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俺のアーマドトルーパー(泥製)


★第52話目


「どうしました陛下?」

馬の背に揺れながらボォーッと彼方を見つめているホリーホックに、パーソンズ親衛隊長が横付する。

昔取った杵柄と言うのか、ついこの間まで喫茶店のマスターをしていた男には思えない、巧みな綱捌きだ。

「……守護天使……ジンダイ殿の事をお考えですか?」

「う、うん。大魔王様、ちゃんと戻って来るかなぁ……って」

ホリーホックは俯きながら、呟くように漏らした。

「はは、心配いりませんって。あの御方は、戻って来ると言ったら必ず戻ってきます。それよりも陛下、もう少し移動速度を速めないと、敵が来る前にバオア山に到着できませんぞ」

「そ、そうか。うん、分かった」

コクンと頷き、ホリーホックは乗っている馬の横腹を蹴った。

……大魔王様……今頃、なにしてるのかなぁ……



うぅ~む、なんちゅうか……居た堪れないのぅ……


ガタゴトと揺れる馬車の中、俺は流れて行く景色を見つめつつ、頭をポリポリと掻いていた。

尻も掻いていた。

目の前では、ナッシュ老とピッケンズ男爵が御者を務めており、後ろではチェイムとご夫人二人が何やら僕的にはちと痛い話をしていた。

具体的に言うと昨夜のベッドの上での出来事の話だ。


やれやれ、どうして女性って言うのは、そう言うエッチな話が好きなのかねぇ……

や、別に男同士でもしますよ?

ただ、男と女とでは、話す内容が違うと言うか……

野郎同士なら、結構馬鹿系のエロ話だけど、女同士だと実に赤裸々だもん。

超具体的だもん。

聞いてるだけで胃が痛くなるよ。


俺は軽い溜息を吐き、前方を見やる。

広い街道のほぼ中心を駆けて行く馬車。

キャラバンだろうか、道の脇には時折大きなテントが連なっているのが見えた。


「……なぁ男爵」


「ん?なんですかな、守護天使様?」

手綱を取りながらピッケンズ。


「あ、いや……検問とかは大丈夫か?俺達は今頃、凶悪指名手配犯になってると思うんじゃが…」

普通なら厳戒態勢で、主要街道は封鎖されていてもおかしくはないぞ。


「そうですねぇ……今の所、そんな気配はありませんね」

男爵は少し考え、

「恐らく、我々がパインフィールドに向かうなんて事は、予想できないんでしょう」


「そうかなぁ?」


「普通に考えたら、これから戦が始まる場所に逃げるなんて事は、考えもしませんからね」


「むぅ……なるほど。一理あるな」

そう俺は頷くが、

「って、待てよ?だけどチェイムは、パインフィールドと結託しているって嫌疑を掛けられていたと思うんだが……逃げるとしたら、パインフィールド方面って普通は考えるんじゃね?」


「……そう言えば、そうでしたな」

ピッケンズは眉間に皺を寄せ、深く唸った。

「ですが、それらしい気配は見受けられませんが……」


「……いや、ジンダイ殿の心配通りになったのかも知れんぞ」

男爵の隣に腰掛けているナッシュ老が、目を細め、やや腰を浮かせながらそう言った。

「あそこに軍旗が乱立しておる。どうやら、軍が検問を行なってるようだぞ」


ナッシュの視線を追うと、確かに街道を少し曲がった所で無数の旗がはためいているのが見えた。

それと同時に、段々と人や荷馬車の量が増して来ていた。

どうやら通行規制も敷いている模様だ。


「これは参りました。少し迂闊でしたね。……どうします、守護天使様?」

男爵が手綱を軽く引き、緩やかに速度を落としながら尋ねてきた。


「……そうだなぁ、今更後戻りなんて出来ないから、魔法で姿でも変えるか?」


「なるほど。良い考えですが……検問と言えば、結界石を用いるのが常套ですからねぇ。魔法を使っていれば直ぐにバレると思いますよ?」


「そっか。ん~……だったら、やっぱ突っ切るしかないかなぁ」

俺は嘆息しながら答えた。


「突っ切るとは、軍の中をですか?」

ナッシュ老が驚いて振返る。

「それはちと、無謀ですぞ?」


「……確かにな」

俺はポリポリと頭を掻きながら、チラリと背後を覗った。


俺とチェイム、あと男爵の3人だけだったら、何とか自分の身を守りつつ逃げる事が出来ると思うが……ナッシュの爺さんと御婦人二人には、それは無理だろう。

最悪、人質に取られてしまう危険すらある。


「ふむ……仕方ない。ここは一つ、騒ぎでも起こしてやろうか」


「騒ぎですか?それは一体、どう言う……」

と、ピッケンズ。


「ああ。俺が何か一騒動起こしてやるからさ、その隙に男爵達は先に行っててくれ。ま、単純な陽動作戦ってヤツだ。俺はまぁ……後から追いつくから」

と、俺は笑いながら言うが、

「ならば私も付き合おう」

何時の間にか俺の横に身を乗り出してきたチェイムが、有無を言わせぬ口調で断言した。

「心配だからダメ、とかは言うなよ?私はこれでも勇者だ。一般兵など、物の数ではない」


「で、殿下」

もちろんナッシュの爺さんは渋面を作り何か言い掛けるが、彼女は手でそれを遮ぎり、

「心配するな。自分の身は自分で守れる。それに洸一が一緒なら、恐れるものは何も無い」


「や、やれやれ、しゃーないですなぁ」

俺は苦笑しながら、彼女の頭に手を置いてクリクリと撫でた。

「ま、チェイムなら確かに自分の身は守れるだろうし……ただ、余り無茶な事はするなよ?」

具体的に言うと、たくさん殺すな、って事だ。

二荒真咲の人格に影響を及ぼすと、元の世界に戻った時、非常にマズイからね。

楽しかった学園生活がガチでバトロワな世界になり兼ねんし。

そうなったら洸一、号泣モンですぞ。



「それでは守護天使様、お気をつけて。私達は騒ぎに紛れ、バオア山まで急行しますから……必ず追って来て下さいよ」

馬車を街道脇に横付けし、ピッケンズ男爵の心配そうな声に頷きながら俺とチェイムは降り立った。


「まぁ、街道は一本道で迷う事は無いと思うから、小一時間もしたら追いつくさ。ただ、この先も街道が塞がっている可能性もある。その時は当初の予定通り、裏道を通ってパインフィールドに向かってくれ。俺達は俺達で、何とか進むから待つ必要は無いぞ。ともかく、男爵達は出来るだけ全速で進んでくれ」

俺はそう言い残し、チェイムを連れてブラブラと街道を進んで行く。

爽やかに流れる風が気持ち良い。

しかし長い時間、馬車に揺られていたので、何となく半無重力状態のようなフワンフワンとした歩き心地が何とも……尻も少し痛いし。


「さて、どこで検問してるのかにゃあ」

俺は数を増して行く往来の人々に紛れ、そう呟くと、

「どうやら、直ぐ近くの様だぞ」

フード付きマントで顔を隠しているチェイムこと真咲姐さんが、小さく前方を指差した。


「……ふむ」

彼女の指先には、何列かに分かれて人や荷馬車が屯していた。

そして街道を塞ぐ様に、アーチ型の門のような物が設置されている。

「なんか、空港とかにある金属探知ゲートみたいだね」

思うに、あれが結界的な役割を果たしているのだろう。


「どうする洸一?」

小首を傾げチェイム。


「う~ん……どうしよう?やっぱ出来るだけ一般の人には迷惑は掛けたくないからねぇ。いきなり暴れたりするのも何だし……はてさて、どうしたもんかねぇ」


「洸一は、その謎の人から借りた魔法の剣で、どんな事でも出来るんだろ?」


「ん?ん~……何でもってワケじゃないと思うぞ。限界を試した事はないし。だけど、あのゲート周辺には多分、いや十中八九、結界が張ってあるだろう。しかも有効範囲がどれぐらいか分からん。そんな状況で迂闊に魔法を使うのはちょっとなぁ……取り敢えず、もう少し警備に関する情報とかが欲しいな」


「そっか……」

チェイムは顎に指を掛け、何か考えていた。

「取り敢えず、一般人を排除して、兵達の注意を向けさせなければな」


「排除って…」


「ふむ……洸一、何かゴーレムの類いとかは造れないか?いきなりそんなのが暴れ出したら、みんな逃げ出すと思うし、兵達も集まって来ると思うんだ。それにゴーレムなら一度造ってしまえば、後は自動オートだ。直接魔法を使うワケではないから、怪しまれずに済むぞ」


「ゴーレムかぁ」

魔法で動く傀儡の事か。

確かに、そんなのがいきなり現れて暴れ出したりしたら、検問どころではないと思うが……

「う~む、やった事がないからイマイチ自信が無いが……とにかく造ってみるか。人生、何事もチャレンジだ」


「そうだな。でも魔法はある意味、想像力の勝負だからな。洸一なら、どんな事でも出来ると思うぞ」


「どう言う意味かサッパリ分からんが……ま、俺は確かに想像力(妄想含む)は人一倍あるからな」

俺はそう言いながら、チェイムと連れ立って、コソコソと街道脇の叢に入って行く。

そして、そこに出来ていた水溜りの近くに腰を下ろした。

「ふむ……試しに泥人形でも造ってみるか」


「そうだな」

チェイムも何だか嬉しそうに隣に腰を下ろす。


「さて…」

俺は取り敢えず水溜り周辺の柔らかい土を集め、手でコネコネと弄り出した。

「なんか、童心が甦ってくるなぁ」

何とも言えない土の感触。

幼かった頃、雨上がりの公園でやった泥んこ遊びを思い出す。


ふむ、どうせならカッチョ良く造るか……


俺は丸めた泥団子を繋ぎ合わせ、それを人間のような形に整えて行き、ついでに色んなオプションをくっ付けていった。

チラリと隣を覗うと、チェイムも真剣な顔でコネコネと何かを造ってはいるが……それは一体なんなんだ?

取り敢えず足らしき物が6つもある。

新種の昆虫か?

はたまたデザートガンナー?

良く分からんが、中々に強そうだ。


むぅぅぅ……負けてなるものかッ!!

俺は持てる想像力と技術力をフルに使い、新型MS(謎)の開発に勤しんだ。

そして約30分後……

「で、出来たーーーッ!!」

天に向かってガッツポーズ。

「これぞ俺様専用局地戦泥型決戦兵器。その名もモンテクリスト伯(サイコミュ搭載)だ!!」

俺は全長約30センチの巨大な泥の塊に、思わず咽び泣いてしまった。

くぅぅぅぅ~……カッチョイイぜッ!!


「うん、私も出来たぞ♪」

隣に座っているチェイムも、どことなく誇らしげにそう言った。


「ほほぅ……どりどり?」

俺は彼女作の泥人形に目をやり、そして固まった。

「……邪神像?」


「し、失礼な事を言うなッ!!どこから見てもウサギじゃないか!!」


「ウ、ウサギッ!?こ、これがウサギ?しかもどこから見てもだと?」

俺はマジマジと、彼女がウサギだと言い張る泥の塊を見つめる。

どうしよう?

見ているだけで不安な気持ちになるぞ。

「……ウサギと言う名の新種の妖怪かな?」


――ボグンッ!!

腹に一発、重たい衝撃が加わった。


「まったく……洸一は目が腐ってるッ」


「あぅぅぅ……だ、だってだって、足が6本もあるぅ。この惑星のウサギじゃないよぅ」

殴られた腹を押さえながら涙目で俺。


「あ、足じゃないッ。これは耳だッ!!そしてここが足ッ」


「ふはッ!?み、耳?でもでも、ウサギにしては耳が長いような……魔法少女の飼っている謎の怪生物的な……」


「これはイングリッシュ・ロップという種類のウサギだ。名前はジョニー。これから戦場へ行くんだッ!!」


「ぬ、ぬぅ…」

うぅ~ん、真咲姐さんのセンスが、僕にはちと分からないや。

分かりたくもないけど……

「ま、まぁ良いや。取り敢えず魔法で巨大化させて、一暴れさせてみようか?」


「う、うん。なんてたって、ジョニーは無敵だからな」

何故かチェイムは自身満々にそう言うのだった。



「よ、よし。それでは……」

先ずは擬似生命を吹き込む為に、俺は羅洸剣の柄を握り締め、意識を集中してみた。


と、取り敢えず、御主人様の言う通りに動く様に……


そう念じると同時に剣は一瞬だけ瞬き、どこからか現れたのかポワッとした光の玉が二つ、俺様のモダンな泥人形とチェイムの造ったジョニー改め妖怪『泥田坊』に吸い込まれて行った。


「……ちゃ、ちゃんと動くかなぁ?」

チェイムこと真咲が、ドキドキワクワクとした表情で尋ねてきた。


「さ、さぁ?何せ初めての魔法だから、やり方が良く分からんし……」

ってか、これが動くと凄く怖いんだけどねぇ。

そんな事を考えながら、尚も意識を集中。

すると二体の泥人形は陸に打ち上げられたトドのように体を震わせ、そして、

「ブシュゥゥゥ」

ギギギと鈍い音を立て、ゆっくりと立ち上がり始めた。


「お、おぉ……カ、カッチョエエではないかい。モンテクリスト伯、大地に立つの巻だぜ」

俺様自慢のゴーレムは、地面にしっかりと両の足を着け、威風堂々たる態で屹立していた。

「う~む、中々どーして……立派じゃないですか」


あまりの完成度に満足しながら、俺はチラリとチェイムのゴーレムに目をやると、

――ズ…ズズズ……

それは何だか見た事も無い怪生物よろしく、彼女曰く「耳」まで使ってズリズリと行進していた。

何だか魔法ではなく、怨念で動いているみたいだ。


「……」


「……」


――ズズズズ…ズ……ズズ……


み、見ているだけ呪われそうだ。

間違いなく、今晩は悪夢を見るね。

「あ、え~と……これは確か、ウサギ……でしたよね?」


「あ、当たり前だろッ!!これがウサギに見えなくて何だって言うんだ!!」

チェイムを顔中を真っ赤にしながら吼えた。


「そ、そっか。俺はてっきり、ショゴスの眷族かと思ったんじゃが……クトゥルフの」


「う、うるさい。ジョニーは……ちょ、ちょっとくらい不細工なのが可愛いんだッ!!」


「ちょ、ちょっと?いや、最早ちょっと言うレベルのクリーチャーじゃないような……」


「い、いいからさっさと巨大化させろ!!時間がないんだろッ!!」

頬を膨らませ、チェイムはソッポを向いた。


「わ、分かったよぅ」

俺は苦笑を溢しながら剣を握り締める。


し、しかし……コレが巨大化したら、間違いなくパニックになるわな。

もちろんトラウマにもなるだろう。

うん、実におっかねぇよ。

「よ、よし。先ずはゆっくりと巨大化させて……それから検問所の近くで暴れさせよう」


「くれぐれも、民間人に被害は出すなよ。それと検問に近付き過ぎるのもダメだぞ」

とチェイム。

「結界内に入ってしまったら、ただの泥に戻ってしまうからな」


「分かってるって」

俺はニヤリと笑いながら精神を集中させた。

「……」


「あっ、何かムクムクとしだした……」

チェイムの声に、俺は足元の泥ゴーレムに目をやると、それらは小刻みに震えながら、まるで焼き網の上に乗せたお餅のように、プクゥ~と膨れ出した。


「よ、良し。ここじゃちょいと危ないし、何か怖いから……あっちで見ていよう」

俺は彼女の手を取り、少し離れた木陰の中に身を隠す。


「……凄く大きくなってる」

とチェイム。

聞きようによっては、少々エッチな感じだ。

ま、それはともかく、俺達のゴーレムはどう言う原理なのかはサッパリ分からんけど、淡い光に包まれながらその身を膨張させて行った。

最初はちょっと大きな墓石ぐらい。

お次は渓流に転がっていそうな巨大岩石。

そして更に大きくなり、あっと言う間に見上げるほどになっていた。

3階建てのビルぐらいはある。

もちろん、街道を通る人々は何事かと集まり出し、そして騒ぎ出した。


「よ、予想していたより大きいな。そろそろ良いんじゃないか?」

木陰に身を隠したチェイムが呟いた。


「そうだな。ギャラりーも集まったみたいだし、少し暴れさせるとするか」

そう言って俺は、再度剣に意識を集中した。








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