#41
「そこまでだッ!!
…覚悟しろ!
妖魔め…キサマは…私が滅してくれようぞ!!」
妖魔が振り返ると…そこには銀色に輝く聖なる霊気に満ち溢れた円月の姿があった。
円月は…チラリと横目で食い散らかされた師匠である長老の姿を見て、残念そうに目を瞑る。
『面倒くせぇ~なぁッ!』
妖魔は…ふてくされたような声を上げるとラジオ体操の伸びをするみたいに身体を捻ったり、首の骨をポキポキと鳴らしながら、やおら円月の方へと振り返る。
すでに臨戦体勢で…爆発しそうな程に霊力を最大限まで高めている円月に対して、妖魔は…あまりにも無防備で仕掛けてみろと言わんばかりに大胆不敵で挑発的な態度であった。
「む…焦るな…ヤツのペースにハマってしまっては思うつぼだ。」
円月は一撃必殺…そして彼の扱える霊術で最大級の攻撃を仕掛けるつもりであった。
「勝機は必ず…やってくる!
ヤツを倒すには…アレしかない。
ふふ…すまんな…後は頼むぞ…鏡月よ!」
円月が覚悟を決め…突貫しようとした時に何者かが妖魔に向けて攻撃を開始した!
《こちら…レッド1、目標発見。
これより…メビウス第2小隊での殲滅作戦に移る。
我々の使命は…暴走した魂濁躰7號の完全破壊である。
繰り返す…目標の細胞ひとつ残さずに消滅させよ!!
民間人の生死には一切構うな…行くぞ!!
撃ち方用意……てぇーーッッ…!!!!》
耳をつんざくような轟音が幾度となく聞こえてくる。
飛行機雲みたいな筋が空中に幾筋も引かれると同時にカメラのストロボみたいな閃光と大型の台風みたいな突風が吹く。
妖魔の周囲をぐるりと包囲して、ロケット弾やバズーカやマシンガンのような兵器で、どこぞの軍隊にも勝る装備と特殊部隊並の連携で…彼らは魂濁躰と妖魔を呼称して攻撃を続ける。
閉じ込められた人々の安否など、まるで…お構い無しに攻撃を続ける。
無数の閃光と爆音…そして粉塵を巻き上げる突風の嵐。
もうもうと黒い煙が…巨大な柱のように立ち上ると攻撃はピタリと止められた。
煙のせいで中の妖魔が…どのような様子かは計り知れなかったのであった。
円月は人の命を顧みない無差別な攻撃を止めさせようと茂みに隠れていた兵士を数人…気絶させるものの、暖簾に腕押し。
然したる効果は得られない。
風に乗り…煙がうっすらと流れ、中の様子を窺い知る事が出来る。
備長炭のように…妖魔の形をした炭が現れたのであった!
パチパチッと表皮を焦がす音が聞こえる。
頭の天辺からシュウシュウと細く白い煙が風に乗り…揺らめいていた。
《こちら…レッド1、目標沈黙。
繰り返す…目標沈黙。
サンプル回収後、直ちに帰還する。》
兵士の一人が…銃剣を構えながら妖魔に近づく。
カツン、カツンと炭化した妖魔を銃剣の先で小突いてみると………
パラパラと炭と化した肉体が崩れていく。
兵士が手で合図をすると…数名の兵士が棺くらいの大きさの奇妙な形のカプセルを担いでくる。
全ての残骸を素早く…かき集めてカプセルに詰め込み始める。
円月は…その光景に違和感を憶えずにはいられなかった。
「果たして…あれほどの妖魔が…
あのように簡単に倒されるのだろうか?
何か…引っ掛かる……!?」
雷に撃たれたように…ハッと違和感の正体に気付く!!
「……そうか、里の者達は皆…無傷だ。」
あれほどの攻撃であったにも関わらず…妖魔の作り出した檻も中に閉じ込められた人々も…かすり傷ひとつ無いのである。
そんな馬鹿な話があろうか?
円月は空を見上げてみる。
太陽を背にして巧く隠れているが殺気までは隠しきれていない様子だ。
妖魔は…円月に気付かれたのが分かると…すぐさま攻撃に移る。
『ハッハッハーッ!
ソイツはダミーだよッ!
うるさい虫けら共が喰いつくしてくれるわッ!』
妖魔は…上空で大の字に身体をグン!…と伸ばすと両手両足の爪、全てが高速でスバァッと大蛇のように波打ちながら伸びていくのであった!
サンプル回収の任務遂行中だった兵士達は…声に反応して見上げるものの、まぶしさに目が眩んだ一瞬の隙をついて、次々に槍状の爪に串刺しにされていく。
ある者は頭頂部から串刺しにされる者…腹部に風穴を開けて倒れる者…大地は見る間に肉片と臓物に、まみれた赤い海へと変わっていくのであった!
捕えられた里の人々を除いては、小隊長らしき紫紺の軍服の男と円月以外の人間で無事な者は皆無に思われた。
近くで息も絶え絶え…苦しそうな呻き声が聞こえてくる。
《本部、応答せよ。
こちらレッド1…我がメビウス第2小隊壊滅、至急…応援求む。
繰り返す、ぐ、グワァァァァッ!!
……ッザザザザザザザサ》
どこかへ連絡を取ろうとしていた小隊長も身体中に無数の風穴を空けられてしまう。
すると…妖魔に殺害された者達に変化が起きていた。
倒れた者達が砂金のように細やかな流砂状のキラキラとした光を放ち…輝くと、その湯気のように立ち上る輝きを妖魔は大きく開いた口で吸い込み始めた。
『ちょっと…この喰い方じゃ味気ないんだが、まぁいいか。』
口いっぱいに、それを頬張るとゴクリと喉を鳴らして少々、不満げに独り言ちた。
妖魔に輝きを吸われた者達は灰になりサラサラと崩れていくのであった!
血に染まった軍服らしき残骸と幾つかの装備品と兵器のみが残されていた。
『お、誰だ…檻の外側の人間…生きてるのか?
フフ…オーラも吸われていない。
コイツは極上モノだな。』
ベトベトとした血糊に足を捕られないように…円月は里から少し離れた地の利の良い場所へと移動していた。
円月は上空に注意を払っていたが…それをあっさりと潜り抜け、まるで瞬間移動でもしたのかと思うような素早さで目の前に妖魔が現れたのであった!
妖魔は恭しく…こう言ってみせる。
『ご機嫌…如何かな?
フフ……とは言ったものの残念ながら、これからオレに喰われる訳なのだがなぁッ!!
ヴァハッハッハ~ッ!!』
変わり果てた酔月の姿を見て…円月は独り言ちた。
「酔月よ…さぞ苦しい事であろう。
さぞ口惜しい事であろう。
もし…その身体の意識が生きているのならば…正に生き地獄であろうな。
お前は誰より優しく…誰より孤高であったからな。
………だが…安心しろ、すぐに解放してやるぞ。
その苦しみからな…。」
円月は妖魔に蝕まれた酔月の身体をまじまじと見て…愕然とする。
優しく穏やかだった瞳はギラギラと血に飢えた獣のように変わってしまい。
時折…見せる…はにかむ笑顔もどこへやら。
今となっては…耳元まで裂けて切れ上がり、鋭い牙と血に濡れた口元が鬼のような禍々しさを感じさせていた。
肌も赤黒く変色し、もう…あの頃の酔月の面影など微塵も残されてはいなかった。
『オイオイ…もう念仏でも唱えているのか?
少しは楽しませてくれよ……………なァ…ッ!!』
妖魔は…最後まで言い終えないままに強烈な横蹴りを放つ!!
ヒュオンッ!!…と風を切る音が聞こえる程に強烈な蹴り………であったが、その蹴りは空振りに終わるのであった。
何も無い空間をスカッ!…と手応え無く蹴り上げると…不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡す妖魔であった。
「こっちだ!」
妖魔は声がした後ろへと振り返ると………!!
予想だにしなかった円月の渾身の一撃が炸裂したのであった!




