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グォークと選択

本日1話+精霊郷解説の2話投稿です。

”人を失わぬ獣よ、そなたの望む姿は、人か、オークか”


 その問いを聞いて、俺は頭を殴られたような錯覚に陥った。


 弱者を救う騎士になることを望んだアリシアは、鉄壁の守りを得る加護を与えられた。


 知識を求め、仲間を助けることを選んだアンネは、仲間を補助できる多くの魔法を与えられた。


 俺の役に立つことを主眼に置いたボスは、主人と自分を繋げる武器を手に入れた。


 ならば、もしここで人を選べば……俺は人になれるんじゃないか?


 思えば、オークの生活は大変だった。アンネが来るまでは、会話する相手なんて一人もいない。何もないときにも機嫌が悪い奴に殴られたり、狩りに失敗すれば「グォーク(バカモノ)」と罵倒されることもあった。

 よく考えれば服や家も粗末なもので、食べ物だって最近までは生食が普通で彩なんて無かった。

 翻って人間だった前世は楽しかった気がする。安全な家、おいしい食事、そして、溢れんばかりの娯楽。病弱だったため、それを思いっきり楽しめたとは言い難いがそれでも、恵まれていたと言えるだろう。


 だけど……そう。だけど、だ。


「精霊王様。俺は、確かに人間の生活にあこがれを持っています。綺麗な家に住んで、おいしいご飯を食べて、ゲームをしたり友達と話したり。だけど、俺、今とっても楽しいんです。アンネとオークの研究をしたり、ボスと一緒に狩りに行ったり……雌オークに追いかけまわされるのだって、ちょっと迷惑だけど、それでも完全に嫌ってわけじゃなかった。だから、俺はオークとして、そんな生活を手に入れようと思います」


 それを聞いて、精霊王は深く頷いた。


”ならば、我らは祈るとしよう。グォーク。そなたの生に幸あらんことを”


 そう言って二つの剣を俺に渡すと、精霊王は体を大きく伸ばし、俺たち全員に向かって手をかざした。


”心清き者達よ。現世に帰るがよい”


 そうして、俺たちの意識は、真っ白に塗りつぶされていったのだった。


~~~~~~~~

「あ、目が覚めましたか?」


 目が覚めたとき、湖の精霊の少女と目が合った。


「ん、戻ってきたか。みんなは?」


「みなさん、もう目を覚まされましたよ~」


 あたりを見回すと、身体を伸ばしているアンネや、周りを警戒しているボス、それに、小さな鼠のような妖精と話しているアリシアの姿を見ることができた。


 そんなことをしていると、ボスがこちらへと近づいてきた。


「主殿、目覚められましたか」


「ああ、ボスは周囲を警戒してたのか、ありがとな」


「いえいえ、主殿こそ、溺れそうになった我を助けてくれたと聞いていますぞ。ふがいない限りですが、感謝の念に堪えませぬ。……そうだ、主殿、ねだるわけではないのですが……」


 そう言ってボスは、じっと俺の腰を見つめている。そう言えば、寝起きのためか意識がそれに向いていなかったが、夢の世界で精霊王に貰ったボスの報酬は俺が預かっているんだった。

 腰に目をやると、そこには二振りの剣が佩かれていた。

 片方は赤い剣であり、もう片方は青い剣だ。試しに青い方の剣を素振りしてみると、キィンという高い音がしたと同時に辺りに冷気が迸った。


「これは……氷の剣という感じか?」


 対になっている剣が赤なので、もしやと思い振ってみると、赤い剣からはゴウッという低い音と共に炎が噴き出したのだった。


「なるほど……ボス。どうやらこれは炎の剣と氷の剣みたいだ。仲間がこんな武器を使うとなると、俺も心強いよ」


 そう言って、俺がボスに二振りの剣を渡すと、ボスは恭しく二振りの剣を受け取り、青の剣を身に着けると、躊躇することなく赤の剣を俺に差し出してきた。


「……いいのか?」


「精霊王様もおっしゃっていたではありませんか。この剣は互いに引き合うと。ならば我は主殿に片割れを持っていて欲しいのです。……それに、炎の剣は我では使いどころを間違えて、敵以外を焼いてしまいそうですから」


 そう言ったボスを確認し、俺は炎の剣を受け取った。


「分かった。だが、これはお前が精霊王様に貰ったものだ。だから、俺は預かるだけだ。もしお前が返してほしいときや、俺自身がお前に返すべきだと感じた時は返すからな」


「ええ、それで結構です」


 そう言って、ボスの剣を受け渡していると、いつの間にか近くまで来ていたアンネがこちらに話しかけて来た。


「話は終わったかしら?」


「ん、ああ。まあ、終わったかな」


「なら、この子の話も聞いてあげて」


 そう言って、アンネは、更にその後ろで照れたように微笑むアリシアを指さした。


「あー、その、なんだ。先ほど、湖の精霊殿から、湖に飛び込んでまで私を助けに来てくれたのだと聞いたのだ。ありきたりな言葉で答えるのは逆に失礼になるのかもしれないが、それでも言わせてほしい。私を助けに来てくれて、本当にありがとう」


 それを聞いて、俺とボスは顔を見合わせる。


「まあ、確かに、よっぽど迷惑かけられたな」


「然り、我だけならともかく、主殿も死にかけたのですぞ」


「そ、それは本当に済まないと「だけど」」


 アリシアの言葉を遮って、俺は彼女にたたみかける。


「それでもアリシアが帰ってきてくれて、本当に良かったと思っているよ」


「主殿が死にかけてまで救いたいと思う程度には、そなたの価値はある……少なくとも我は、そう思っておりますぞ」


 俺たちのそんな言葉に、アリシアの目からは涙の粒が零れ落ちた。


「お前たち……まったく!分かりにくいぞ!」


 それでも笑顔の彼女を満足そうに見つめていたアンネは、場の空気を切り替えるかのようにかぶりを振って一点を指さした。


「さぁ!これでみんなそろって、後顧の憂いなく賢者の塔に行けるわね!さあみんな、出発よ!」


 アンネのその一言で、俺たちは再び旅を再開する。目指すは賢者の塔、アンネの故郷である。

 なお、湖の精霊さんことウンディーネさんは、精霊王様に貰った贈り物確認とかでワイワイしているのに疎外感を感じて引っ込んでたり。一応アリシアはお礼のあいさつくらいはしてる。


 精霊郷でのいざこざはこれで終わったので、次回はとうとう賢者の塔に到着します。



おまけ 精霊王様のご褒美、逆の物を選んでいたらどうなっていたか。


アリシア 精霊郷に永住する権利を与えられた。


アンネ  最強の攻撃魔法と最強の防御魔法(精霊王調べ)の魔導書を与えられた。


ボス   能力は据え置きでゴブリンになった。


グォーク 能力は据え置きで人間になった。


 なお、しょぼいように見えるグォークへの祈りですが、結構とんでもない贈り物です。極論、特殊な効果は何もないとはいえ、精霊王の証を得たアリシアよりも精霊王(ひいては全ての精霊)に祈られているってことになるので。効果は目には見えないけど。

 無理にアビリティっぽく書くと「精霊族への好感度+70%」みたいなもん。

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