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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
邂逅編

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89.プロテストな街ブラ

 



 日曜の昼下がり、ラシェルはニーナとランドル、そしてディルクの四人で王都のメインストリート沿いにある理髪店へ来ていた。

「うへぇえ……。こっ、これは……確かに……!」

「でしょでしょ、でっしょおおおお……ッ!!!」

 驚き目を瞠るニーナの横で、ラシェルは得意満面ながらも口許を両手で覆い、わきゃわきゃしながらコクコクとニーナに頷く。

 先日、ディルクの髪が気になるからと理容師を屋敷に呼んでもらうようニーナに頼んだら、お忍びでストリートに遊びに行かないかと誘われた。

 王都でも人気の、ランドルが行きつけにしている店があるらしく、「ついでに四人で軽く街歩きなんて、どう?」と彼女に提案されたのだ。

 平民に身を扮してのお出掛けなんて、ラシェルとしては心擽られる嬉しいイベントだけれど、ディルクは嫌がるんじゃないかと思って控え目に聞いたら二つ返事でいいよと言われた。

 髪型も拘りはないから、ラシェルに決めてほしいと。

 男って、そんなもん?

 思ったよりあっさりした反応で呆気に取られていたら、そんなに鬱陶しかったかと、目元まで伸びた前髪を摘まみながら悄気た表情でディルクに聞かれた。これから暑くなるしと慌てて返したが、まさかゲームの流れに少しでも対抗したくて髪を切ってほしかっただけなんて、口が裂けても言えない。

 そんなこんなでラシェルの思惑ありきのストリート散策と相成ったが、結論から言うと楽しかった。

 当日の朝、ミサが終わってから着替えてランドルの店の停車場を借り、そこから四人で街へ繰り出す。

 ニーナはレオノキアから持ってきた一張羅を、ラシェルはコットン素材ながら、王都の庶民の間で流行りというデザインのレースをふんだんにあしらったワンピースをそれぞれ身に纏い、街娘に扮してウィンドウショッピングを楽しんだ。ランドルとディルクも、初めて出会った時に着ていた物に近い、レオノキア製の商人っぽい服装に身を包んで、はしゃぐラシェルたちを後ろから保護者のように見守っている。

 王都は首都であるが故に国際都市の側面もあることから、三人の恰好も特に浮くことなく、保守的なアウローテの中では比較的国際色豊かな街に溶け込んでいた。

 去年の暮れにラシェルが領地へ戻っていた間、ニーナとランドルでよく通ったというガレットのお店で昼食を済ませ、予約していた理髪店へ足を運んだ。

 そうして散髪後、ディルクの仕上がりを見てニーナが開口一番に言った言葉が、先のものだった。

 さらにラシェルを店の入り口近くへ引っ張り出してしゃがみ込み、小声で続ける。

「ホント、嘘みたい。ラシェルの言った通りかも。人生で初めて、ディルクがちょっとだけイケメン風に見えた」

「風じゃないよ。もう少しで地味顔イケメン完成するから、楽しみにしてて……」

 ふふふ、と不気味な笑みを浮かべるラシェルに、「う、うん……」と、やや退き気味にニーナが返す。

「お前らまた、俺の見た目のことで失礼な話をしているんじゃないだろうな……特にニーナ」

 支払いを済ませたディルクがいつもの鋭い勘を働かせ、昏い表情で二人を見下ろす。前々から思っていたけれど、どうしてこの手の話題には敏いのだろうと、ラシェルは改めて首を捻った。

「冤罪だわッ。子どもの頃から、顔がキモいとか怖いとか散々陰口叩かれてきたからって、被害妄想よ!」

「俺は陰でそんなことを言われてたのか……」

 さらに表情を暗いものにして、ちょっと泣きそうになっているようにも見えるディルクに「次、行ってみよー!」と肩を抱きながら明るくランドルがフォローする。三人はこうやって生きて来たんだなぁと涙がちょちょ切れる思いと、ディルクの黒歴史もちょっと垣間見れたことが、ラシェルは逆に嬉しかった。

 詮索したい訳ではないが、こんな風に自分の知らない彼を知る度に、最近は宝物を発見した時のような喜びを感じるようになっていた。いつか、自分の過去も彼に聞いてもらえる日が来たらいいなと思う。

 その後も、街をブラブラしながらストリートパフォーマンスに拍手を送ったり、橋にある宝飾店を冷かしたりと、休日の午後を堪能した。


 最後、屋敷へ戻る前に喉を潤してから帰ろうという話になって、近くのカフェへと立ち寄る。

「今日一日、すごく楽しかった」

 通り沿いのテラス席に案内され、尽きない会話を交わしながらそれぞれ注文したドリンクに口を付ける。

「天気も良かったしね」

「これなら、また四人で出掛けるのもアリじゃない?」

「まぁ、たまの息抜きには、いいかもな」

 ディルクの言葉に、ニーナと二人、目を輝かせて顔を見合わせる。よかったねーとランドルが相槌を打つ後ろで、すみません、と声を掛けられた。

 ベビーカーを押した母親が、買い物帰りに立ち寄った風だった。

「こちらこそ、気付かずにすみません。……可愛いですね、何ヶ月ですか?」

 通路を開けるように椅子を引きながら、にこやかにランドルが尋ねる。

「ありがとうございます。先日、十一ヶ月を迎えたところなんです」

「じゃあ、もうじき一歳ですか。一緒に歩けるようになったら、さらにお散歩も楽しくなりますね」

「ええ……」

 天性の女たらしで、しかも営業トークにも慣れていることから、ランドルが買い物疲れの色を滲ませていた母親の心を会話で解す。ラシェルとニーナも、覗き見たベビーカーの赤ん坊がキャッキャッとじゃれついてくる姿に可愛いねと心奪われた。

「手も足も、すごく小さい」

「紅葉の手って言うけど、本当にそうなんだ」

 モミジって何、とニーナから冷静なツッコミが入るも、そんな植物があるのよと適当に受け流す。ラシェルは目の前の小さくて守ってあげたくなる象徴のような存在に、完全に心酔していた。

 そこで突然に、カフェの入口付近から落し物の案内をする店員の声が聞こえてくる。

「どなたか、お客様でこちらのポーチを落とされた方はいらっしゃいませんか」

「あら、私ったら……」

 母親が慌てて身の回りを探し、やはり見当たらないことを確認して店員の元へ向かおうとベビーカーを押し戻した。しかし通路が狭く、先より客も入って来ていて、なかなか苦戦する。店員の方も客が増えたことで、こちらの声がなかなか通らないのか気付いてない様子。入口辺りでまだ声掛けをしている。

 ボクたちで見てますから、どうぞ行って来てくださいとランドルが母親を促した。

「ごめんなさい、すぐ戻りますから……」

 申し訳ない表情で一礼し、店員の元へと向かう。

 親が離れたことを気づかせないよう、すかさずニーナがいないいないばぁをしたり、ベビーカーに付いていたガラガラであやし始めた。

 彼女が小さい子どもの扱いに慣れているのは意外だったけれど、ランドルとの自然な連携もさすがだと思う。

 ニーナとランドルの子どもを、自分もこんな風にあやす日がそう遠くないことを予感した瞬間でもあった。二人の子どもなら、男の子でも女の子でも、きっと飛び切り可愛いんだろうなと羨ましささえ覚える。

 いいなぁと、それは自然の成り行きでラシェルは思った。

 あやされて笑う、笑顔の赤ちゃんは本当に天使のようだなぁと頬に手を伸ばし、軽く擽る。

 暫くという間もなく母親が戻って来てお礼を言われ、大したことじゃないですよとランドルが返して再び席に着く。

 名残惜しい気持ちでベビーカーに手を振ると、ラシェルの口から溜め息のように言葉が零れた。

「私も赤ちゃん欲しいな……」

 ブーッと突然、勢いよくディルクが紅茶を吹く。

 その隣でランドルも盛大にココアを喉に詰まらせて噎せた。

「ちょ、ラシェル……?!」

 何事かと顔を上げたら、目の前のニーナまでもが驚愕の表情で口許を引き攣らせていた。

「な、なに……?」

「それはコッチのセリフよ。アンタ、何を突然爆弾発言してるのッ?!」

 三人の突然の反応に茫然とするラシェルの肩を掴んでガクガクと前後に揺らし、ニーナが問い質す。

「へ……?」

「『へ』じゃないっ!! ラシェルには女子の嗜みってモノがないの、嗜みってモノがッ?!」

「いや、だって……笑顔の赤ちゃんは本当に天使のようだなぁって……」

「はぁ?!」

 頭痛を覚えたのか、ニーナがその場で頭を抱えて蹲った。

 どうしてそんなリアクションされるのか、訳が分からずラシェルは混乱する。

 確かに、将来ニーナとランドルの間に子どもができたらとか、色々と思い巡らせていたけれど、何か自分は変なこと口走ったかなと、頭の上に疑問符が三つほどポンポンポンと浮かぶ。

 まぁ、皆の反応から、ほぼ確実に変なこと言ったんだろうとは思うけど……。

「まぁ、ラシェルちゃんに自覚がないなら、いいんじゃない?」

「私は何も聞いてない。聞いてないからッ」

「…………」

 仄かに頬を赤く染め、持っていたハンカチで一人黙々とテーブルを拭くディルクの姿は若干気になったものの、特にお咎めもなかったので、大して気にするほどのことでもなかったのだろうとホッとする。

 それぞれ頼んでいたドリンクを飲み干したところで、この日の街歩きはお開きとなった。




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