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スピンオフ 忍者エージェントカノープス 賢者の書の秘密  作者: クワトロばなな


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エピソード5 帝都アルメキオンと最初の『幸運(ラックアップ)』

無事に国境の厳重な検問を越え、馬車に揺られること3日。

王国外交団一行は、ついにロメーダ帝国の心臓部である首都「アルメキオン」へと到着した。

大陸最凶の軍事力を誇る帝国にふさわしく、天を突くような大城郭がそびえ立ち、幾重にも連なる鉄壁の警備兵たちが目を光らせている。カノープスは絢爛な馬車の窓から、気配を完全に消したまま、その城郭内部の構造をつぶさに観察し、脳内の隠密地図に焼き付けていった。

目的地であるアルメキオン城の本丸と、目的の【賢者の書】が保管されているという『特権寺院』は、不気味なほど隣り合ってそびえ立っている。しかし、国賓を迎えるために用意された『迎賓館』は、それらの重要施設からは不自然なほどに大きく離れた位置に隔離されていた。

(なるほど……。有事の際、我々をすぐに隔離・鎮圧できるようにという算段か。実に出し抜きの甲斐がある構造だ)

天才隠密としてプロの思考を巡らせるカノープス。だが、馬車が迎賓館の車回しに到着した瞬間、王国の隠密親子に、さらなる帝国の「洗礼」が牙を剥いた。

馬車から降りた父親のゼダルとカノープスに対し、帝国側からそれぞれ一人ずつ、「専属の護衛」として美しいくノ一が配属されたのだ。

護衛――といえば聞こえはいいが、その実態は24時間体制の「体のいい監視役スパイ」に他ならない。

父ゼダルに宛てられたのは、20代前半と見られる、大人の色香をこれでもかと漂わせた妖艶なくノ一だった。名前はセーラというらしい。

すると、最高職に返り咲いたはずの伝説の隠密・ゼダル卿は、あろうことかそのセーラを見るなり一瞬で鼻の下をびよんと伸ばし、デレデレとした締まりのない笑みを浮かべて積極的に世間話を始めたの?だ。遠目から見ても、美女に鼻の下を伸ばしてはしゃぎ倒しているのが一目で分かった。

カノープスは呆れ果て、声を出さずに唇だけで猛烈なツッコミを飛ばす。

(……父上!! しっかりしてください!! それ100%向こうのハニートラップ(計略)ですからね!?)

一方、カノープス自身に当てられたのは、セーラとは対照的な、まだあどけなさが多分に残る彼と同じくらいの年頃の少女だった。

「カノープス・チュワートス君! 私はミラ・グラダス。よろしくね!」

ミラは宮廷の厳格な作法などどこ吹く風といった様子で、最初から実に気さくに笑顔で話しかけてきた。

カノープスは内心で細心の警戒レベルを引き上げる。

(これも……親近感を抱かせて油断を誘う、帝国側の高度な心理計略か……?)

そう身構えた瞬間、少女はいきなり核心を突く爆弾を放り込んできた。

「ねえねえ、やっぱり貴方も、【賢者の書】の噂を探りに来たの?」

あまりにストレートな揺さぶりに、カノープスは心臓が跳ね上がるのを必死に抑え、外交官としての冷静な仮面を維持した。

「……賢者の書の噂なら、どこの国の外交筋でも持ち切りの話題だからね。確かに、僕も一人の人間として興味がある事柄ではあるよ。――君は何か、その件について知っているのかい?」

探るように聞き返すと、ミラはあっけらかんとした様子で首を横に振った。

「まさか! 私みたいな末端のくノ一に、そんな国家最高機密がわかるわけないじゃない! ……まあ、私自身も、凄く興味があることではあるんだけどね!」

ミラはクスクスと笑うと、一歩距離を詰めてカノープスの顔を覗き込んできた。

「それにしても、カノープス君って私と歳が近そうだね! 幾つなの?」

「……今年で、16歳になる」

「へー! じゃあ私の一つ下だ!」ミラは嬉しそうに胸を張った。「ふふん、じゃあここでは、お姉さんが色々教えてあげようね」

(えっ!?)

カノープスの真面目な少年の脳内に、電光石火の勢いで疑問が駆け巡る。

(色々教えてくれるって、一体何を!? いかん、いかんいかん……! これぞまさに思春期特有の邪な煩悩というやつだ。惑わされるな俺……!)

必死に邪念を振り払おうとするカノープスの様子を察したのか、ミラはポンと手を叩いた。

「あ、でもカノープス君はこれから、すぐに予定が入ってるんだよね」

ミラは慣れた手つきで迎賓館の大きな会議室の前までカノープスを案内すると、いたずらっぽくウインクしてみせた。

「私、待ってるね。じゃあ!」

(……待ってる? どこで……?)

疑問に思う間もなく、ミラは軽やかな足取りで去っていった。

そう、到着して早々、迎賓館の会議室では帝国側の外交官たちとの重要な打ち合わせが控えていたのだ。ゼダルの嫡男という立場上、カノープスも席の末席に出席することだけは許されていた。

打ち合わせの主な内容は、皇帝レグルス、および皇后への拝謁の日時設定、謁見時の会話の制限事項、そして皇后へ贈る王国の献上品についての事務的な確認であった。

献上品については『最高級のお召し物』とだけ告げられ、具体的な内容や箱の中身は明かされなかった。

驚くべきことに、あれほど裏で息巻いていた父ゼダルは、この公式の場では【賢者の書】について一切触れることはなかった。

お互いに一歩も引かない、笑顔の裏で互いの首筋にナイフを突きつけ合うような、重苦しく息の詰まる腹の探り合い。

数時間に及ぶ長い会議がようやく終わると、いくら天才忍者といえど、カノープスは精神的な疲労をドッと感じていた。

(ふぅ……。流石に疲れたな)

会議室を出ると、先ほど「待っている」と言っていたミラの姿はどこにもなかった。やはりただの口約束の揺さぶりだったか、とカノープスは小さく息を吐く。

案内役の帝国メイドに先導され、カノープスは自身に割り当てられた極上の客室へと向かった。

重厚な木製のドアを開け、一歩中へと足を踏み入れた、その瞬間――。

カノープスの鋭敏な五感が、部屋の中から明らかな「他人の気配」を察知した。それも、ひどく湿った、温かい空気の気配。

「あ、おかえりー。先、シャワー浴びてたよ」

ガラッと、バスルームの扉が開く。

そこから現れたのは、あろうことか、**『体にかろうじてタオルを一枚だけ巻き付けた姿』**のミラであった。

「…………え?」

カノープスは完全に思考が停止し、その場に石のように凝固した。

(な……な、な、何なんだこの状況は……!? これが帝国の、最先端のハニートラップだというのか……!? いくら何でも容赦がなさすぎるだろう、お、お姉さん……っ!!)

「ちょ、ちょっとカノープス君、顔真っ赤だよ? どうしたの?」

何も知らずにあどけなく近づいてくるタオル一枚のくノ一を前に、王国の天才忍者は、任務開始早々にして、最大の精神的崩壊の危機デッドエンドを迎えるのだった。

ルスカ副会長の"ラックアップ"の効果は本編


ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。の


14話、17話、22話、25話参照



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