ニューカマー
★第71話目
それは灰色に彩られたロンド。
空虚なこの世界に確立された無機質な存在。
失われた時の中にある想いの形。
「……」
扉の向うは、大きなホールだった。
その中央に、ゴブリンやオーク、その他のモンスターに混じって、ウィンウッドやパーソンズ、マリオットの爺さんが手を繋ぎ、輪になっていた。
その中心には、優雅に躍るホリーホック。
そしてその手を取っている俺様。
いまにも動き出しそうなそれらの像が、整然と屹立していた。
「……なんてこったい」
気が付くと、俺は無意識の内に瞳が潤んでいた。
今にも頬を伝って落ちそうだ。
『大魔王様』
優しく俺の名を呼ぶ、彼女の笑顔が過る。
どうする……どうやったら、ホリーホックを元に戻す事が出来るんだ……
《止まった時を戻すには、何かきっかけを与えてやればいい。それだけの事だ》
「きっかけ?」
《……》
「えッ!?いきなり無視って……ちちちょっと……おい、答えてくれよ」
《このまま彼女を戻すのは簡単だが、ここは先へ進むべきだ》
「ふへ?先って……?」
《彼女の記憶の奥底……現在の記憶を飛び越し、前世の記憶を確認するのだ》
「……それって……もしかしてやっぱり、ホリーホックが優ちゃんだと言う……事ですかい?」
《……》
「あ、そこは答えてくれないんですね」
って言うか俺、既に謎の声に馴染んじゃってるよ……
当たり前のように問い掛けているし。
うぅ~ん……色んな意味で大丈夫かなぁ、俺。
「ふむ……しかしそっかぁ……なるほどね」
ホリーホックを元に戻し、彼女に前世の事を尋ねたり何だりしているよりは、今ここで直接記憶を呼び覚ました方が手っ取り早い。
だが……どうやってだ?
《深層意識……記憶の底まで沈み、前世の記憶を引き上げる。それがこの世界の時の流れに余分な負荷を与えず、且つ迅速に対処できる方法だ》
「な、何やよく分かりませんが……取り敢えず先に進みますか。ホールの奥に扉とか見えるし」
《……いや、どうやら今日はここまでの様だな。耳を澄ましてみろ。迎えが来たようだ》
「迎え?」
俺は言われた通り耳を澄ますと、
『守護天使様ぁぁぁ』
ミトナットウの声が、微かに聞こえた。
《どうやら現実世界で事が起こったらしい。ここから精神を切り離し、元の肉体に戻るが良い》
「そ、そうか。分かった」
俺は頭の中で自分の肉体をイメージする。
「あ、でもせっかくここまで来たのに……」
《案ずるな。また直ぐに戻って来れる》
★
「……ぬぉッ!?」
水面下から急速に浮かび上がるような浮遊感の後、俺は重力の衝撃をまともに受けたかの様に、顔面から床に突っ伏してしまった。
「あ、あ痛たたたたたたた……」
「守護天使様!?だだだ大丈夫だっぺか?」
ミトナットウが肩を揺する。
「た、ただいまナリよ」
俺はやたら重い身体を引き起こし、大きく伸びを一回。
馬車の中は、外から差し込む夕日に朱に染まっていた。
「お、おいおいおい……もう夕方かよ」
「夕方どころか、もう目的地に着いたんやで。いま斥候を出しとる所や」
黒兵衛が大きな欠伸をしながらそう言った。
「しっかし驚いたで。自分、いきなり彫像のように動かなくなるんやで。ワテ死んだかと思うたわい」
「勝手に殺すな。俺様はチューリップな心の旅に出ていたんだからな」
「それより、どやったんや?ホリーホックの姉ちゃん、元に戻るんか?」
「うむ。その事だが……」
と、俺が口を開くと同時に、馬車の扉が慌しくノックされた。
「はいはい。すぐに出るんだっぺよぅ」
どこぞのお母さんみたいに言いながら、ミトナットウが扉を開けると
「守護天使殿ーーーッ!!」
いきなりウィンウッドが、雄叫びを上げながら転がり込んできた。
髭のオッサン、何だか知らんけど大暴れである。
しかもあまりな大音量の為か、眠っていたホーリホックが目を覚まし、
「うぅ……ヒック……ヒックヒック……」
ぐずり出してしまった。
馬車の中はいきなりパニックだ。
「だぁーーーッ!!落ち付けウィンウッド。ホリーホックも泣くな」
「それどころじゃないんですよッ!!」
「ヒックヒック……うぅぅ……うわぁぁぁぁんッ!!」
「あ、あ~あ~……お、落ち着くだよ、女王様。黒兵衛殿を尻尾を掴んで……振り回しちゃダメだっぺ」
「おおお、おい、千切れてまうで……や、ホンマに。少し落ち着けや姉ちゃん」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「……」
だ、誰か助けて……
★
「と、ところで……何が大変なんだよ?お○ンチンが大きくならなくなったとかか?」
俺は鼻を啜ってぐずっているホリーホックの頭を撫でながら、フガフガと鼻息も荒いウィンウッドに尋ねた。
「い、言ってる意味が解りかねますが……実はチェイム殿下が……」
「は?チェイム?チェイムがどうかしたのか?」
まさか……遂に無関係の人間を殺めてしまったとか……
「その……斥候を出そうとしましたところ、威力偵察を行なうとか言って……半個中隊を率いて監視所の方へ向かわれてしまったのです」
「はぁ?あのバカ……勝手に軍を動かしたのか?」
俺様の許可無く軍事行動とは……これは軍法会議ものですぞ。
もう、3日間の独房入りでは済まされない問題だぞよ。
「し、しかも……既に小1時間が経とうとしてますが、未だ連絡が……」
「……ったく、先走りやがって……」
「どないするんや洸一?」
と黒兵衛。
ホリーホックに尻尾を掴まれ、かなり疲れた顔をしている。
「どうするもこうするも、俺様が行かなきゃ話にならんだろうが……」
全く、普段はそんな身勝手な事はしないのに……
やっぱ喧嘩の影響かな?
しかしだ、それでも部下達の命にも関わってるいるし、何より作戦と言うものがある。
勝手な行動が、後の戦略に悪影響を及ぼす事だってあるのだ。
むぅ……ここは一つ、キツイお灸を据えてやらねばな。
旧帝国陸軍張りの鉄拳制裁だ。
泣いて馬謖を切っちゃうのだ。
……
出来るかどうか分からんし、逆に俺がブン殴られそうな気もするが……
「ともかく、俺が行って連れ戻してくる。ウィンウッド達は最悪の場合に備えて臨戦態勢のまま待機。いつでも軍が展開できるようにしておいてくれ」
★
細い獣道を、俺はズンズンと肩を怒らせ威風堂々と言った感じで突き進んでいた。
陽気に歌だって口ずさんじゃうよ。
【漢だらけのエレジー♪】
(神代洸一・行軍マーチ)
男に生まれたからには漢になりたい
なりたいったらありゃしない
流れる星に願っちゃうぜ
だけど手首に刻んだ躊躇い傷が痛々しい
不健康な生活態度はワシが許さん
見知らぬ人にそう言っちゃう漢になりたい
ゼウスの粋な計らいで
漢の星座になるのが本望だ
「っと、よく分からん歌を唄ってたら着いたな」
身を屈め、木々の間に隠れながら周囲を観察。
件の監視所は、山頂の少し開けた場所に建っていた。
だが、想像していたものとは大分に違っていた。
監視所というより、板を張り合わせただけの簡素な山小屋だ。
ワンダーでホーゲルなアルピニストが、山男のバラードを口ずさみながら出て来てもおかしくない雰囲気だ。
……なるほど。造りはアレだが、監視所と言う事だけあって、立地的には申し分ないな。
周りより一段高い所にあるそれは、敵の動きを監視するには最適の場所と言うよう。
しかし……部隊が展開するには、ちと手狭だなぁ……
取り敢えず俺は、精神を集中し気配を探る。
……人の気配は……あれれれ?無いぞ?
敵の気配は全く無し。
それにチェイム達も先行している筈なのだが……
「むぅ……どういう事だ?蛻の殻ってのは想定外だったぞ?」
剣の柄に指を掛けながら、ソロリソロリとその監視所に近付く。
と、突然、
「――動くな」
背後から短い恫喝。
それと同時に、首筋に冷たい物が当てられた。
「動けば殺す」
低く鷹揚のない冷たい声。
しかしそれは紛れも無く、女の声だ。
声色からして美人と見たね。
「な、何かなぁ?あっしはただの、山菜を取りにきた百姓でやんすが……ちなみに名前は呉作です」
俺は恐る恐る振り返ろうとするが、
「動くなと言った」
「ハ、ハイですぅ」
うぅ~む……敵……かな?
いや、敵なら何も言わずに殺しに掛かって来ると思うが……
「あ、あのぅ……オイラに何か御用でしょうか?テヘヘヘヘ」
「貴様……何処の手の者だ?名前は?」
「え、え~とですねぇ」
うぅ~む、何て高飛車な態度なんでしょうか。
ここは一つ、現代社会の常識ってのを教えてやらねばな。
「あのですねぇ……人に名前を聞く時は、先ず最初に自分から名乗るもんだと、道徳の時間で教わりませんでしたか?ちなみに俺の名前は呉作ですが……」
「……ふざけているのか?」
「め、滅相もない。ただ、ちょいと社会のルールとやらを覚えるのには良い機会なのではなかろうかと思いまして……」
言うや俺は念を篭めた。
――動くなッ――
剣が瞬き、首筋に当てられた白刃が微かに震えた。
「さてと、今度は僕チンが尋ねる番だな」
俺はゆっくりと振り返る。
するとそこに居たのは……
★
――洸一の馬鹿ッ!!
チェイムの治療に託けて……
そんなに私と一緒にいるのが嫌なのかッ!!
……
そりゃ、少しは怒り過ぎたかなぁ……と思うけど……
でも、浮気は浮気だ。
どんな理由があろうと、百回謝るまで許してあげないんだからなッ!!
私は怒りに身を任せ、獣道をズンズンと監視所目指して進んでいた。
半個中隊、約80名がお供だ。
「陛下。間もなく監視所が見えてきますが……この辺りで斥候を出しますか?」
部下の一人がそう声を掛けて来た。
「……そうだな。取り敢えず……」
そう口を開き掛けた瞬間、
「――動くな」
いきなり背後から、首筋に冷たい物を当てられた。
――なッ!?
見ると他の兵士達も同様だ。
黒尽くめの者達に、短刀を当てられている。
バカな……僅かな気配も見せずにこの私の背後を取るとは……何者だ?
「動けば殺す」
この殺気……本気のようだな。
「……分かった」
「ふ……ならば先ずは名前を聞こうか」
私を知らないのか?
と、言う事は……帝国の者ではないのか?
「……新生パインフィールド国第2代女王、チェイム・ヴェリテ・エヴァヌイッスマン・ド・ディラージュ・ヴォン・パインフィールドだ」
★
――ま、真咲しゃん?
目の前に居たのは、妙に黒尽くめの、何だかハリウッド映画に出てきそうなインチキ忍者だった。
しかもそのお顔は紛れもなく、二荒さん家の真咲さん。
この世界のチェイムではなく、元の世界の真咲姐さんにそっくりだったのだ。
い、いやはや……
まどかのソックリさんの次は真咲のソックリさんが出て来るとは……
実にまぁ、驚きの世界ですなぁ。
取り敢えず俺は、目の前で動けなくなっている忍者な真咲さんの口だけは動けるようにした。
「さて、取り敢えず名を聞こうか?」
「……」
「……」
シカトされた。
「え、え~と……君は何で僕チンを襲ったんだい?」
今度は優しく尋ねてみる。
「……」
「……」
またもやシカトされた。
ガン無視である。
洸一、ちょいとビックリだ。
うぅ~む……困りましたな。っと、そう言えば……
「おい女忍者。俺様の前に中隊程度の軍がここに来たと思うんだが……アイツ等をどうした?」
もしもチェイムに何かあったら……
申し訳ないけど、問答無用で殺しちゃうよ。
「……お前……パインフィールド軍か」
真咲(偽物)は、呟くように言った。
顔も似ているが、声もまた同じだ。
「質問しているのはミーだが……まぁ良いや。俺様は当然、パインフィールドに所属する男よ」
「そ、そうか。それは悪かった。てっきり帝国の偵察兵かと思った」
くの一な真咲姐さんはそう言って詫びを入れるが、
「某は桐の葉一族を束ねる、桐弥家の真咲と言う。パインフィールド軍にお願いの儀があってここに居るのだ。……許せ」
何だかやけにビッグな態度だった。
「真咲って……名前まで同じかよ」
僕チン、ドキドキだぞよ。
「……?」
「あ、いや……こっちの事だ。それよりお前……帝国軍ではないのだな?」
「もちろんだ。どちらかと言うと、そなた達パインフィールドと志を同じくする者と理解してもらいたい。それと……そなたの前に来た女王陛下は、あの監視所の中で我等が長と話をしている所だ」
「そ、そうか」
良かった、真咲(本物)は無事か。
「ってか、兵達の気配を感じないが……」
「女王陛下の命により、既に下山している筈だが……」
「なるほど」
ふむ、行き違ったかな?
「っと、だったら魔法を解いてやんねぇーとな」
俺はゆっくり念じた。
もちろん、この女の話を完全に信用したワケでは無い。
俺はそこまでお人好しではない。
いつでも反撃できる準備は整えてあるのだ。
「……っと」
女の体が微かに揺れた。
俺は半歩下がり、腰に下げた剣の柄を掴む。
「……用心深いんだな」
偽真咲は目を細め苦笑した。
「まぁな。出会いが出会いだけに、話だけを鵜呑みにする事は出来んからな」
今まで穂波とか智香とかのどか先輩に散々騙されてきた俺様は、他人の言う事を簡単には信用しないのだ。
「それより、チェイムの所へ案内してくれ。あいつの無事を確認するまで、俺はあんたを信用しないぜ」
「……自国の女王陛下を呼び捨てるとは……そなた本当にパインフィールド軍か?」
女の目が更に細くなった。
どうやら彼女も、俺様を信用してないらしい。
「あん?呼び捨てって……そりゃあ俺様が、パインフィールドの実質的指導者だからな」
しかもチェイムは俺様の彼女なのだ。
現在喧嘩の真っ最中だがね。
★
「実質的指導者?」
桐弥真咲さん(推定17歳)は、訝しげな表情で俺を見返した。
明らかに疑惑の瞳だ。
「お、おうよ。指導者と言うより主席様かな。ま、何にせよ……凄く偉いのだ」
「偉い?偉いとは……まさか……そなたが大魔王とか?」
「ピンポピポポピンポーン♪その通りッ!!正解したので特別に5点をやろう」
「……」
「大魔王にしてパインフィールドの守護天使。姓は神代、名は洸一。人呼んで2年B組の白い悪魔。別名《呉作》とは、ズバリ俺様のことよぅ」
「ふ……馬鹿なことを。何を言い出すかと思えば……」
真咲(海賊版)は苦笑した。
「某の伝え聞いた所によれば、大魔王とやらは一見すると黒猫みたいだと聞いたが」
「はへ?あ~……それはかなり間違った情報だな」
「間違い?」
「まぁな。黒猫は確かにいるが、あれは俺様の友達兼使い魔だ。例えて言うなら、キャラメルコーンの中のピーナッツみたいな存在だと思えば良い」
「???」
「しっかし、あれを大魔王とか……忍者はもうちょっと、情報収集能力に長けているモンだと思ったが……ま、何にせよ、百聞は一見にしかずと言うではないか。意味は知らんけど。とにかく、部下達を呼ぶからチェイムの所へ連れて行ってくれ」
そう言って俺は、剣を片手に念じた。
<こちらホークウィンドゥ、こちらホークウィンドゥ。ブラッククロウ、応答せよ>
《……あん?この声は洸一か?》
<おうよ。偉大でちょっぴりシャイな俺様よぅ>
《どないしたん?チェイムの姉ちゃん達は無事なんか?》
<うむ。その事だが……何でも桐の葉一族と言う妙な輩が居てなぁ。話し合いがどうとか言ってるんだが……>
《桐の葉一族?何やそら?》
<知らん。ま、牙一族ほど悪そうではなさそうだけど……とにかく幹部連中と親衛隊を引き連れてここまで上がって来てくれ>
《分かった。今からそっちへ行くわ》
「さて、もう少ししたら、俺の部下達が来るからな。それまで取り敢えず話でもしていようではないか」
そう言って俺は、その場に腰を下ろした。
「どうした?そんな所で突っ立ててもしょうがねぇーだろ?」
「……」
忍びな真咲は、その場にゆっくりと座る。
もちろん、視線は俺を凝視したままだ。
うぅ~ん、ソックリさんと分かっていても、真咲に見つめられると、無意識にビビっ……もとい、緊張しちゃうにゃあ……
「え、え~と……そう言えば、パインフィールド軍に何かお願いがあるって言ってたけど……お願いってなんだい?」
「……後で話す」
キッパリと拒絶された。
「私はまだお前を信用していない。お前が何者であるかを見定めてから話す」
「あ、あらそう。ま、どーでも良いけどねぇ……」
うぅ~む、俺様ってそんなに信用のない顔付きしてんのかなぁ?
ま、話を聞いても、今の所は受ける気は無いがね。
「そ、そう言えば、そんな格好で暑くないかい?陽も落ちてきたとは言え、全身黒尽くめだし……」
「……別に」
「あぅ。そ、そうでしゅか」
おおぅ、会話が続かないのぅ……
昔から俺は、沈黙というのが苦手なのだが……困ったな。
「あ、あのさぁ……桐の葉一族って言うのは、何なワケ?忍者の一族?それともイベントスタッフ?」
「……忍びの一族だ。情報を集め、それを売るのを生業にしている。もちろんそれだけではなく、要人暗殺から傭兵までこなす」
そう言ってから真咲さんは、少しだけ可笑しそうに笑った。
「しかし、良く私が忍びの者だと分かったな」
「……」
そらアンタ、そんな格好していれば誰だって分かるだろうに……
映画村だってこんなにガチな奴はいないぞ。
「しかし忍者ちゃんかぁ」
「……」
「うぅ~む……」
実にまぁ、コスプレっていると言うか、改めて見ると萌えますなぁ……
……
元の世界に戻ったら、真咲さんにその格好をさせてみるのも面白いかもしれんなぁ。
等と、そんな下らない事を考えていると、不意に脳内に警告音が鳴り響いた。
万が一に備え、全方向動態監視レーダー魔法を作動させていたのだ。
さすが俺様、卒の無い行動だ。
卒の意味が分からんが……
「おい、俺の背後にいる奴。それで隠れているつもりか?さっさと出て来んかい」
「……」
真咲のソックリさんが、少しだけ驚いた顔で俺を見つめた。
「ん?どうした?そこに居るのは分かってるんだぞ」
「……出て来い、みんな」
忍者の真咲がそう言うと、ガサッと木々の掠れる音と共に、黒尽くめの者達がゆっくりとその姿を現わした。
おろ?五人も居たのか……
「どうしたお前達?」
「いえ。お帰りが遅いので心配に……」
黒尽くめの一人がそう言った。
残念ながら男だ。
くの一だったら良かったのになぁ……
★
「お仲間さんってワケか」
俺は佇む忍者共を見渡しながら呟いた。
「そうだ。皆、某の部下だ」
真咲さん(忍者)は頷き、
「で、女王陛下は如何致しておる?」
俺を取り囲む様に立っている者達にそう言った。
「ただいま長が口説いている所です」
「く、口説く?」
おいおい、口説くって……ここに来てまさかのNTR展開?
「おい。その長とやらは、チェイムに何を言ってやがるんだ?もしもナンパな台詞を並べ立てていやがったら……この俺様が帝国の前に無間地獄に叩き落すぞ」
「……誤解するな、神代とやら」
真咲が静かにそう言った。
「長は我等の願いを聞いてくれる様に、頼んでいるだけだ」
「ふ……良く分からんが、ともかくチェイムをここへ連れて来い。だいたいあの腕力女に何を頼むっちゅーねん。決定権を持つのは俺だぞ」
何故なら俺が主席様だからだ。
「……真咲様。この男、何者ですか?」
と下っ端一号。
何だか知らんが、悲しいくらいに無礼である。
「さぁな。パインフィールド軍だと言い張ってるが、どうにも分からぬ。ただの気狂いやも知れぬ」
う、うぉぅ……キ印扱いされちったよ。
もう泣きそうですよ、僕。
「あ、あのなぁ~……だから俺様が大魔王だと言ってるだろーが。そこはかとなく漂うこの気品溢れた風貌を見て何とも思わんのか?」
「……真咲様。何者か此方へ向かってくる気配が……」
「う、うわ……聞いてねぇ」
「帝国兵か?」
「おいおいおい、マジでスルーですか?_」
ちくしょう……大魔王な俺様が無視されるなんて……
どんな願い事か分からんが、もう絶対に聞いてやらない事に決定だ。
「いえ。どうやらパインフィールド軍のようです」
下っ端がそう言うと同時に、ガチャガチャと鎧の音をなびかせながら、ウィンウッドとミトナットウ、それにパーソンズ率いる親衛隊の面々が、生い茂った叢を掻き分け顔を出した。
「む……その装束は……忍びの者。桐の葉一族か」
ウィンウッドは目を細め、ゆっくりと剣に腕を伸ばすが
「っと、守護天使殿。御無事でしたか」
俺の顔を見て、ホッと溜息を吐いた。
「う、うわぁぁぁーーーーん、ウィンウッドゥゥゥゥ。こいつら僕チンを信用しないんだよぅ」
俺は髭の次席将軍の袖を掴み、涙を流しながら訴えてやった。
「クスンクスン、僕ちゃん大魔王なのにぃ……戦前戦後を通じて、こんな屈辱を受けたのは初めてだよぅ」
「……頭でも打ったんだっぺか?」
何故か悲しそうにミトナットウ。
「いきなり失礼だな、チミは。今のはちょっぴり拗ねた少年を演じてみただけだ。それより黒兵衛はどうしたんだ?どっかに可愛い雌猫でも見つけたんか?」
「守護天使様じゃあるまいし……黒兵衛殿はホリーホック様の面倒を見ておられるんだっぺよぅ。ま、正確に言うと、ホリーホック様に掴まって逃げる事が出来ない状態なんだっぺが……」
「そ、そうか。なら仕方ないな」
俺は頷き、驚きの表情を浮かべている忍者どもを軽く睨みつけた。
「さて、もう一度言うぞ。チェイムをここへ連れて来い。話しはそれからだ」




