#47
『……宜しいですか?
鏡月様…次で終わりにしなければ、決戦の際に霊力が尽きてしまいます。
ですから…次が成功しても失敗しても鍛練は終わりにして下さいませ。』
リンは…鏡月に警告した。
続けて放たれた第二射も鏡月の思いとは裏腹に失敗に終わる。
その第二射は…これ以上の自然破壊をしてはならないと矢の軌道を上空へと向けて…斜め四十五度に射ち出したのであった!
再びの嘶きと暴れ狂う天馬のような光の矢が…夕焼けに染まり始めた空を真昼へ目覚めさせてしまいそうに感じられてしまうのだった。
美月は花火でも見上げるみたいにポカーン!…と空を見つめていた。
鏡月は…徐々に弱まっていく弓の輝きに霊力が尽きてしまうと言う…リンの忠告も、あながち間違ってはいないなと思うのである。
思い通りの進み方をしてくれない矢の軌跡…
真っ直ぐとはいかず、かなりぶれてしまう。
これでは狙い打ちとはいかない…
凄まじい力を秘めた矢とは言え、当たらなければ…全てが水の泡だ。
「どちらにしても…これで最後だ。」
汗を拭い…弓を構え直すと心の中で自己暗示をかけるように呟いたのであった。
「この力を自在に扱えぬのならば…行き着く先には死しかない。
私の力を…私が御せぬようでどうする。
信じろ…信じるのだ…私には残された道は……ひとつだッ!!」
《キュ…ィィィィィ…ッッ…ン!!》
弱々しくなっていた弓の輝きが…これまでに無い程に輝き出した。
「いける…私に応えてくれたのか。」
鏡月は…第二射と同様に構えると指先から伝わる弦にかかる力の強さも増したように感じられたが、キリキリと弦を鳴かせると…祈りを込めて指先を離した!
「大空を舞えッ…麒麟紫雷光・一閃ッ!!!!(きりん・しらいこう・いっせん)」
その技の名など知らない鏡月が大気を震わせて叫んでいた!
『やはり…鏡月様は…すでに双月様を超える大器であると認められたのですか!?』
意味深長なリンの呟きと共に射ち出された閃光は時空を切り裂いたように夕暮れの空を矢の軌跡が紫色に染めていった。
瞬く光はロケットの打ち上げのように殺那的な加速をしながら…宇宙へと飛んでいったのである…正に、天を貫く四霊の神獣・麒麟であった。
ゴウゴウと唸る衝撃音も何かしらの清々しさを与えてくれたのであった。
細く水平線を夕暮れ空に紅く染める太陽と銀色に輝く満月…そこへ虹のような光の矢が描いた軌跡が…ここが異世界なのでは無いのかと思わせる程に幻想的で神秘的な光景を瞳に焼き付けさせていた。
瞳に映る…この光の輝きを美しいと口に出してしまうのが…勿体無く思えてしまう程に例えようの無い光景であった。
「アハハッ…うわぁ~ッ!
キョ~兄様。
すごい…すご~い。
魔法使いみたいだね!」
美月は…週に一度の楽しみにしているアニメの魔法少女を思い浮かべてワクワクしていたのであった。
鏡月は…小走りに美月のもとへ行くと両脇をかかえるようにして優しく抱き上げると高い高いをしてからギュッと抱きしめた。
兄の頼もしい姿と優しい温もりに…うっとりしている美月を地面へ下ろす。
すると、美月は…淋し気な表情を浮かべていたので頭をくしゅくしゅと…いとおしく撫でてやる。
満足気な表情に変わった美月から離れて…辺りを見回すと、フラフラと空中を漂う疲れた果てているリンを見つけて、傍へと駆け寄ると喜びのあまり、手を取って小躍りしたのだった。
「………やったぞ、やったぞ、ハハハッ…!
やったぞ…リン!」
鏡月は…達成感と喜びのあまり、念神体のリンの小さな手を指先で摘むように握りしめると社交ダンスのターンみたいにクルクル回ってみせた。
『き…鏡月さまぁ~。
目が~…目が回りますわ~。』
鏡月は…ハッと我に帰り、ピタリと動きを止めて、手を離した時には目をクルクルと回し…頭の上に星がいくつもメリーゴーランドみたいに回転していて…グラングランと赤ベコみたいに揺れ動いていたリンなのであった。
後ろで見ていた美月も両腕を飛行機の翼みたいに、ピーン!…と真っ直ぐに伸ばして楽しそうにクルクルと…竹とんぼみたいに回転していたのだが、途中で気持ち悪くなり尻餅をついてケラケラと笑っていたのだった。
「あらあら…今日は随分と楽しそうね。
美月も鏡月も本当に仲良しで………
まぁ…こんなに小さなお友達も出来たのね。
うふふ…美月と鏡月の母です。
ヨロシクね。」
鏡月達の後ろから現れたのは彼等の母親である陽子だった。
「母上…」
「ははりゅ…え」
『母君……?』
一番低い声は…鏡月の驚いた声だ。
美月は驚き過ぎて舌っ足らずな少したどたどしい発音で声をあげていて…リンは自分が簡易体であるにも関わらず…美月同様に姿がみえている事に驚いてしまうのであった!
「それにしても、凄かったわね。
初めて見るはずなのに…優しい気持ちになれる力強い輝きだったわね。」
背伸びをするように…う~んと全身の筋を伸ばしながら空を眺めると鏡月達の方へと振り返って…ニコリと素敵な笑顔を見せた。
今さらにして思い返せば…気丈に振る舞い、作り上げた笑顔だったのかも知れないと感じてしまう。
「母上…ご覧になられていたのですか?」
鏡月は…答えの解りきった質問をしていた。
「あんなに…大きな音がしたら…みみずくだって逃げ出してしまうわよ。」
陽子は…口元を片手で隠す様にして、クスクスと笑うと本題へと話を切り替えた。
「それよりも…そろそろ食事にしましょう。
お腹が空いてるでしょう?
用意は出来ているから。」
母の言葉を聞いて…急に思い出したかのように、鏡月の腹時計が…ぐぅ~ッ!と鳴ったのであった。
「ははうえ~。
美月も…美月も…お腹へったよ~ッ。」
美月は…母の傍まで駆け寄ると、鏡月の腹時計を聞いて空腹感を覚え、そう言って甘えん坊の顔をしてみせた。
陽子は…末っ子で甘えん坊の愛娘をギュッと優しく抱き上げると背中に…ヒョイっと、おぶさせてやり…家路へと歩を進めたのであった。
これが母と妹との最後の晩餐になろうとは…この時の鏡月は夢にも思ってはいなかったのだった。
妖魔との死闘まで…すでに半刻を過ぎていたのであった。
非情にも時計の針は進み続ける………




