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ボスと危機感

本日2話目です。

 ボスは集落から逃げ出した後、一日ほど強制力に抗い、何とか向かった新集落で最愛の恋人の肩をこれでもかというほどに揺さぶっていた。


「グォーク シュウラク イッタ ホントウカ!?」


 ボスの言葉に、ゴブリナは戸惑ったように頷いた。ボスとゴブリナ、満足に会話すらできない両者ではあるが、ゴブリナの知性とボスの努力、それに二人の愛が、何とか簡単な意志を伝えることくらいは可能になっていた。


「ネエサン ハ?」


 その言葉に、ゴブリナは森の奥を指さして近くのゴブリンを指さした。それをゴブリンと共に森の奥へ行ったと判断したボスは、アンネへ助力を乞うことを諦めた。

 そして、少し考えた後、最近やっと覚えた文字を使って、木板に跡をつけていく。


”シュウラク二 マエノボスノ ナカマガ キタ マエノボス トテモキケン ナ ヤツ。グォークガアブナイ オレハ マエノボスノ シュウラク イク バショハ トレントノモリ ノサキ”


 そんな文章と共に、二つの集落とトレントの森の位地、それに特徴的な地形をいくつか示した簡易的な地図を描いていく。


 ゴブリナに人間の言葉は分からない。だが、その文面を書くボスの真剣な表情から、彼が向おうとしているところが危険な場所だということを何となく察した。それは、自分が命令して、雄々しくイヴィルゴートを引き付けたゴブリンの、最後までオークに挑んだゴブリンの、その他群れのために命を賭した数々の仲間と同じ顔だったから。


 だから、ゴブリナは彼に抱き付いた。こうしてボスだけを引き留めることは、今まで自分の為に命を散らしてきたゴブリンに対して不誠実かもしれない。だがそれでも、彼女は自分の気持ちを、ボスを失いたくないという気持ちを抑えることができなかった。


 そんなゴブリナを、ボスは優しく抱きしめ、そして、木板を手渡した。それはつまるところ、ボスのやんわりとした拒絶だった。ゴブリナよりもグォークを選択し、敵地へと向かうという選択。その気持ちが揺るがないと知ったゴブリナは、大粒の涙を流しながらも微笑んだ。


「kurobkisoe suroeunmeoki(帰らなかったら、許さないから)」


「カナラズ モドル オマエノ モトニ」


 異なる言語で交わされた言葉、意味が伝わらないはずのその言葉はしかし、二人の中で確りと通じ合っていた。


 ゴブリナの言葉を受け、ボスは以前の集落に、オークキングの住む村へと歩みを進めたのだった。


~~~~~~~~~~~

side アベル

 オークキングの到来、それは、ここら辺にとっては結構な大事だ。リス・デュアリス神聖王国は世界最古参の王国。擁する冒険者の数も最大ながら、その大半はオークを単独で倒せる程度、大凡オーガ級の冒険者が殆どを占め、そこから先はグッと数が減ってしまう。


 そして、オークキングの強さはシーサーペント級。一般的にはアベルたちオーガ級よりも一つ上という位置づけだが、問題はオークキングがオークを大量に従えてるということだ。

 

 オークは雑魚筆頭、と言われてゴブリンやコボルドと同列のように扱われることがあるが、それはあくまでオークが単体での戦闘になりやすいからだ。もっと分かり易く言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。


 そんな相手の集団の中にいるオークキング……それこそ最上位冒険者の方々ならともかく、シーサーペント級やヘルシックル級の冒険者でも一筋縄ではいかない集団である。


 だからこそ、冒険者ギルドでも討伐隊を組むことになった。先鋒の中級位冒険者がオークキングまでの活路を開き、真打としてギルドでも上位に位置する暫定ランクヘルシックル級の冒険者パーティ「世界樹の苗」が討伐に打って出る。という作戦だ。


 だったのだが、アベル達が地形調査やオークの分の事前調査のため、50人からなる先遣隊として先行した結果は悲惨な結果だった。

 死屍累々と倒れ伏し、苦痛の呻きを上げる冒険者たちと、それを見下ろす二人のオークの姿。一人は武器を持ったオークであり、その素早い身のこなしと、オークとは思えない技量でほぼすべての冒険者が打ち据えられてしまった。そして、その背後には巨漢の、鎧をまとったオークが控えており、運よく……いや、運悪くそのオークに突撃をできた冒険者は、ただ一度の唾吐きでその身を強打され、直後の振り下ろしでミンチに姿を変えた。

 満足に動けなくなった冒険者たちを前に、上機嫌な人類語(コトバ)が響く。


「見事な腕前だ!これほどの戦果を上げるとは!お前を拾ってよかったぞ!サイショウ!」


「お褒めに預かり、恐縮にございます」


 武器を持ったオークの声に、アベルは驚愕することになった。だって、それは、それは……。


「グォークの、旦那?」


「ん?このエサ、オマエのことを知っているようだが?」


「……こいつは、俺の集落に来た変わり者の冒険者です。愚かにも俺と交渉をしようとした男でした」


 それを聞いて、巨漢のオークは大爆笑を始める。


「なるほどなるほど、馬鹿なオークだからと交渉して騙そうとしたわけか。これは笑い種だ。お前ほどの知者が、愚かなエサに騙されるわけがない!」


「本当に笑止なことで」


 そう言って、二匹のオークは笑い合う。そして、ふと何か気が付いたように武器を持ったオークが巨漢のオークに提案した。


「そうだキング様、今の戦いで、エサ共の力は知れました。ここは、エサをもっとおびき寄せるため、こいつを逃がすというのはいかがでしょう」


「……どういうことだ?」


 巨漢オークが問うと、武器を持ったオークは手を広げ、解説を始める。


「ゴブリンだって、仲間がやられれば、復讐の為に戦力をよこしてくることがあります。人間はゴブリンよりもずっと賢い。仲間の一人でも攫ってやれば、死に物狂いで仲間を取り戻しにくるでしょう。それこそ、今以上の餌を引き連れて」


「素晴らしい!ならば、この小僧共を一度逃がして、エサを連れてきてもらうというわけだな!それができるというのならこれ以上ないことだ!」


 巨漢のオークの言葉に、怒りと屈辱を同時に感じたアベルだったが、その直後に彼の首もとにあのオークの得物、巨大な棍棒が突き立てられたっす。


「分かったな人間、これからお前は、オークキング様の慈悲によって生きて帰される。オークキング様の偉大さと、強さを、余すことなくお前たちの司令官に伝えるといい。俺たちはこれから住処へ帰る。ゆっくりと準備を整えてくることだ。それまでは……この女は俺が可愛がってやろう」


「アリシアッ!」


 最近何とか和解し、またパーティを組むようになった女性冒険者の姿に、アベルは思わず声を出し、手を伸ばした。だが、その手は届かず、高笑いしながら消えていく二匹の姿を、アベルは見ているしかなかった。


~~~~~~~

 死者4名負傷者45名二匹……いや、実質一匹の魔物に蹂躙されたにしては、多すぎる犠牲だった。


「……」


「そう落ち込むな。アベル、厳しいようだが、魔物相手ならこんなこともざらにある。特に、あんな化け物ならな」


 しかし、そんな言葉も彼には届かない。アリシアというパーティメンバーを失ったから……ではない。彼は考えていたのだ。再開したグォークの違和感に、そして、最後の言葉に。


 そして、ハッとして周りを見渡した。死者4人負傷者45人確かに多すぎる犠牲だ。しかし、その規模の戦闘で、死者が4人?それは逆に少なすぎやしないか?

 さらに思考は加速する。今この戦場跡にいるのは45人。そして、4つの遺体も存在していた。何故だ?エサを求めるというのなら、何人かは連れ去れていたっておかしくない。

 しかし、その理由は簡単だ。グォークが彼らを、更なるエサを呼び込む撒き餌にしたからだ。だからこそ俺たちは生きている。


 そして、その視線は一人の冒険者に向かう。その冒険者は、戦闘開始時に近くの木の幹に投擲された石の衝撃で気絶した、()()()()()()()()()()()()()()()()、そして、この戦場では貴重な()()()()()()()()()()()()だった。


 もしかしたら、そんな期待をもちつつも、アベルはその期待を胸に隠し、そして皆に告げるのだった。


「とりあえず、無傷な君は、オークキングを追って欲しいっす。住処に戻るって言っていたから、巣の場所が分かるかもしれないっす。他の皆は、……いったん戻るっす。オークキングが出たことを……強い個体が近くにいることを、知らせないといけないっすから」


 オークの本隊と人間の本隊が本格的にぶつかりあうのはもう時間の問題だった。

 なお、オークキングと出会わなかった場合は、犠牲者が10人前後に増える代わりに本拠地までたどり着けていました。


 なお、主人公の強さはバグではありません。この時集まった人間種の冒険者等級は基本的にオーク級の一つ上であるオーガ級ですが、オークは

(オーガ級を上回る身体能力)×(オーガ級に比肩する防御能力)×(スライムすらも下回りかねない知能)×(基本装備なし)×(ほぼ1体で出現し、仮に2体以上で出現しても容易に同士討ちを仕掛けられる習性)×(基本的に人間の生息域には出現しない)

 といった特徴を加味してオーク級に配置されているため、パーティ単位(最大6人)でオーガ級モンスターに挑むことを想定している冒険者達、しかも敵の背後にはなんかでかくてヤバそうなやつがいて、そっちにも注意を払わなければならない。となると……。といったところ。


※おまけ 等級について。

 等級はモンスターと冒険者双方に使われる強さの指針。基本的には冒険者1パーティ(6人)で倒せるモンスターの等級が、冒険者の等級になる。ただし、常に群れで生活するモンスターなどは、複数戦うリスクを加味した等級となる。


 要するに あるモンスター=モンスター名級の冒険者×6


 昔は本当にそれぞれのモンスターで等級名を名乗っていたが、流石に数が多すぎたため、代表的なものに統合された。

スライム級……最下級の魔物 成人男性であればだいたい討伐可能。


ゴブリン級……冒険者のメイン討伐対象 攻撃意志を持っているため素人が相手するのは危険。


オーク級……中堅からベテランが相手するランク 素人では相手にできないが、能力はゴブリン級の延長にある。


オーガ級……ベテランでも苦労する存在。特殊な能力や攻撃を行うため、個別の対処も必要になってくる。


シーサーペント級……ベテランの中でも一握りが扱うべき案件。それぞれの土地の特性を味方につけた敵が多く、場合によっては土地のヌシと言われる存在であることもある。


ヘルシックル級……基本的には土地のヌシに与えられる称号、等級名のヘルシックルは例外。シーサーペント級でも厄介だった土地の特性を更に味方につけ、強力な属性攻撃を使う。これ以降は基本的に単一個体の等級となることからも、その強力さがうかがえる。


~~~~~これ以降は対象モンスターと冒険者の等級に一部例外除き、著しい乖離が生じる。いわば名誉等級扱い~~~~~~~~~~

マンティコラ級……弱い魔王。現存する者は全て賢者の塔に監視されており、何らかの武力行動をする兆候が見えた段階で賢者の直弟子が鎮圧の為に出動する体制ができている。放置した場合、2日で大国が人っ子一人いない廃墟になる。

戦力換算 マンティコラ=マンティコラ級冒険者×20 


エルダードラゴン級……10体しかいない上位魔王。相手にするなら軍隊が必要。

戦力換算 エルダードラゴン=エルダードラゴン級冒険者×300


フェンリル級……最高位の戦力。30体確認されているが、強さの指標が大陸何割更地にできるか、で示されるレベルの強さを持つ。なお、その中でも最上位の魔王は(ジャマさえ入らなければ)世界の半分を更地にできると豪語している。

戦力換算 フェンリル=フェンリル級冒険者×1000


K級……???

戦力換■ ■焉▲巨○=K●■険▽×■■■■■■■■■■(エラーが発生しました

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