オークナイト ボス
本日2話目です。
ボスは拳で襲い来るオークキングに対し、助走をつけたぶちかましを敢行する。
アンネの火魔法を煩わしそうに手でかき消したオークキングは、しかし、激高しながらも言葉を続けている。
「シネ!シネ!ジャマをスルナ!オレニチカヅクナ!」
そんな、オークであれば逃れられないはずの言葉に、しかしボスは止まらない。そのままぶちかましでオークキングをグォークから突き放したボスは、戦闘開始時点でオークキングの手から落ちた、敵の剣を拾い握りしめた。
「さぁ、最上位種よ。我が相手だ!」
そんな一言から、オークキングとの戦いは、最終局面を迎えるのだった。
「フザケルナ!フザケルナ!フザケルナ、シネシネシネ!ウゴクナ!チカヅクナ!」
「……笑止!我が主でもないくせに、我に命令できると思うな!」
その一言と共に、オークは真正面から大剣を振り下ろす。それを慌てて避けたオークキングは、しかし怒りを込めて突進する。
激しく競り合う二体のオーク。しかし命令が効かないことに気付いたオークキングは、圧倒的な力でボスを攻撃し始める。
オークは上位種であってもそれほど身体能力が強化されることはないと言われている。なぜなら、肉体的な強化は一度も進化していないオークであっても、ある程度強化済みの状態であるからだ。それゆえ、最上位と呼ばれるオークキングであっても、その身体性能は、グォークの倍、といった程度に収まっていた。
そう、倍である。ボスが進化してその差は縮まったとはいえ、与えるダメージも、耐えられる攻撃の量も、オークキングに軍配が上がる。それが戦術レベルならばわずかながらに理解し、運用できる存在であるというなら、その結果が先延ばしにこそなれ、敗北という結果に変わりない。
だが、その先送りの結果、できたこともあった。アンネとグォークが寄り添って、何かを呟いている。
「我が主よ。どうか、逃げてほしい。我ではこいつを抑えるのが限界のようだ」
そうつぶやいたボスに、返ってきたのは念話だった。
「rarara♪~fuwaritonndehanawoasobukaze~」
アンネの、全力全開で全方位にまき散らされた念話は、ボスもグォークも、そしてオークキング自身の頭にも、大音量で鳴り響いた。
そして、それを合図に、再び斧を持ったグォークがオークキングに立ち向かう。ボスに対処しているその背中は無防備。
「トマレ!トマレ!」
慌てて声を出したオークキングに、しかしグォークは言い放つ。
「何言ってるか、分かんねーよ!」
そして、一閃、グォークが狙ったのは、心臓……ではなく、まして脳……でもなかった。大きく振りかぶった斧は、半回転の後、オークキングの喉に突き刺さった。
「これで、声も出せねえだろ?」
喉を抑えるオークキングに、二人は勝利を確信し、アンネも念話を止め……。
「後ろっ……ゲホっ!」
念話騒音が止まったことで聞こえた、苦しみながらも発せられたアリシアの声で、とっさに身を引いた。
直後、一閃、人が扱うとは思えぬ戦斧が、先ほどまでグォークの居た場所を撫でた。
茫然とする俺たちに、その男はぼやくように声をこぼす。
「ったく、もうちょっとで敵を潰せたってのによ。……それより、どういう了見だ?アリシア」
それは、信じられない、いや、信じたくない光景だった。集落の南、人間たちの町がある方から、敵意を持った者達が次々と臨戦態勢で現れたのだ。出てきたのは10名。人間が5人、耳のとがったエルフが4名そして……。
「……ふう、老体に無茶をさせるでないわ……」
それは、木だった。身の丈は6mを超えるだろう。その木が言葉をしゃべり、動き回っている。
そして、その木が一言。
「とりあえず、捕らえるぞ。”世界樹の蔓”」
その一瞬で、5つの蔓が伸び、それぞれがグォーク、ボス、アンネ、アリシア、そしてオークキングに迫った。
慌てて避けるも、その蔓は執拗に迫っていき、逃れることは出来なかった。
「さすが、暫定シーサーペント級のジュモンジ老だな」
先の戦斧の男が茶化すと、ジュモンジと呼ばれた老木は顰め面一つを残して捉えた者達に向き直った。
「さて、オークが3に妖精が1、それとアリシアじゃったな。ふぅーむ。どうしたものか」
「殺せばいいんだよ!こいつらがオークキングの一派なのは間違いないだろ!」
「アリシアさんは錯乱しているんです!もしかしたら、エサの取り合いか何かでオークキングと争いになったオークが自分を助けてくれたと勘違いししているのかもしれません!」
口々にそんな風に言う冒険者たちを抑え、ジュモンジは目の前にいて、なお抵抗する様子を見せないグォークに視線を向けた。
「して、そこのオークよ、そなたはどう心得るか?」
「おいおい、爺さん。耄碌したのか?オークが人の言葉をしゃべるかよ」
「俺たちは、オークキングとは無関係だ。そこの小さい方のオークと、妖精も俺の仲間だ」
冒険者たちが、オークがしゃべった!とざわつく中、ジュモンジは更に言葉を続ける。
「さて、ではそれを儂らに知らしめる証拠はあるかの?」
「……あっちに転がっているオークの死体を見て信じてもらえなければ、俺たちに証拠は出せない」
「そうか、ならば……」
「この場は、私に任せてくれないかしら」
ジュモンジがこの場での結論を述べようとした直後、涼やかな声が、その場にいる全員の耳朶を打った。
その声にことさらに反応したのは二人。即ち、彼女を呼びに行ったアンネと、彼女に恋慕したジュモンジであった。
☆オークナイト
オークが、自らが一生を誓うと思えるような主を見つけた際に進化できる特殊進化個体。当然そんなオークがそうそう出るわけもなく、進化できた個体は片手の指で足りる程度だと推察される。
また、主に一生仕えたい、でなく主に役立つための力を得たい、が基本となるため今回のボスのように、進化した直後に主をかばって殉死というパターンで死ぬことが殆どだと思われる。
特徴としては、精神支配や命令系統のスキルの影響を、主人のもの以外受け付けない(ただし、そもそもオークという種族自体が状態異常魔法に無効と言っていい耐性を持つため、基本的にはオーク系統の命令権にのみ効果がある)ことと、主人と定めたものの習得している言語を習得できるという特徴がある。
☆ジュモンジ
原初の苗、と呼ばれるモンスターが非常に長い年月を経てエントとなり、更に年月を経て進化した存在。あまりにも長い年月生きているため、周りのエルフたちでさえ皆孫と祖父のような年齢差になっている。一応リリスウェルナよりも年上だが、名を上げ始めたのはリリスウェルナの方が先。戦闘スタイルは純然たる魔法職だが、植物系種族特有の外皮と手数の多さから、物理攻撃もそこそこ強い。また、実はジュモンジという植物族の冒険者は各地に散っていたりする。
本人はシーサーペント級だが、仲間のハイエルフたちと結成している”世界樹の苗”としてのパーティランクはヘルシックル級である。ただ、強さがそれくらい、というよりは依頼をあんまり受けないでいたけど、長年やってたからそれくらいのランクになってしまった、といった方が正しい。つまるところ強さ的にはヘルシックル級よりも少し上くらいの実力である。




