#40
野性的な嗅覚で餌の在処を探して…上空を飛び回っていると一際、美味そうな匂いがした。
普通の人間よりも霊力が強い人間が多いのだ。
霊力…即ち…オーラは妖魔にとっては血肉よりもエネルギーになりやすく、自らの飛躍的な成長にも繋がるものである。
つまり妖魔にとっては極上なる食い物なのであった。
その妖魔が好物とする人間達が住まう場所をいとも簡単に探し当ててしまうのであった。
『フヘへ…匂いがする……。
オ、ヲ、思った通り…ウヨウヨ居やがるぜ!
ハハハ…このオレの糧になれる事を感謝しな……人間共めがッ!!』
妖魔は…醜悪な羽根をシュルシュルと折り畳むと…地響きと共に月里村のちょうど真ん中辺りに突き刺さるようにドスーン!…と降り立ったのである。
もうもうと粉塵が巻き起こる!!
妖魔が降り立った場所は長老と呼ばれる円月に霊術等を教えた師匠みたいな人物の家の前であった。
長老は…何事かと家から飛び出した!
「な、なんじゃと…この里には霊的な結界が張ってあったハズじゃと言うのに、よりによって…またもや妖魔とは……………。」
驚きを隠せぬまま…長老は…肌にビリビリと突き刺さる殺気を瞬時に感じ、すでに臨戦体制を取ると隙を見計らい仕掛けた。
「食らえ、妖魔めッ!!」
いつも大事に懐に忍ばせておいた特別な霊札に可能な限りの霊力を注ぎ込み…脱兎による高速移動で間合いを一気に詰めると…それを解き放った!
長老は…高速移動術・脱兎を使い、妖魔の後ろに回り込むと見事に命中させたのであった。
妖魔の背中で小規模ながら破壊力のありそうな爆発が炸裂する!!
流石は…円月に高速移動術・脱兎を教えた師匠なだけはある。
「ふむ…退治たかの?
むぅ……なんたる邪悪な妖力じゃ。」
背中から…ブスブスと煙が立ち上る。
ぐったりと地に臥した妖魔の様子を窺おうとジリジリと間合いを詰めて妖魔に近づく長老。
うつ伏せに倒れている妖魔を蹴り上げて…仰向けにする。
白目を剥いて泡を吹き…ピクリとも動かない妖魔を見て…長老は声を上げる!
「皆の衆…たった今、現れおった妖魔は…このワシが見事に退治してみせたわい。
ホッホッホッホッ……!」
高らかに響き渡る…その言葉を受けて、里に住む人々は家を飛び出して…退治された妖魔を確認しようと集まってきた。
皆が…口々に妖魔の姿について語り出すと…誰からともなく、妖魔の姿に見覚えがある事に気付きだした!
「なぁ…気のせいかも知れないけれど、なんとなくだけど…これって酔月様なんじゃないのか?」
皆が目を見開き…愕然とする。
ショックで尻餅を着くものもいた。
言われてみれば…確かに面影がある。
何より…髪留めに使っていた布地に紫雲一族の家紋が入っていた事からも間違いないだろう。
「むぅ…妖魔に取り憑かれたのか?
なんとも惜しい方を亡くされた。
ワシ等よりも…早く逝くとはのぉ。
出来る事ならば…生い先短い老いぼれが替わってやりたいところではあるな。」
『…ほぅ、じゃ…まずはテメェから喰ってヤるぜ!
不味そうだがな…ッ!!』
カッと血走った眼を開き…言うが早いか、殺那的な勢いで…グニュリと伸びた妖魔の左手の五本の爪が長老の両肩と両大腿と額の…ど真ん中にザクリ!!…と突き刺さる
水分を多く含んだ野菜や果物に包丁を入れたような独特な音がする。
「カハッ…!」
長老に呻き声を上げる暇など与える隙も無く、グサリと槍状に変化させた爪を突き刺すと…ブワッと水芸のように血が勢いよく吹き出した!
その光景は…辺り一面に大粒な血の雨を降らせ…大きな血溜まりを作り上げた!!
それは…阿鼻叫喚の地獄絵図を鮮烈に脳裏へ刻み込むものであった。
無惨にも…百舌鳥の早贄のように串刺しにされた長老の左目を妖魔は微笑みながらヌチョリと抜き取る!
…視神経がプツリとかブチとか壊れ物を梱包する時に使うプチプチと呼ばれている緩衝材を指先で潰した際に奏でる音に…そっくりな音がしていた。
妖魔は…ひとしきり「ソレ」をうっとりとした瞳で眺めると大きく開いた口の中にパクリと放り込んだのであった。
妖魔は…カリリと牙で、口の中の「ソレ」に圧力をかけるとプチュリと薄い膜がイクラみたいに…はぜる。
見る間に口いっぱいに…ほんのりと甘いトロリとした濃厚な味わいを持つ、粘性の強い液体が広がる。
妖魔は…至福の笑みをこぼすと蛇のように先が二つに裂けた舌でベロリと舌舐めずりをしてから…プッとブドウの種でも吐き出すようにして…何かを口外へ吐き出した!
地面の上に吐き出された吐瀉物は緑色の唾液の中でキラキラと光を放っていた。
なんと…それは眼球の中心にある真珠に似た輝きを放つ真ん丸な骨であった。
皆の目が…紛れもなく起こっている事実を受け入れ難く、茫然自失と見つめていた。
押し寄せる津波のような絶望と恐怖から…せきを切ったように…まだ幼い女の子が声高らかに…うわぁ~ん!!…と泣き叫んだ。
その泣き声で…現実に引き戻されかのようにして、蜘蛛の子を散らしたみたいに一斉に逃げ惑うのであった。
串刺しにした長老をムシャムシャと味わいながら、狡猾そうにニタリと笑う…!!
『フヘヘヘへ………ッ!!
オレの餌なんだ…逃がすかよッ!!』
妖魔は空いている右手で地面をズドン!…と叩きつけると逃げ惑う里の人々を囲う檻の様な柱が地中深くからスバァ!!…と飛び出してきたのだった!
妖魔は…この為の時間稼ぎをする為に…わざとやられたフリをしていたのだった。
妖魔は…自らの体液と地中の成分と妖力を混ぜ合わせる事で里の人々を閉じ込める檻を作り上げたのであった。
閉じ込められた事に絶望する事なく…果敢に飛び付く者もいた。
その中の一人…威勢の良い若者が隙間無く飛び出してきた檻の柱の一本に触れると………!?
…フシュ~ッと吹き出すように煙を上げて手のひらが溶けていく。
真っ先に飛び付いた若者は呻き声を上げて…のたうち回る。
その様子を見て腹を抱えて大笑いする妖魔。
『ブァハハハハ…ッ!!』
『面白い…面白すぎるぞ、人間共め!』
長老の腕を骨付きのハムみたいに食いちぎりながら、さらに…続ける。
『やはり…ジジィの肉は硬いな。
思った通りに…筋っぽくて不味いぞ。』
『よし…次は…そこの若い女に決めた。
柔らかそうな肉だからな。
ブァハハハハッッ…!!』
そう指名された美しく若さに満ち溢れた乙女は恐怖のあまりに声も出ない。
処刑宣告の方が…まだ人間らしく逝けそうだ…。
次は…自分が…あのように惨たらしく喰われるのかと想像するだけで身が縮み上がる思いがする。
食い散らかした長老をゴミのように放り投げると…檻に人間が通り抜けられるくらいの穴を開けて…目当ての女を引きずり出そうとした。
「そこまでだッ…!
覚悟しろッ!
妖魔め…キサマは私が滅してくれようぞ!」
果たして…円月には、どのような秘策があるのか?
彼に…妖魔を倒す事が出来るのであろうか?




