#43
円月が妖魔と共に爆発し、空を真っ白な輝きが包み込む様子を鏡月は必死で耐え忍びながら見上げていた。
『無念です…この私がいながら………』
あれでは…もう助かるまいと静かに故人を想い、目を閉じるリンであった。
「言うな…言うな…父上も兄上も、きっと生きている………ッだから言うな!!」
鏡月の言葉は事実を受け入れ難いがゆえのものであったが…
確実に絶望的な真実が待っている事だけは…理解できた。
そんな裏腹な感情がモヤモヤと心に霞をかけていた。
今は…ただ…考えたくないだけだった!
考えられないと言った方が正しいかもしれない。
そんな時に鏡月とリンは同時に感じ取った!!
災厄の火種が消えていない事を……!?
「な…何と言う事だ…!?
妖魔は…まだ生きている……………!!」
凄まじい爆発と共に…消滅したかに思われた妖魔の気配が…とても弱々しくではあるが、未だに感じられるのである。
鏡月の言葉に…リンは続ける。
『信じられません。
あれほどの攻撃をくらって何故…無事なのかは解りませんが、しかし…妖魔が次に目指す場所は…恐らく………!?』
「くッ………なんて事だ!!
考えろ…考えるんだ…ヤツを倒すには…どうするべきかを。」
鏡月は…ハタと気付く!!
怒りに…身を任せただけでは、父や兄や多くの犠牲者の無念を晴らせないばかりか…自分まで犬死にしてしまうであろう事を。
なんとか一矢…報いたい。
その為には…どんな状況であれ、非情に徹して…感情を押し殺して冷静にならなければ勝ち目は無いのだと悟ってしまったからだ。
そこには…彼の戦士としての遺伝子が、無意識に…その答えへと導いてくれた。
「せめて…母上と美月だけでも守らなければ………」
鏡月は…使命感にも似た強い想いを心に深く刻み付けていたのだった!
彫魂神殿の階段に腰掛けている妹の美月は…母に仕立てて貰った小さな可愛らしい巫女服に袖を通して、ご機嫌だった。
まだ神社の仕事の手伝いは早いと言う母に、なんとかおねだりをして仕立てて貰ったのだった。
少しでも…早く兄達のように立派になりたいと思うがゆえであった。
楽しそうに満足気に…ブラブラと足をバタつかせながら、不思議そうに空を見つめていた。
「ねぇ…キョ~兄様、あの光は…とてもとても哀しい光だね。」
ふいに美月は…そんな言葉をポツリと口にした。
その輝きの意味を直感的に理解したのだろうか?
美月は瞳に涙を溢れんばかりに溜めて呟いていた。
彼女の中に眠る常人ならざる霊力が…そう涙させていたのかも知れなかった。
先程までは…小さく縮んだ簡易念神体のリンを追い回して楽しそうにはしゃいでいたと言うのに……
「リン…続けよう。
ヤツを倒す力を…必ず倒せる方法を教えてくれ。
私には…その力が…まだないのだから………。」
駆け足で…美月に近寄るとまもりたいと想う気持ちから…キュウっと愛しげに妹を抱きしめ、頭を優しく擦りながら…嗚咽混じりで鏡月はリンにそう言ってみせた。
ふるふると震え…潤んだ瞳で涙声の鏡月を美月は不思議そうに見つめると…にこりと笑って、兄の背中を擦り返した。
「ねぇ…キョ~兄様、どこかイタイの?
……かなしいの?
う~んと……ね、そういう時は…イタイのイタイの飛んでいけ~っ!…なんだよ。」
幼い妹の小さな手で涙を拭われると…絶対に死なせてなるものか!…と抱きしめる力を自然と強くしてしまうのであった。
「キョ~兄様…く、くるしいよ~。」
リンは…その光景にいたたまれなくなり、着物の袖で顔を隠すとシクシクと涙を溢したのだった。
鏡月の潜在能力が…徐々に解放されつつある事にリンは、おろか鏡月自身も気付いてはいなかった。
果たして…鏡月に、あの極悪非道な妖魔を倒す術はあるのだろうか?
また少し…時計の針が残酷なる運命へと進むのであった。
まもなく…時刻は午後三時を迎えようとしていた。




