#48
いつもよりも二人少ない食卓に…いつもより明るい声が響き渡った。
「いただきます。」
「いただきまぁ~す。」
『いただきますわ。』
鏡月と美月…それから…リンが目の前に出された料理に向かって手を合わせた。
「…大したものは無いけれど…さぁさ遠慮せずに…あなたも、た~んと…お食べなさいな。」
リンに向けられた言葉には謙遜の意味もあったのだろうか?
中くらいのサイズの卓袱台に並べられた料理は…鏡月と美月の好物ばかりであったからだ。
酔月と円月の好物も並べられていた。
匂いを便りに腹を空かせて戻ってこないかという願いがあった。
まずは…鏡月の好きな蓮根と海老の揚げしんじょの白出汁の葛餡仕立てに…揚げ出し豆腐、鮪の赤身の刺身と並び。
続いて、美月の大好物の鶏のからあげと甘い味付けのだし巻き卵に、果物たっぷりのヨーグルトサラダである。
酔月の好きな大和芋の素揚げ…これは裏山で採れた大和芋の皮を剥いて…拍子切りにしてから片栗粉をまぶして、高温の油でサッと揚げただけと言う至ってシンプルな料理であったが…酔月が曰く、「これ程、地味深い味わいで山に感謝したくなったのは初めてだ!」と絶賛したのであった。
もちろん、円月の好きな山菜の煮物や野草の和え物に…蜆の味噌汁もある。
「なんて御馳走…
どれも…これも…皆の好物だらけじゃないですか?
一体…どうしたのですか?
母上ッ……。」
鏡月は…並べられた料理の数々に改めて視線をやると嬉しい溜め息を漏らしてから…その事実に気付き、驚きの声を上げた。
「……うん、大丈夫…帰ってくるわよね。
ううん…絶対に帰ってくるのよ………
きっと二人とも…お腹を空かせてペコペコよね。
………ああ、早く帰ってこないかしら。」
…そうして感情を…思いの丈を…言葉に出そうと決めた途端に…何かが音を立てて崩れ落ちていった。
もう…これ以上、自分の感情を押し殺すのは無理であった。
急にクルリと…皆に背中を向けて…すすり泣くように咽び、肩を小刻みに振るわせながら…そう言った母の姿に…もう何もかも全てを知っているのだろうと察してしまった。
思えば…里には母の親族が大勢居たハズだから。
それに加えて…鏡月の祖父や曾祖父に霊能力の高さを見い出されて神社の巫女としても仕えていた母。
稀に見る高い霊力を誇っていたのだから…感覚的に最悪な事態である事を覚っていたに違いないのだった。
そう言えば…美月は…どうなのであろうか?
鏡月が…美月へと視線をやると…トテトテと母に駆け寄り、背中を擦ってあげていた。
「今日は母上もキョ~兄様も泣き虫だなぁ~。
…あのね……美月は泣かないよ、泣いちゃ負けだもんね。
辛い時こそ笑顔でいるのだぞ!!って父上に言われたもん。」
愛らしい細く折れそうな小さな手で母の涙を拭う美月は、グッと我慢して涙を堪えているのだった。
その言葉に…鏡月は身体を射ぬかれたような気がした。
美月は…やはり感じ取っていた。
もしかすると…二人の仇を討ちとるつもりなのかも知れなかったのだ。
口一杯に広がる涙の味が大好物の料理の味を塩辛くしてしまうのであった。
『おいたわしや…。
おいたわしや……鏡月様…そして母君殿…妹君殿。』
箸を置き…着物の袖を…またも濡らしてリンはシクシクとさめざめ泣いていた。
陽子は…ありがとうと美月の額に口づけすると、何かを取りに…どこかへと消えて行ったのであった。
「母上、どちらへ…。」
何か…言い知れぬ不安を感じ、鏡月は心配になって声を掛けた。
「大丈夫…飲み物をとってくるだけですから。」
そう答えると…奥に消えていく母の姿を黙って見つめてしまう鏡月であった。
一段と静まり返った食卓には箸を動かす音だけが小さく鳴っていた。
『あの鏡月様…こんな時に申し上げるのもどうかと思いますが………。』
リンが…少しかしこまった物言いをするので…鏡月は何事かと訝しげた。
「ん…どうした…リン?」
口の中にある料理をゴクリと飲み下すと咳き込みそうになりながら聞き返した。
『それでは単刀直入に申し上げます。
実は…あの必殺技には決定的な弱点が御座います。』
リンの言葉を遮るように鏡月も声を発した。
「それは…力を集中させるのに時間が掛かり過ぎる点と弓が持つ弱点…近接武器による接近戦や体術による格闘戦において…非常に不向きな武器であり…攻撃だって事だよね。」
『そ…その通りです、お気付きでしたのですね。
あの…何か策でもおありなのでしょうか?』
リンは…鏡月の大胆不敵な笑みにゾクリとした。
鏡月の底が見えない洞察力と冷静沈着な判断力に期待と不安が入り雑じってしまう。
「無茶や無謀は…委細承知の上さ。
霊力の集中と…私の霊気の性質さえあれば、多少の足止めは出来るさ。」
鏡月は…確信したように言うので、よもや力に魅入られるのではとリンは心配になる。
「んふふ…お待たせ、鏡月に渡して置かなければならないものがあってね。
それを取りに行っていたのよ。」
その言葉と共に…母は、不思議な形状で見た事の無い材質から出来ている奇妙な徳利を持って鏡月の元へ現れたのであった。
一体、その徳利にどのような秘密が隠されているのであろうか?




