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騎士と賢者の弟子

本日2話目です。

「アリシア、少し話があるんだけど」


 そう言って、アンネはアリシアの前に立った。


「なんだ……私は、もうダメだ、放っておいてくれ」


「……そう、私たちはもう一度狂呪熊に挑むわ。ここが夢の世界だとはいえ、魔物に村を蹂躙されるようなことがあってはならないもの」


「……」


 うなだれるアリシアが、その体を震わせる。


「貴方が自分の無力に酔っているんだったら勝手にすればいいわ。それじゃあね」


 そう言って、アリシアを置いてアンネは俺たちのところに戻ってくる。


「行くわよ。グォーク、ボス」


「……あれでよかったのか?」


「いいのよ。なだめ透かして立ち上がらせるようなことをしても、結局狂呪熊に出会った時に立ち向かえなくなるわ。自分で立ち向かわないと意味ないのよ」


 まあ、確かにその通りだろう。


「さて、仕込みを続けるわよ!」


 そう言って、俺たちはアンネについてラースベアを狩りに行くのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ラースベア討伐に出て一時間ほど、俺は剣を振りながらアンネに問いかけた。


「……これはどういうわけだ、アンネ?」


 俺とボスの近くには何体ものラースベアの死骸が倒れていた。


「簡単なことよ。こいつらはアリシアの知っている狂呪熊じゃないのよ」


 アンネ曰く、この世界は基本的にアリシアの夢が基本となっているが、俺たちも夢を共有している以上、アリシア以外の夢でも反映される。要はアリシアとは全く関係ないところで生み出されたラースベアなら、倒すこともできるのではないかと考えたようだ。


「まぁ、最悪アリシアがこの惨状を目撃した時点で狂呪熊全部復活っていう線も否定しきれないけど……その時はその時ね」


 それはその時で済ませて良いのか、と思わないでもないが、まあ、一糸乱れぬ連携技で襲ってきたりしない限りは何とかなるだろう。見てくれに反して、ラースベアは弱い魔物のようだし。


 そうして、俺たちがラースベアを倒すことしばらく、地面に転がっているラースベアの数が20を超えたあたりで、正面と背後から足音が聞こえてきた。


「アリシア、待ってたわよ」


 アンネがそう言って背後の足音に声をかけるが、俺とボスはそちらを振り向かない。何故なら、目の前にいた魔物が、今までとは全く異なる化け物だったからだ。


「夢の効果……ってことでいいのか?これは、確かに、悪夢とかではよくあるよな。物が異常に大きくなる……みたいなこと」


 そう、それは、天を衝くほどの大きさとなったラースベアの姿だった。

 その巨体に警戒を解けない俺たちに、アリシアは声を投げかけて来る。


「グォーク、ボス。アンネ、何でお前たちは立ち向かえるんだ?私も、私だって人々を救いたい!困っている人を放っては置けない!だけど、だけど怖いんだ!何とかしないとと思って、村を守りたいと思って、ここまで来たけれど手が震えて、剣もまともに持てないんだ!」


 そんな声を聴いて、俺は少しアリシアを見る。これが彼女の夢だからだろうか。巨大なラースベアはこちらを見下ろしたまま動こうとはしていない。まあ、それなら好都合だ。


「アリシア、俺たちが一緒に戦った時の事、覚えてるよな」


「……あぁ」


「俺はさ、オークキングに立ち向かって、攻撃を防いでくれたこと、感謝してるしアリシアはすごい奴だってあの時思ってたんだ」


 それを聞いて、一瞬虚を突かれた顔をしたアリシアは、次の瞬間怒りの表情を浮かべる。


「なら!オークキングを相手にできたんだから、ラースベアでも出来るだろうとでも言いたいのか!」


「まさか」


 そう言って、俺は剣を巨大ラースベアに向ける。


「だからさ、見ててほしいんだよ。俺がすごいと思った、勝てるか分からない相手に、それでも立ち向かって行く姿をさ」


 俺がラースベアに向かって駆けだすと同時、相手もその両手を俺に向かって振り下ろした。俺はその攻撃をすれすれで回避すると、腕に向かって剣を振りかぶった。


 一閃、攻撃は過たずラースベアの腕に当たり、しかしその鋼のような毛に阻まれる。残るはまだ余裕を残したラースベアの呻きのみだ。


 そして、再びの振り下ろし、俺は避けられないと察し、剣を上に掲げ防御の姿勢を取る。

 振り下ろされた前脚は俺を踏み付け、そして……。


~~~~~~~~~

「主殿!」


 焦った声で叫ぶボスの目の前で自らの主人であるグォークがその巨腕に押しつぶされた。


「あ、あああああああ……」


 駆けだすボスの後ろで、少女がうなだれ、崩れ落ちる。


「いやだ、わたしのせいだ……わたしが、わたし、は……わたしには、無理だ……ファンレイ様……テュフラ様どうにか、助けてください。どうか……」


 アリシアがそう言うとほぼ同時、いつの間にか目の前に二人の女性が現れていた。

 はっと顔を上げたアリシアの目には、あの、憧れていた二人の姿があった。


「あ、ああ、どうか、どうか、お願いします。グォークとボスを、助けて……」


 その言葉に、しかし、アリシアの期待した返事は帰ってこなかった。


「……めんどい」


「うむ、一応来てみたが、これほどの冒険者がいるのなら私たちはもしもに備えておくべきだろう」


「……え?」


 何を言われたのかわからず、茫然としたアリシアは、しかし意味を理解すると、顔を蒼くしながら更に縋り付く。


「まって、待ってくれ!あんな、あんな奴を相手なんて……私には……私には」


 それを聞いて、二人は不可解な顔をする。


「……謙遜?」


「ああ、雰囲気だけで分かるぞ。まあ、私達よりは弱いだろうが、狂呪熊とオークを倒すくらいは簡単だろう。……まあ、戦闘を譲るというのなら、殲滅するのみだが」


 気遣うように言ったその言葉に、アリシアは思わず顔を上げ、狂呪熊の方へと視線を向けていた。

 私が狂呪熊を倒さなければ、グォークとボスも討伐される?


 それは……いやだ。


 アリシアは盾を持ち、フラフラと前へ進む。知人……いや、友人を守りたい。だが、できるだろうか、私に。


 そう考えていたアリシアに、一つの声が聞こえて来た。


「頑張るのです!お姉ちゃん!」


 思わずそちらを向くと、そこには小さな鼠のような生き物がいた。


「僕を助けてくれたお姉ちゃんなら、きっと大丈夫です!」


 それは、湖でおぼれる前に助けた小さな精霊だった。その声に、気が緩み笑みが浮かぶが、その頭上に巨大な影ができる。


「あ!」


「危ない!」


 アリシアは精霊を庇い、盾を天高く掲げる。衝撃は、()()


「あ、あはは、はははははははははははははははは!!!!」


 怖かった、恐ろしかった。だけれど、分かった。私は騎士だ。弱い者を守りたいのだ。だから、こんなところで立ち止まっていられない!


「狂呪熊。待たせたな。私を害したいならいくらでも攻撃するがいい!私はもう諦めることはない!」


 もう、震る少女は存在しない。剣と盾を携えた聖騎士が一人いるのみであった。



たくさん誤字報告いただきありがとうございます。

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