第13話 斬撃の螺旋
BBはすでに敵の懐に侵入している。彼のキルゾーン直下。敵の処刑場。
この距離で銃を向ける愚か者がいる。発射される弾を斬ってやり首を掻いた。理性を失い恐慌状態の者共が味方ごと撃ってくる。人を盾に防いだ。オアシスを背に左へ。相手はリロードをしていた。膝裏を斬り体をくねらせまた盾にし、押して更に敵中へ。
流石に盾にされた味方は撃てない。オロオロとするばかり。確殺距離まで敵達に近付き首をはね、素早く二人の腕を裂いた。続いてナイフを抜き敵の手首を掴み引き寄せなで斬り。まだ終わらない。ナイフを持って来る三人を同時に相手。こちらから攻める。上段に構え攻撃を誘う。かかった。浮いた足を蹴り飛ばし転ばせ、油断している背後の者を一閃。
その間にもう一人が銃を抜き撃つ。が、弾も銃も腕も落とされる。残り二人だ。他はキルされたか戦闘不能。
BBは敵とはそんなに離れてない。撃ってきた。全て弾いてショットガンを抜く。連続で二回。どちらも一撃。
合計十人。全員をたった一人でやった。だがなかなか疲れた。フゥと息を吐き次の戦闘に備える。
改めて周りを見渡す。ベッドがあった。そうだったここは拳銃警察隊のリスポーン地点だ。拳銃を拾い、ベッドを穴だらけにしていく。運悪くリスした者はリスキルした。そうしていると、まんぷくテロリストの仲間達が来た。
オサムも拳銃を抜きベッドを破壊した。そして、ようやく自分が突出し過ぎたことを、BBは理解した。全くチームプレイができていない。BBは自己嫌悪に陥った。顔を伏せ、影が差す。
「……ごめん、なさい」
なさい、の部分で、過去がフラッシュバックひてきた。いつもいつも彼は謝っていた。親に殴られた時もネチネチ文句言われた時も。それに対し自分が悪くなかったかと聞かれれば解らないし、自信がない。
だから、経験則から怒られると考えた。一人勝手な行動をとった。もしかしたら負けてたかもしれないのだ。
「なんで謝ってるの?」
すっとんきょうな草食の声。BBは疑問と共に顔を上げる。誰もが驚きの顔。BBも同じ顔。
なぜと言われても、いつものクセで反射的に謝っただけだ。だがそれを説明するとなると、自分のことを話す過程が生まれる。つまりややこしくなる。
先まで無双していた勇士の表情ではなかった。ただ、子供が困っている姿があるだけだ。プロペインは、彼の心を汲み取ろうとしつつ言葉を選んだ。
「何を謝ってるかはともかく、さっきのはすごかったぞ。いやすごいというかもうワケわからんが」
苦笑しながら歩み寄る。長身のプロペインが屈み、BBと背を同じくする。肩をポンと叩き、ニッと笑う。
「囮になるどころか、敵を全滅させちまったなんてな。しかも、アレ、弾を斬っていたのか? 何で一発も被弾しなかったんだ?」
「えっと」まるで初対面みたいに戸惑う。「弾は、斬りました。危ないんで」
草食は吹き出し笑った。そらもう元気に。オサムも笑いを堪えている。
「危ないからって斬れるもんじゃないでしょ」
「まぁ、危ないってのはその通りだけどね」
草食もオサムも笑いを含ませそう言った。さながら、天才児が科学的に画期的なミスをしたような空気。本人はダメだと思っているが周りは喜んでいる。そんなチグハグさ。
レモンは和やかな空気に身を任せていた。それでも視界に入った人影を逃しはしなかった。また丘の上。周囲は丘で囲まれていた。このオアシスだけが低い位置にある。これでは高所を取られ放題だ。
「敵です!」
レモンの警告で一斉に動き出す。BBもそれまでの感情を忘れヤシの木を盾にした。他は伏せてどうにかしている。
「俺は車を持ってくる。ここは任せた。支援頼む!」
「BB!」草食が銃声に負けじと叫ぶ。低木があってまだ助かっている。「また突っ込んでくれる? 引き付けてくれるだけでいい!」
「判りました! 行きます!」
BBが全力で駆けて行く。プロペインは車へ急ぐ。車が無ければ何を盾にするのか。敵はBBめがけて撃つ。草食以下三名はBBの突進に合わせて発砲。
弾丸の嵐。BBはナタで防いではいるがいくつか当たる。もっと速く。速く斬るんだ。いや違う。よく計算して最小限の動きで斬るんだ。
草食の早撃ちで六人が倒れる。だが見たところ二十人はいる。さらにリスポーンして急行してくることも考えるとまだキル数が足りない。レモンもヘッドショットを決める。オサムだけなかなか当てられない。歯噛みしてリロードする。
BBの動きは最適化された。小さな動きで弾を斬れるように。そして丘を登りきった。眼下に広がるのは小規模な町。そして油田。黒い水溜まり。まだ感動するには早い。
左右に展開する敵から撃たれる。弾道を読み弾き斬り回避する。攻めなくていい。プロペインを待つ。とにかく防戦。
プップーと軽快な音。アクセルをベタ踏みしたバンが拳銃警察隊を薙ぎ倒していく。恐怖を感じ下がろうとする。ならばいざ攻めへ。BBは地を蹴り迫る。腹をさばいた。停まった車からプロペインの射撃。敵の陣形が崩れた。草食達もすでに走り出し、次々と敵が倒れていく。
「油田が見えた! 町を占領する。乗れ!」
滑るように皆乗り込んでいく。急発進。車の窓を全開。各々銃を取り出し威嚇も含め撃つ。敵は混乱。統制はない。
あばら家に止まらず突っ込んだ。中でリスポーンした者らは轢いた。「私達は降りて交戦しましょう。プロペインさんはここを荒らして下さい!」レモンの指示を足早に応じる。
BBとオサムのコンビは町中に繰り出し、敵対する者、しそうな者関係なく斬った。「ベッドを狙おう」BBの提案を即実行。家に押し入り寝袋を破壊していく。
重なって聞こえる銃声。暗くなりだす空。見つけた火炎瓶。二人は躊躇なく家々に投げ町を燃やしていく。
BBは逃げ惑う人を斬る。これでは、前の街を襲ったギャングと変わらない。そう冷静に捉える。だからってもう誰にも止められない。ガソリンさえ。ガソリンさえ手に入れられれば。
気付けば、銃声も枯れ、夕焼けと共に燃えている世界があった。大部分の拳銃警察隊はリス地点が変わったのだろう。もう敵はいない。
「皆、油田に行こう」
草食が言い、従った。もしや油田に引火してないかと不安になる。そこはプロペインが先回りして対処済みだった。
「終わったようだな」プロペインが車から降りた。
「終わったよ。でも、油田からどうガソリンにするのさ。あたしそんなの知らないよ?」
「いやいや。このままでいいんだ」
「いや、そうはならんでしょ」
「まぁほら、そこはゲーム的な都合って奴だ」
プロペインは車からポリタンクを取り真っ黒な池に入れる。手が汚れるのも構わず入れるだけ入れた。そんな雑に扱っていいのかと四人は考える。
そのまま、車の吸入口を開け流し込む。油を、多分石油をそのまま。リアリティーの欠片もない。ここがゲーム世界であることを雄弁に語っていた。またポリタンクを油田に入れて、予備のガソリンを集めた。
レモンはしげしげと眺めていた。そしてその危うさにやっと気付く。日は沈もうとしている。月が宇宙に現れる。
「まず第一の目標であるガソリンの確保は終わりました。次は、拳銃警察隊の排除でしょうか」
「一応言っておくと、この量なら逃げきるのは容易だ。わざわざ奴らを潰すかどうか。冷静に考えよう」
レモンとプロペインがそう言って、作戦会議が始まる。なるべく即決しなければまた攻撃される。この事は言わずとも念頭に置かれた。
「ここで全員やっておいたほうがいいよ。今後もあたしらにつきまとうこともないようにね」草食の決断。
「一々俺らのことを憶えているかね。ただ、全滅するかどうかはともかく、奴らの物資は輝いているな」
「どういうことですか?」オサムはいまいち解らない。
「奴らは制服を着て、同じ武器を持っている。つまり、それだけ組織化されているというこもだ。なら弾は潤沢にある。食糧もだ。バンは車の上にも物を置けるからな。そうすれば、しばらくは遊んで暮らせる」
「物資補充には賛成します。しかしそこまで持っていく必要はないでしょう」レモンの反論。「やるべきことは、物資確保のための戦闘、同時に脅威の排除。それだけで十分でしょう」
「なるほど。俺に異論はない。他は?」プロペインの問いに全員合意の意を示す。
「よし、敵の殲滅に決定だ。物資もいただこう。で、どうやって攻める? 相手の拠点が不明だ。探す必要がある。さらに言うともう夜だ。相手に攻められるのは不味い」
「相手の総数が解らないからね」草食が付け加え頷く。
「攻めるのなら、二手に別れてはどうでしょう。囮と本隊みたいな」
オサムの提案にレモンは唸る。たった五人を二つに別けるのは、ハッキリ言えば愚策。だがここにいるのは凄腕のカウボーイと銃弾を斬れる剣士。彼らだけでそこらの雑兵は潰せる。
一騎当千が少なくとも二人はいる。個人の力でどうにかなれる。とすると、オサムの案は悪くない。
「では、二手に別けましょう。BBさんと草食さんが本隊。残りが囮でどうでしょう」
「正直危険な賭けだが、それしかないか。あとは敵の拠点を見つけるだけだがどうするか」
「そりゃあもう車でかっ飛ばせばいいじゃん」
草食の即断はここで頼りになる。もしそれで大事になっても、彼女の銃が火を吹けばいい。
全員車に乗った。拳銃警察隊は見たところ車を持っていない。なら、徒歩で拠点間を移動することになる。論理的帰結として、その間の距離は短くするのは当然。拠点と拠点は近くにある。まんぷくテロリストは荒野を行き始めた。
プロペイン以外は窓から目を光らせ、人の影を探す。あったのは人ではなく何かの基地だった。鉄柵で囲まれている。目視の確認だ。なら当然相手にも見える距離。すでに気付かれているだろう。
「あれは基地?」「多分な。にしては電気がないが。作戦通り行くぞ」
草食とプロペインの掛け合いの後、草食とBBが降車。残りは車で陽動を仕掛ける。降りた二人は夜の暗がりであまり見えまい。言葉にこそしなかったが、彼らは自然な連携をしていた。
BBと草食。闇夜に身を晒し走る。仲間達とは別の場所から一気呵成に攻め立てる必要がある。四角形の形をする基地を回り込む。車が突っ込んだのが正面だとして、BB達は横から攻めていくことに。
岩影に二人は隠れる。敵方からは、「敵襲! 敵襲!」と悲痛な叫び声。早速攻撃してくれている。BBと草食は目を合わし頷く。開戦だ。
BBはナタを抜く。草食はリボルバーを抜く。駆けて行く。柵をヒョイと乗り越え中央へ。走り惑う敵達はプロペインらしか見ていない。
集団の塊へ接近。BBは跳躍。その中に紛れる。誰かがBBを見た。それを敵とは思わなかった。そして、乱舞。BBの刃が敵を断つ。キルするまでもない。一人一人にダメージを与えていく。そこへヘッドショット六つ。混乱はさらなる深みへ。
敵が落とした拳銃を拾い乱射。弾切れですぐ捨てる。味方ごと撃とうとするものへ斬撃。囲まれた。わずかな隙間を縫って背後へ、敵中へ。移動と同時に斬る。腕をはね、足をはね、首をはね。血飛沫はない。そのゲーム性に感謝。
間髪入れずに早撃ち。BBと草食の介入により、中央はもはや制圧完了。
全員逃げようとした。人にぶつかり、敵と誤認し、撃ち合い、勝手に数が減る。リスポーンした者も、同じように四方へ散った。
勝利だ。あとは物資をいただくだけ。そう感慨に耽るまでもなく、声が響く。
「そこのまんぷくテロリスト。拳銃警察隊本隊が到着した。お前達に勝ち目はない。武器と物資を捨てて投降せよ」
拡声器で響く男の声。戦いはまだ終わりそうにない。
ホーム画面でメッセが読み込み続けるがなんやろか




