オークと精霊王
本日2話目です。
精霊王を探して歩くことしばし、俺たちはまるで虹の中のような空間に出ていた。要するに、色とりどりの色がグラデーションになって空間に広がっているような。そんな奇妙な場所だった。
「……これは、いよいよって感じね」
「なぜでしょうか、少し背筋がゾクゾクしますぞ」
そう言いながら歩いていると、いつの間にか目の前に巨大な影が映る。それは直前に現れたようにも感じるし、逆にかなり前から見えていたような気もする。だが、それは確かにそこにいた。
”現世の者よ、よくぞ参られた”
それはまるで機械音声のように感情の無い声で頭に直接響いてきた。声の主は、巨大だ。一番近いのは子供向け特撮番組の巨大ロボットの胴体から上だけを用意して、それに少し生物身を足した、みたいな感じだ。
極論、巨人の足を取り外して、仮面とメカメカしいスーツを着込ませたら似たような感じになるかもしれない。
そして、そんな巨人を見上げ、アンネが声を上げる。
「貴方が精霊王様でいいかしら?」
”然り、我は風、我は火、我は土、我は水、我は雷、我は氷、我は光、我は闇、我は力、我は心、原初たる魔であり、終焉たる時である”
そう言い切った後、精霊王に話しかけようとした俺の言葉を遮って、引き続き精霊王が言葉を続ける。
”故に、我は世界であり、世界が我である。故に、汝らの行いもまた、我の手中にある”
そう言って、精霊王は俺たちを見据える。
”獣に身を窶し、なお人を失わぬ獣。獣から、その望みにて人に近づいた獣、己の弱さと向き合い、立ち向かった人。そして、我らが幼き朋友。その悩みも、思いも全て我が手中の中。しばし楽しませてもらった故、褒美を取らせよう”
そうして、精霊王は後光を発し、更に神聖な雰囲気の増した姿で俺たちに問いかけた。
”その心根正直に答えよ。人の子よ。そなたの望むは、精霊と共に遊ぶ楽園か、弱きを守る苦難と苦痛に満ちた道か”
「私は騎士として、弱きを守る道を選ぼう。だが、精霊王様その言葉は適切ではないと思う。確かに悩むことはあるだろう。そして、傷つき、倒れるかもしれない。だが、それだけではないはずだ。守られた者の笑顔、感謝の言葉、そして、騎士としての誇り。それさえあるのなら、私は弱者を守ることを苦難や苦痛と感じることはないだろう」
それを聞いて、精霊王は一つ頷くと、アリシアに手をかざした。
”ならば、そなたに精霊王の名において加護を与える。その身、弱者を背にすれば、巌のごとき盤石さを得て、何物にも退くことはなくなるだろう”
そうして精霊王の手から、力が放たれ、頬に有った大樹の精霊の証が、身体全体を覆うような巨大な大樹の証へと変化する。
「これは……精霊王様、感謝します」
”そして、小さき我らの子よ。汝の欲するところを成すことを認める。その主と定めたものに付き従い、助けとなれ”
「ほんとうなのですか!精霊王様!ありがとうなのです!」
そう言って、リトルウィッチフェアリーの少女がお礼を言うと、僅かに頷いた精霊王が、今度はアンネの方に視線を向けた。
”肉体を持つ、我らが朋友よ、そなたの望むは、命脅かされることのない力か、他者の命を救う知識か”
「知識よ。私は研究者なの。そりゃ自衛ができるに越したことはないけれど、守ってくれる共同研究者ならもういるのよ」
そう言ってちらりと俺を見て笑うアンネに、精霊王は手を差しだした。そして、見る間にその手のひらに、小さな巻物が現れた。
”ならば、そなたには我ら精霊族の持つ、他者を助ける魔法を授ける。他者の身を傷つけることは出来ぬ魔法だが、他者を助けるにはふさわしい魔法だろう”
「これは……麻痺に睡眠に硬直に……時間や空間の干渉に関することも!?これすごい魔導書よ!?」
「……いや、精霊王様にお礼言えよ」
俺がそう言うと、アンネはハッとして精霊王に向かってお礼を言った。それを確認してから、精霊王は今度はボスに向き合う。
”憧れにて人に近づいた獣よ。そなたの求める姿は、オークか、ゴブリンか”
「オークである。確かに、ゴブリナ殿と同じ種族であるというのは魅力的ではあるが、オークである方が、主殿に役に立てると確信しているが故に」
そんな風に言ったボスに、精霊王の手が伸びる。
”ならば、そなたには、精霊双剣を与える。片割れが片割れを呼ぶ剣である。片割れを主君が持てば、どれほど遠くであっても、主君のことを知ることができるだろう”
「ならば、主殿に渡してほしい。誰かに剣を授かるのなら、主殿から下賜されたい」
その言葉に頷き、今度は精霊王が俺の方を向いた。そして、剣を渡すよりも先に、精霊王は俺にこう問いかけて来た。
”人を失わぬ獣よ、そなたの望む姿は、人か、オークか”
精霊王様太っ腹!
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