騎士と過去のトラウマ
本日2話投稿します。
「済まないな、グォーク殿、ボス殿。心配をかけてしまった」
そう言って、アリシアは俺たちに向き合った。が、すぐに顔をラースベアに向ける。
「……こうして話している場合ではなかったな。……ラース、ベア」
そう言って、アリシアが放った剣は違いなく喉に突き刺さり、そしてラースベアは倒れることなく再生した。そして、威嚇するラースベアに、アリシアは二歩、三歩と後ずさり、すぐ後に膝を屈した。
「……私には、むりだ……ラースベアに勝てる想像ができない」
そう言って、アリシアは俯き、剣を取り落す。
「アリシア!まだ戦闘中だぞ!」
そう叱責し、振り返った俺は、先ほどまでのアリシアとは裏腹に、がたがたと震える少女の姿を見てしまった。思い返してみれば、先ほどまでも、なんとなく顔色が悪かったような気もする。
「やはり、私には無理なんだ……。いやだ、死にたくない!助けて……」
「……ボス!撤退するぞ!」
「承知!」
そうして、俺がアリシアを担ぎ、一旦離脱することを選択した。ラースベアはそこそこの移動速度だったが、オークの足の速さには敵わなかったようだ。無事離脱が完了した。
少し開けたところに出たので休憩をするついでにアリシアを問いただそうとすると、俺たちが来たのとは反対の茂みが揺れ、そこから見慣れた顔が見えた。
「アンネ!無事だったか?」
「なんだか久しぶりねグォーク、ボス……それに、アリシア」
そう言って、アンネは手元に一瞬にして現れた飲み物……アレは紅茶だろうか?とにかくそれをアリシアに手渡し、問いかけた。
「端的に聞くわ。アリシア、これはあなたの過去ね」
紅茶を受け取ったアリシアは、一口紅茶に口を付けた後、震える声でぽつぽつと話し始めた。
簡単に纏めれば、この世界は彼女が騎士を本格的に目指すきっかけになった出来事だという。
「私は……彼女たちに助けられて、それで、騎士を目指したんだ。剣を握ることは出来る。立ち向かうこともできる。だけど、あの人たちのように、ラースベアを倒せるとは、どうしても思えないんだ」
そう言って、顔を覆う彼女に、俺たちは言葉も話せず顔を見合わせる。
「これは……トラウマ、に近い夢なのか?」
「とはいえ、解決策は明らかよ。過去に彼女を助けた二人、賢者の弟子のテュフラとファンレイを連れて来れれば簡単に解決できるはずよ」
それを聞いて、ボスは首を捻って呟いた。
「主殿、我の認識違いだとしたら申し訳ないのですが、もはやラースベアを倒す必要はないのでは?アリシア殿は記憶を取り戻したことですし、夢の内容など放っておいて、精霊王に会えば……いえ、むしろ、元の場所に戻りたいと強く願えば夢から覚めるというのなら、精霊王など放って帰りたいと思えばそれでよいのでは?」
……確かに、意識がはっきりしているアリシアがこちらにいる以上、はっきり言ってさっさと退避してしまえばいいと言えるのではないだろうか。
「それは駄目よ」
そう思っていたのだが、アンネはそれを真っ向から否定した。そして、アリシアに聞こえないようにか、声を潜めて俺たちに話しかけた。
「理由は色々あるけれど、一番は何でここに私達が来たか、ってことよ。精霊王は分からないけど、この状況は、夢の中とはいえ、アリシアが望んでここに来たのよ」
「……確かに、下手をすればまたアリシアが逸れる、って可能性もあるな。ここで問題に対して何かしらの解決をしておきたいのも確かだ」
ただ、そうなると……。
「問題は、アリシア殿が何を望んでいるのか、ですな」
そう、まさにそこなのだ。アリシアが急にいなくなるのは……よくはないが、分からないでもない。彼女は精霊に何か思い入れがあるようだし、何らかの拍子に精霊関係でなにかしたいこと、行きたい場所を想像してしまったのかもしれないと想像できる。
湖に落ちたのも、問題と言えば問題だが、理由としてははっきりしている。あのハムスターに似た妖精を救うためだ。
だが、夢の世界がこうなっているのは……腑に落ちない。望みの場所に着くというのなら、何故アリシアはあれほどに震えて縮こまっているのか。
「私が考えられるとすれば、3つよ」
そう言って、アンネは指を三本立てた。
「一つ目、アリシアは子どもに戻りたかった。ただ守られていればいい、でも偶に冒険をして、大人たちに心配されつつも、のびのびと育つような、そんな子供になりたかった」
確かに、幼い頃から騎士に憧れていたとするならば、そして、実際の騎士としての(と言っても彼女は誰かに仕えているわけではないが)仕事に不満を感じているとすれば、幼い頃の、何も知らず夢を追っていたころに戻りたいと思うものかもしれない。
「二つ目、アリシアは恩人に会いたかった。自分を助けてくれた恩人に再び会って、その雄姿を思い返したかった」
可能性としてはあるだろう。恐怖で震える姿も、この後劇的に助けられることへの伏線だというのなら、あり得ないとは言えない。
「3つ目、アリシアは乗り越えたかった。自分が敵わなかった敵に、再び出会い、今度こそ自分の強さを証明したかった」
「……選べるとするなら、2つ目であって欲しいな」
俺の問いに、アンネが苦笑いをする。考えを3つ述べたアンネだが、恐らく彼女は既にどれが一番可能性が高いか見当をつけている。
もし、ただ子供に戻りたいなら、ラースベアなど不要だ。仮に敵役が必要だとしても、トラウマとなっているラースベアでなく、ゴブリンなどで事足りる。
もしも恩人に会いたいのなら、そのまま二人が出てきてもいいはずだ。仮にラースベア戦での雄姿を再び見たいのだとしても、それならそれで、アリシアの剣が倒すに至らず、彼女が諦めた段階で登場してもいいはずだ。
ならば、答えは1つしかない。
何故ラースベアだったのか、それは因縁の相手だったからに他ならない。何故倒せなかったのか、それはまだ彼女が立ち向かえていないから。何故助けが来なかったのか、それは自分で解決しないと意味がないから。
まあ、ここまで考えても全くの見当違いの可能性もあるが……。ただ、俺たちとはぐれた時の動機は兎も角、夢の世界に入り込んだ時の理由は明確な物があるのだろう。
「と、なると、どうするべきか、アリシアはあの状態だぞ」
「それなら、憧れの人に認められるのがいいんじゃない?だから、呼びましょうよ。賢者の弟子を」
そう言ってアリシアはにやりと笑った。




