第10話 イケナイ本性
「プロペインさんは何でウチに入ったんですか?」
レモンが気さくに話しかける。バンの後部座席からレモン、BBとオサム、草食と運転のプロペイン。ハンドルは右についている。このゲームが和製であることの証か。
「言っちゃあ悪いが、強そうだからな。俺はあんまり強くなくてな。いつも逃げていた。このままじゃマズイと思ってたんで、人を探していたのさ」
「へぇ、つまりあたしらは雇われってこと」
割り込んだ草食はからかう。BBとオサムはレモンと席を変えて欲しかった。お喋りサンドで具が悪い。
「今のところはな。俺は足を提供する。あんたらは銃を使う。いい関係だろう?」
「それについてなんだけど、いや、あとで話そうか。今は目の前の街に集中しようよ」
「荷物は持てるだけ持ってきていいぞ。車に積める」
またも廃墟。おそらく歓楽街だったのだろう背の低いビル群。草食が何やら心に宴会を開きウキウキ。オサムは、荷物持ちだの管理だのの役が終わりそうで、嬉しいやら悲しいやら。
オサムはハッと気が付く。その任を終えたら、失ったら、自分のやれることがない。戦闘はからっきしだし、運転はできない。このチームで一番のお荷物は自分ではないか。荷物持ちが自分を持てない。とんだジョークだ。
車を街の入り口で停め、それぞれ降りる。草食の笑顔の裏でオサムの暗さが目立つ。BBはそれを見た。何となく察しはついたので、あとで話し合おう。そう考えた。
「さて、車を見張る役が必要だな。誰にする」
「私がやります」とレモン。「こんな長物、市街地では役に立たないでしょうし」
「そうでもない言いたいけど、ここは適任ということで」草食は首を回しストレッチ。「あたしらは街で使えそうなのがないか探すよ」
「はい。いってらっしゃい」
「いってきます」「おう」「いってくるよ」「それじゃ」
草食、プロペイン、BB、オサムの順で挨拶を交わし、道を行く。「団体行動したほうがいいんじゃないか」そのプロペインの言葉に、草食はギクリ。オサムばかり気にかけていたBBは草食に気付かず。BBはプロペインに体を向ける。
「そうですね。ただ、草食さんは一人でも大丈夫でしょうから、オレとオサムでペア組みます。プロペインさんは、どうしましょう」
「だったら、草食さんの近くで洗ってくるよ。近すぎないくらいで。それじゃ草食さん。後方は任せてくれ」
「おーけーおーけー。先行ってる」
こうして、二手に別れた。BBとオサムは横に並んで進んで行く。二人きりになるのは久々か。オサムが話そうとして、口を閉じる。BBはそれを感じてはいる。が、ひとまずあの二人から距離を置こうと足を進める。
商店街エリアに差し掛かる。なんだかやけに日本っぽい。この世界はどこをモデルとしているのか。海外ゲーにありそうな謎日本語が書かれた看板はない。全部英語。そのくせ海外感は微塵もない。
BBはナタを抜いた。始めての場所なんだから武器を取り出して当然。その音は明らかな挑発を内包していた。
「オサム」目を合わさず、並んだまま問う。「言いたいことは何となく解る。でも言ってごらん」
目を伏せ、だけども言葉を振り絞る。何が恐ろしい。自分でも理解できない。でもその言葉は、彼女にとってとても、勇気がいることだった。
「わたし」拳を握る。「強くなりたい」
「……そうか」
やっと彼女のほうを見た。同じ目をしている。少年少女、想いは同じ。
「オレも、強くなりたい」それは果たして、どちらの意味だったか。己でさえ、不明。
「BBはもう強いでしょ」
BBはそれに対する正答を持たなかった。言葉を吟味して、舌の上で転がす。何て言うべきか、ふむ。ここは現実的な、共感以外の方向で話を進めよう。
「いや、もしこれから長い間戦い続けることになったら、それこそチームの規模を大きくせずに旅をするようなら。それなら一人一人が強くないといけない。でも、オレ達は刃物を使うのが精々だ。いずれ銃の練習はしても、今はこっちを鍛えないと。だから」
体ごと向ける。少したじろぐオサム。BBも自分が言ってることを整理しきれず、笑い誤魔化す。しかし熱意は荒々しい火の如く。
「近接戦をするオレ達二人が、強くならないといけない」
「そうだね」
黒雲が晴れて、天のように瞳に色が宿る。お互いの方針は決まった。
「じゃあ、デスしないていどに手合わせしてみよう。まずはやってみないと欠点も見つからない」
「二人でやるの? じゃあ回収はお手上げだね」
「それは二人で怒られよう。さぁ、武器を抜いて」
二人は得物を構え、距離を置く。戦って、強くなる。シンプル故に難しい目標と約束が、彼らにできた。
一方その頃。草食とプロペイン。かつては客引きで溢れていたであろう通りに出た。草食は何かを見つけたそうに目を走らせている。
「草食さん。俺、あっちでいいのを見つけそうな気がするんだよ。あの大きな酒場。しばらくは飲料に困らないと思う」
「そんじゃ、あたしはもっと奥に行くよ」
「気を付けてな。どうにも静かだ」
手を振って一時別れる。草食は歩き続ける。通りを越え、大きなビル共に出くわす。表情、開門。彼女は大きな建物を見つけたのだから、そこにあるであろう物資に想いを馳せたのだ。だからこんなに喜んでいるのだろう。
と、思うのは純心なだけだ。草食は走り出す。全速力。扉をぶち破り中を拝見。あるわあるわのスロット台。ポーカーかブラックジャックをしてたろう台も。その他ギャンブルにはもってこいの空間。そう、ここはカジノだ。
カウンターだとか、機械の中だとか、他、あれこれ探し回って集めたのは、スロットで使うコイン。メダルとも。まさかコイン収集か?
彼女はこれらを持って運ぶ。スロット台の前にドカンと座る。ガチャガチャ。どうやらまだ動くようだ。ガッツポーズ。これを望んでいたのだ。まだポストアポカリプスに閉じ込められる前、現実でスロットを回すお金もなかった彼女は、ゲーム内でスロットを回していた。
あぁ愛しのスロット! 現実でとことんハマったものとの再会。やっぱこれはやめられねぇ。パチンコと違って世界でも遊ばれているから実質グローバル。
早速コインを投入。レバーを下ろす。三つの回転。一、二、三。ハズレ。まぁ最初だし。こんなこともある。さらに回す。コインをどんどんぶちこんでいく。ちなみにスロットは古いタイプの奴。過度な演出等はない。
当たった! コインがどはどば。これを元手にさらにもっと回す。よくよく考えなくてもこの世界でコインを持ったとして、一体何の役に立つのか。いやいや、自分はスロットをするのを楽しんでいるのだ。決して依存ではない。草食は自分を説き鼓舞する。
だんだん負けがこんできた。イライラして舌打ち。この台はゴミだ。腹いせにナイフで突き刺した。びくともしない。蹴と飛ばしておく。びくともしない。
次の台。これが面白いぐらいに当たる。コインまみれで、億万長者の気分。……それも最初だけだった。負けた。次の台に変えるが、動かない。他も。他も。他も。
「何だこのゴミカジノ!」
この独り言をメンバーが聞いたらどう思うかなんて、そんなの考える余裕はなかった。
仕方なしに元の台に戻る。きっと運が悪かっただけだ。コインを続々投入していく。山程あったコインが、土砂崩れをなしていく。当たらない。揃わない。「クソっ」と台に当たる。いわゆる台パン。バカにしやがって。こいつのせいで親に借金しているんだ。自分は悪くない。悪いのはこいつだ。
ついにコインが尽きた。全部ハズレ。だが負けて終わりなんて後味が悪い。何とかできないだろうか。
「そうだ!」
ポーチから缶を取り出す。もしかしたら、こいつをよーく円形に切り抜いたら。コインとして投入したら。動かせるのではないか。そんなことするよりカジノを探索しコインを集めたほうがいいのだが。追い詰められた人間は、何をするか解らない。
ところでゲージを見てみると、空腹ではない。少しどころでなく、かなりもったいないが、中身は捨ててしまおう。缶を開け、捨てる。どうせポークビーンズだ。いいじゃないか。よくないのが本当だが。
ナイフで無理やり切っていく。硬い。だが諦めてなるものか。円形の、缶だった物を何枚か作り出した。運命のラストファイト。このまま勝どきを挙げたい。
そもそもコインとして機能するのか。不安をよそに入れてみた。動いた。レバーを下ろし、回転を見守る。
きた! 当たりだ。揃った。一食を犠牲に生け贄にした一発は、幸福の女神を喜ばせた。嘲笑かもしれないが。出てきたコインと、コイン状の缶を使い、回す。
しかし、また負けた。もう我慢ならんと銃を抜きスロットに向けた。ここで天才の閃きが頭からビルへ通過した。そうだ。コインの保管庫があるんだ。そうに違いない。そんなの最初に気付くべきでは?
再びカジノを探索した。地下で厳重に守られた金庫らしき扉を発見。分厚い鋼鉄の扉。パスワードがある。どれも難解そうだ。
スロットで正気の思考回路を失っていた草食。彼女はバカなことにパスワード入力のタブレットを取り上げ踏み潰した。そしたらなぜか扉が開いた。その先にあるのは、金銀財宝、ではなく、一生食える飯でもなく、カジノのコインだ。流石に虚しくならないのだろうか。
扉が開ききった。中の明かりが点く。金庫の中身は、残念ながらゾンビの大群だった。
「ぎゃああああ!」
叫びながら早撃ち。全弾頭にヒット。しかしながら数が多すぎる。リロードするヒマもなく地上へ逃げる。
「草食さん!」
丁度草食を探していたオサムが彼女を見つけ叫ぶ。草食の背後にはゾンビ。オサムは銃を抜き撃つ。驚いたのかゾンビは少し止まった。その隙を逃さず草食、リロード。六人倒しリロード。さらに六人。
遅れて駆け付けたBBは、まずスロット台の近くにぶちまけられたポークビーンズを視認。円形の穴が空いている缶の残骸も見た。そしてコインを少々。まさか。ともあれ、疑念を晴らすにはまず撤収しなければならない。
「草食さん、オサム。もうそろそろ夜だから帰ろう」
「もうそんな時間?」ゾンビの掃討を終えた草食は咳払いをしといた。
BBはスロット台の散らかりを見た。
「このことについて、後で話があります」
BBに言われ、草食は冷や汗をかく。急いで言い訳デッキを組み今後の口撃に備える。それが全てお粗末であるのが、彼女の底を表している。
ほくほく顔のプロペインと、スッキリした顔立ちのオサム。腹を無言で探り合うBBと草食。みな車へ戻った。
「お帰りなさい。異常無しです。成果は?」
「俺は大量の飲料水を手に入れた。ジュースもいっぱいだ。ほら。しばらくは楽しめるな」
「ありがとうございます、プロペインさん。BBさん達は?」
「ごめん」答えたのはオサム。「わたし達、訓練してた。戦いの。だから何にも手に入れてない。ホントごめん」
「訓練ですか。私もしないとダメですね。良いと思いますよ。それで、草食さんは?」
「あたしは何も見つからなかった!」
自信満々。レモンは早撃ちのことで信頼を置いているので、疑いなく受け入れた。プロペインも、「残念だったな」と言って済ませる。しかしBBだけは、
「夜、話しましょう」
本当の戦いはこれからだ。草食の覚悟は揺るがない。




