ボスの進化
とうとうボスが……!
オークキングと対峙するグォーク達。アンネが来たことで4対1、だが、それでも状況は好転しない。
「グラビティ!駄目!押し切られる!」
「くっ!こっちだオークキング!」
「ダマレ!動クナ、グォーク!」
そうしてアンネとグォークに注意が行っている隙に、ボスがアリシアを縛っている縄をほどこうとするが……。
「ソウはサセヌ!」
目の前のオークキングに一瞬にして詰められ、ボスは防御に専念せざるを得なくなる。
しかして一閃。
小さな、オークキングに痛手を与えるどころか、ただのオークすらこゆるぎもしないだろう風の刃が、オークキングとボスの横を通り過ぎて行き、アリシアを縛っていたロープを断ち切った。
「はぁ……はぁ、やってやったわよ!妖精種なめんじゃないわ!」
そう、それはアンネが重力を5倍にしながらも、別の魔法を行使した結果だった。こうして戦力は正式に4対1。その中の二人をいつでも棒立ちにでき、残りの二人がいくら攻撃を仕掛けようとダメージを与えることすら難しいことを除けば、やっとスタート地点に立った、という所だ。
だが、それはオークキングも同じだった。オークキングは考えていた。二体のオークは殺す。それは確実だ。だが、メス共二人は殺す必要はない。ただ見せつけてやればいい。自分の信じた物が壊され、殺される様を、そうすれば、諦める。
その考えは、持ち前の短気さと、本人たちの抵抗によって、あっさりと覆った。
「ググググググググググググ、ハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
突然の哄笑に警戒した全員を見渡し、オークキングは笑いを引っ込めた。
「コロス」
その次の瞬間、オークキングはこれまでにないスピードでアンネに向かった。その目は憎悪を宿していて、放った言葉の通り、情け容赦なく引き潰すつもりであることが容易に想像できた。
勢いよく走り出すオークキングを止めるため、飛び出したグォークに、オークキングは再び命令を告げる。
「邪魔するな!」
大声で叫んだそれは、確かにグォークの行動を縛り……そして彼の体は慣性のままに放り出され、オークキングの足元へと転がった。
勢いよく走っていたオークキングに避けられるはずもなく、また、避ける気すらないオークキングはグォークを蹴飛ばし、自分もバランスを崩して転倒する。
だが、構うものか。要するにあのクソ忌々しい羽虫を引き潰せばよいのだ。そう考えたその一瞬。グォークがひねり出したこの一瞬で、アンネは既に次の手を打っていた。
顔を上げた瞬間に炸裂する何か、それは、小さな袋だった。そして、それはオークキングの視界を冒し、目と鼻を機能不全に陥らせた。
慌てて目をこすり、クシャミをするオークキングに、グォークは挑発的に告げる。
「ざまぁないな。オークの王様。それとも、王って名乗っているだけのただのオークなのか?妖精にも、同族にもいいようにされるオークの王様よ」
「ナ゛メ゛ル゛ナ゛ァ!!!!!」
アンネに攻撃が行ってはまずい、と挑発したグォークだったが、結果的にこれは悪手だったとしか言いようがなかった。
「オーク共、ソコをウゴグナ!この裏切り者は、オレがコロス!!」
「なっ!?」
「グッ!」
確かに個人名は言っていない。しかしオークもボスもオークである以上、種族全体に命令されたことに関しては、強制力が発生してしまう。
かくして、棒立ちになったグォークと、目と鼻が上手く効かないオークキングが対峙することになった。
まずは一撃。巨体なはずのグォークが、まるでぼろ雑巾のように吹き飛ばされる。
そこに突撃するオークキング。しかし、今度はその一撃が届く直前、小さな盾が差し込まれ、その技量でもってオークキングの拳を地面に打ち込ませる。
「ぎ、貴様ァ!?」
それを成し遂げた人物であるアリシアは、震える声でグォークに伝える。
「わ、私は貴様たちを信頼した、わけでは、ない!だが、ここを生き延びるため、この化け物を耐えるには、貴様らの方が、信用できる」
そう言い切り、再び彼女は小さな盾、通常バックラ―などと言われるそれを構え、再びオークキングに対面する。
「わ、私とてオーガ級を冠する冒険者!討ち果たすのは叶わぬとも、この守り、やすやすと突破できると思うな!」
「ジャマを、スルナ!!貴様ラ!皆シネ!シネ!コロス!コロス!ジャマする者はコロス!ジャマをスルナ!」
オークキングは、その力や能力から、想定外のことに出会ったことが無かったのだろう。もはや理性さえ半分吹き飛んだようなその怪物は、加減も理性も捨て去って、アリシアを、そしてその後ろにいるグォークを攻撃し続けた。
そして、それと同時にグォーク達4人を呪うように叫びつつ攻撃を加えてきたため、シネ、邪魔するなと言った言葉が呟かれるたびに、グォークとボスは抵抗に全ての意識を割くよりほかなかった。
アンネの魔法は殆ど意味をなさず、アリシアも防御することに手一杯、有効打を与えられるボスとグォークは命令のせいで不本意な停滞を強制される。
そんな戦況に、ボスはくやしさをかみしめていた。自分が強ければ、自分が戦えれば、敬愛する主人が、尊敬するグォークが、これほどのことに巻き込まれることなどなかった。
そんな後悔をしていても、時間は止まってくれない。
それは、むしろ頑張ったと言えるだろう。確かに冒険者としてのランクとしてはオーガ級。とはいえ女性の細腕、そのうえ腕力だけならオーガも超えると言われるオークの、更に上位互換の攻撃を耐え続ける。そんな無茶はそうそう長く続くはずもない。
盾を保持する力すら失いかろうじて拳と自分の体の間に盾を置くのみの構えとも呼べないものごと、アリシアは拳の衝撃を受けて吹き飛ばされる。
木に叩き付けられた彼女は吐血し、そして動かなくなる。幸い体が浅く上下しているためまだ生存していることは分かるが、この戦闘ではもはや戦力外だ。
そして、邪魔者が消え去れば、あとは本命だ。オークキングは自分の命令で硬直しているグォークに、拳を振りかぶる。
何度も、何度も打撃音が響き、そのたびに苦しそうな呻きが漏れ溢れた。
それを見ることしかできないボスは、謝罪し、祈り、怒り、それでも決して彼を見捨てることだけは考えなかった。彼を助けたい。オークキングを倒したい。そして、彼と、グォークと共に歩みたい。
かくして、その願いは……叶った。
ボスの身体が光を纏い、そして膨張する。それはつまるところ、進化の光だった。
まばゆい発光に、今まで理性を失っていたと言ってもいいオークキングさえも、何事かと注視した。
そして、その光が消えたその時、ボスは、もはやただのオークではなかった。
体は二割ほど体高が上がり、纏う雰囲気が変わった。顔面も、全体的にはオーク特有の極端に低く潰れた鼻、異常に伸びた耳、割けた口といった特徴はありつつも、人間に近づいたように見える。
そして……。
「我は、主、グォークのそばにある者。我、グォークの剣にして盾。故に、オークキング!主に仇なす貴様は、我がお相手しよう。覚悟せよ!」
そう人類語で語ったボスは、その言葉通り、オークキングに向かって殴りかかっていったのだった。
アリシアのイメージはくっ殺女騎士に冒険者らしい擦れた感情を足した感じ。本人の宣言通りオーク級の一つ上なので弱くはないのですが、盾職なので殲滅力はない冒険者です。要はタンク職です。
アベル君もオーク級の一つ上のオーガ級、逆に攻撃力はあるけど防御力にやや難ありな冒険者です。




