案内役と賢者の塔
「まだまだ2階層ですから、それほど倒さなくてもいいですよ。先は長いですし、今後は己の肉体を武器にした魔物たちがわんさか現れますから」
そう言って、リストは微笑んだ。
「それに、こんな健気な子たちを、一方的に倒して回るっていうのも、なんだか後味が悪いじゃないですか」
「……それを今言うか……」
確かに、こいつらも賢者の塔の住人、言うなればアンネと同カテゴリに含まれる存在だと思えば、戦うことにためらいの気持ちも湧いてくる。まあ、こちらを攻撃してきた時点で、全力で抵抗するが。
「そんなこと言ってないで、ちゃっちゃと倒せばいいのよ。その程度の事、私たちは何とも思ってないわ」
振り向くと、水浴びが終わったアンネが、ボスと一緒にふよふよと歩いてきた。
「ココでは死ぬことなんて日常茶飯事。挨拶代わりにモグモグされることだってあるのよ?まあ、流石に同じ奴に何度も何度も問答無用で殺されるって話なら少し変わってくるけどね」
そう言ってアンネが笑うのを見て少し引きつつ、俺たちは塔の攻略を再開したのだった。
3階層へ降りてすぐ、秋の風情漂う、豊かで、様々な植物や色とりどりの茸が生い茂る森の中、俺たちが最初に出会ったのは木の女性だった。
見た目は木製の人形の肩や頭などに葉が生い茂ったような姿で、その大きさは俺たちを討伐しに来た時に出会った冒険者、ジュモンジ老に比べれば半分ほどの背丈、大凡ボスよりもやや高いくらいのものだ。
「あら、いらっしゃい」
警戒心を浮かべる俺たちに、リストとアンネは自然体で言葉を返す。
「どうも、お邪魔してます」
「へぇ、今はあなたがここを管理してるのね」
いぶかしげにする俺たちに、アンネ達は逆に問いを投げかけて来た。
「そもそも、魔物とはいえ、赤ちゃんを放置とかって、ありうるかしら」
「なるほど、言われれば確かに」
オークじゃないのだ。育児やしつけができるならしない手はない。つまり、彼女はこの階層にいる魔物の子ども達の世話をしている存在なのだろう。
「で、彼女は一体誰なんだ?」
「さぁ?」
知り合いじゃないのか、と言うツッコミが喉先まで出たところで、アンネが呆れたように俺の方に向き直る。
「だって、ここ、1階層だけでも1000体以上魔物が暮らしてるのよ?子ども部屋は入れ替わりも激しいし、同階層に住んでたならともかく、別階層の子たちまでいちいち覚えてられないわよ。
あ、でも、安心しなさい。個人としては知らなくても、種族としては知ってるわ。この子はドリュアルド。オーガ級に分類される植物の精霊ね。男好きだけど、戦闘に関してはオーガ級の中では不得手な方だし、話の通じる子よ」
「そもそも、冒険者へのペナルティでもなければ、この低階層で彼女のような高位の魔物が暴れることはまずないですよ。子ども達にとっても、冒険者にとっても、良い経験とはならないですから」
リストがそう言うと、木の女性、ドリュアルドはにこりと笑って手を振ってきた。
「リスト君はいつも熱心ね、よしよし」
「まあ、エリアさんには世話になってますしね」
どうやら、リストは顔見知りだったようだ。
「それじゃあ、そろそろ行ってもいいか?別にそこまで急いでるわけじゃないが、無意味にゆっくりできるわけでもなくてな」
「あ、ちょっと待ってくれるかしら?」
そう言うと、エリアと呼ばれたドリュアルドは一つの箱を取り出した。
「もし頼めるなら、この箱をこの階にいるスマッシュに渡してくれないかしら」
「まあ、それくらいの時間はある……か?いや、だが、竜帝様を待たせるのも……」
俺がそう悩んでいると、アンネがあくどく微笑んだ。
「受けましょう。じーじも人助けだって言えば納得するわ。むしろ、積極的に受けるわよ。そして、余計に時間がかかったっていう既成事実を作るの」
……。
「分かった。受けよう……なんだか悪いな」
「い、いえ……こちらは頼む立場ですし、竜帝様にも黙っておきますわ」
引き攣った顔でそんなことを言うエリアさんに別れを告げて、俺たちは3階層を歩き回ることになった。
「確かスマッシュ殿は、赤い帽子をかぶった方でしたな」
「そうですね。私も3階層にはよく来ますが、スマッシュさんという人にはあったことは無いですね」
ボスの言葉に、リストが意味ありげに微笑んで応答する。
「……もしかして、リストさん、何か知ってないか?」
「そうですね。どうでしょうか?少なくとも、今はノーコメント、ということで、安心してください。少なくとも、危険はありませんから」
これは、なにか知っているのだろう。2階層での罠ゾーンでも少し思ったのだが、リストは案内役と言いながら情報を絞っている雰囲気がある。話していて受けたイメージでは、悪意があるというわけではなく、俺たちを試している感じだった。塔の住人であるドリュアリュドのエリアさんと親しくしているようだし、もしかしたら塔側から何かしら指示が出ているのかもしれない。
とはいえ、最初に出会った罠を俺たちに教えるなど、完全に放置するというわけではないようだ。一応信用することにして、配達に集中することにした。
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配達相手を探して1時間。
「いないぞ」
赤い帽子をかぶった人物は全く見つからず、俺たちは諦め気味に地面に腰を落ち着けた。
「ふぅ、一体どこにいるんだ。大凡探しただろ」
そうして、探し回ったものの、リストは積極的に探そうとしていない感じだし、ボスもアンネもスマッシュを見つけることは出来ていなかった。
さらに、追い打ちをかけるように空腹も襲ってくる。何しろ朝から歩いて3階層まで休みなしだったのだ。体力的にはまだまだ動けるが、時間は結構すぎてしまっている。
そこで俺たちは、一旦スマッシュ探しを中断して昼食を取るために材料を集めることにした。流石にこの塔内で肉を集める=リスト君の知り合いのフロアさんが世話している子ども達を食べるために狩る。というのも気が引けたので、植物中心に集めることにした。
とりあえず俺は茸に手を出してみる。リスト達には悪いが、正直この森、右も左も大きめの茸があちこちに群生しているのだ。
食事を用意する手間になるかもしれないが、毒無効の俺たちだけでも茸を食べればその分だけ量が集まるだr「ピギィ!」……ピギィ?
下を見た俺は、グネグネとうねる茸を目にしたのだった。
なお、塔の住人は、食事を食べるタイプの魔物と、食事を食べないタイプの魔物がます。全員食べなくても何とかなったりもしますが。
と、言うのも、賢者の塔は魔素の量が異常に多いため(そして、魔境の隠し特性として)魔素を食事で得られるエネルギーの代替として使用することが可能になっています。
ただし、これは賢者の塔で産まれた個体のみの特性(種族として魔素を食料としている存在もいるので例外有)なので、賢者の塔外から来た個体が食事なしにするとかなりのロスが生じます。竜帝様とかは塔建設当初からいた外部組古参。
一方、竜帝様のように生まれが賢者の塔でなかったり、娯楽を兼ねて食事を摂取する個体も一定数おり、彼ら専門の調理人が10000人単位で日夜料理を作っている。なお10人ほどは賢者専属。料理の材料は10%はリス・デュアリス等からの輸入で、60%は塔の魔物が落とすドロップアイテム等を冒険者から買い取ったり、直接食事したい奴が持ち寄った素材。残り30%は体の一部を食べることができる魔物からの提供だったり。(バロメッツとか植物系は結構持ってくる)




