ボスと過去の影
今回もボス視点です。
ボスが木々の隙間を抜けて一週間ほど。たどり着いた場所は彼が過去集落としていた場所、彼らの王たるオークキングから〈王のねぐら〉と名付けられたそこは、以前逃げ出した時と変わらず……いや、それ以上に繁栄していた。絶えず雌の鳴き声が響き渡り、据えた匂いがここまでたどり着く。
そして、鞭打たれ、その旺盛な再生能力すらも間に合わずに頽れるオークの姿。
「……カワラナイ カ」
オークには身体能力の差はない。だが、知能の差は……実はある。そして、文化的な生活に触れた場合、オークにも学習する可能性がある。それがオークキングの何らかの力による特性なのか、それともオークが元から持つ特徴なのかは分からない。だがこの集落で過ごす中で、ボスはそれを実感していた。
そして、知能の低いオークは、王に気に入られた知能の高いオークに使役され、酷使され、最後には捨てられる。
仲間を捨て駒にするその考え方に反発したボスは、当時この考え方に反感を持ち逃げ出したのだ。
その時は自分がどうして逃げ出したのかも分からず、只々いら立ちを持って群れを離れただけだったが、今ならわかる。
ボスはオークキングの考え方に疑問を持っていたのだ。仲間を捨て駒にする精神に、仲間を意図的にすり潰す後味の悪さに、そして、仲間を仲間とも思っていないオークキング自身に。
だが、今の自分にはわかる。そして、それと同時にこうも思っている。
もしもこの集落を全滅させなければグォークを助けられないなら、そうするのが正しいのだ。と。
決意を固めたボスの目の前に、鎧を着た四体のオークの姿が映る。その内3体は 見覚えのある者達だった。
「メスガリ ”ドレーショ”、シュリョウ ”カリュード”、ニクカベ ”デコイ”」
それは、オークキングが決めた四つの隊の指導者たちであり、オークを殺したリーダーの素質のあるオークであった。そして、もっと言えばその姿はボスよりも一回り大きい。彼らは進化をした進化個体でもあったのだ。
3体のオークは、ボスを見ると、にやりと笑った後に、嘲るようにボスを見つめる。
「オウに見放サレタ、愚かな、オーク」
「ココまで来た、オロカモノ」
「ニクカベ二なら、マタ群れ二入レテモイイゾ」
そう言ってゲラゲラと笑う三人をしり目に、ボスは体を脱力させながらも最後の一体を狙う。手に触れるのはオークが扱うにしては小さな、しかしよく研がれている短槍だ。
「オレハオマエニ感謝シテイルゾ。センダイ」
そう言ってゲラゲラ笑っているそいつに向かって、ボスは短槍を突き出した。狙いは右目、勢いよく突き出されたそれは眼球を抉りとり、その先の脳を破壊する。
「”ヘイチョー”!!」
「貴様!ナニヲ!?」
ボスはその言葉に意を解さず、更に肉壁隊のデコイを狙う。デコイは驚いた顔をしつつ、しかしにやりと笑って受け止める姿勢になる。
「オマエハ、馬鹿ダ!一番硬イ俺二戦イヲ挑ムトハ!?」
しかし、受け止める姿勢のデコイの横を、ボスがすり抜ける。茫然と後ろを見たデコイが見たのは、”王のねぐら”付近に生えた、巨大な木々の一本が倒れてくる様子だった。
「!?!?!?」
驚き硬直するデコイの上に、大質量が叩き付けられる。しかし、そこは体力自慢のオーク、しかも、その中でも体力の多さを誇るデコイにとって、それは足止め以上の効果は得られない。
「ナメルナァ!?!!!!」
爆発するようにはじけ飛んだ木から飛び出したデコイは、目の前で槍を振りかぶっているボスに驚愕し、一瞬動きが硬直する。それは致命的な隙だった。これほどの隙ならば、先ほど脳を破壊したヘイチョーのように、急所に差し込む攻撃でオークさえも殺すことができる。
はずだった。
ボスの一撃は、甲高い音を立てて、二振りの剣に防がれる。
それはデコイでなく、日々メスを狩る雌狩のドレーショの双剣だった。
「油断ガスギルぞ。デコイ」
再び驚愕するデコイを呆れたように一瞬見つめ、ドレーショは再びボスに目を向ける。
「オマエタチ オロカ ダナ」
「何?」
ボスは、今まで見たことのないような顔で、周りのオーク達を嘲った。
「オレハ キング二 ヨバレタ オマエタチ タヨリ ナラナイカラ ムラステタ オレ サガシタ! オマエタチ ヨニンアワセテ オレイカ! シンカ シテテ オレイカ!」
そう言って笑い始めたボスに、彼らの頭は沸騰する。キングに知性を買われたからと言って、進化して脳の容量がわずかながらに上がったからと言って、所詮はオーク。煽り耐性など無に等しい。それ故に、その結果は必然だった。
「コロス!」
「シネェ!」
「ザッケンナ!」
三体のオークは一斉にボスに向かっていく。それを直前まで引き付けた後、避けたボスは、今度は翻って”王のねぐら”の中へと駆け込んでいく。
遅ればせながら走ってきた3体のオークは”王のねぐら”の前で一瞬ボスを見失った。どうやら隠れたらしい。しかし、それははっきり言って時間稼ぎ以外の意味はない。オークは優れた嗅覚を持つ魔物だ。最初から出会ったことがない相手ならともかく、一度出会い、匂いを覚えているオークから隠れて逃れることなど無謀の一言だ。
「ワカッタ、コの道を……アレは、ナンダ?」
嗅覚で調査をしていたカリュードが差した方向から、大量のオークが走って来ていた。しかも、全員が顔に怒りを浮かべており、こちらへ近づいてきているようだ。
「!?ナンダ!」
「ガグィーグ!ガグィーグ!(殺せ!殺せ!)」
今はまだ対応できるが、今にそれ以上のオークがこちらに向かってくるだろうその光景に、3体のオークはなぜそんなことになったのかわからなかった。
だが、その結果は明白だ。なだれ込むようにやってきたオークが、3体を取り囲み、武器を振り上げ攻撃を仕掛けて来た。
「ヤメロ!ヤメルンダ!」
3体の上位オークが声をかけることで、一部のオークは静まった。だが、その直後、いきり立ったオークの流れ弾があたり、結果、攻撃する相手が変わっただけで殺し合いは終わらない。
当然流れ弾は隊長格のオークにも容赦なく降りかかる。
ただでさえこんな事態に慣れていないオーク達、そして、大したダメージではないと言っても、何度も何度も攻撃を加えられるいら立ち。仮に攻撃が通らないとは言っても、大量のオークに阻まれ、標的を探すことのできないいら立ち。それらすべてが混ざり合う中で、彼らの我慢の限界など、すぐ来るのは明らかだった。
「グルァァァァァ!」
始めにキレたのは狩猟隊のカリュードだった。そして、彼はこう考えた。目の前にいる弱い雑魚どもを皆殺しにした後にゆっくりと標的を探せばいいと。
しかし、そんな味方を撫で斬りにしているのを見たデコイが感情を爆発させる。
「キ゚ザマ!オレノゲボクヲ殺シタナ!」
デコイの肉壁隊は数が最も戦力に左右される部隊であり、さらに言えば上位オークでありながら落ちこぼれの隊である肉壁隊に配属されているデコイにとって、より多いオークを従えているというのが他の3体のオーク隊長と比較した場合の唯一優越感を感じられる場所だった。
その優位を、こともあろうに同じ隊長格のカリュードに潰されそうになったことで、デコイはカリュードに狙いを定めてしまった。
そして、唯一その対立を止めようとしたドレーショは、二人の間に割って入ろうとした瞬間、背後からの投石でバランスを崩して転倒してしまう。
当然迫るカリュードとデコイの足、背を思い切り踏みつけられ、蹴とばされたドレーショに、もはや理性など一かけらも残っていなかった。
「ギザマラ!ゴロズ!」
もはや、理性的な3体のオークの姿はなく、むき出しの殺意だけをその身に宿して、3体を中心にオークの身内同士の殺し合いは続いたのだった。
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一仕事終えたボスは、ため息を吐いて座り込んだ。ボスがしたことは単純。加減した投石で集落のオークを挑発し、投げる位地を工夫しておくことで、あの3体の隊長格が攻撃を加えたのだと勘違いさせただけだ。
その後、更に普通のオークを追加したり、二人を止めようとしたドレーショの出鼻をくじいたりと、いろいろやったものの、要は飽和攻撃である。
「モシ グォーク イテモ チョウハツ ノラナイ シヌノ ココノ オークダケ」
そして数分後、最後に残ったカリュードの前に、ボスは姿を現した。カリュードは既に息も絶え絶えで、体中にすさまじい数の傷を負っていた。
「シネ」
その一言と共に振り下ろされた短槍は、見事にカリュードの首を断ち切り、その場には大量のオークの死体が残された。
これで、もし仮にグォークがオークキングの支配下にあったとしても、戦いが始まるまでにかなりの時間が稼げるはずだ。そして、その時間は、アンネの策を成就させるための時間稼ぎとなるだろう。
考えて、考えて、そして思いついた作戦が上手く遂行できたことに安堵の息を吐いたボスは、しかしその油断から二つの足音を聞き逃してしまった。
「……これはどういうことだ!コノエ!」
ボスは思わずそちらを凝視する。コノエ。ボスをそう呼ぶのは、ボスを人類語でそう呼ぶのは、たった一人。
「オークキング…… ソレ 二 ……」
”王のねぐら”を半壊させたボスの目の前に現れたのは、その主であるオークキング、そして、自分の尊敬してやまない新たなる主人であるはずの、グォークの姿だった。
ボス「……」投石!
モブオーク「!?石投げたのどいつだ!」
モブオーク2「あそこにリーダーたちがいるぞ!」
モブオーク3「ザッケンナよ!おとなしく従ってればつけあがりやがって!!」
なまじ賢くなった分、挑発に乗りやすくなるオーク達であった。
さすがに弓やら魔法やらなら明らかに違うってわかるので、〈石〉で〈オーク並〉の攻撃を〈見つからないように〉放たないといけない、という制限があるので、そこまで活用はできません、が、スリングなどを使ってオーク集落にちょっかいを掛ければ全滅する確率は意外と高かったり。
※おまけ 各オーク達について
オークの名前はオークキングの命名。進化により言語を得た個体であるため、それに伴って流れ込んできた知識から該当するものをそのまま名前に付けた。
ドレ―ショ ハイオークソルジャー 語源 奴隷商
上位のオークが更に戦闘に特化した種族。本来はハイオークソルジャーであっても言語を得ることは出来ないが、オークキングの影響で言語を操れるようになった。オーク集落では女性の捕縛、管理等を任されている。
カリュード オークジェネラル 語源 狩人
オークの統率個体。オークキングやオークロードが存在する状態で、オークソルジャー等が進化すると稀にオークジェネラルになる。総合的に強いためオークキングの影響がなくとも、会話ができる程度には賢い。ただし、ジェネラルと付く他の種族の進化と比べればその能力は控えめであり、他のオーク系上位種と比べても差異は知能面がやや優れていること、他の能力も少し優っている程度である。オーク集落では、食料の調達、外的の駆除を主に担当していた。当然狩りの時に雌を見つければ捕縛はしている。
デコイ ギガントオーク 語源 デコイ(囮)
オークがその耐久力に極振りした個体。体は上位オークと比べても1.2倍程度大きいが、他2体に比べれば進化の程度としては下位に属する。ただし、耐久値としては目を見張るものがあり、ただの雑魚だと思って相手をすれば大きな痛手を負うことになるのは間違いない。当然だが、オークキングの影響下でなければ、言葉をしゃべることはない種族である。オーク集落では、有象無象のオークの管理と、オーク集落の防衛を担っている。
ヘイチョ― オーク 語源 兵長
実はただのがたいの良い賢いオーク。というのも、ボスが失踪してからの後釜のため、経験値が足りないため。特に、オークの大量発生が発生後誕生した個体のため、近隣の魔物が居なくなりつつあるのも関係する。要は数合わせに近いが、オークの集落一番の天才であることも確かである。オークの集落では、基本的に鍛錬と、オークキングを援助するために常に控えることが責務とされる。
ボス(コノエ) オーク亜種 語源 近衛
以前オークキングの傘下に入っていたオーク統率個体の一人。その時はまだ全員がオークであったため、会話などは無かった。基本的にはヘイチョ―と同じ仕事をしていたが、突如失踪した。
グォーク(サイショ―) オーク 語源 宰相
もちろん主人公。コノエ以上に賢いということから宰相と呼ばれている。自ら率先してオークキングの意志を察して動くことから、一番のお気に入りになっている。




