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心の旅


★第70話目


薄く立ち込める山間地帯特有の靄の中、微かに触れ合う鎧の音と馬の嘶きを響かせ、パインフィールド軍約四千は、粛々と帝国の南端に位置するバオア山に向けて行軍していた。

この地は帝国の南方を守る要衝であり、ここが陥落すれば帝都までの道を防ぐものは存在しない。

まさに、帝国にとっての最終防衛ラインとも言えるべき場所であった。


「……で、そのバオア山の守備って言うのは、どうなってるんだ?砦とかがあるのか?」

移動指揮所とも言える巨大な馬車の中で、俺はテーブルに広げた地図に視線を落としながら居並んだ幹部達に質問した。


「基本的には、小さな監視所があるだけです」

ピッケンズ男爵が速答した。

「帝国の南を守る最後の要衝とは言っても……本来、その任は城砦都市カーレ(現パインフィールド城)が担っていましたからねぇ。まさか帝国も、あの城砦が陥落するとは想像もしていなかったのでしょう」


「……なるほど。だったら簡単に占拠出来そうだな。で、後どれぐらいで着くんだ?」


「そうですなぁ……」

と、顎に手を掛けウィンウッド。

「この行軍速度ですと……恐らく、今夕刻には到着できると思いますが……帝国にとってもこの地は最後の防衛線ですからな。果たしてどのくらいの部隊がいるか……」


「斥候は?」


「まだ戻らないっぺ」

ミトナットウが顔を顰めながら言う。


「……そうか。ふむ……地図を見ると、このバオア山監視所って言うのは、帝都とパインフィールドのほぼ中央に位置するな。となると、帝国からの増援隊が出て来るとしても……その到着も、俺達と同じ頃になるんじゃねぇーか?」


「うぅ~ん……確かにそうですが、援軍が無くても、恐らく兵力はそれなりに揃っていると予想できますが……」

ウィンウッドが唸る。

ピッケンズ男爵も小難しい顔をしていた。

「帝国第三軍の敗走。それから帝都へ連絡が行き、部隊を編成し出撃……この場合は、確かにある程度時間も掛かると思います。が、もし最初からある程度の予備兵力をバオア山に配置している場合は……」

「ウィンウッドの言う通り、後方部隊が待機している可能性は高いですな。それに退却した第三軍が恐らく合流しているでしょう」


「あれほど恐怖を与えたのに、まだ闘えるとは思えんが……」


「どうですかな。一般兵はそうでも、将校はそう考えないかも知れませんぞ?」


「……なるほど。玉砕せよってヤツかな?ふむ……有り得るな」

俺はフンッと鼻を鳴らし、

「ま、どちらにしろ、この俺が陣頭に立ってやるんだ。負ける筈はないな」

エッヘンと言った感じで胸を張りそう言うが、それまで黙っていたチェイムは眉を顰めながら

「……どうだか……」

と、ソッポを向きながら呟いた。

まだまだご機嫌は、かなり斜めの様だ。


「な、なんだよぅ……」


「フンッ。あまり自分の力を過信するなと言ってるんだ」


「……そうかいそうかい。そりゃ悪う御座いましたねぇ」


「……」

チェイムの眉が急カーブを描いた。

物凄く怖い。

尿道が緩んで、何か出ちゃいそうだ。

……

既に出ているのは内緒だが。


「あ゛~……そろそろお昼にするっぺよぅ」

ミトナットウがそそくさと俺とチェイムの間に割り込んで、にこやかにそう言った。

うむ、ナイスフォローだぞよ。


「そ、そうだな。少し早いけど、昼飯にするかな」


「それでは、この辺りで一旦軍を止め、小休止としましょう」

ウィンウッドは部下を呼んで、その旨を伝えた。

やがて馬の嘶きと共に、馬車の揺れが緩やかに止まる。

俺はそそくさと、チェイムと目を合わせないようにしながら表に飛び出した。

何時の間にか薄靄も晴れ、緑香る清々しい空気が肺に躍り込むようにして入って来る。

辺りを見渡すと、所々刷毛で塗ったような雲がひろがる蒼穹の空の下、兵達が銘々に喫飯の準備を始めていた。


「……まだまだ、仲直りは出来ないみたいやなぁ」

何時の間にか足元にいた黒兵衛が、苦笑を交えながらそう言ってきた。


「……まぁな。ったく、チェイムも少しは俺の話を聞いて欲しいよなぁ。口も聞けなきゃ、事情を説明する事も出来やしないぜ」

洸一、ちょっとだけ怒れちゃうのである。


「まぁ……そう愚痴を溢すなや。真咲の姉ちゃんも、何時までも怒ってるワケあらへんやろうから……頃合を計ってな、ちゃんと謝ったらエエねん」


「まぁ……そのつもりだけどよぅ……謝るとかさ、何か釈然としねぇーんだよなぁ」


「ん?だったらいっその事、別れたらエエやんけ」

そう言って黒兵衛は、意味深な瞳で俺様を見上げた。

「他にも女の子は仰山おるさかい……な?」


「バ、バカな事を……」

真咲姐さんと別れる?

ついこの間、結ばれたばかりだと言うのに?

うぅ~む……それは考えもしなかった。

しかし……それはそれで面白いかもしれん。

いや、別に真咲姐さんと別れたい、というワケでは決してない。

ただ、もし仮に、俺が『別れてくれ』と言ったら……彼女がどんな態度に出るか、ちょいと興味があるのだ。

洸一、ちょっぴり下衆野郎なのだ。


「ま、洸一が姉ちゃんを捨てる訳はあらへんな。その逆はあっても」


「ふ、ふん。そいつは分からんぞぅ。この俺様だって、男としてのプライドってモンがあるからのぅ」

もちろん、悪戯心と復讐心もある。

ここは一つ、真咲しゃんにお灸を据えてやるのも一興かもな。

でももし……『うん、良いよ♪』なんてアッサリ笑顔で言われちゃったら……俺、どうしよう?

土下座して『捨てないでくれぇぇぇ』と号泣すること間違いなしだぞ。



「ところで、洸一……」

青空の下、ハグハグと猫専用御飯(別名・残飯)を食っている黒兵衛が、皿から顔を上げて尋ねてきた。

俺は固パンのサンドイッチを頬張りながら振り向き、

「ん、なんだ?飯が足らんのか?」

パンを千切って皿に入れてやった。


「ホリーホックの姉ちゃん、どうして連れて来たんや?危険やないか?」


「ん?そりゃあ……治療の為だぞ」

後は目の付かない所へ放っておくと逆に心配だから……かな。


「治療って……あんなぁ」

何か言いかける黒兵衛を、俺は軽く手で制す。

「言いたい事は分かる。けど、実はやってみたい事があるんだ」


「あ?何や?まさかエロい事やないやろうなぁ。何も分からない姉ちゃんに、治療と偽ってあんな事やこんな事を……どこまで鬼畜なんや、自分」


「お前は俺をどう思っているんだ?」


「あ?ただの性欲魔神やろうが」


「やべぇ……大魔王から魔神へランクアップしちったよ。って、そうじゃねぇよ!!」


「ま、冗談はさておき、前も言うたけど、心の治療は止めとけって。お前の場合、魔力が高くても技術や知識が圧倒的に足らんのや」


「分かってる。が……ちと思い付いた治療法があってなぁ」


「治療法?なんやそれ?」


「うむ。実はな、俺の魔法でホリーホックの精神に入り込んで、内側から治療しようかと……」


「ちょ、ちょいと待てや。姉ちゃんの精神に入り込んでって……自分、アホちゃうか?」

黒兵衛は素っ頓狂な声を上げ、俺様の偉大なる脳をバカにした。

実にまぁ、無礼千万な奴腹である。

「あんなぁ洸一。精神世界っちゅーのは、広大で複雑怪奇な迷宮と同じなんやで?分かってるか?ヘタ打ったら取り込まれて確実に戻って来れんのやで?その辺のこと分かってるんかいな……」


「そ、それは知らんかった。だが……一つだけ利点もあるぞ」


「なんや?」


「彼女が本当に優ちゃんかどうか確認できる」


「……アホが考えそうな理由や」


「な、なんだと!!」


「あんなぁ……確かに、姉ちゃんの精神世界へ入れば、あの裏山の主的な姉ちゃんの記憶が見つかるかも知れへん。せやけどな、前世の記憶っちゅうのは、そない簡単に見つかるモンやあらへん。深層意識の更に奥の奥……自分自身でも認識できない領域にあるんや。それを探すなんてのは、姉ちゃんの治療云々より遥かに難しい事なんやで」


「むぅ……それでも、試しにやってみる価値はある。ホリーホックが優ちゃんだと言う確証が得られれば、この先の行動も変わって来るからな」


「……やる気に満ちたアホほど手に負えんモンはないな」

黒兵衛はそう言って疲れた溜息を吐いた。

「せやけど、少しでもヤバいと思ったら速攻で戻って来るんやで。お前にセーブ機能は付いてないんやからな」


「分かってるわい。俺もそこまで無謀じゃないわい」



約1時間の休息の後、我がパインフィールド軍は北へ進路を取りながら、一路バオア山目指しての進軍を再開した。

俺と黒兵衛とミトナットウは、他の幹部達と同乗せず、ホリーホックの馬車へと移ることにした。

もちろん、彼女の治療の為だ。

後はまぁ……チェイムと顔を会わすと気まずいからだ。


「あ~♪」

たくさんのヌイグルミに囲まれたホリーホックが、特別に誂えた馬車の中、コロコロと転がりながら遊んでいた。


う、うぅ~む……可愛いけど、ちょいと痛ましい光景じゃのぅ……


俺は大きな溜息を一つ。

するとミトナットウが、何やら同情するような顔で、

「守護天使様。そんなに気に病む事ないだっぺよぅ。喧嘩するほど仲が良いって言うっぺよ」


「……はい?喧嘩?」

何をいきなり言い出すんだ、このゴブリンは?


「勇者殿の事を考えていたんじゃないっぺか?」


「はへ?」

チェイムのこと?


「さっきも言い争いしてたっぺ。その事じゃないんだっぺか?」


「あ~……そう言えばそうだったなぁ」

俺はポリポリと頭を掻きながら、さっきとは違う意味の溜息を吐いた。

そう……昼飯を食い終わって、俺と黒兵衛がホリーホックの馬車に移ると言った時……

『……なんだ?私と一緒にいるのがそんなに嫌なのか?』

「は、はぁ?なに言ってるんですか?俺はただ……」

『ふん、聞きたくないね。洸一は嘘吐きだから』

「あ、あのなぁ……」

『うるさい。洸一なんかどっかへ行っちまえ』

「OK。んじゃホリーホックの所へ行く。誰かさんと違って素直で可愛いからな!!」

なーんて、低次元な言い争いをしてきたのだ。


「ったく……チェイムも、もう少し聞き分けがあっても良さそうなのにねぇ」


「ヤキモチを妬いている女に、何を言うても無駄やで」

ヌイグルミのようにホリーホックにギュッと抱き抱えられている黒兵衛が、したり顔で言った。

「もうちょい、ほとぼりが冷めるまで近付かん方が無難やないか」


「そうだな。話をしようにも、最初から聞く耳を持ってないからな」

そのくせ、『ちゃんと話をしろッ』とか言うのだ。

もう理不尽過ぎて、涙が出そうだ。

「ま、ホリーホックの治療もしなくちゃいけないし、暫らくは放っておくかねぇ」


「せやけど、そうすると今度は『なんで私を避けるんだッ』とか言われるんやで?」


「……目に浮かぶようだ。一体、どうすりゃ良いってんだ?」

俺は黒兵衛と顔を見合わせながら、もう一度大きな溜息を吐くのだった。



「さて、取り敢えず初見だから……先ずは軽く触診でもしてみるかな」


「お前は真顔で何をヌカしてんねん」


「冗談だ、冗談」

微かに揺れる馬車の中、黒兵衛をひっ捕まえて一人遊びに興じているホリーホックの前に、俺はゆっくりと腰を下ろした。


「あ~♪」

俺の顔を見上げ、ニコニコと屈託のない笑みを溢す元魔王。


……絶対に……俺が元通りにしてやるから……

「よぅ、ホリーホック。ご機嫌だな」


「あ~う~……あ~♪」


「……そうか。なにを言ってるのかサッパリ分からんが……元気そうで何よりだ」

笑い掛けながら俺は、彼女の柔らかい髪を撫でた。


「あぅ…」

目を細め、うっとりと言った表情。

あどけないその顔が、実に可愛い。


「さて、今からちょいと治療するから……出来れば眠ってくれるかい?」


「あ~…♪」

彼女はコクンと頷き、俺の髪をワシャワシャと弄んでくれた。

うむ、全く言葉が通じてないナリ。


「え、え~と……良い子だから、眠って欲しいにゃあ」


「あ~う~♪」


……うむ。ダメだこりゃ。

俺は軽く苦笑しながら、そっと腰の剣に手を伸ばした。

取り敢えず、ゆっくりと……まどろむ様に……


「あ~……」

剣が淡く瞬くと同時に、ホリーホックの瞼が少しづつ下がり始める。

ゆっくりと、体を前後に揺らして夢現状態。

やがてカクンと、彼女の頭が落ちた。


「――っと」

俺はそんな彼女を抱き抱え、そっとその場に横たわらした。

ゴトゴトと音を立て揺れる馬車の中、ホリーホックの静かな寝息が響く。


「守護天使様。一体、どうするんだっぺか?」

と傍らで見守っていたミトナットウが、訝しげに、俺とホリーホックを交互に見つめた。


「……なに、俺様が今から精神体となって、直接彼女の心の中に潜り込み、内側から治療するのさ」


「そんな事が出来るんだっぺか?」


「俺様の超理論によれば、出来る筈だ」


「超理論って……」

「おい。失敗する匂いしかせーへんぞ」


「お黙り。ともかく、手を拱いていてもしょーがないし、やるだけの価値はある。ただ……魔法を使ってホリーホックの精神世界に潜っている間、俺は全くの無防備状態になるからな。何かあったら直ぐに引き戻してくれよ」


「どうすれば良いんだっぺか?」

「ぶん殴ればエエやろ」


「寝た子を起こすお母さんのように優しく揺すって起こしてくれ」


「……お前は何を言うとんのや?」


「冗談だ」

俺はそう言って片手で剣を握り締め、もう片方の手をホリーホックのおでこに添えた。

……取り敢えず、精神集中……

外ではなく己の内面に集中……

それからゆっくりとホリーホックの中に……



「……ここは……どこだ?」

そこはどこかで見たような景色だった。

ただ、全てが灰色に染まっている。

しかも風の音すら無い、全くの無音の世界。

そこにある建物も、植物も、そして人間も、全てが石像で出来ているかのように、微動だにしない。

空に浮かんでいる雲さえも、まるで場末の劇場の大道具のようである。


「ぬぅ……悪夢のような景色で御座るなぁ」


《止めておけと言った筈だが……》

不意に耳元で、時折頭の中に響く謎の声が聞こえた。

いつもとは感じが違い、すぐそこで囁いているように聞こえる。


「なな、なんだ!?」

思わず辺りを見渡す。

もちろん、誰もいない。

中々に恐怖体験だ。

つ、ついに俺の幻聴も、ここまで来たか……

もう穂波を馬鹿に出来ないや。


《とは言え、これも必然か》


「ってか、俺はヤク中じゃないのに……超リアルな声なんだけど……幻聴って病気だよな?確か統合失調症とか鬱とか……び、病院へ行った方が良いのかなぁ」


《落ち着け》

妙に乾いた声が、耳元で囁く。


「……はッ!?これはもしかして……幻聴ではなく、リアル音声?となると、何か霊的な存在?」

どうしよう?

これは病院ではなく、神社へ行った方が良いのか?


《ふ……まぁ良いか。周りを見ろ》


「へ?」


《ここは現在の、彼女の心象風景だ。時が止まっているように見えるのは、彼女の心が止まっているからだ》


「心象風景…」

そう言えば……確かに見覚えのある風景だ。

俺の記憶とは多少違うものの、今見ている場所は紛れもなく、かつてホリーホックが魔王として名を馳せていた頃に住んでいた、あの廃城の中庭だ。

「つまりここは、ホリーホックの心の中と……おおぅ、気が付けば成功していたとは。さすが俺様と言った所だな」

俺はゆっくりと辺りを見渡し、取り敢えず城の中に入ってみる事にした。

朽ちかけた扉を抉じ開け、慎重に歩を進める。

冷たく、どこか淀んだ空気が肌を刺す。

「ぬぅ……なんか寂しいな。廃墟って感じだよ」

ホリーホックの以前の居城も確かにボロかったけど、それでもどこか暖かい感じがしたのだが、これは……

ヒタヒタと足音を響かせ、長い回廊を歩く。

所々に、まるで彫像のようにゴブリンやオーク達が佇んでいた。

その顔はどれも穏やかであったが、やはりどこか寂しそうだ。

「時が止まってる……か」


《そうだ。通常の精神状態ならば、ここは過去の思い出として天然色に彩られている筈の場所なのだ》


「……だろうな。なんか、凄く寂しい感じだよ……」

俺はそう独りごちり、回廊の端にある扉に手を掛けた。

そして少し力を込めると、それは音も無く簡単に開く。


確か、この先が玉座だと思ったけど……

道なりに進むと、目の前に見慣れたゴブリンが佇んでいた。

ミトナットウだ。


「あ、あれ?なんか……やけに立派でないかい?」

彼女の心の中のミトナットウは、現実よりかなり美化されていた。

なんちゅうか、後期型MKⅡと言った感じだ。

ふむ……ま、ミトナットウは親代りの存在だったからなぁ……それで記憶的に、イメージが変化したのかな?

俺はピタピタとその像を叩き、その場を後にして先に進むと、今度は虎の様に巨大な黒兵衛の像があった。

い、いやいやいや、どう見ても既に猫じゃねぇーだろ……

黒兵衛の像は巨大で勇ましく、重要文化財チックな感じだった。

「……出来は良いけど、モデルが駄猫だからなぁ……威厳が足りませんな」

しかし、黒兵衛如きがこんなに巨大な像としてホリーホックの心を占めているのなら……俺様なんか、腰から上が雲に隠れているぐらいに巨大なんだろうなぁ……

そんな事を考えながら尚も先へ進むと、大きな扉が前方を塞いでいた。

ん?この先が玉座の間だった筈だけど……こんな扉、あったっけ?

しかも重そうな金属の扉だし……

取っ手に手を掛け、力一杯押してみるが、何故かビクともしなかった。

「ふむ…」

今度は引いてみた。

が、同じように微動だにしない。

「むぅ……何故に開かないんだ?錆びてるのか?」


《それは彼女の心の奥に続く扉だからな。他者は開ける事が出来ぬ》


「なるほど。良く分からんが……取り敢えず、なるほどって感じですな」


《魔法剣を使うが良い》


「は?魔法剣?いや、ここは精神世界ですし……」

と、少々困惑した瞬間、いきなり手の平の中に、羅洸剣が握り締められていた。

お、おやまぁ……一体、どーゆー仕掛けなんでしょうかねぇ……


《その剣を使い、念じるのだ》


「へ、へぇ……分かったでゴンス」

謎の声に言われた通り、俺は剣を両手で構えて精神を集中した。

と、殺風景な辺りの風景をかき消す様に、剣が数度瞬いた。

すると固く閉ざされていた扉が、軋んだ音を立てながら微かに開いた。


《……今だ》


そう言われた瞬間、殆ど無意識に俺の体は反応した。

腕を伸ばし、僅かに開いた隙間に剣を刺し込む。

そしてそれをテコの要領で押し広げて行った。


この先が、ホリーホックの心の奥か……

一体、何があるのだろう?







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