#46
燦々と右手に輝く…紫の光は鏡月の得意とする武器である弓へと変化していたのであった!
「……これは、この弓は…私の意思で作り出したものなのか!?」
茫然自失とばかりに呆気にとられながら…鏡月は独り言ちた。
その弓は…透き通った紫色のガラス細工のような繊細な芸術品のようであり、さらに…神々しさと何者も寄せ付けさせない威風堂々とした力強さを秘めた輝きを放つ!
『そ、そんな………!?
まさか…あ、あり得ません。
…し、しかし……!?』
リンは…何か思い当たる節もありそうだが…現時点で言えるのは、この力をもたらしたのがリンでも鏡月でも無い事であった!
「……リン、この力は何なのだ!」
鏡月は…あまりにも凄まじい力強さに圧倒されてリンに質問した。
『え…~と……私にも判断に困る事態ですね。
それは…き、きっと鏡月様の潜在能力が導き出した力なのかも知れませんわね。
うふふ……』
リンは…咄嗟の事であれ、主人に嘘をついたのを後悔した。
『私は…何故…あの力の秘密を………』
心の中で…ボソボソとリンは呟くのであった。
リンが…何かを隠している事など露知らず。
鏡月は…あれこれ考えても意味はないと思い…こう心情を素直に述べた。
「ん……疑問は残るが試してみるか?
こいつに…どれ程の力が秘められているのかを…私は知りたい。」
フッ…と振り返って、鏡月は…美月に諭すような穏やかな口調で注意を促した。
「美月…危ないから…もう少しだけ離れて見ているんだぞ。」
美月は素直に頷いた。
元気良く…右腕を真っ直ぐに伸ばして、手をあげる。
「は~い。」
先程までは…物陰に隠れて見物していたのだが…多分、自分が叱られない事を察知すると好奇心旺盛な子供であるから、鏡月の手の届く距離まで近づいていたのであった。
しかしながら…やはり兄の言う事には素直に従って、トテトテと足音を立てて、四~五メートル程の距離をとった所からキラキラと瞳を輝かせて見つめていた。
美月が恐らくは…安全だと思える距離まで離れたのを確認すると美しいフォームで弓を構えた。
ところが…鏡月は肝心な事に気付く!
「リン…矢が無いのは…何故なんだ!」
鏡月は…至極、当たり前の疑問をリンに投げ掛けたのであった。
『確証は持てませんが…そのまま…弓を射ってみて下さいませ!
鏡月様の意思の力が…心の強さが…敵を貫く光となりましょう。』
リンは確証は持てないと…うそぶいた前置きをして鏡月にアドバイスをしたのであるが…やはりリンは麒麟の力に隠された謎を解く鍵を握っている様子であった。
「なるほど…了解した。」
真っ直ぐに伸ばした左腕へ平行するように、右手の指先を弦に添えるとギュッと力を込めて引き絞ろうとした。
「な…クッ、固いぞ…。」
どんなに…力を込めて引いてみてもピクリとも動かなかった。
渾身の力で弦を引き絞るうちに指先の方が千切れそうなくらいに痛くなってしまう…
「……そうか、もしや…両方の手に均等に霊力を集中させなければならないのかも知れないな。
試す価値はある…か…
弓と弦のバランスか…
力任せでは…駄目か…」
鏡月は…弦に掛けた指先に霊力が集中していない事に気付く!!
先程の苦労が…まるで嘘みたいに思える程、スムーズに霊力の集中や移動が出来るようになっている事実に驚きを隠せずに動揺した!
「一体…これは…どういう事だ!!
指先に霊力を集中させるのも一苦労であったというのにだ…
何年も…何十年も…修行したみたいに…これでは別人では無いか?
私に…否、私の中で何が起きているのだ!?」
途方もなく神憑ったスピードで鏡月は目覚ましく成長している。
これは…紛れもない事実である。
…だが、しかし…今の鏡月の力の上昇率は異常と言うより仕方が無かった。
それを…まざまざと報せるように…ドク…ドク…ドクッと早鐘のように心臓を激しく打ち鳴らす鼓動が頭の中まで響きわたり…ゆさゆさと揺さぶっていたのであった。
「これならば………ッ!」
再び…弦に掛けた指先をキリキリと引き絞ってみる。
ビリビリと音を鳴らして弦を引いていく。
しなやかに鍛え上げた鏡月の筋肉にビィィンッ!…と弦の伸びる高い音と振動が伝わってくる。
「目標は…的の中心だ!」
鏡月は…心の中で…静かに呟く。
「心の矢で…的を射る!!」
弦に掛けた指先をパンッ…と離した!
《ヒュオォォォン…ッ!!》
正しく…一陣の疾風のように空間を切り裂いたのかと思える程の凄まじい音が落雷の轟音ばりに響き渡ったのだった!
美月は…咄嗟に耳を塞ぎ、いつもの愛らしい黒目がちで真ん丸い…つぶらな瞳をさらに真ん丸くして、ぱちくりと…しぱたきながらも視線を反らさずに、その一部始終を見つめていた。
『き…鏡月様…ッ……!』
リンは…吹き飛ばされそうになり、鏡月の背中にしがみつくと…端午の節句で空を舞い踊る鯉のぼりのようにパタパタと激しく揺らめいていたのであった!
《ズガ…ァァァァ…ァァンッ…!!!!!!》
鼓膜が破けてしまいそうな轟音が…大地を駆け抜けると扇状の窪地が地面をくり貫いたかのようにして数メートルも続いていた。
「な…なんという破壊力なんだ!!
麒麟の力なのか…これが………
圧倒的じゃないか…!?」
この力があれば…妖魔など容易く倒せる…敵が討てる。
己の力に酔ってしまいそうな様子の鏡月をリンは叱りつける。
『鏡月様ッ…良いですか!
その力に自惚れてはいけませんよ!
それは…うちなる闇を呼び起こしてしまいかねない行為なのですよ!
身の丈に合わない力は…己を滅ぼし兼ねません!!』
背中から肩まで必死によじ登ってきたリンが耳元へ大声を出して、叫ばれたものだから…鼓膜に刺さるような痛みを感じて、鏡月は咄嗟に仰け反る。
しかめっ面をしながら…リンの方を見ると鏡月は………
「大丈夫…分かっている。
この力に…圧倒されそうな自分も…ただ…私は…私を…信じてみたい。
私の可能性を…リン……君の事だって信じていたい。
君が信じて…託してくれた力をさ。」
そう言ってみせる鏡月の言葉が…笑顔が何よりも嬉しくて…リンは愛嬌のある可愛らしい顔をくしゃくしゃにして涙していた。
「何を…泣く事がある。
戦いは…これからだ。
可能ならば…せめて…勝利してから…一緒に泣いてくれ。」
こんな涙声で…言ってみせても説得力は無いな…と気恥ずかしくなる鏡月であった。
「後は…この力のコントロールか。」
その決意を胸にして…もう一度、紫色に輝く弓を構え直したのであった。
暮れなずむ空に…鏡月は戦いまでの時間が…あまり残されていない事を思い出したのだった。
運命の針は進み続け…妖魔との決戦まで残された時間は僅かであった。
妖魔が目覚めるまで…残り二時間を切っていたのであった!




