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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
セカイ生徒会編

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100.愛の代償③

 



「見届ける……って、何を?」

 訳が分からず、訊ねるラシェルに

「何をって、お前らのナニを、だ」

 事も無げにリサが言う。今さらカマトトぶる事もないだろうと笑いながら。

「えっ…………ぇえっ?!」

 思わずラシェルはディルクを二度見した。

「もちろん、初夜の一回限りだ。王族でもなし、フィリドールにそんなしきたりがないことも承知しているが、リサがどうしてもこれだけは譲れないと……」

 苦渋の選択だったと零すディルクに、益々意味が分からずラシェルは混乱する。

「これでもかなり譲歩させたんだが……すまない、ラシェル。俺の敗北だ」

「いや、ちょっと待って。何か色々、絶対すごい端折り過ぎてる! 優秀なディルクがこんな説明って。貴方も相当混乱してるんだと思うけど、いやホント意味が分からないから!」

 リサの直接的な言葉に結婚後の房事を想像して、身体の芯がカッと熱くなりラシェルは頭が真っ白になるも、多分それ以上にディルクがワケわからないことになっていると確信する。

「お、落ち着いて……最初から話してくれる?」

「最初から……?」

 ラシェルの言葉に、縋るような、捨てられた子犬のような目でディルクがラシェルを見つめる。

「…………」

 どちらかというと狂犬のイメージの方が強かった彼が、ここに来てこんなにも弱々しい表情を見せるとは意外だった。

 けれどそれも一時の事で、彼は一度目を瞑った後、ゆっくり瞼を開けると、すぐ様いつもの顔に戻す。それから順を追って話し始めた。

 ラシェルには全て打ち明けると断って。

「初めはリサだと知らなかった。ラシェルがリサのことを朝食で話題にした、ほんの数日後だったか。個人用ロッカーの中に紙切れが入っていて、スパイだとバラされたくなければ中庭に来いと」

「そうそう。コイツ最初、ワシの手紙を無視しやがったんだ」

「足がつくようなヘマはしていない。やっかみはしょっちゅうだったから、その時は冗談だと思って流した」

 変な話に乗って、そこから根も葉もない噂に繋がりでもしたら、真実なだけにその方が厄介だからなと続ける。

「その後、通りすがりに直接『レオノキアのネズミ』と小声で脅され、人気のない場所へ誘導された。そこで、ラシェルの処女と引き換えに俺の秘密を黙っていてやると……俺のことは見逃してやると、持ちかけられたんだ」

「は……?」

呆然とするラシェルに、もちろんディルクがアウローテ側へ寝返るのを前提にだが、とリサが付け加える。

「工作員なら誰しも、何時(いつ)なんどき、身元が割れたって構わないと覚悟して任務に就いている。ましてや俺のためにラシェルを犠牲にするなんて、考えられない。だから当然、その場で(そく)断った。けど、そうしたら今度は、何時(いつ)でも良いから一発()らせろと……」

「なっ……何、それ……?!」

 ぐらりと視界が揺らいで、ラシェルは再びベッドに撃沈しそうになる。

「だから言ったろう、こいつに狙われてるのはラシェル、お前の方だと。それからも○○ッ○○グやら3○やら、ろくでもない交換条件をしつこく持ちかけられたが、お前が俺以外のヤツに手籠めにされるなんて絶っっっっっ対に許せなかったからな。ずっと断り続けてたんだ。そうしたら、こないだの学食で捨てゼリフに初夜の見届人ならどうだと耳打ちされ、これ以上の譲歩はないと迫られた」

 その返答期限が今日の昼休みだったらしく、ラシェルとの勉強会を夜に変更したのだと言う。

「どうして……そんな……」

 そもそも女の子同士だよと、眩暈を(こら)えながらラシェルは零した。

「なぁに、お前と違って、ワシは物心ついた頃から前世の記憶があったからな。オマケに幸か不幸か、お前も知っての通り男子として親父に育てられた。男は趣味じゃないんだ」

「だったら、ローレンス王子との関係は……?」

「あれは、まぁ……色々あるが、一番はワシのこの性癖を隠すカモフラだ」

 一応の道理は通っている気もするが、ガハハと豪快に笑うリサを横目に、だからといって私まで巻き込まないで欲しいと心の中で呟く。

「それにラシェル、お前だって悪いんだぞ」

「えっ」

「去年、カラードスピネルの前でとっ捕まえた時は丸々と肥えた設定通りの(なり)だったクセに、つい先日、生徒会室で会ってみればワシ好みのロリ顔エロエロボディなプリンちゃんになってるじゃないか。何としてもお前を手に入れたくなって、本来ならディルクとの接触はもう少し後に図る予定だったのを、無理矢理繰り上げたんだからな!」

「そんな……」

 理不尽極まりない怒りをぶつけてくるリサに、知らんがなと精一杯の蔑みの視線を送ったけれど、何の効果もなかった。

 それどころか、リサとの遣り取りを聞いたディルクが「ちょっと待て」と声を荒げる。

「ランドルの店の前で捕まったって……ラシェル、俺は何も聞いてないぞ」

 ニーナからもそんな報告はなかったはずだと、こちらを見据える。

「ごめん。捕まったけど、すぐに解放されたからニーナに悪いと思って黙ってたの」

「あのなぁ……」

 慌てて言い訳するラシェルに、何のための護衛だとディルクが肩を落とす。

「そんなことより」

 ぬっ、と二人の会話に割り込む形でリサがラシェルに詰め寄った。

「女同士だって、キモチイイぞ? 金に糸目をつけず、前世の記憶をもとにオモチャも色々と作っては取り揃えてある。興味があれば今からでも遅くはない。ワシに処女を捧げてみる気はないか?」

 リサの提案があまりに突飛すぎて、瞬時にラシェルの理解が限界突破する。

 彼女の、冗談とも真剣とも取れる眼差しに当てられてラシェルがフリーズしているのを、答えに窮していると取ったのだろう。すかさずディルクがラシェルを背後に庇った。

「約束が違うだろ」

「いや、この女、存外押しに弱いようだから済し崩し的に()れるチャンスかと思って、つい」

「つい、じゃない。()すぞ?」

 しれっと下衆なことを口にするリサに、どす黒い凄みを利かせた目付きでディルクが睨み上げる。

 正直なところ、ラシェルの身を案じて怒りを露にしてくれるディルクには胸熱だったが、かといってこのままリサと交渉決裂させるわけにもいかないため不承不承、話を戻しましょうと仲裁に入った。

「ところで、この事はニーナやランドルには……?」

 ラシェルの問いに、ディルクは静かに首を横に振る。

「ディルクには最初に口外無用と釘を刺しておいたからな。さらにワシが裏から手を回し、国境線及び全ての港湾には現在、規制線を引いていることも伝えてある。仲間の脱走どころか、文の一つもレオノキアには暫く届かないだろう、と」

 交渉中に謀られては元も子もないからな、と頼んでもないのにリサが嫌味な笑みを添えて説明した。

 こんな大事なこと、ずっと一人で抱えてたのねとラシェルはディルクの気持ちを察する。このところ気鬱な表情が多いように見えていたのは、勘違いではなかった。

「まあ、何にせよ観念することだ。お前らは既に詰んでいる。ワシの申し出を断ればディルクは即刻打ち首か、デュランに泣き付いてもいいとこ強制送還といったところか。現時点では容疑の段階だが、間諜罪だからな。レオノキアから引き連れて来た連中や菓子店の奴らも同罪だ。ワシはしつこい性格だからな、徹底的にやるぞ。フィリドールに国家反逆及び内乱罪の嫌疑がかけられることも間違いない。近い内に、当主であるブリアックには登城の召喚状が届くだろう」

 そう言ってリサは両手を頭の後ろで組むと、盛大に背凭れへ身体を預けた。

 言葉はきついけれど、内容がレイラに忠告されたものとほぼ一致することから、これが決して大袈裟な脅しではないとラシェルも痛感する。

「どうする? ワシと手を組む以外、もう道はないと思うが無理強いはしたくない性分でな。お前らの選択に任せるよ」

 不敵な笑みを浮かべ、リサがチラとディルクを見た。

「理想のプリンちゃんであるラシェルを手放すのは惜しいが、まぁ、女なら他にもごまんといるし。戦争回避にしたって畢竟、ワシはポーシャールの被害が最小限に留まればいいと思っているからな。そのための策は既に講じてある。だいたい、戦争が起きて真っ先に陥落するのはフィリドールだ」

「えっ」

「え、じゃない。自らスパイを招いておいて、その反応はないだろう」

 やれやれ。こんな領主一族では、領民が気の毒すぎるなと、リサが皮肉混じりの苦笑を漏らす。

 痛い所を突かれ、ぐうの音も出なかったが、それでもとラシェルは反論を試みた。

「ふ、不謹慎な話かもしれないけど。開戦となれば、まず攻め込まれるのは前の戦争と同じくレオノキアと地続きであるポーシャールじゃないの? 確かにフィリドールは位置的に隣接しているけれど、天然の要塞と言われるほど高い山々と海に囲まれた領地よ。だからこそ、ポーシャールはアウローテ唯一の『辺境伯』なのでしょう?」

「おお、まさしく情報統制の賜物みたいな解答だな」

 拍手で嘲笑われる。

 余裕すら感じさせる圧倒的な情報量の差でマウントを取ってくるリサに、悔しいけれど今度こそラシェルは押し黙る他なかった。

 少しヒントをやろう、とリサが小さく笑む。

「もう、そろそろ着工時期じゃないか? お前の領地を南北に走る、道路の施設計画があるだろう」

 ディルクが提案し、現在、父と進めているラピス村のリゾート化を目的としたフィリドール領の南北縦断街道のことだろうか。

「心当たりがあるようだな。レオノキア軍は開戦の火蓋が切って落とされれば、まず南進してフィリドールを陥落させる算段を立てている。そして制圧後、その街道を利用して一気に本丸である王都へ、大量の兵士を引き連れ攻め入るつもりだ」

「南進……?」

 地図上、ラピス村は確かに湾を隔ててレオノキアの南に接しているが、イアサント嶺とバティスタール連峰の麓にあり、内陸に位置する。他国が攻め入るとすれば海側、しかも岩礁と潮の関係から南西にあるイネス港付近からの上陸以外不可能なことから、これまでずっとフィリドールの守りの要衝はその一点のみとされてきた。

 定石とはまるで異なるリサの発言に、ラシェルは眉を潜める。

「もちろん、レオノキアはポーシャールにも侵攻する。だが、従来の国境線でガチガチに守りを固めているポーシャールではなく、あくまで主戦場は油断しきっているフィリドールだ。お前もディルクから聞いて知っているだろう、アウローテが鎖国している間に周辺各国は近代化の真っ只中であることを。それによって何がもたらされるか……」

「……?」

「技術は地政学を上書きする」

 ピンと人差し指を立て、リサが口の端を上げる。

「フィリドールは国境をフィヨルドに加え、標高四千メートル級の連山に守られた天然の要塞と目されてきたが、それは同時に外界の情報も遮断していることを意味する。これまで難攻不落と言われていた牙城も、フィサイア湾に人工の浮島を作ることによってイアサント嶺の掘削が可能となったんだ」

「なっ……!?」

「当然、これらの開発は軍の最高機密として極秘裏に進められているため、知っているのは軍の高官と限られた実行部隊だけだ。レオノキア側のフィサイア湾沿いは全て軍事基地として召し上げられ、数年前に住民の徹底的な立ち退きが敢行されている」

「まさか……」

「疑ってもいいが、状況証拠として挙げるなら二年前に突如起きたイアサント連山の土砂崩れ、お前の領でも大規模な斜面崩壊として話題になっただろう。原因不明と報告されているが、あれはレオノキア側からのトンネル工事で仕掛けた発破によるものだ」

 嫌な汗が、絶句するラシェルの背中を伝う。

 二年前はまだ前世の自我に目覚めていなかったため記憶が薄いけれど、確かに父も災害から少し遅れて北部へ視察に出ていたはず。

「その後、レオノキア軍の調べによって山には地盤の緩い部分が数多く発見されたため、フィリドール側からの現地調査が必須となった。その要請を受けたのがバーベリ商会というワケだ。推測だが、ディルクが移住して来た割と早い段階で一度、領の北部へ行っていないか。そこで、イアサントとバティスタールがほぼ垂直に交わる領の北東部辺りに、掘削に適した地質を見つけたはずだ」

 ごくり、とラシェルは喉を鳴らす。

 ディルクがフィリドールへ来た夏に、水質調査の名目でランドルと二人、領内を巡る旅に出ていた。それを、ちょっとした父のイタズラでラシェルが追い、彼らと再会したのが、ちょうどその地点だ。

 物盗りか何かかもしれないと、シュガーハウスの影に身を隠していた時、聞こえてきた彼らの会話に妙な引っ掛かりを自分は覚えなかったか。

 いや、待って。

 そう言えば確かあの時、父は「ちょうどラピス村に着く頃」として、私をけしかけなかっただろうか。

 あの父のことだ。

 何か勘づいていて、私を送り込んだ可能性は高い。

 そう思った途端、これまで見過ごしてきた数々の小さな違和感にも合点がいった。

 と同時に、己の無能っぷりにも時間差で気付かされ、居たたまれない気持ちになる。

 旅から帰った後、家族での談話を楽しんだティータイムで、自分は本当にただの土産話しかしなかった。何ら収穫のない娘の話に、父はさぞ、がっかりしただろう。

 去年の己を振り返って自己嫌悪に陥るラシェルを尻目に、

「兎に角、自分達の立場をよく考えることだな」

 と、リサは警告を繰り返した。

「通報されようが何されようが構わないというなら、お前らの好きにすればいい」

 フフンと鼻を鳴らすリサに、チッとディルクが鋭く舌打ちする。殺すぞと脅された意趣返し……にしては強烈な反撃を食らい、彼は今にも振り上げんばかりに戦慄く利き手の拳を治めんと、リサを睨み上げた。

 けれどその態度こそが、彼女の話が真実であると証明していることに、多分本人は気付いていない。

 いつも冷静なディルクの、こんなにも余裕がない姿を見るのは初めてだった。

 何と言うか、ここに来て本当に、戦争が間近に迫っているのだという実感が湧く。

 尚も眉間にシワを寄せ、奥歯を噛み締めて悔しがる表情のディルクに、何と言って声をかけたら良いか分からずラシェルが咄嗟に名を呼ぶと、彼はハッとした顔で我に返り、溜め息を溢した。

 そして神妙な面持ちで、ラシェルを見る。

「な、に……?」

 熱の籠った、真っ直ぐな瞳で見つめられた。

 まさかこんなタイミングで、そんな目を向けられるとは思わず、戸惑う。

 逸れてしまった話を元に戻し、彼は再び口を開いた。





******


リサがラシェルを手篭めにしたい……という件。

ディルクを追い払った後に、ラシェルだけ救って自分のモノにするという下衆な手もあったのですが、それを敢えて口にしなかった(脅しに使わなかった)のは、『彼女の勘』といったところでしょうか……。

虎の尾を踏むなかれ、という心持ちだったのではと思われます(^_^;)



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