#56
リンの身体は鏡月のキスで無数の傷を癒されたのである。
あれだけの怪我も鏡月のキスで…たちどころに回復してしまったのであった。
しかし安堵する暇など無く…放たれた妖魔の言葉が鏡月の中で渦を巻いていく!
その残酷な言の葉が鏡月の穏やかで優しい心を凍りつかせるのだった。
もはや…理性など無い。
ただ…ただ…怒りに燃える鏡月の頭の中に…またもや猛々しい武者の低い声が、心を落ち着かせろとばかりに響くのであった。
『そなたには…こんな他愛もない相手如きで死んで貰う訳にはいかぬからな。
ひとつだけ助言を致そう。
一度しか言わぬ…心して聞かれよ!
そなたとリンが真に…ひとつとなれた時、さらなる覚醒め(めざめ)が待っておるであろう。
リンならば…そなたに希望の翼を与えてくれるだろう。
良いな…そなたには秘めたる力が…まだまだ…ある………そ……れ………を…』
声は小さく霞んで最後までは残念ながら聞こえなくなってしまったのであった。
一刻でも早く、さらなる力を求める鏡月は…その言葉の意味を真に理解する事なく…リンに告げたのであった。
「リンと…ひとつになりたいんだ!
妖魔に…勝つには…それしか無い。」
『……………………!!!?』
リンは驚きを隠せなかった!
『聡明な主人だとは感じていた。
しかし…だからと言って…いくらなんでも鏡月様が覚醒の方法を知っている訳は無い…それに私だけではアレは出来るものでは無いと言うのに……』
心の声が色々とざわめき立てるのであるが、どんなに思考を巡らせても行き着く先には…ひとつの答えだけしか無かったのであった!
『かしこまりました。
勝たなければ…ここでおしまいですものね。
やってみましょう。
私も妹君殿や母君殿の悲しみや憎しみを晴らしたいですから。』
リンは鏡月の右手を取って囁いた。
『私の中から…力を取り出したら…それを鏡月様のオーラと融合させて下さいませ…
そうすれば…私は鏡月様の翼となりましょう。』
鏡月はリンの言葉を噛みしめて…静かに頷いたのだった。
すると…突然リンは着物から左肩を大きく放り出すと胸元を開けて…そこから溢れ落ちそうなくらいの白く柔らかそうな乳房を見せつけた。
「………………………!!」
あまりの展開に鏡月は順応出来ずに真っ赤になって、それから目線を外して地面を見つめた。
「リン……一体…これは…!!」
リンは…戸惑う鏡月の右手をたおやかに、自らの左の乳房の上にあてがうと柔和な微笑みを浮かべて優しく言うのであった。
『………ぁん。
良いですか…
私を感じて下さいませ。
私の中の力が鏡月様に応えてくれると思います。
きっと…大丈夫です。
私は…お慕い申しておりますもの…愛しい主人の事を………んッ。』
リンが…あてがっていた鏡月の右手を左胸にグッ!と押し付けると………
…………………………
鏡月は…目まぐるしい展開に、ついていけて無かった。
ただ…頭に響く声に従い、リンに進言してみただけのハズが…そのハズが…これは何なんだ?
右手に伝わる艶かしい柔らかな滑るような感触とトクントクンと…静かに波打つリンの鼓動と肌の温もりが鏡月の頭を白くさせてしまっていた。
リンが…右手をさらに乳房へ押し付けると、ゼリーかプリンにでも腕を突っ込んだかのように…タプンと揺れて、ツプツプと肘の辺りまで…めり込んでいくのであった。
リンの身体はゲル化したようにタプタプと揺れていたのであった、まるで湖面に写る姿のような感じであった。
『ッん…………ぁ…あぅ』
リンは色っぽい喘ぎ声を上げた。
鏡月は…ますます混乱して何を言ったら良いのかが分からなくなる。
ただ…ひとつだけ理解出来るのは…ズブズブとめり込んでいく右腕と頬を朱に染めたリンの恍惚そうな表情だけだ。
《……………コツン!!》
鏡月の指先がリンの体内で何か…石か金属のような物体に触れたのであった!
『ッ……ぁん…それです!!
それを…グッと掴んで…取り出して下さいませ……
あ…ァァぅ……ん。』
リンが悶えるように身体をくねらせながら…甘い溜め息をついたのだった。
「こ…これ、リンのこれを取り出したら良いのか?」
鏡月は気恥ずかしくなりながらもリンに問い質した。
『ぁ………んんッ!』
リンは頬を上気させたまま縦に首をコクコクと振ってみせた。
意を決した鏡月が…鷲掴みにそれをリンの体内からグッと引き抜くと…リンは弓なりに身体をビクッ、ビクンと二~三度ほど快楽の電流が駆け巡ったように痙攣させ、一際、甘い吐息混じりの喘ぎ声を上げたのであった。
『ぃゃ……ぃ………ぁふゥッ………ぁん…ぁァァァァァァァァァッッ…!!!!』
鏡月が掴み出したものは…ボゥ~ッと紫煙を上げながら暗闇を照らしたのであった。
キラキラとアメジストのような大きな結晶の『それ』は蛍火みたいに明滅を繰り返していた。
鏡月がリンの方へ視線を戻すと…彼女はゆらゆらと陽炎のように…蜃気楼みたいに揺らめいた。
それは…まるでステンドグラスの美しい女神みたいに向こう側の景色が透けて見えていたのであった。
「………り、リンッ!」
鏡月は慌てて…大声を上げた。
大切な人を…また失ってしまいそうな虚無感を孤独感を感じたからかも知れなかった。
『……ッ、大丈夫…その宝玉が………私そのものですから。
死ぬ訳ではありません。
武に生きる殿方が簡単に心を乱してはなりませんよ。
さぁ、新しい力を………』
それきり…リンは煙のようにフッと消え失せてしまったのだった。
鏡月は…紫に輝く宝玉を握りしめて…キッと口を固く結び、精悍な顔つきで妖魔をギンッと睨み付けたのだった。
妖魔は楽しそうに指をさして笑い出した。
『………んん?
おや…おや、おやぁ?
何だ…念神体が消えていくぞ。
アハハハハハハッ!
呆気ないなぁ。
チッ…だが、しかし楽しめなかった。
結局は…何故だか分からないが全快しやがったアイツだけになっちまいやがった。』
何やら興ざめしたとでも言わんばかりに、つまらなそうな顔をしている妖魔に鏡月は言い放った!
「まだ決着がついていないぞ妖魔!!
これからが本当の戦いだって事を思い知らせてやる。
ハァァァァァァァッッ!」
空と大地が…鏡月に呼応するかのように…ドクン…ドクンと脈動したのであった。
天に高々と掲げた宝玉が鼓動する。
宝玉の中心部分に翼を広げた麒麟が高らかに嘶いた!
鏡月は脳裏を駆け抜けていくイメージを言葉にしたのであった。
「今こそ…天を舞え!!
麒麟・弐式ッッ!!!!」
(きりん・にしき)
鏡月は宝玉を自らの心臓へ押し当てたのであった。
目の前を眩い光に包まれて…視界は真っ白になるのだった。
鏡月は光の粒子をほとばしらせて輝き出したのであった。
「こ、これは………」
果たして…鏡月はリンとひとつになれたのであろうか?
そして…麒麟の力の解放とは?
「麒麟・弐式」とは一体なんなのであろうか?
全ての謎を孕みつつ、妖魔と鏡月との死闘の最終幕が開かれるのであった。
闇夜の中、雲の隙間から顔を覗かせる紫月が仄明るく不気味に両者を照らし出しているのだった。




