#44
『グフ………フ…ヴァ…ハハハ……待たせたな…ァァァッ……!!』
ワナワナと怒りに打ち震えながら…妖魔は捕らえておいた里の人々の前に現れたのだった!
『それにしても…それにしてもダァァァ…ッッ!!』
妖魔は…憤怒の表情で烈火の如く感情を爆発させていた。
『チッ、ち、畜生…チクショウめ…あのジジィがァァァァッ!
あと少しで死んでいたところでは…無いか?
せっかく楽しく食事しようと思っていたのに…水差しやがってよォォォ…ッ!!』
全身に酷いケガを負ったボロボロな妖魔が激昂し…獣も怯えてしまいそうな咆哮を上げる!
そのまま…ズリズリと足を引き摺りながら…里の人々が閉じ込められた檻の前に近づいたのだった…
その光景に…里の人々は…再び、希望を失い…恐怖のどん底へと叩き落とされたみたいで…愕然とした表情で絶望し…膝を折って泣き叫ぶのであった!!
「アアアァァァ…ァ、もうダメだ…殺される。
く、喰われちまうよ…」
絶叫した若い男の喉を真っ先に妖魔の鋭い爪が一突きにズブリと貫いた!!
男は…血の涙と涎を流して死肉と化した。
『…チッ、喚くな…!!
コッチはイライラしてんだからよォッ…!
フフフ…ブァハハハ……!!
でもな…オマエの言う通りさ、キサマら全員…皆殺しだ!!
喰われる順番を心待ちにして絶望でもしていろッ!
ブァハハハッッ……アハハハ…ッ…ア~ハハハハハハ………ッ!!』
邪魔者は…もういないとばかりに心から楽しそうに…ケタケタと冷笑すると、大きく口を開けてギラリと牙を輝かせる!!
飢えに餓えた野獣の如く…むしゃぶりつくようにしてガツガツと次から次へと血塗れになる事も気に止めずに美味そうに里の人々を喰っていった!!
それから…幾ばくかの時が過ぎて、絶え間無く聞こえていた阿鼻叫喚の断末魔が消え失せ、陽も沈みかけてきた頃。
妖魔の腹は…でっぷりと大きく、どでんと膨らんでいた。
『ふぃ~…ッ!
フヘヘヘ…お~喰った喰った!
満腹過ぎて…ちょっと動けないな、一休みするか。』
片手でポンポンと腹太鼓を鳴らすと…少し離れた場所にある手近な大樹の根本まで移動した。
妖魔は…大樹に寄りかかるようにしてゴロリと横になると…地獄の底まで響き渡るのでは無いのかと思える程に凄まじい地響きで…グォ~グォ~ッという…いびきをかいて眠りにつくのであった。
妖魔が去った…そこに残されたもの。
それは…犠牲となった人々が流した鮮血と食い散らかされた残骸や肉片だけが…血の海と化した大地のあちらこちらに儚げに漂っているだけだった。
さて、この…ふてぶてしい顔で眠りについている妖魔。
一体…どうやって…円月の命懸けの攻撃から身を守ったのであろうか?
………時は少し遡る。
あの瞬間、円月は妖魔と共に爆発寸前で大きく飛び上がった!
その二人を追いかけるようにして何かが物凄いスピードで迫ってきた!!
《ギュルルルルルッ…!!》
超高速で回転しながら…風を切って自在に空中を舞う物体は目にも止まらぬ素早さで、円月に向かって一直線に飛んでくると………!!
それは…軌道を巧みに変化させ、円月の両手首の少し下くらいの部分をスパッ!!…と斬り落としていった!
「……な、何ィ…ッ!!」
斬り落とされた腕の断面を見て、驚きと戸惑いを隠せない円月であった!
吹き出した鮮血が視界に入るものの…痛みを感じる余裕も無かった。
『クケケケケ…ッ!
残念だったなァッ…!!
その技の凄さは認めてやるよ。
しかし…誤算だったなッ!
身体の一部は…オレの思念でコントロール出来るみたいだぜ!!』
嘲り…捨て台詞を残して妖魔は円月から離れるように飛び去った。
妖魔が思念でコントロールさせたものとは…
謎の軍隊との戦闘の最中に身体の一部をダミーとし…彼らの猛攻を退けた際に灰と化した残骸であった!
あの残骸は…一ヶ所に集まり、少しづつ回復して元通りになっていた。
その塊が空中に飛び跳ねる所を見ていた少女がいた。
しかし…すでに檻の中に閉じ込められてパニック状態の親には相手にもされなかった。
もし、この少女の言葉を伝える手立てがあるとすれば………と悔やまれるところであった!
円月は言葉にならない程の衝撃を受けていた。
「……あ、当たらなければ意味がない。
一度…発動させたら、もう…止められない。
く、すまない……な……………鏡月……ッ!!」
その言葉と共に円月は大爆発した!
妖魔が思念で操っていた身体の一部を吸収し終えた瞬間に爆発が起こった。
直撃は免れたものの…やはり、あれだけの大爆発の巻き添えを食らって妖魔も相当なダメージを食らい…勢い良く地面に叩きつけられる!!
爆風により…すっ飛んだ妖魔が激突した地面は、月のクレーターのようにすり鉢状に凹んでいた!
粉塵舞う…土煙の中、身体中に積もった土砂と埃を振り落としながら立ち上がる妖魔。
『ッ…チィィィッッ…!!
やってくれるじゃねぇの!
あんな…あんな人間も居やがるとはな。
楽しいぜ…まったく…』
妖魔の頭に突き刺さったままの円月の両手をズボッと引き抜くと…ゴミのように放り投げた。
直後に濁ったような紫色をした毒々しい血がコポコポと吹き出してきた!
その流れ出る血を拭った手を見ると…悔しそうに腹立たしそうに歯軋りをして爪が食い込みそうなくらいにギュッと力強く両手を握りしめたのであった!
あの死闘を物語るもの…それは妖魔の身体に刻まれたダメージから推測出来た。
広げた羽は…穴の空いたコウモリ傘のようにボロボロで、ひしゃげた骨や羽から突き出た骨が複雑に折れている事を知らせていた。
爆発からこそ、逃がれられたものの円月の汚れの無い純粋な霊力を身体中に巡らされただけでも…妖魔にとっては相当なダメージであったようだ。
それが妖魔の身体を激しく蝕んでいた。
さらに妖魔の身体中には無数の切り傷と擦り傷が見受けられた。
何よりも重症だったのはエネルギー源となるオーラの著しい消耗であった!
円月との戦闘前に多少の補給をしたのであるが…もう僅かなエネルギーしか残っておらず、このままだと活動限界を超え…最悪、休眠状態となる所であったからだ。
『チッ…これじゃ、強くなるどころか元の木阿弥じゃねぇかッ!
クソ生意気なサクヤに勝つ事こそが兄弟達に認められる手段だと言うのに。』
不可解な言葉を残して…妖魔は檻に閉じ込められた里の人々の前に現れるのであった。
そして…妖魔が眠りから目覚めた時に、鏡月との運命づけられた戦いの幕が開こうとしていた。
いつの間にか…空は闇に包まれようとしていた。
ただ…木々のザワザワとした音が虚しく響いていた。
その静寂さが…何よりも混沌とした夜を連れて来るのだった。




