことを初対面で信じてやるほど、この世界も、あたしも甘くない」
「そんな世界をどうにかしようと立ち上げたのでね。お前達のせいでメチャクチャだ。文字通り、テロリストと言うことか。創るのは難しいんだよ暴力主義者」
「武器と組織力で脅しておいて、その言い草とはね」
言い合っている間、敵の弱点を探す。草食以外は食い入るように敵を見て油断しない。その草食は思いのまま口論していた。そのお陰で時間は稼げた。
武器は変わらない。だが、なるほど本隊と言うだけあって一人一人手榴弾を装備してある。特にオサムはそれに取りつかれた。手榴弾はボールと似たようなもの。自身の経験がアレを使えと叫んでいる。
「さて。戯れはもういいだろう。元よりテロリストと交渉する気はない。全アイテムをロストして投降しろ。選択権はない」
「それがあるんだなぁ」
草食が目を閉じて腕を横に広げる。やれやれと言わんばかり。相手の実力を知らないダーティハリーはため息を吐く。バカな奴だと目で語る。
そのバカな奴は、彼が銃を向ける音と同時に発砲した。二発。両手の銃を撃った。飛んでいった拳銃が宙を舞う。
刹那。オサムとBBは敵へ駆けた。首を斬る。手榴弾を奪いピンを抜きレバーを弾き敵中へポイ。BBがゲームの動画で見た動きのコピー。オサムはキルせず手榴弾だけ取り何個も投げる。オサムの投げたものは正確な軌道を描き集団へ潜った。
ハリーの銃が地面に落ちた。手榴弾、爆発。混乱を作った。テロリスト共の独壇場だ。レモンとプロペインの乱射と草食の早撃ち。オサムによる百点の投擲とBBの斬撃乱舞。爆発と一方だけの銃声。あっという間に壊滅した。
BBはダーティハリーへ流水の如く近付く。斬った。ナイフで受けられる。膝を蹴り体勢を崩して袈裟斬り。キル。
遠く。基地の奥で動きがあった。レモンがスコープで確認すると、見慣れぬ銃器が運ばれていた。そして類似する物体を脳内で発見。恐怖で血が凍った。
「機関銃です! 隠れて!」
まんぷくテロリストが動いたと同じくして銃口から火が吹く。チェーンソーのように音を切った弾幕。たった一つの武器で誰も動けなくなった。
BBとて、マシンガン相手に突っ込むことはできない。手をこまねいて建物の影に隠れるだけだ。草食がちょっと顔をだして弾幕に焼かれかける。対して、オサムは自信を付けていた。手元にある五つの手榴弾。勝算はある。
「レモン!」オサムは銃声に負けじと叫ぶ。「距離はどのぐらい?」
「百メートルです。多分」
「よし。わたしがどうにかする!」
頼んだ! と仲間達から声援を受けた。まずは空間をイメージ。百メートルはどのぐらいだ。どのぐらいの角度でどのぐらいの力をかければ届く?
しかしながら投げる際、建物の影から出なくてはいけない。やられる。それがどうした。何もできないよりはマシだ。一瞬で終わらせればそれで万事解決。
意を決して影から出る。ピン抜きレバー弾き投げる。そして戻る。先まで彼女がいた場所に土煙が舞った。まだ撃っている。あとは祈るのみ。手榴弾よ届け。
爆発。銃声が止む。覗き込むと、機関銃ごと吹っ飛ばされていた。関門は突破した。まだ勝ってはいないがガッツポーズ。
「オサム、ナイス!」
BBはサムズアップ。照れて笑い返した。
「よぉし、オサムちゃんのお陰で活路が開いた。一気にいくよ!」
草食の声に応じ突撃。基地の最奥を目指す。数少ない生き残りが各々撃つ。先頭に立ったBBが全ての弾丸を斬っていく。さらにオサムの手榴弾であっけなく外は全滅。
基地の最奥、司令部へ突入。屋内での戦闘が始まる。
「ここまで来たぞ! ベッドルームを死守しろ!」
ダーティハリーの声がとめどなく響く。奴らにとっても正念場だ。だが狭い空間こそBBの主戦場なのだ。
BBが走る。廊下に二人の敵が陣取った。来る弾を斬りついでにその二人を斬り落とす。右に曲がって弾を回避しつつ壁を蹴る。宙を飛び一閃二つ。二人キル。ナイフで三人来る。突き、斬り、掴み、それぞれ軽くいなして袈裟斬り三つ。突然部屋から出た者も草食が撃ち抜きキル。
「オサムちゃん」プロペインが後ろから呼ぶ「手榴弾は持っててくれ。ベッドルームに投げる」
「判りました。持っておきます」
敵を切り刻みつつ進んでいく。抵抗が激しくなる。もうすぐベッドルーム、リスポーン地点ということだ。レモンと草食、プロペインが銃撃し、敵はベッドルーム、つまりは密室に閉じ込められる。
オサムが手榴弾を投げ込む。爆発。草食が先陣をきり入る。ベッドは全て壊れた。リスポーンの一つを破壊。かなりの大部隊だったから、まだもう一つ二つあるだろう。
さらに廊下を進む。悲しきかな、もう相手の弾も尽き始めたのだろう。初期装備のナイフで攻めてくる。すでにまんぷくテロリストの敵ではなかった。
二つ目のリス地を破壊。爆発の威力にオサムは感動する。やっと自分の得意分野を見つけたのだ。
静かになる。リスポーン地点を破壊したので、別の地点にリスポーンすることになったのだ。まだ調べきれてない。ベッドルームを探し回る。
ある一室。その前に全員集まった。調べてないのはこの部屋だけだ。ドアを蹴破る。草食が先に進み、中にいるダーティハリーと目が合う。
咄嗟に銃を向けるハリー。また容赦なく撃ち落とされた。なお戦意は衰えず、ナイフを取り出した。
「お前達は、我々が必死に組み立てた秩序を破壊した。いつか巨大なコミュニティになったかもしれないのに。それを、お前達は……」
「なら、もう少し優しくするべきでしたね。残念です」
BBが近寄り、斬らんとしたナイフを手の甲で弾いて肩へナタを叩きつける。そのままノコのように引く。出血デバフがかかり、HPが減っていく。
「我々の苦労も、ここまでか……」
腰の後ろに手を伸ばすハリー。ピンの抜く音。五人の息を飲む音。本能的に離れ、全員伏せた。今日何度目かの爆発。この距離ではダメージを負うことは避けられず、彼に一番近いBBは瀕死になった。
最後に残ったベッドも破壊された。拳銃警察隊、ここに全滅。どんな奴らかは知らないが、ともかくあとは漁るだけだ。
「あー」BBが倒れたままもがく。呟いた。「手足が動かない」
「部位損傷って奴か。部位回復剤を探してこよう」
プロペインの言葉に同意。オサム以外は部屋から出た。BBはオサムを見上げる。
「今日は本当に、大活躍だったね」
「BBこそ。もう弾を斬れるようになっちゃった」
「お互い、強くなったってことかな」
「強くなんか……」少し顔を赤くする。「わたしは昔から球技は上手いほうだったからやれただけだし」
「じゃあ、手榴弾があればオサムは無敵だね。積極的に使ったら?」
「そうだね。わたしもいつか、BB並みに戦いたい」
「あとでまた訓練だね。オサムならこのぐらいできるようになるんじゃない」
「褒めても何もでないよ。じゃ、わたしも物色してくるよ」
「それじゃ」「うん」
BBは寝っ転がったまま。オサムが部屋から出ていく。
軽く息を吐く。今日、いや正確には昨日と今日。ずっと動き回った。あと数時間で日が昇る。激戦を偲ぶ。もう正直なところ、ここを拠点にして活動したほうがいいんじゃないか。それはそうと、BBは休みたい。
何もできないので周りを見る。拳銃が落ちている。自分も拳銃ぐらいは持っておいたほうがいいだろう。BBはそうは思うが手が届かない。体も動かない。
「BBさん」
レモンが部屋に入ってきた。
「部位回復剤です。刺しますね」
HPと部位損傷が回復した。よっこらせと立ち上がる。
「ありがとう」爽やかな笑顔。BBはいつもの仮面を張っている。「今日もレモンは活躍していたね。索敵してくれなかったら、大変なことになっていたよ」
「いえそんなこと」
「謙遜しなくていいよ。行って行って。あとで何かあげるよ」
「今日は皆活躍したんですから、お互い様、おあいこです」
「そう? じゃあ遠慮しちゃうよ」
レモンは柔らかく微笑んだ。
そして、BBも物資を集めだした。拳銃のホルスターを見つけ、右腰につける。拾った銃弾をマガジンに入れた。弾薬パックも少々。基地からどんどん荷物が消える。
基地の屋内から出る。車が付近に停められていた。プロペインの気遣いだろう。車に物を詰め込む。数日は容易く、節約すれば数週間は持つのではないか。そう思えるほどに物資は潤沢となった。
「よしよし。このぐらいでいいかな。パーティーでも開く?」草食は明るく笑う。レモンは笑い返した。
「いいですね。でも、まずはここを離れないと。残党がいないとも限りませんし」
「そうだね。プロペイン、車お願い」
二人の問答により、移動が決まった。それぞれ車に乗り、出発。エンジンは満足げに鳴り、タイヤの回転は軽やかだ。
席すら圧迫しだす物の山に贅沢すら覚える。途端に、子供達は眠くなる。そういえば一睡もしてないのだ。
「俺以外は寝てていいぞ。疲れてるんだからな」
「でもプロペインさんも」「いいからいいから」
BBの言うことを笑って流す。草食は帽子を顔に被せて堂々と寝始める。オサムとレモンは罪悪感があるのか、コクコクと首を揺らし眠気と戦う。しかし勝てずに寝息を立てる。
BBも「ありがとうございます」と言って、目を瞑る。プロペインは一人、「おやすみ」と言ってあげた。
車がガソリンを燃やす音。これは子守唄だ。プロペインは一息つく。激しい戦いだった。しかし、彼らが言っていた秩序とは、何だったのだろう。最早それを知る術はない。彼はなおも考え続けた。




