オークと聖騎士
遅くなりました。本日1話目です。
「……なるほど、夢らしいっちゃ夢らしいな」
巨大ラースベアに拳を振り下ろされた直後、俺は全身に衝撃を感じたかと思うと……地面にめり込んでいた。衝撃はそれほどなく、何というか、地面が急にマシュマロにでもなったかのような感触だった。
「さて、と。それじゃあ、これからどうするか」
アンネに戦闘前、もし致命的なダメージを受け(たように見えるような形で)戦闘から抜けるような事態が発生したらしばらく待機するように、と言われている。アンネには何か策があるようだ。
まあ、このまま埋まっているのは暇だし、もしもの時に助力できないのは困る。丁度地面も柔らかい感触が残っているので、掘り進んでみることにする。
「お、やっぱりすぐに崩れるな。……いや、オークの体なら、実は普通に掘り進めるのも可能かもしれないな」
としばらく地面を掘り、途中で素手じゃなくてスコップでもあればはかどるのでは?と園芸用の長柄のスコップを(持っている自分を想像することで)生み出し、掘り進めた。
そして、少し離れたところに顔を出した俺が見たのは……高笑いをするアリシアの姿だった。
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狂呪熊の攻撃が盾に当たる。狂呪熊の攻撃が鎧に当たる。だが、その攻撃で私が怯むことはもはやなかった。
「その程度の攻撃!オークキングの方が何倍も強かったぞ!」
何度も繰り出される攻撃は、しかしアリシアに毛ほども痛痒を与えなかった。
そして一閃!
「通っ……た!」
それは、毛筋ほどの傷だった。だが、それは明確についた傷。ほんの少しでも攻撃が通るなら!
「そうか、攻撃が、通るじゃないか!」
歓喜の声をあげ、私は狂呪熊を見上げた。
「なら、狂呪熊、どちらが先に根を上げるか、我慢比べと行こうじゃないか!」
私はそう言って、巨大な敵を見据えたのだった。
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アリシアの戦闘を見ていた俺がまず驚いたのが、アリシアが勇敢に立ち向かっていたこと、なのだが、それはすぐに別の驚きで塗りつぶされた。何かといえば、なんとあれほど大きかったラースベアがみるみる内に縮んでいったからだ。流石に目で見てわかる程、というほどには早くはないが、5分もたてば1割程度は縮んでいるのではないのだろうか。
「これは、終わったわね」
いつの間にか横に来ていたアンネが満足そうにため息を吐いた。
「何したんだよアンネ」
アンネの満足そうな顔に、思わず俺が聞くと、アンネはどや顔で説明し始めた。
「アリシアの恩人を、こっちで用意したのよ」
アンネは賢者の塔の出身、それは、賢者の関係者である賢者の弟子たちにも多少の知識や面識(と言っても、遠目で見たくらいのごくごく薄い関係性の相手が多いらしいが)があるため、アリシアがどの弟子に助けられたのかを把握した段階で、賢者の弟子の口調や見た目を似せた存在を夢で作り出したらしい。
薄々感じていたが、アンネはかなり夢の世界での動き方を熟知しているようだ。
で、アンネはその弟子を使ってアリシアを焚き付けたらしい。曰く
「(賢者の弟子である)二人の性格的に、性格そのまま再現したらいい感じに誘導できそうで助かったわ」
だそうだ。
そして、俺たちがそんなことを話し合っている間に、一匹のゴブリンが狂呪熊の頭を殴り倒した。つまるところ夢の世界でゴブリンになっているボスの攻撃がクリーンヒットしたのだ。
「あ、やば、ボス止めてないぞ」
「まあ、いいんじゃない。少なくともアリシアはトラウマ克服してるでしょ」
……確かに、意気揚々と盾で攻撃を受け止めているアリシアは完全に吹っ切れているように見える。
そして、ついにその瞬間が訪れた。ボスが何度も殴りつけたことで、ラースベアが地面に倒れ伏した。
「さあ、これでおしまいだ!」
そう言って、アリシアは剣をラースベアの頭に叩き付けた。今までなら攻撃が有効でもすぐに再生したラースベアだったが、今回はビクリと身体を振るわせて動かなくなった。
「……どうやら、終わったようだな」
俺がアリシアに声をかけると、アリシアは驚きながら振り返った。
「グォーク!無事だったのか!?」
「ここ、夢の中だしな」
「確かにそうだな」
そうして、しばし黙り込んだアリシアは、俺たちと合流したボス、それに俺とアンネを見比べたまま、恥ずかしそうにつぶやいた。
「グォーク、ボス、それに、アンネ。なんというか、すまなかったな。そして、ありがとう」
それを聞いて、俺たちは顔を見合わせて笑い出す。
「な、なんだ、私が礼を言うのがそんなに滑稽か!?」
「いや、そうじゃないが。元通りだな、と思ってな」
そんな俺の言葉に、不満で口をとがらせるアリシアだったが、その表情は少しうれし気だった。
「……アリシア殿のことが解決したのですから、そろそろ元の場所に戻りませぬか?今なら湖に戻りたいと思えば戻れると愚考しますが」
「そうね……確かに、今なら戻ってもいいかもね」
そうしてアンネが同意したが、俺はそこに口を挟んだ。
「いや、ここまで来たんだったら、精霊王に会って行かないか?」
「確かに、精霊王の事、忘れていたわね。思い出したらなんか会いたくなってきたわね。精霊王なんてめったに会えないはずだし」
それを聞いて、アリシアとボスがやれやれ、みたいな顔をしていた。
「全く、貴様らは緊張感がないな。まあいい、私もついて行くさ」
「モチロン、我もついて行きますぞ」
こうして、俺たちは精霊王の元に向かう為に歩き始めたのだった。
(精霊郷編は)もうちょっとだけつづくんじゃ。




