#50
鏡月が空へ解き放った第三射目の光の矢が夕闇の中で美しく輝いたところまで時は遡る。
気持ち良さそうに…高いびきをかきながらスヤスヤと眠りについていた妖魔。
その瞼も…空が輝いた刹那にカッ!…と見開かれた。
『ハッ………ヌ…ンンッ?
…ォォォッ、凄まじいぞ…フハハハッ!
スゲェ、スゲーな…この力……間違いないソウルズの力だッ!!
それも、かなりの上物だぜ…
フヒャヒャヒャ…喰いごたえがありそうだ。
オレは…もっと…強くなれそうだな!!』
スクッと寄りかかっていた樹の幹から…離れて立ち上がると、ニタリと嬉しそうな顔をして鏡月達のいる神社へ向かって飛び立ったのであった。
『…そうだ!!
オレの力が…どれくらい上がったのかをじっくりと試してやるぜ!
フッフッフ…ゆっくり楽しんだ後に喰ってやる。
フヒャヒャヒャヒャ…新しい力が手に入るぜぇッ。
ヴァワ…ハハハハハッ!!』
不気味な笑い声と羽をバサバサと動かす音が…まるで血に飢えた悪魔が夜に成り立ての淡いオレンジ色のチークをひいた空を散歩しているように見えてしまうのであった。
『へぇ…思ったよりは意外と距離があるな。
腹も…まだ、こなれていないからな。
フフフ、まぁいいか…少しゆっくり飛んで行くか。』
まだ腹の中で消化しきれていない肉が動きを鈍くしていたのかも知れなかった。
牛の歩み程のスピードで…のらりくらりと夜空を漂う姿は…血をたらふく吸った後の蚊のようにも見えて、とても異様な光景であった。
『ヘヘヘッ!
匂う…匂うぜぇッ…飛びっきり美味そうな匂いだ!』
キョロキョロと辺りを見回して…匂いの元を見つけると、ス~…ウゥ…ッ……!と妖魔は風船みたいに…まんまるに膨れ上がり極限まで空気を吸い込んだのであった。
ピタッ!…と空気を吸い込むのを止めると空が張り裂けそうな程の怒号がした!
『聞こえるカァァ…ッ!
ソウルズの能力者ァァッ!
今から…キサマをブチ殺してやるから楽しみにしていやがれェェ…ッ!!
ヴァワ…ハハハハハッ!!
わざわざ知らせてやったんだ。
気付かなくて殺られちゃいました!…ってのは無しだぜ。
オレは強いぜぇ…!!
最初っから…フルパワーでかかって来やがれよ!
いいなッ!!』
台風のような凄まじい風圧と雷のような轟音は…鏡月達にとっては願っても無い先制攻撃を可能にする時間を…猶予を…与えてくれたのであった!
果たして…鏡月には妖魔に勝つ手立て等あるのだろうか?
彼等の運命に待ち受けている結末が…一体、どのような形になるのか…この時の鏡月には知る由も無かったのであった。
運命を刻む…時計の針は…戌の刻に…!!
そして…残酷なる死闘の始まりを知らせる鐘の音が鳴り響いていた!




