イベント戦?
★第53話目
阿鼻叫喚の地獄絵図。
と言う程ではないものの、いきなり現れた2体の巨大な泥ゴーレム(モンテクリスト伯とジョニー)に、街道を行き交う人々はパニックになった。
ま、そりゃそうだろう。
見た事もないような形状のゴーレム(特にジョニー)がいきなり出現し、街道を塞ぐ様にして暴れ出したのだ。
平和な日が一瞬にして、二度と思い出したくもない日に変ってしまった。
見れば小さな子供を連れた家族もいる。
願わくば、トラウマになりませんように……
俺はそう祈るだけであった。
「む、兵達も気付いたみたいだ。全く……反応が遅いな」
チェイムは検問所を指差し、軽く鼻を鳴らす。
見ると30人ぐらいの兵達が此方へ向かって駆けて来る。
「此方へ向かって来るのがあの人数だとして……思ったより、検問所に詰めている兵は多いみたいだなぁ」
「中隊規模で検問しているのかもな。しかし作戦の第一段階は成功したみたいだぞ、洸一」
彼女の言う通り、検問所周辺は逃げ惑う人々で溢れ、兵士達は人込みに紛れて身動きが取れない状況だった。
「絶賛混乱中だな。ところで男爵たちは?」
「……そこだ」
チェイムの指先には、鞭を震い馬車を疾駆させているピッケンズ男爵の姿があった。
……大丈夫かなぁ?
俺の心配を余所に、彼等の馬車は逃げ惑う人々を避ける様に街道の脇を物凄いスピードで駆けて行き、そして難無く混乱状態の検問所を突破して行った。
「フゥ~……良し。俺達も後に続こう」
チェイムの手を握り、俺。
「今なら楽に突破できる筈だ」
実際、何人かの旅人や商人は、混乱に乗じて次々と突破しているし。
「うん」
彼女が頷くと同時に、俺達は木陰から飛び出し、逃げ惑う人々の群れに紛れ込んだ。
検問所の兵士達はゴーレム相手に奮闘しているが、俺様自慢のモンテクリスト伯の前には敵ではなかった。
ちなみに、チェイム自慢のジョニーだが……
兵士達もあのズリズリとして動きが嫌なのか、誰も寄り付こうとはしない。
ある意味、敵ではない状態だ。
「そ、それにしても、凄い人波だぜ」
俺は唸った。
まるで有名神社に初詣に来たような錯覚にすら捕われる。
俺がウナギだったら、今頃左右からの圧力で空高く弾け飛んでいただろう。
「チェ、チェイム。しっかりと手を握っていろよ」
「う、うん」
「よ、よし、もうすぐゲートだ。あそこを越えたら、馬でも調達して男爵達に追いつこう」
「そ、そうだな。意外に楽な展開だったな」
チェイムはニコッと笑顔で答えた。
だがその瞬間、
―――カカッ!!
いきなり、辺りが眩い光に覆われたかと思うと、
「グォォォォォォォオ」
後方から重く響く鳴き声。
俺は慌てて背後を見やる。
「な、なんだ……?」
俺とチェイムのゴーレムを、青い光が包んでいる。
「これは……解呪魔法?いや、空間固定?」
チェイムが呟いた。
「ま、まさか……」
「お、おい真咲……じゃなかったチェイム。一体、何が……」
と言い掛け、俺は言葉を飲み込んだ。
お、俺様のモンテクリスト伯が……
青い光に包まれていた俺様の傑作である泥製ゴーレムは、物凄い高温に曝されたのか、ツヤツヤの瀬戸物状態になってその場に佇んでいた。
何だか前衛的オブジェみたいだ。
「お、俺のゴーレムが、いきなり焼き物に……」
「洸一。どうやら楽には進めそうにないぞ」
チェイムは呟くように言うと、鋭い眼差しをゲートに向けた。
「なに?」
俺も彼女の視線を追うように振り返ると、アーチ型の簡易検問所の頂上に、青いローブを羽織った女性が腕を組みながら立っているのが目に入った。
「お……おいおいおい」
思わず呆けにとられる。
長い髪に少しだけ吊り上がった目。
その人物は限りなく、まどかに瓜二つだったのだ。
★
「ま、まどか?」
俺は思わずそう口に漏らすと、
「違うッ!!」
今に噛み付きそうな勢いで、チェイムが否定した。
「アイツはまどかに似てるけど、まどかじゃない!!」
「に、似ていると言うレベルじゃないぞ。ぶっちゃけ、瓜二つなんだが……」
って言うか、本物じゃね?
「ち、違うと言ったら違うんだ!!だ、だいたい、洸一は目に頼り過ぎる。今の私が真咲に見えるか?あ?」
「む、むぅ……なるほど」
そう言えば、優ちゃんのそっくりさんもいたワケだし……ま、あの娘は小さかったけど……確かに、視覚情報だけで特定するのは駄目だな。
しかしチェイムも、何でそんなにムキになって否定するのか……
って、そりゃそうか。
思わずポンと手を叩く洸一チン。
そもそも、昨日エッチしたばかりの女の子の前で、ライバルの女の子の名前を出すのは……些かデリカシーに欠けているわな。
遅まきながら、己の迂闊さに眩暈がするよ。
まだまだ俺も修行が足らないねぇ……何の修行かサッパリ分からんが。
俺は頭を掻きながら、ゲートの上に佇む女性に視線を走らせた。
彼女は藍色のローブを身にまとい、兵士達に向かって何やら矢継ぎ早に指令を出している。
なんちゅうか、気品溢れる物腰と言うのだろうか?
いかにも良家の出身と言う感じで、雰囲気もやはりまどかに似ていた。
しかし……
「……むぅ」
「なんだ?そんなにあの女が気になるのか?」
どこか咎める様な口調。
俺は苦笑を溢し、
「へ?あぁ……違う違う」
軽く手を振った。
「見た目も雰囲気も、確かにまどかにそっくりだけど、チェイムの言う通り……やっぱ違うみたいだなと。なんちゅか、仏作って魂入れず、みたいな?ガワは似ているけど、中は別モンだな」
「だろ?」
チェイムはフフンと胸を張る。
が、不意に目を細めると、
「しかし、何で直ぐに分かったんだ?あれだけ似ていると、最後まで本人だと言い張ると思ったが」
「え?いや、その……なんちゅうか、魂に触れる何かが足りないと言うか……」
「あ?魂?ふ~ん……感覚的に分かるんだ。まどかかそうでないかが」
あれ?何かヤバい展開じゃね?
「や、チェイムさん?色々と誤解が……」
「私と出会った時は真咲だと分からなかったのに、あの女はまどかじゃないと直ぐに断定出来るんだな」
「いやいやいや……え?あれ?どっちにしろ僕ちゃん、責められるわけ?ん?何か超理不尽な……」
「黙れ浮気者」
「あ、あれぇ……こ、困ったな」
唇を尖らせソッポを向くチェイムに、ちょいと困惑気味の洸一。
いやはや、本当に女心って複雑怪奇で男の俺には分からないや。
「って言うかチェイム。もしかして、あの女を知っているのか?」
「う、うむ。ヤツは……む、洸一」
「ふにゃ?」
ふと辺りに視線を走らせると、俺とチェイムの周りに兵が集まり出していた。
どうやら目敏い兵士が、人込みに紛れている俺達を発見したようだ。
やれやれ、こりゃ戦闘は避けられんかねぇ。
★
参ったね、こりゃ……
俺はチェイムをガードするように背後に隠しながら、ざっと辺りを見渡した。
街道に佇む俺達の周りを、十重二十重に取り囲む兵士達。
数はおよそ……20から30人。
残りの兵士達は、パニックが収まりつつある一般人の誘導に勤めているようだ。
ったく、ぬっかたなぁ……
ゴーレムが無効化された時、素早く移動していれば良かったわい。
俺は短い舌打ちを一発。
すると取り囲む兵士達の中から、おそらく長であるであろう男が一歩進み出て、
「チェイム殿下。……で、ありますね?」
「……」
チェイムな真咲姐さんは、キッとその男を睨みつけるが、彼は動じず、
「貴方を、第1級国家反逆罪で逮捕します」
と、酷く冷徹な声で言った。
「……」
兵士達は無言で武器を構える。
もちろん俺は、デヘヘヘェ~と人畜無害なスマイルを浮かべ、
「えっへっへ……兵隊さん。チェイム殿下ですって?誤解ですよぅ。あっし等はただの旅人でやんす」
超テキトーに誤魔化してみる。
「大人しく、武器を捨てて投降していただきたい」
しかし兵隊の長は聞いてなかった。
ガン無視だ。
「貴方も皇族ならば、最期ぐらいは潔くお願いします」
「……ふ」
チェイムは静かに俺の背後から一歩踏み出すと、ニヤリとした笑みを浮かべ、
「勇者の称号を戴くこの私を相手に、たったこれだけの人数で捕らえる事が出来ると思うか?」
傲岸不遜とも思われる態度でそう言った。
だが、そんな彼女を嘲笑うかのように、
「その為に私が派遣されたのよ」
不意に背後から響く声。
俺は慌てて振り返ると、そこには例のまどかにクリソツな女が立っていた。
腰に手を当て、不敵な笑みを溢している。
むぅ……仕草や声までまどかに似ていやがるぜ……
だが真咲姐さんの言った通り、似ているのは外見を含めてそれだけだった。
本物のまどかの持つ雰囲気と言うかオーラと言うか……そう言ったモノが、俺と俺の魂と俺の将軍には感じられない。
茶目っ気な瞳でいつも俺を見つめていたまどか……
しかし今、目の前にいる女の瞳は、心を凍てつかせるには充分であった。
もちろん将軍も、帽子を被ってお昼寝タイムだ。
「ふん、シャーディか……」
どこか呻く様にチェイム。
「宮廷魔術師にして、帝国魔法協会きって大魔導師がわざわざ来るとはな。よほど私を捕らえたいらしい」
「フフ……久し振りね、殿下」
シャーディと呼ばれたその女性は、口元に手を当てコロコロと笑った。
「いつかとんでもない事をやらかすと思ってたけど、まさか反逆とはね。しかも婚約者と実の姉に手を上げるなんて……帝宮は大騒ぎよ」
「私は自分の身を守っただけだ」
「あらそう?でも、法を犯した事に変りはないわ」
言って彼女は、少しだけ眉根に皺を寄せ、
「でも、あんな魔法どこで憶えたの?解呪するのに、私ともあろう者がすごく手間取ったわ」
なに?この女……大魔王な俺様の掛けた魔法を解きやがったのか?
中々にやるじゃねぇーか……こりゃ少しは気を引き締めた方がエエですな。
「そうか。だったら後腐れなく、殺しておけば良かった」
チェイムはそう呟き、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべる。
うおぅ……こ、怖ぇぇぇ……
殺気がビンビンじゃんか。
やっぱ真咲より、現状は勇者チェイムの方が前面に出ている感じだなぁ。
「あら、物騒な事を」
シャーディはもう一度、コロコロと笑った。
「でもね、そう言う貴方を止める為に、この私が派遣されたの。生死は問わないって言われたけど、私と貴方の仲だもの。もちろん、闘わずに降参してくれるわよね?」
「断る」
「あらそう?だったら仕方ないわねぇ」
シャーディはフゥ~と軽く溜息を吐くや、
「せめて一瞬で殺してあげるわ」
サッと腕を振り上げた。
その掌を中心に、何やら青い光がバチバチと音を立てて放電している。
「――クッ」
腰に下げた剣に手を伸ばすチェイム。
しかしそれよりも早く、シャーディは腕を振り下ろした。
それと同時に、手の中にあった光球がチェイム目掛けて飛んでくる。
――いかんっ!?物凄い魔力を感じるッ!!
……
ごめん、嘘。
何となく言ってみたかっただけ。
「しょ、障壁結界!!」
チェイムが叫ぶと同時に、彼女の前面で光の玉は大きな爆音と共に弾けた。
「あら?私の魔球を弾くなんて、暫らく見ない内に腕を上げたわね?」
余裕の表情でシャーディ。
「……まぁな」
チェイムは笑い返すが、その表情にゆとりは無かった。
★
「……」
チェイムは剣を引き抜き、静かに構えた。
「手出しは無用よ」
クスッと笑いながら、兵士達に向かってシャーディ。
「殿下と手合わせするのは久し振りだけど、憶えていらっしゃるかしら?」
「……何がだ?私がお前を嫌っている事か?」
「私に一度も勝った事が無いってこと」
「ふん、魔法ではな」
「そうねぇ……剣では、勇者である殿下には敵わないかも。でも今まで、その剣が私に届いた事なんてあったかしら?」
「く…」
ぬ、ぬぅ……チェイムを……あの百戦練磨の真咲姐さんを精神的に追い詰めてるぜ……
あのシャーディって言う女、かなりの使い手ですな。
しかしチェイムのヤツ、あの女が嫌いなのか。
……まさかまどかに似ているからか?
「さぁ殿下。どこからでもどうぞ」
軽く手を広げ、笑みを浮かべて誘うシャーディ。
それと同時に、
「……チッ」
短い舌打ちと共に、チェイムが瞬時に間合いを詰め、下から上へと薙ぎ払う。
がしかし、
――キンッ!!
甲高い音と共に、見えない何かに剣は弾き返された。
「へぇ……さすが殿下ね。凄い速い攻撃じゃない♪」
「な、舐めるなッ!!」
剣を振り回して魔法詠唱。
「ファイヤーウォール!!」
シャーディの周りに無数の火柱が立ち昇るが、
「……ダメねぇ。精神集中がなってないわ」
指をパチンと鳴らすと同時に、それは跡形もなく立ち消えてしまった。
「く…」
「じゃ、私の番ね」
彼女がクスッと笑うと、突如無数の光の球がチェイムの周りに現れた。
「ちゃんと避けないと、死んじゃうわよ」
ヒュンヒュンと風を切り裂き、小さな光の玉がチェイムを襲う。
「チッ…」
――こ、こりゃマズイッ!?
剣と防御魔法で何とか弾き返しているものの、素早く、そして不規則な動きで、光の玉はチェイムを徐々に追い詰めて行く。
「あらあら、意外にやるわねぇ♪」
まどかのそっくりさんは腕組しながら微笑み、
「だったら、ちょっとだけスピードアップ♪」
風音が増した。
ど、どうする?俺はどうすれば良い?
闘う二人の気迫に押され、オロオロとしていた俺は、背負っている剣の柄を握り締めて精神集中。
――と、取り敢えず……チェイムを守れッ!!
その瞬間、彼女の体は眩い光に包まれ、飛び回っていた刃のような光の玉を爆音と共に猛烈な爆風で蹴散らした。
「あ、あれ?」
驚くシャーディの声。
俺はその隙を見逃さず、チェイムに駆け寄りその手を握り締めると、
「に、逃げるぞッ!!」
「え?で、でも決着が…」
「そんなん後回しだ!!俺達には時間が無いッつーの!!」
濛々と立ち込める灰色の爆煙の中、俺は強引に彼女の手を取り駆け出した。
背後からは兵士達の怒声が飛び交っている。
ったく、こんな所で足止めを食らっていたら、パインフィールドが陥落しちまうぜ……
俺は無言で、煙に巻かれている兵達の輪を突き破り、一目散に走った。
そして偶々、目の前にいた商人風の男が乗る馬を強引に奪い……もとい借り受けるや、チェイムと共に跨り検問所を突破。
――こ、怖ぇぇぇぇぇーーーッ!?
いきなりで何だが、馬に乗ってこんなに速く駆けるのは初めてだ。
予想以上に速い。
しかも股間方面がゴツゴツして猛烈に痛い。
馬が躍動する度、尻と鞍がぶつかり合って凄く痛い。
Mではない限り、これは拷問に近い。
洸一、恐怖と痛みで号泣しそうだ。
……
ま、既に泣いているんだが。
「こ、洸一ッ。敵が追っ駆けて来るぞッ!!」
俺の腰に腕を回して捕まってるチェイムが叫んだ。
「ぬ、ぬぅ……う、馬クンッ!!スピードアップだ!!」
俺は鞭が無いので剣を水平にし、それで思いっきり馬の尻方面を叩いた。
その瞬間、
「ブヒヒィィィィィーーーーンッ!!」
何をトチ狂ったのか、馬クン急ブレーキ。
俺とチェイムは物凄い勢いで前面に放り出された。
こここ、この駄馬がッ!!後で絶対、馬刺しにして食ってやるッ!!
そんな事を瞬時に誓いながら、俺は剣に向かって防御魔法を念じた。
――ボヨヨ~ン……
目の前に迫った地面が、クッションのように柔らかく俺達を受け止めてくれた。
「くっ……だ、大丈夫かチェイムッ!?」
「だ、大丈夫だ。それより行くぞッ!!」
俺の手を取り駆け出す彼女。
だが、後方から駆けて来た騎乗の兵士達に前方を塞がれ、瞬く間に取り囲まれてしまった。
「観念して下さい殿下!!」
兵の一人が叫び、矢を番える。
ち……ちくしょーーーッ!!
どうしていつもいつも、面倒に巻き込まれるんだ!!
何だか分からんけど、猛烈に腹が立ってきたぞよ。




