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『醜い私が、美しい世界に転生した』  作者: こうた


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第4話 世界が私を見る



 窓の外から、鳥の鳴き声が聞こえていた。


 ゆみえは、しばらく動けなかった。


 自分の姿。


 見知らぬ部屋。


 長い銀髪。


 尖った耳。


 そして、自分を知っているという少女。


 何もかもが現実とは思えなかった。


「ゆみえ?」


 リリアが心配そうに顔を覗き込む。


「大丈夫?」


「……うん」


 反射的に答えた。


 しかし、頭の中は混乱している。


 夢なのかもしれない。


 そう思って頬をつねった。


「痛っ……」


「何してるの?」


「夢じゃないかと思って」


 リリアは困ったように笑った。


「変なの」


 その笑顔を見て、ゆみえは少し安心した。


 少なくとも、この少女は自分に敵意を持っていない。


「リリア……」


「なに?」


「私……どうしてここにいるの?」


「昨日、森の中で倒れていたのよ」


「倒れて?」


「ええ。突然、魔力が暴走したんじゃないかって長老様が言ってた」


 魔力。


 その言葉に、ゆみえは戸惑った。


「魔力……?」


「やっぱり覚えてないのね」


 リリアはそう言って、少し悲しそうな顔をした。


「まあ、記憶が混乱することもあるわ」


 ゆみえはそれ以上聞かなかった。


 聞けば聞くほど、現実離れした話になっていく。


 それでも、一つだけ確かなことがあった。


 自分は生きている。


 死んだはずなのに。


 そして――。


 美しい身体を手に入れている。


 ゆみえはもう一度、鏡を見た。


「……本当に綺麗」


 思わず口から出た。


 リリアが笑う。


「何を今さら言ってるの?」


「え?」


「ゆみえは昔から綺麗じゃない」


「……昔から?」


「ええ」


 ゆみえは鏡を見る。


 そして、胸の奥がざわついた。


 この身体は自分のものではない。


 なのに、自分の顔として存在している。


 不思議だった。


 そして――怖かった。


 着替えを済ませ、リリアと一緒に外へ出た。


 村は、ゆみえが想像していた以上に美しかった。


 巨大な木々。


 木々の間に建てられた家。


 空中を漂う小さな光。


 遠くには巨大な滝が見える。


「……すごい」


 思わず声が漏れた。


「初めて見るわけじゃないでしょう?」


「そうだけど……」


 リリアが笑った。


「やっぱり記憶がおかしいのね」


 村を歩く。


 すると――。


 一人の男性がこちらを見た。


 目が合う。


 男性は一瞬立ち止まった。


 そして、ゆみえから目を逸らした。


 別の女性が振り返る。


 子供までこちらを見る。


「……?」


 ゆみえは不思議に思った。


 だが、すぐに気づく。


 みんなが自分を見ている。


 前世とは、まったく逆だった。


 前世のゆみえは、人と目が合うことを避けていた。


 誰かが自分を見ると、


「何か変なところがある?」


と不安になった。


 だから俯いて歩いた。


 けれど今は――。


 誰もが自分を見る。


 しかも、その目には嫌悪がない。


 驚き。


 憧れ。


 羨望。


 そんな感情が浮かんでいる。


「……なんで?」


 ゆみえが呟く。


「何が?」


「みんな……私を見てる」


 リリアは何でもないことのように答えた。


「そりゃ見るでしょう」


「どうして?」


「だって、ゆみえは綺麗だもの」


「…………」


 胸を殴られたような気がした。


 綺麗。


 その言葉を、自分に向けられたことがないわけではない。


 でも、それは社交辞令だった。


 ここでは違う。


 誰もが本気でそう思っている。


 村の広場に着く。


 一軒の店に入った。


「こんにちは」


 リリアが店主に声をかける。


 店主はゆみえを見ると、すぐに笑顔になった。


「あら!」


 さっきまで普通の表情だった店主の顔が、明らかに変わった。


「ゆみえ様ではありませんか!」


「……様?」


「お怪我はもう大丈夫ですか?」


「はい……」


「それはよかった」


 店主は商品を並べながら言った。


「今日は何をお探しですか?」


「えっと……」


 ゆみえが商品に手を伸ばす。


「こちらですか?」


「はい」


「でしたら、お代は結構です」


「え?」


「どうぞお持ちください」


「いや、でも……」


「いいんですよ」


 店主は笑った。


「美しい方には、少しくらいサービスしませんと」


 ゆみえは固まった。


 リリアが笑っている。


「ほらね」


 店を出たあと、ゆみえは黙っていた。


「どうしたの?」


「……今の」


「店主?」


「うん」


「いつものことよ」


「いつもの……?」


「美しい人には、みんな優しいの」


 その言葉を聞いた瞬間。


 前世の記憶が蘇った。


 宗教団体の老人たち。


 美しい70代女性が来た日のこと。


 みんなが彼女を囲んだ。


 笑顔を向けた。


 自分より大切そうに扱った。


 そして、自分は思った。


――結局、人は見た目で判断する。


 ゆみえは立ち止まった。


「……ここも同じなんだ」


「え?」


「なんでもない」


 歩き始める。


 しかし、その表情には複雑なものが浮かんでいた。


 前世では、自分が醜い側だった。


 だから、美しい人が優遇される世界を嫌った。


 でも今は――。


 自分が美しい側にいる。


 店主は優しくしてくれた。


 男性は振り返った。


 人々は自分を特別扱いした。


 その事実に、ゆみえは少しだけ嬉しさを感じていた。


 そして、その感情を抱いた自分に戸惑った。


「……嬉しい」


 小さく呟く。


 リリアには聞こえなかった。


「私……嬉しいんだ」


 前世では、ずっと欲しかったものだった。


 人から好意を向けられること。


 大切にされること。


 誰かに振り返ってもらうこと。


 それが、今は当たり前のように手に入る。


 ゆみえは空を見上げた。


 青い空。


 白い雲。


 そして、銀色の髪が風に揺れる。


「これが……美しい人の世界」


 初めて知った。


 そして――。


 このときのゆみえは、まだ知らなかった。


 美しさによって得られるものには、必ず代償があることを。

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