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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
セカイ生徒会編

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93.約束の朝




 翌朝。

 この日はちょうど、三ヶ月に一度の停車場のシャッフルが行われるため、ニーナも一緒にピロティへ向かうことになっていた。

 学院の送迎だが、登校した順に入る朝と違い、下校時は混雑を避けるために停車場所と時間帯を学校側が指定して行われる。公平性を保つため三ヶ月に一度、侍従が籤を引いてそれらを決めることになっていた。

 三人で校舎へ向かって歩いていると、周囲の……とりわけ女子の視線がチラチラとこちらへ注がれていることに気付く。

「あれ……」

「あの方……」

「ラシェル様と、お付きの方が傍にいらっしゃるということは、やっぱりディルク様よね……」

 漏れ聞こえてくる黄色い色めきだった声に、ラシェルは自身の先見の明を改めて確認した気分となり、密かにほくそ笑む。

 以前の長い髪型も好きだったけれど、前髪が目にかかる長さまで伸びていたこともあって、地味な印象ばかりが前面に押し出されていた。

 先日、髪を切ってそれを短くしたことにより、精悍で落ち着きのある男らしい相貌に成った顔が露となった。その結果、こんな風に女子たちの目を惹きつけることとなったのだろう。

「随分と感じが変わられて」

「益々お似合いのお二人になられましたわね」

 今はまだ、微笑ましくこちらを見守る姿勢のギャラリーが多いように見受けられるが、もう暫くしたらこれに妬みの視線も混じって来るんじゃないかと、ラシェルは臍を噛む。

「何だ、この針の筵みたいな視線は……」

 ふとラシェルが隣を見ると、初めて浴びる女子達の注目に耐えきれない様子で「少し短くし過ぎたか……?」と髪を弄りながら、ディルクが顔を蒼褪めさせていた。多分、過去のトラウマから『自分を見てヒソヒソ話=悪口』という妄想に囚われているのだろうと、先日ニーナとしていた遣り取りから察する。

「ねぇ、ディルク」

 髪に触れる彼の手を取り、ラシェルはディルクを見上げた。

「ラシェル……?」

「ずっと言おうと思ってたんだけど、初めて貴方に会った時から比べると随分顔つきが変わったの、自覚してる?」

 えっ、と驚きの表情でディルクが目を見開く。

「みんな、確かにこちらを見て声を潜めてはいるけど、誰も貴方のことを悪いように言ってる人なんていないわ。寧ろ、逆よ。これまでは長い髪に隠れてたから気付かなかっただけで、こうして短く切って、みんなもやっとディルクがカッコよくなってるってことに気付いたんじゃないかしら。ディルクは疑ってたけど、前に理髪店でニーナと二人で話してたのも、そういう内容だったのよ?」

「そっ、そん……な、……え? ……ぇえぇっ?」

 俄には信じられないといった声を上げて、ディルクはニーナを顧みた。

「あー……と、……まぁ。否定はしないけど」

 ラシェルの言葉を受け、バツが悪そうながらも一応頷いて見せるニーナに、益々ディルクの表情が困惑を深めたものに変わる。

 その反応に、すかさずニーナが付け加えた。

「ただ、言っとくけどラシェルはちょっと……いや、かなり。常人より美的感覚が甘いからね。現実には下の下の下だったアンタが、中の下の下くらいまで漸く登りつめて来たっていう、その程度のことだから!」

 くれぐれも勘違いしないようにと釘を刺すニーナに、アホか、とディルクが詰め寄る。

「そんなもの、今さら念押しされなくとも重々承知してる。それより、分かってるだろ。俺が気にしてるのは……」

「ん、もうっ。ニーナ、余計なことは言わなくていいの」

 幼馴染故の気恥ずかしさもあるだろうけど、事実を素直に伝えたかっただけという思いが理解されなかったことに歯痒さを覚え、ラシェルは首を横に振る。

 やれやれと言ってニーナに溜め息を零されたが、痘痕も靨で結構。

「だって、ディルクの魅力が増したのは本当だもの。少なくとも私は素敵だなって、ずっと思ってたんだから」

 だからもっと自信を持って欲しい、と願いを込めて真っ直ぐに彼を見上げた。

「ラシェル……」

 訴えかけるようなラシェルの瞳に、ディルクはやや身体を仰け反らせながらも、ごくりと喉を鳴らして生唾を呑み込む。

「あ、ありがとう……」

 少しの沈黙があって、目線を斜め上に彷徨わせたディルクがボソリと溢した。その反応に、気持ちが伝わったとラシェルも満足して頷き返す。


「……じゃあ、俺はこの辺で」

 抽選を済ませ、暫く三人で他愛もない話をしながら歩を進めた後、互いの教室へ向かう岐路に着いたところで、まだ少し照れくさそうな雰囲気を残したままのディルクが片手を挙げる。

「うん、また後でね」

「ああ、放課後に。昨日も話したが、昼の埋め合わせは必ず今夜するから」

 ズキン、と胸が痛む。

 分かってはいても、こうして改めて念を押されると心にくるものがあるなとラシェルは視線を外して頷き返した。

 ディルクに髪を切らせたのは、もちろん彼自身を思ってのことだが、実はシナリオに対するラシェルの僅かな抵抗でもあった。

 ゲーム内でリサと密会を重ねていたディルクは、長い髪で目元を覆ったヘアスタイルをしていたから。

 けれど、こうして垢抜けて格好よくなった彼を見ていると、まるで敵に塩を送るようなことをしている気もして、何だか自分が滑稽に思える。

 すまないと言って申し訳なさそうな表情を浮かべるディルクに、気にしないでと取り繕ったが、上手く笑えているか自信はなかった。

 自分はとんでもないしくじりを犯してしまったのではないかと、全身から血の気まで引いていく。

 とはいえ、そんなラシェルの心の内など知る由もないディルクは、真っ直ぐに向き直ると素直に礼を述べた。

「ラシェル、今まで本当に、色々とありがとう。お陰で何か、勇気が湧いてきた気がする」

 感謝の念が籠った、熱っぽい声と真摯な眼差しで告げる。

 けれど今のラシェルの耳にはどれも上滑りして響くだけで、全然嬉しくなかった。

 まるで卒業を思わせるような言葉と口振りにも、失望すら覚える。

 ディルクの一挙手一投足に揺らめき、忘れようと諦めかけては期待し、落胆して。

 情緒不安定な自分に混乱を覚えるも、これが恋心なのかもしれないと妙に納得する自分もいて。

 一体どうすればよかったのだろう、どうすべきなのだろうと、彼の後ろ姿を見送りながらラシェルは途方に暮れるより他なかった。





ディルクのルックスに関してですが、ニーナの場合は幼馴染補正でかなりシビアになり過ぎている嫌いがあります。もともとお嬢で、面食いでもあるので。


そして当のディルク自身はというと、自分のルックスに関して自己評価低すぎ。以前に少し書きましたが、幼少期に見た目のことで苛めに近いくらいイジり倒されたことが原因です。


実際は、ニーナとディルク自身が思っているほど、ディルクの見た目はもうそんなに悪くはないです。(他の貴族令嬢がマナー違反にもチラ見しちゃうくらいなので)


でもラシェルの評価が、やっぱりちょっと痘痕に靨が過ぎるのも確かです。(笑)

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