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スピンオフ 忍者エージェントカノープス 賢者の書の秘密  作者: クワトロばなな


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エピソード21 ガラスの預言書と、歪んだ世界のログ

国家最高機密ロックレベル5の保管ケースから現れたのは、羊皮紙の古文書などでは断じてなかった。


カノープスは息を呑み、致死性のトラップが残っていないか極限の集中力で確認しながら、その「奇妙な魔道具」を慎重に両手で拾い上げた。

大きさは、小さなまな板くらいの長方形。硬質で滑らかな手触りの物体だ。表面は均一な一枚の漆黒のガラスで覆われており、裏面には鈍い光沢を放つ薄い未知の金属のようなプレートが隙間なく貼られている。その中央には、この世界のどの国家の物とも異なる、奇妙な紋章のようなシンボルが精緻に刻印されていた。

さらに、側面にはいくつかの小さな突起――ボタンのようなものが規則的に配置されている。

(……何だ、これは? 魔法の道具……いや、違う。魔力の波動が、既存の魔道具のどれとも根本的に異なっている。とてもじゃないが、この世界の技術で作られた物とは思えない……!)

計り知れないオーパーツを前にカノープスが戦慄していると、その不気味な構造を覗き込んでいたミラが、側面の突起の一つを指差した。

「カノープス君、その右側のボタンを押してみて」

ミラの言葉に促され、カノープスは意を決して、右側の小さなボタンをカチリと押し込んだ。

その瞬間、手元で微細な駆動音が響き、真っ黒だったはずの表面のガラス面が、目も眩むような鮮やかな光を放った。カノープスとミラは思わず小さく息を吸う。

発光したガラスの画面には、幾何学的な光の格子と共に、まるで「暗号の入力を要求する」かのような、見たこともない言語のメッセージが明滅していた。

「――ここからは私に任せて!」

ミラは力強く微笑むと、カノープスの手の中にある魔道具のガラス面へと躊躇なく細い指先を滑らせた。彼女の指がガラスに触れるたび、画面が滑らかに反応し、トントンと軽快な音を立てて複雑な文字列が入力されていく。

(……ミラさん、やっぱりこの暗号を知っていたんだ。ということは、やっぱり帝国は……)

カノープスが思考を巡らせる暇もなく、ミラが最後の文字を入力し終えた。

ピロン、と澄んだ電子音が室内に響き渡り、ロックが解除される。直後、そのガラスの画面いっぱいに、膨大なテキストデータ――ロメーダ帝国がひた隠しにしてきた、本物の『賢者の書』の記述が映し出された。

画面の最上部に、最初のログが表示される。

『 ep.1 ―― 世界エキティカが誕生する。 』

「……っ、これは」

カノープスは喉を鳴らした。「世界エキティカが誕生する」。この世界の創世を記したその一文は、歴史を学ぶ知識階級の者であれば、誰もが知っている『賢者の書』の第1項そのものだった。


ミラは息を詰め、画面に指を滑らせて次々とページをめくっていく。ガラスの板が、彼女の意思に従って**光の頁(ページ)**を滑らかに切り替えていく。


『 ep.7 ―― 世界エキティカに、七つの王国が作られる。 』

『 ep.20 ―― ロメーダとミルキーウェールズの間に争いが起こる。聖女現る。 』

『 ep.21 ―― 東の海に怪物が現れる。 』

かつて起きた歴史の数々。カノープスはスクロールされる文字を食い入るように見つめた。だが、次の項目でミラの指がふと止まる。

『 ep.25 ―― 銀河から星の王子が舞い降りる。 』

「……25項ね」

ミラの呟きに、カノープスも小さく頷いた。

この『ep.25』は、世界中の歴史研究者の間でも、未だに全く解明されていない最大の謎とされている項目だ。公式の歴史記録を紐解いても、この年代に「星の王子」と呼べるような象徴的な事象は一切起きておらず、世界の誰一人としてその真意を掴めていない、いわば空白の記述だった。

ミラは複雑な表情のまま画面をさらに進める。

『 ep.49 ―― エキティカ全世界を巻き込む大戦が勃発する。 』

『 ep.50 ―― ロメーダに聖女現る。 』

『 ep.51 ―― レーシアのブリード山脈に、邪神龍が出現する。 』

世界の全人類が震撼し、今なお恐怖と共に語り継がれるあの未曾有の凶事、邪神龍の降臨。

次々と画面に表示される項目は、表現の差異こそあれど、すでに神殿や大国によって公表されている「既知の歴史」と何ら違いはなかった。過去から現在に至るまで、すべての出来事がこの手のひらサイズのガラスの箱の中に、整然と記録されている。

(……おかしい。まるで、この世界そのものが、最初から決められていた「物語のシナリオ(ログ)」通りに動かされているみたいじゃないか……)

世界の根底にある、言語化できない薄気味悪さに、カノープスの背筋を冷たい戦慄が駆け抜ける。

ミラは真剣な横顔のまま、さらに指を激しく動かした。スクロールされる光の文字。やがて、現在公表されている「歴史の終端」のログへと辿り着く。

『 ep.114 ―― ソビヤ西海岸部に、地震と津波が発生する。 』

「……ここが、今、全世界に知られている最後の記録よ」

ミラの声が、緊張で微かに震える。

カノープスは生唾を深く飲み込んだ。この次だ。この114項の先にこそ、大国ロメーダ帝国が世界を欺き、特権寺院の最奥に封印し続けてきた「追加項」――すなわち、まだ誰も知らない『未来の予言』が存在するはず。

ミラが緊張に満ちた指先で、画面を最後の一回、大きく横へと払った。

パッと画面が切り替わり、公表されている最後の項の、その次の1ページが、鮮烈な光を伴ってカノープスたちの瞳に飛び込んできた。

『 ep.115 ―― ミルキーウェールズに、聖女現る。 』


「…………っ!?」

カノープスは絶句した。

画面に冷酷に刻まれた、新たな世界のシナリオ。かつてep.20やep.50の戦乱の時代に現れたとされる伝説の存在――『聖女』が、今度は我が祖国ミルキーウェールズ王国に再び出現する。

特権寺院の最深部、静まり返った宝物室の中で、カノープスとミラは息をすることさえ忘れ、ただただそのガラスの画面に浮かび上がる、世界の未来を握る不気味な文字列を見つめ続けるのだった。


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