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二号誕生


★第72話目


「あれ?洸一……?」

チェイムはキョトンとした表情で現れた。

背後には黒装束で、老境にさしかかった小柄な男が控えている。

どうやらこ奴が忍者集団の長らしい。

ま、今はそんなこと関係無いが……


「あれ洸一、じゃねぇーよッ!!」

俺はツカツカとチェイムに歩み寄り、吼えた。

「一体全体、どーゆーつもりだッ!!俺様の許可無く勝手に軍を動かして……作戦に支障を来たしたらどーすんだッ!!」


「だ、だって……洸一はホリーホックの……」


「だってじゃねぇーよッ!!お前のやった事は立派な軍令違反だぞ!!どれだけみんなが心配したか分かっているのかッ!!」


「ムッ……そ、そーゆー洸一だって、いつも勝手に一人で先走るじゃなかッ!!その度に私がどんな想いで……」


「話の論点をずらすな。俺が問題にしているのは、お前の独断専行による軍令違反についてだ!!」


「フンッ。何さ……いつも自分の事ばかり正当化して……だから浮気なんかしても平気な顔してるんだッ!!」


「うぉいッ!?論点どころ話そのものがずれてるよ!!第一俺は……浮気なんかしてないもん」(ちょっと弱き)


「だったらいづみって女は何なのよ?寝言で言っていたぞ。大好きだって……どういう事だ?あ?」


「そ、それはだなぁ……話せば実に長いんだが……」


「聞かないね。洸一の言う事なんか信用しないんだからッ!!」


「いやいやいや、理由を聞かせろって言っておきながら、聞かないねとか……そう言うお前の態度が、事態を悪化させてると言うか……」


「聞かないったら聞かないのッ!!洸一のマントヒヒ!!」

チェイムはそう叫んで、思いっきりソッポを向きながらズシンズシンと歩いて行ってしまった。


「お、おいおい……マントヒヒって……」


「巨大なサルだっぺ」

とミトナットウ。


「わ、分かってるわいッ!!」

ったく、真咲姐さんのヤキモチにも困ったもんだにゃあ……


「しかし、かなり根が深そうですなぁ」

ウィンウッドが、同情めいた顔でそう言った。

「こんな凄まじい痴話喧嘩は、久し振りに見ましたよ」


「……まぁな。兎にも角にも、話を聞いてくれんことにはなぁ」

俺は深く長い超トホホな溜息を吐いた。

いや、しかし堪らんよなぁ……実際。

本当に、ここは一つちょっとキツイお灸を据えてやらんとなぁ……

そんな事を考え、ポリポリと頭を掻きながら去って行くチェイムの後ろ姿を眺めていると、

「あの……誠に失礼ですが……」

と、例の忍者集団の長らしき人物が、おずおずと声を掛けてきた。

「ん?何じゃい爺さん?」


「あ、申し遅れましたが某、桐の葉一族が長、桐弥重蔵と申す者です。実は大魔王様に一つ、お願いの儀がありまして……その……お話しを聞いてもらえませんでしょうか?」


「え?嫌だけど?」

俺は速答した。

「いきなり襲って来るわ俺様の話は信用しないわ……そんな奴等の頼み事なぞ、聞く気はないで御座るよ。ニンニン」


「ご、ご無礼の段、平にご容赦をッ!!」

真咲(偽物)を始め、俺の言う事を信じなかった忍者達が、いきなりその場に膝を着いて謝った。

洸一、ちとビックリだ。

「おいおいおい、何も土下座しなくても……」


「も、申し訳ありませんでしたッ!!」

真咲姐さんのソックリさんは、は更に深々と頭を下げた。

何だか分からんけど……凄くゾクゾクする。

つい今しがた本物と喧嘩したばかりという事もあってか……

ぶっちゃけ、ちょいと気持ち良い。

あの、いつも強気で頑固で、まどかと同様、取り敢えず殴ってから話を聞くと言うスタンスの真咲姐さんが……俺に土下座を……

「うははははははは♪」


「な、なに笑ってるんだっぺか?」


「あ、いや……ちょっと感極まって……虐げられし者の優越感って言うのかな?」


「なに言ってるのか分からないっぺが……守護天使様、少し酷いっぺよぅ」

「そうですぞ。王として、話を聞くぐらいの度量は持ち合わせないと……」

「守護天使様……女の子に頭を下げさせちゃいけませんぜ」


「あ、あれぇ……」

ミトナットウ、ウィンウッドにパーソンズと、洸一、いきなり全方位から責められてしまった。

何だか凄い悪者になった気分がするぞよ。

……

僕チン、何もしてないんだけどなぁ。

「ぬぅ……分かったよぅ。取り敢えず、話だけでも聞くから……」


「本当ですか?」

顔を上げ、俺を見つめる偽者の真咲さん。


「う゛……」

その表情に、俺の心臓は大きく昂ぶった。

こ、これは……ま、まいったなぁ。

こうも似ていると……さすがに冷静に判断できなくなると言うか……

ぶっちゃけ、条件反射で何でもイエスと答えてしまいそうだぜ。

しかも『サー』を付けてな。

「お…おうよ。ま、話ぐらいは聞かんとな。うん」



俺は幹部連中と共に、監視所の一角で、桐の葉一族の長「桐弥重蔵」と言う爺さんの話を聞いていた。

表からは、ガヤガヤとパインフィールド軍による野営の準備をする音が聞こえてくる。


「……なるほどな」

俺は腕を組んだまま頷いた。

爺さんの話を要約すると、桐の葉一族と言うのは忍びの一族であり、報酬を貰って他国の動静を探るのを生業とし、このバオア山山麓に居を構えていたが、今より十数年前の帝国のパインフィールド侵攻に伴ない、近隣の独立系小領主ともども帝国に滅ぼされてしまったとの事。

で、話と言うのは、俺達に協力する代りに、一族の再興を手伝って欲しいとの事だったが……

「つまり、爺っちゃんが言いたいのは……医者は何処だ?と言うことだな?」


「何言ってるんだっぺか」

とミトナットウ。

みんなも超呆れ顔で、俺を見つめている。

やれやれ、何て魂のステージの低い奴等なんだか……


「ふ……俺様のハイソサエティなジョークが理解出来んとは……嘆かわしい事よのぅ。洸一、いと悲し」


「相変わらず脳みそに病を抱えてるんだっぺ……」

ミトナットウが重い溜息を吐いた。


「ぬぅ……前々から思っていたのだが、お前……俺の事を全ッ然、尊敬してないだろ?」


「そんな事はないっぺ。守護天使様の事は凄く尊敬しているんだっぺよぅ」


「本当か?」


「本当だっぺ」


「何故に目を逸らして言うのか、物凄く気になるんじゃが……」


「ハハ……まぁまぁ、守護天使殿も大将軍殿も……桐の葉一族の方々が、何だか困った顔をなされてますぞ」

ウィンウッドの言葉に俺は軽く肩を竦めながら爺さんの方を見やると、傍に控えている桐弥の真咲さんが、何とも言えない神妙な顔で俺を見つめていた。


むぅ……しかし見れば見るほど、真咲姐さんにソックリだよ。

しかも名前まで同じなのが、また何とも……


「それより守護天使殿。実際の所……如何なさいますか?私個人の意見としましては、ここは彼等に協力した方が良いと考えますが……」


「ほぅ……ウィンウッドは、このおっちゃん達に協力した方が得策だと言うのか?だったらその根拠は?」


「そうですなぁ……先ず第一に、これからの帝国との戦いにおいて、非常に有利な状況を作り出せると言う事ですかな。忍びである彼らの情報収集能力は侮れませんぞ。それに後方撹乱などのゲリラ活動もお手のものです」


「ふ~ん……で、その他には?」


「彼等の旧領はこのバオア山周辺で、現在、その殆どを我等が制圧しています。残りの領地を取り返すのも時間の問題です。ここは彼等に領土を割譲し、安定した補給線の確保を図るが得策かと……何しろ此方は現在、人手不足でして……」


「……なるほどね」

確かに、情報収集と輜重において人的資源を活用できるのは大きいが……


「で、どうするんだっぺか、守護天使様?」


「え?断るけど?」

俺は即答した。

「そもそもだ、頼み事をするのに、茶の一杯も出んとはどーゆーワケだ?」


「こ、これはとんだご無礼を……」

爺っちゃんはすぐさまお茶を出してくれた。

もちろん、お茶菓子付きでだ。


「守護天使様……結構、セコイんだっぺ」

ミトナットウが顔を顰めた。


「何を言うか。俺は社会的常識と言うものをだな……」


「で、お茶が出たんだども……どうするんだっぺか?」


「え?断るけど?」

俺はそう言って、お茶を一啜り。

うむ、熱過ぎる。

減点だ。

「そもそも情報を集めるのが忍びの一番の仕事の筈なのに、偉大な俺様の顔も知らんとはのぅ……その腕に疑問の余地があるな。仲間にしたは良いが、偽情報に躍らされるのは勘弁願いたいですからな」


「まだ根に持ってるんだっぺか。守護天使様は意外に粘着気質だっぺよぅ」


「何を言うか?情報の精度と言うのは、結構重要な事だと思うぞ」

そう俺が言うと、忍者な真咲さんがズズィッと身を乗り出し、

「そ、それに関しましては……大魔王様、否、守護天使神代様についての様々な情報が飛び交っており、また時間的余裕も無く……」

いきなり必死になって弁明しだした。

黒々とした双眸が、ヒタと俺を見据えている。

真剣な眼差しだ。

彼女は俺の知っている真咲さんではない、と心で分かっていても、こうも似ていると……無意識に恐怖……もとい、緊張してしまい、思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。

あまつさえ尿意まで催してしまう。

怒鳴られたら最後、確実に俺は漏らすね。


「ぜ、是非とも我等にお力を……祖国復興の為にどうか、どうか神代様のお力を……」


「そ、そう言われてもにゃあ」

ぬぅぅぅぅ……

真咲が俺に頭を下げている……

超懇願している……

なんか凄く新鮮だ。

ぶっちゃけ、気持ち良い。

自分がまるで神にでもなった気分だ。

「がはははははははは♪」


「い、いきなり、なに笑ってるんだっぺか?」


「あ、いや……ちょっと感動して……」


「……やっぱり脳に深刻な病があるっぺよぅ」


「ぐ…」


「守護天使様」

と、親衛隊長のパーソンズが微かに眉を顰め、太った体を揺すりながら、

「女の子がこれだけ頼んでいるんですから、一肌脱いでやるのが男ってもんじゃないですか?」

そう言った。


「うぅ~ん……それも一理ある。が、プライドを守るってのも男の本質だぞ?それに俺は一応、国を預かる身だ。情で判断するのは、ちょっとどうかと思うぞ」


「な…なるほど。確かに理よりも情を優先して物事を決定するのは……これはすいません。出過ぎた事を言いました」


「ま、言いたい事は分かるけどさぁ……」

そう言いながらチラリと忍者の真咲さんに目をやると、彼女は今にも泣き出しそうな表情で俺を黙って見つめていた。

ぐ……ぬぅぅぅ……そ、そんな悲しい顔されると……しかも顔が真咲だし……

ど、どうしよう?

幹部連中の顔を見やると、取引した方が良いんじゃね?みたいな顔をしている。

うぅ~ん……

確かに、我が軍としては戦力の増強にも繋がるけど……

ただ、独立勢力の忍者軍団だぜ?

それがいきなり仲間にしてくれと言って来て、良いですよ、って素直に応えられるか?

否だ。

正直、信用できん。

ってか、底抜けのお人好しでもない限り、普通は信用しないぞ。


「うぅ~ん……残念だけど、今回の話はちょっと……なんちゅうか、見ず知らずの相手に、いきなり連帯保証人になってくれとか言われているようなモンだし……」


「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


「あ、あっれぇ…」

何か俺、考え直せってな視線を超受けてるですけど……

幹部達からも爺ィや真咲もどきからも……

どうしよう?

これが無言の圧力ってヤツか?

「ぬ、ぬぅぅぅ……でもやっぱり、ダメだ」


「……」


あ、遂に泣いちゃったよ。

忍者の真咲ちゃん、涙がホロホロと……

うん、こりゃアカンわ。

「わ、分かった。分かったから……協力OKだから。取り敢えず、涙を拭いてくれ」

いやはや……うん、無理無理。

偽とは言え、真咲さんが涙を流したら、僕はもう全面降伏ですよ。

えぇ、どんな事でも聞くしかいないデス。


「あ、ありがとう御座いますッ!!」

真咲を始め、忍者の皆々は一斉に頭を下げた。


や、やれやれ……しょーがねぇーなぁ……


「有難う御座います、神代様」

長の爺さんは、安堵の表情で俺を見やる。

「これより我が桐の葉一族は、パインフィールド軍に全面的に協力します。……つきましては、我が孫である真咲を神代様の御側に置いて頂ければと……」


「ふへ?お側って……」


「身の回りの世話から護衛まで、何なりと」


ふ~ん……秘書みたいなものかな?

真咲にそっくりな真咲が、俺様の手下と言うか下僕に……

おおぅ、何か下克上って感じじゃね?

これぞ男の浪漫と言うか本懐と言うか……また野望に一歩近付いたじゃねぇーか。

どんな野望か知らんけど。


「うん、別に構わんよ」

俺は速答した。

と、何故か幹部連中がギョッとした顔になった。

ウィンウッドは眉を顰め、ミトナットウは困った顔で頭を掻いている。

パーソンズのおっさんだけは、何故かニヤニヤしていたが……

な、何でじゃろう?

もしかして俺、何か間違えた?


「しゅ、守護天使殿」

困った顔付きで、ウィンウッドが俺の袖を引っ張り、

「ちょっと此方へ……」


「な、なんだよぅ」


「守護天使殿……宜しいのですか?」

そう耳打ちしてきた。


「え?別に構わんと思うぞ?何か問題でもあるのか?」


「問題と言うか……」


「要は信頼の証に俺に質を出したって事だろ?別に良いじゃんか。丁度、パシリ……じゃなくて、秘書的な奴が欲しいと思っていたし、それが可愛い女の子なら尚更だ」


「や、何と言うか……妙な所で疎いですな、守護天使殿は。良いですか?確かに外交上、信用を得る為に人質を出すと言う事はあります。が、今の長の言葉は……その……娘を守護天使殿の側女にしてくれと言う意味ですぞ?」


「……え?」


「やはりお分かりになっていなかったようで……」


「マジか?側女って……側室?お妾?二号さん?って意味だよね?ハーレム要員って事だよね?」


「そうですが……」


「……また一歩、野望に近付いた」


「何を言うてるんですか?」

ウィンウッドはガックリと項垂れ、疲れたように首を振った。


「え?なんでだよぅ……」


「何と言うか……守護天使殿も男ですから、気持ちは分かりますが。ですが……これは下手をすれば……いや、間違いなく不和の種となりますぞ」


「ん?言ってる意味が分からん。もう少し優しく説明してくれ」


「ですから……チェイム殿下、いやチェイム女王陛下の事ですよ。喧嘩の真っ最中と言うのに、そこへいきなり側女を連れて行ったら……間違いなく、陛下は激怒なされますよ?いや、激怒だけならともかく、先程のあの様子では……」


「……」


「守護天使殿?」


「……おい、どうしてくれんだよ。今の言葉でオシッコが漏れちゃったじゃねぇーか」

しかも大まで少し出た。

いきなり号泣モンですよ。

「しかしそっかぁ……すっかり忘れてた」


「忘れていてどうするんですか……」


「そんなに呆れるな。ともかく、残念だがこの話は断ろう。だって俺、まだ星になりたくはねぇーし」

俺はそう言って少し乱暴に頭を掻きながら、

「あ~……長の爺っちゃんよぅ。実はその……」


「いやはや、これで我が桐弥家も安泰ですじゃ」

爺さんは、まるで恵比寿様のような超ほがらかな顔を俺に向けて来た。


ぬ、ぬぅ……

「いや、だから俺は……も、申し訳無いと言うか……先の話はちょっと……ってか、そう言うのは、やっぱ本人の気持ちが大事と言うかさぁ……」

チラリと、俺は横目で忍者の真咲さんを窺う。

と、彼女は微かに頬を赤らめながら、

「私は……別に構いません」

そう言った。

「誠心誠意、守護天使……神代様にお仕えする所存です」


「あ、あらそう?」

うぅ~ん……これはまた困った事になりましたね。

断る口実が見つからないよ。

どうしよう?

「あ、いや……その、なんちゅうか……」


「御迷惑でしょうか?」


「え?いや……そんな事は無いけど……」

助けを求めるように、俺は幹部連中へと視線を向け、

「ど、どう思うウィンウッド?」


「え?あ、いやそれは……桐の葉一族と誼を通じるのは良い事だとは思いますが、ただ……だ、大将軍殿はどう思われますかな?」

「ふへ?ワシだっぺか?あ~……ワシはゴブリンやし……親衛隊長はどう思うっぺか?」

「面白そうだから良いんじゃないですか?そうでしょ、ウィンウッド殿?」

「あ、あ~……そうだな。い、良い事だと思いますぞ、守護天使殿」


「う、うぉい……お前等ってヤツは……」

どうしよう?

話が勝手に進んで完結してしまった。

爺さんも真咲も安堵した顔をしているし……

こうなったらもう、なるようになれだ。

チェイムも、理由わけを話せば分かってくれる筈だ。

……

話す前に撲殺されそうな気がするけどな。










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