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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の1 集合編
11/137

第11話 月夜ですら暗くない


夜。プロペインが持っていたランタンで辺りを照らす。一人一人食事をとった。収穫はプロペインの飲み物だけだったため、みな缶詰のさもしい食事をしている。


だが、空気は悪くない。そして食事の場は絶好の交遊場所。皆にジュースを奢ったプロペインは、早速仲間と語らうことにした。ただ脱出関連の話はまだしないことに。少し政治性があるため。


「BBくん。さっきオサムさんと訓練していたというけど、具体的に何をしていたんだ?」


「まぁ、単に戦っただけです。HPを削らないように」


「おぉ実際に得物を使ったのか。お前達の戦い方は一度にしか見てないからな。ぜひ目にしたいよ」


「面白くないですよ」かなり勇気を持ってオサムが割り込む。「基本わたしがBBに教えてもらう立場なんで。体で、ですけど」


「となると、BBくんは師匠ってことか。で、BBくんは強いの?」


「手も足も出ませんよ」


そう言いつつオサムは拗ねず楽しげな笑顔。負けたかどうかはどうでもよい。ただBBがこちらの想いを汲んでくれたのが嬉しかった。


「いや反撃はできてた。伸びしろはあるよ」


BBは思ったことをそのまま口にした。


「ありがと。いつかは一撃、入れさせてもらうから」


「二人共上を見てるなぁ。俺は逃げてばかりでな。足は速いからよ」


バンをチラリと見て言うプロペイン。それに対してレモンは、


「いつか、この車に機銃とかつけれるといいですよね。ほら、ニュースとかで見るような」


皆うんうんと頷く。しかし現実問題そんな弾をばらまけさせるとは思えない。弾はまだまだ貴重だ。やはり夢物語。


「銃と言えば」すでに食べ終わった缶を転がす草食。「プロペインさんはその変なライフル持ってるけどどんな奴?」


「あぁ、これか」


背中に提げているライフルを取り草食に見せる。草食もそうだが、ここにいる者は映像以上のミリタリー知識はない。


「何でも、レバーアクションライフルとかリピーターとか言うらしい。原理は知らんのだが、この、引き金近くの、ほら囲ってあるこれ。トリガーガードだっけ? そこから伸びてる部分を動かすと装填できるらしい。俺も映画でしか見たことないけどな」


「へぇー」草食の頭に新たな雑学がインプット。プロペインも、長々と説明して結論が解らないとは、と苦笑した。


「西部劇の時代に使われたとかスコスコが言ってたな。草食さんに似合うんじゃないかな。カウボーイとか使ってそうだし」


「いやぁ、あたしはリボルバー一丁でいいや。気に入ってるんだ。これ」


BBはジュースを一口飲んだ。「草食さんならそれだけでも戦えるしね」


呆れ半分で言った。まだ草食の早撃ちを見たことのないプロペインは、「本当かよ」とおちょくるように鼻で笑う。そこに侮蔑はなかった。


「いつか見ることになりますよ」オサムはフォローしておいた。


全員の食事が終わり、ちびちび飲んでたジュースも空になる。星々が告げる。眠る時間だ。


それでは見張りを決めることに。交代制で、一人だけ。草食はそう提案した。待ったをかけたのはBBだった。


「オレと草食さんで見張りをさせてください。まんぷくテロリストのリーダーと、つもる話があるので」


「いやいや、子供は寝る時間だよ」


必死こいて眠らせようとしてくる。BB、こいつはやけに勘が鋭い。こちらにもリーダーとしての面目があるんだ。そう易々と崩されるワケにはいかない。


「いえ。今後のことをじっくり話すには今がいいんです。ということで皆さん寝てください。リス地点を登録するためのベッドを忘れずに」


こうも一方的に捲し立てられると、納得はできずとも従っておこうと感じてしまう。相手がBBだ。プロペイン以外は何らかのワケがあると見た。プロペインは新人故深入りできない。


しかしその中でもオサムは、BBの行動に言い知れぬ不安を抱いた。今後のことを相談する最初の相手が、草食だとは。確かに彼女はリーダーだから正しい。のだけれど、彼が自分の頭上より上を見ているよう。無視された乞食のような惨めさを想わずにはいられない。


「それじゃ、しばらく眠らせてもらいます。おやすみなさい」レモンがそう言って寝袋へ。四人が「おやすみ」と返した。それぞれもまた寝袋へ向かった。


プロペインは車の中に寝袋を。レモンとオサムは地面に敷き横になる。車の近くで寝てるのは共通のことだ。


BBと草食は対面し座り直す。しばらく会話はない。気まずくはない。ただ他の三人が眠るのを待っている。安眠を邪魔するほど彼らに熱量はなかった。


皆が寝静まった。BBはナタを研ぐのをやめる。草食はリボルバーの点検をしていた。点検といっても眺めているだけだが。


「草食さん」ナタを納め、小声で話しかける。目は合わせない。


「どしたの」


目を上げBBを見る。光るランタン。星明かりと共に地面を照らす。


「あのカジノで何をやっていたんですか」


ついに来たか。仇敵が来たかのような緊張を覚える。意識は覚醒する。言い訳スロットフル回転。何を言われようと受け流せる。小童め。こちとら借金のプロだ。


「物資の探索だよ」


「そうですか。では、捨ててあった缶詰は食べ損なったと」


「そう。下で物音がしたからびっくりしちゃって。何だろうと調べよって階下に行ったら、ゾンビまみれってこと」


「そのゾンビ、階下にいましたか?」


「うん。階段を降りてゴロゴロと」


「なるほど。物音が鳴るまでスロットやってれば、気付かないかもですね」


「い、いや待って。スロットなんてやってないよ。本当だって」


「ん? オレは例えとしてスロットのことを持ち出したのですが。やったやってないは聞いてないですよ? 心当たりでも?」


しまったカマかけられた。いつも親にスロット止められていたからついクセで答えてしまった。だがここからでも巻き返せる。


集中路線にシフト。自分は早撃ちができちゃうほど集中力がある。それを根拠に責めていこう。


「いや、物探しに集中していただけだよ。心当たりなんて、ないよ」


「物を探すのに集中しながら飯を食おうとして、物音がしたからボロボロの缶を落としたと。ところで何であの缶はボロボロだったんですか」


「つい握り潰しちゃって」


「所々円形に穴空けて握り潰したと。器用ですね。それで、近くに落ちていたコインはどうしたんですか。さも遊んでいたように落ちていましたが」


「元からそうだったんだよ」


「へぇ。ナイフで刺した跡も、そのまま?」


なんだか吐き気までしてきた。これはアレだ。昔友達に絶交を言い渡された時と同じ感じ。金を借りすぎた自分が悪いのだが、それを慰めてくれる人はいない。


「さて、整理させていただくと。集中して物音が聞こえないのに飯を食べようとして物音にビビる一貫性のなさはどうしてか。変な壊れかたをしている缶はなんなのか。コインの出所はどこか。どうです。答えられますか」


冷や汗で溶けそうだ。いつもそうだ。言い訳が上手くいかない。通じない。そうだ。ここは反省して二度とやりませんと言えばいいんだ。それで何とかなってきた。


しかし子供相手に説教され、プライドなく謝ろうとするこの醜さ。恥と思わぬ浅慮。


「……ごめんなさい」


「いいですよ」「え」


BBはあっさりと許す。その真意が解らない。


「何で?」


「オレはただ、草食さんの情報を得たいだけです。自分のことをどう取り繕うとするのか。見せてもらっただけです」


「そっかあ」この子のコミュニケーション能力独特だなぁハハハ。「なんだビビって損したよ」


「それはそれ、これはこれ、です。オレも物集めなかったので強くは言いませんが、今後はそういうの、やめましょう。お互いに。いいですか」


「はいはい」


草食にいつもの軽さが戻った。反省の意思が見られないことを不安に思う。だが、それはそういう奴だとして扱えばいい。スロット好きでも、やることをやってくれれば何の支障もない。BBの結論は意外と安易であった。


ふぅと二人共息を吐く。これで確認作業は終わった。あとは交代まで警戒していればいい。または駄弁るか。草食は後者を選んだ。


「そういえばさぁ。よくあたしのことをお姉さんと呼んでって言ってるのに、皆言ってくれないんだよね」


「そうでしょうね」威厳がないからだ。


「BBは呼んでくれるの?」


「じゃあ今から呼びますよ。草食さん、もとい姉さん」


彼女は満足げに微笑んだ。人のダメなところを見て信用するのも妙なことである。BBは草食を少々歪な形で信用した。彼にとって、人格の欠点ほど人を知れるものはない。


それに、できない人、足りない人がそばにいるほど、身が引き締まることはない。


BB自身、彼女への疑いがまだあることは自覚している。しかし今はまだ聞く時ではない。もしかしたらずっと聞かないかもしれない。


「じゃあ姉さん。そろそろ交代しよう。今日は安心して眠れるんじゃない?」敬語もやめた。敬うワケではないのだ。


「そうだね。そうしよう。さっきのは、皆には内緒にしてくれる?」


「もちろん。オレ達だけの秘密です」


二人は立った。オサムとレモンに交代するため、BBはオサムのほうに近付く。すやすや寝ている。安住を見出だした狼のような顔。緊張をほどき、その柔らかさが露になっている。こうして見ると、やはりいたいけな乙女だ。


「オサム、オサム。起きて。交代だよ」


「……あとちょっと。……起こさないでよお母さん」


肩を揺らそうと伸ばした手が止まる。この子には親がいる。血の繋がって、愛情をくれる親が。BBにはいない。なぜ、そんな差があるのだろう。


彼女が帰りたがる理由は、やはり家族か。自分にはいない家族とやら。そんなのがどうして良いのか、帰る理由になるのか。BBにはどうしても理解できない。


止まってた手を動かし、オサムを揺らす。「起きて」ゆっくりと(まぶた)は開かれ、BBを見る。そのとろけた顔は、家族に囲まれた子象のよう。


「交代だよ」「もうそんな時間?」「そんな時間」


オサムは渋々起き、ランタンを目に止めた。レモンは草食によって起こされた。


「それじゃ二人共おやすみ。姉さんもおやすみ」


「おやすー」


姉さん。間柄がここまで進んだことに、オサムは動揺を隠せない。そして、心に黒いマグマが湧く。それがどんな感情なのか、雛を宿した心では解らない。


オサムは考えた。BBのことは信頼している。いつも守ってくれている。でもBBは自分を信頼しているだろうか。自分は弱いから、草食に傾いているのでは。


少ししたら、レモンが近くに寄った。


「二人は寝ちゃいましたね」


「そうだね」


「悩み事なら、聞きますよ」


レモンを見る。彼女のことは、まだよく知らない。故に、心を開きやすかった。知らぬ人のほうがむしろ信頼できる。知らない道具を使うのは躊躇うのに、人はいける。不思議だ。


だけど人との関係性で相談するのは、できない。やり方が判らなかった。だから別の悩みを言う。


「脱出、できるかなって」


「どうでしょうね。オサムさんは、現実に戻りたいですか?」


「戻りたいよ。両親が待ってる」


「私も、同じ理由です」


レモンがフッと笑う。少女二人の共通点。それが糸を形成し始める。


プロペインは、少し目が覚めていた。草食らの話は知らないが、オサム達の話は聞いた。彼もまた、家族に会うために、脱出を志しているのである。


オサムはレモンと話しつつ、自分が弱い故にBBと距離を縮められないのでは。と考えた。なら強くなるだけだ。オサムはそう、決心した。

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