閑話 エイハ・シャリド
私はエイハ・シャリド
シャリド家は表向きは伯爵家だが
裏では代々国王の目として活動している。
今日、国王から命が下った。
アンソン候爵家を秘密裏に調査せよとの命だ。
前々からきな臭い噂の絶えないアンソン候爵家。
しかし、現当主のヤカン・アンソンは用心深い男であり、自分の屋敷に厳重な警備を敷いている。
私のスキル[隠者][危険察知]があれば抜けられるだろうが…
「スキルも無限ではないからな…」
スキルを使い続ければ精神力を消耗する。
精神力が尽きればスキルが切れるどころか動くことすら容易ではなくなってしまう
ずっとスキルを使い続けるわけには行かないのだ。
「あの露店に何かアレばいいが…」
1つの報告を部下から聞いた。
グル廃坑ダンジョン鎮静化の際に使われた[雷光球]という魔導具。
それは見たことも聞いたこともない雷と音を発して魔物の群を止めたと
その魔導具は警備隊第4隊長が夜の露店で買った物なのだと報告を受けた。
そんな魔導具が売っている店になら何か潜入に役立つ物が売っているのではないかと思い立ち
夜の中央広場に来ていた。
「あの露天商か………」
中央広場について一目でわかった。
広場の隅に座る黒いフードの男が余りに異様だった。
「魔力をまるで発していない…」
どんな達人や生物などが魔力を消そうとしても僅かばかりは出ているものだ。
それなのにあの露天商はまるで魔力を発していないのだ。
「何者だ?」
警戒と観察をしながら近づいていく……
だが、あの警備隊第4隊長が仲良くしているとの報告も聞いている。
あの第4隊長は大雑把な男だが、人を見る目はたしかな男だ。
ならば…平気なのか?
「少し…見させてもらう」
私が気配を殺して近づき声を掛けたのに、まるで驚いた感じのない露天商……気づかれていたのか?
その事にこの露店に興味が湧いた。
それほどの人物がやっている露天商ならば、何か良いものがあるのではないかと………
そして、運命の魔導具と出会った。
魔導具[夜猫の瞳]
コレを初めて使った時の衝撃は凄まじいものだった。
夜がまるで昼の様に見える。
その視界が緑に染まっているだけだ。
これがあの厄介な夜の魔物シャドータイガーの視界とはと驚いた。
しかも魔導具を使っているというのに魔力消費が少ない
これなら1日中使っていても平気なくらいだ。
最後に驚いたのはこんなにも素晴らしい魔導具がたったの金貨30枚だと言う事だ。
これ程の魔導具ならば金貨200枚はしてもおかしくはないというのに
他の者に買われてはたまらないので即決して手に入れた。
その事に露店商は驚いた感じだったが……なぜ驚いたのかはわからない。
×
アンソン候爵家へ潜入する夜。
部下数名もアンソン候爵家を囲むように配置に着いていた。
私は候爵家屋敷の裏手から潜入する。
「潜入…」
念話の魔法を部下に飛ばす
部下には警備の薄い場所の調査をさせる。
私はアンソン候爵家の深部の調査だ。
「頼むぞ[夜猫の瞳]」
魔導具[夜猫の瞳]に魔力を通す
夜から緑に染まる昼へと変わる。
「ふっ…屋敷が丸見えだな」
高い塀を飛び越え着地
この塀に少しでも触れると警備用の魔法が発動する仕掛けになっているので注意する。
全力で走り、手早く窓を解錠し屋敷に潜入。
この魔導具がなければ、ここまでの速さで潜入はできない
さて深部を目指そう…
「あの露天商はこの事を何故教えなかった?」
深部に向けて行動している時に気が付いた。
この屋敷を警備する兵の動きが少し遅く見えるという事に…
「これがシャドータイガーの視界という事は…シャドータイガーには獲物の動きがこう見えているのだろう」
なるほどシャドータイガーが厄介な魔物だと言うのがよく分かる。
「これは人で言うのなら[遅延の魔眼]と同じ効果だぞ…」
魔眼を持つ者に[遅延の魔眼]という魔眼がある。
対象の動きが少し遅く見えるという魔眼だ…
「この事を話していたら更にこの魔導具の価値が上がるというのに…何故あの露天商は話さなかった?」
まさか……私が国王の目だと知っていて、今回の命が厳しいものだという事も知っており
手助けとして魔導具を安く売る為にあえてその事を言わなかった?
……いやいや、ありえない。
……本当にありえないか?魔力を完全に消すことができるほどの実力者だぞ。
「はぁ…とはいえ聞くのも怖いな。とりあえず考える事は保留だ」
今は命を全うするのみだ。
その後、私は難無く罠や警備兵を掻い潜りアンソン候爵家の深部へと到達。
目的の資料を見つけだし屋敷を後にするのであった。
城へと戻る道中
少し喉が乾いたので露天商からもらった薬水で乾きを誤魔化そうと飲んでみると……
「美味い……何だコレは?これが薬水なのか?」
その薬水の美味しさに驚いた。
あっという間に一本飲み干し、もう一本……
「いや、コレは国王に報告してから、じっくりと飲む事にしよう」
確か朝の露店で妹が売っていると言っていた……
「朝の露店にも興味が湧いてきたな」
私の興味はアンソン候爵家には無く
中央広場の片隅で開いている露店の方に向いていた。
×
余談ではあるが……
「あっ!相手の動きが少し遅く見えることを伝え忘れてた……」
モミジはただ単に伝えるのを忘れていただけであった。




