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修羅場


★74話目


……猛烈に眠い……

朝食の席につきながら、俺はともすればカクンと落ちそうな意識を必死に支えるように、濃い目のコーヒーを啜っていた。


「何や?寝不足か洸一?」

ハグハグと猫マンマをぱく付きながら、黒兵衛が尋ねてくる。


「……まぁな」

疲れた声で俺は頷いた。

いやはや……昨日の夜は参った。

俺はチラリと、隣の席に座る忍者の真咲ちゃんを見やる。

昨夜、彼女は俺と床を同じにしたいと言った。

頬を赤らめて三つ指を付きながらだ。

ま、具体的に言うと、「Hしましょう♪」と言う事だ。

盛りたい年頃の俺様ではあるが、立場的にも、また状況的にも、

「ほ、本日は体調が……さっき星になっちまったし」

等と言ってやんわりと拒絶したのだが、

「ならば警護役として……」

そう言って一晩中、俺様の寝所にはべっていたのだ。

しかも恐ろしい事に、

(ぬぅぅぅ……超見つている……)

彼女は傍らに座ったままこちらを無言で凝視しているのだ。

いくら何でも、これで眠れるわけがない。

目を瞑っていても、視線を感じる。

そんなこんなで中々に寝付けれなくて数時間……

気が付くと、忍者の真咲ちゃんは座ったまま眠りこけていたのだ。

逆にその寝顔が可愛くて、今度は悶々として来てまた眠れなく、気が付いたら既に夜が明けていたのだ。


はぁぁ……まさか毎晩、続くんじゃなかろうなぁ……

俺は疲れた溜息を吐きながら、一番遠くに座っているチェイムに視線を走らした。

うぅ~む、こっちもこっちで問題だ。

どうやって仲直りしたモンかにゃあ……

兎にも角にも、色々と話をして誤解を解かなければ、俺の精神が持たない。

が、如何せん、その話を全く聞いてくれないのだから手の施し様がないのが今の現状だ。

いやはや、参ったね、どうも……


「ところで守護天使殿」


「んにゃ?どうしたウィンウッド?」

俺はもう溜息を吐きながら、チャームポイントな口髭がボチボチと元に戻ってきた、幹部の中で最も頼りになる壮年の次席将軍を見やる。


「本日の予定ですが……如何します?」


「ん?取り敢えず予定通りって事で。工作部隊には永久陣地の設営を急がさせて、他の者は交代で臨戦体勢を維持。休息中の者は特別に飲酒も許可する。もちろん泥酔は禁止だが……重蔵爺ちゃん」


「ハッ」

情報総監である桐弥重蔵が、一流の忍びとは思えないほどの柔和な視線を向けた。


「帝国の特使とやらは……どのぐらいで着く予定だ?分かるか?」


「そうですなぁ……本日の昼過ぎ辺りには到着するのではないでしょうか?」


「思ったよりも早いなぁ。明日ぐらいかと思ったけど……そっかぁ……昼かぁ……」

俺は底で言葉を区切り、ゴクリと唾を一飲み。

「あ~……チェイム?良かったらこの後、少し散歩でも……」


「……断る」

にべもない。


「そ、そうか。そ、それじゃあ……僕チンはホリーホックの治療でもするかな」

トホホホ……こりゃダメだ。

怒気が和らぐまで、まだ少し掛かりそうじゃわい。



「よ、ホリーホック」

俺はにこやかな笑顔を作り、監視所の一角に設けたホリーホック専用サナトリウムに顔を出した。


「あ~♪」

ヌイグルミに囲まれた中で幸せそうに転がっていた彼女が、嬉しそうに駆け寄って来る。

「あ~う~……あ~♪」


「よぅ。相変わらず何言ってんのか理解できんが……今日もご機嫌だな」

俺はクリクリと彼女の頭を撫でた。


「あぅ♪」


「はは……さて、本日も治療と行こうか」


「……あ~♪」


「ん?どうしたホリーホック?」

嬉しそうな表情の彼女の視線を追うと、そこには忍者な真咲さんが佇んでいた。

「あ~う…♪」

トテトテと彼女に近付き、興味深気にジッと見つめる。


「お、お初にお目に掛ります前女王陛下。某は……」


「あ~♪」

緊張している真咲にお構い無く、ホリーホックは嬉しそうに彼女に抱き付いた。


「……いきなり懐くか。なるほどな」

そうか……忍者の真咲ちゃんは、本物の真咲姐さんにソックリだもんなぁ……

記憶の何処かでそれを憶えていて……

うむ、やはりホリーホック=優ちゃんの仮説はやはり正しかったのかも。


「あ~う~~♪」

「あ、あの……」

戸惑った表情の真咲ちゃん。


「はは……ほら、ホリーホック。真咲が困ってるじゃないか。……こっちへおいで」


「あ~♪」

トテトテと戻って来て、今度は俺の胸にポスンと体を預ける。

「にゅぅ~~♪」


「……うん。良い子だなホリーホックは」

俺はそう呟き、もう一度優しく彼女の頭を撫でた。

ふと顔を上げると、真咲ちゃんが、何だか少し優しい瞳で俺を見つめている。

「え?な、何かな?」


「……いえ。何でもありません。ただ……神代様はお優しいんだなと」


「や、優しい?俺が?」


「はい」


「そ、そっかぁ……」

うぅ~ん、優しいって……面と向かって言われると、ちょいと照れますな。

そもそも優しいなんて産まれて初めて言われたよ。

穂波なんかいつも俺を玉無し野郎って言うし、真咲姐さんだって根性無しとか軟弱者って言うんだぜ。

まどかに到ってはチキン呼ばわりだ。

なんちゅうか……この忍者の真咲ちゃんは、人を見る目があるんだなぁ……

「さて、取り敢えず治療を始めるが……真咲ちゃんや」


「ハッ。何で御座いましょうか」

後ろに控えている忍者の真咲ちゃんが、返事をする。


「今から特殊な治療を行うが……その間、俺は意識を失ってしまう。そうなると、さすがの俺様とて完全に無防備になる。だから真咲ちゃんは、しっかりと護衛を頼む。あと、何か問題が起きたら叩き起こしてくれ。……そんだけだ」


「畏まりました」


「良し。んだったら……ホリーホックの治療を始めるかねぇ」



……気が付くと、俺は巨大なホールに佇んでいた。

ホリーホックの精神世界。

時が止まったままのラビリンス。


「さてと。ここから深層意識へとやらへ向かうんだったな」

辺りを見渡し、ホールの一番奥にある重厚な扉を見つけた。

おそらく、あれが奥へ続く道らしい。


俺はその巨大な扉にゆっくりと近付き、真鍮製チックな鈍く光るノブに手を掛ける。

――ガチャガチャ…

鍵が掛ってる。


「……なぁ。どうしたら開くんだ?」

例の頭に響く謎の声に尋ねてみる。

「……」

返答は無し。

つまりチュートリアルは終了し、ここから先へは自力で行かないと駄目らしい。


「ふむ…」

鍵穴は見当たらない

扉には全く隙間も無く、まるで壁に貼り付いているようだ。


うぅ~ん……何かしらのイベント起こす。はたまたアイテムを使う。

そんな所かな?

いやはや、リアル脱出系ゲームって感じだな。

俺、その手のゲームはあんまり得意じゃないんだよなぁ……

はてさて、どうしたもんか。

取り敢えず俺は、もう一度ホールを観察してみるのだった。



――コンコン……

ノックの音に、私はハッと我に返った。

い、いけない……また少し寝ちゃった。

ピシピシと頬を両手で叩き、意識を覚醒させる。

――コンコン……


「……」

腰に下げた短剣に指を掛け、私は扉を少しだけ開けた。

「……どちら様で?」


「私だ」


そこには、漆黒の髪を靡かせた、見目麗しいパインフィールドの女王が立っていた。

優雅な物腰に屹然とした眼差し。

さすが帝国の戦姫と言われただけの事はある。

女の私でも、思わず見惚れてしまいそうになってしまう。


「こ、これは女王陛下」

扉を大きく開け、一歩下がりながら彼女を招き入れた。

「それで……一体何用でござるか?」


「……洸一はいるか?」

私の顔を一瞥し、どこか素っ気無く言った。


冷たい瞳……

どうも女王陛下は、私の事が好きではないらしい。

何となくだが、直感的に肌で感じた。

だけど別に、こちらから好かれようとは思わない。

正直に言うと、私もこの女王は好きではない。

何故なら、彼女は元は帝国の姫……我等にとっては怨敵だ。

どうして敵である筈の彼女がパインフィールドの玉座に就いているかは……詳しい事は知らない。

それにそもそも、私は神代様の直属である。

彼以外の命令を受ける気持ちは毛頭ない。

媚を売ってまで、この女王に取り入る気は毛頭ないのだ。


「神代様は……」

チラリと視線を走らせた。

女王も、釣られて顔を動かす。

その先には、たくさんのヌイグルミの中に横たわり、静かな寝息を立てている前女王、ホリーホック様と、その手を優しく握り締めて微動だにしない、神代様の姿があった。

とても優しい雰囲気に満ち溢れている。

だけど神代様は今、とても必死なのだ。

何でも、自己の精神をダイレクトに他者に送り込んで治療するという、難しく危険を伴なう魔法を行なっているとの事だった。

さすがは私のお仕えする御方だ。

だけどチェイム女王は、その事を知ってか知らぬか、いきなり神代様に近付こうとした。

もちろん私は、慌てて彼女の前に立ちはだかる。


「申し訳御座いませんが女王陛下。神代様はただいま、治療魔法を行なっている最中ですので……」


「そんな事は分かってる。ただ……少しだけ洸一と話しがしたいんだ」


「話でしたら、治療が済んでからでお願いします。神代様より、緊急時以外は声を掛けるな、との厳命されておりますから……」


「そ……そこを退け」

女王陛下はキッと私を睨みつけ、低い声でそう言った。

だが、そのような事で動じる私では無い。

「いえ、退くわけには参りませぬ」


「貴様……何様のつもりだ?私はパインフィールドの女王だぞッ!!」


「某は守護天使神代様の直属です。例え如何なる身分のお人でも、神代様以外の命令を受けるわけには参りませぬ」


「な、何だとッ!?ささ、さっきから黙って聞いてれば……」

チェイム女王は、ワナワナと震え出した。

しかし、いつ黙って聞いていたのか、私には見当がつかない。


「神代様、神代様~って……洸一の後ばかり着け回しやがって……この泥棒猫がッ!!」

いきなり女王の腕が鞭の様にしなり、その手で私の頬を打った。


――バッチーン……

乾いた音が、室内のしじまを破る様に響く。

「……」

叩かれた頬が、まるでそこだけ自分の体の一部ではないように、体温とは別の熱を帯びていた。


こ、この……

頭が真っ白になる。

生まれてこの方た、これほどの侮辱を受けたのは初めてだ。

例え相手が何様であろうと、私にも武人としての誇りがあるッ!!


「ぶ、無礼者ッ!!」

――バッチーーーンッ!!

殆ど無意識の内に、私の手が彼女の頬を大きく叩いた。

驚き、目を瞬かせる女王。

だが、キッと私を睨みつけると、

「お、王族に手を挙げるとは……この痴れ者めッ!!」

――バッチーーーンッ!!

女王陛下の手が唸る。

さらに返す刀でもう一度。

――バッチーーーンッ!!

両頬が火照る。

怒りで眩暈までしてきた。

「こ、この……」

絶対に……絶対に許さないんだからッ!!






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