遺跡へ
少しだけ冷える早朝。
「じゃあ行こうか」
「クルル!」
騎獣具を付けた走竜の鞍に乗り騎獣屋を出る。
「まずは西門からでないとね」
「クルッ」
こちらの意思を汲んでくれたかのように走竜が西門の方に歩き出してくれる。
手綱は気持ち握っているが操作はしていない…
「言葉が通じているのかな?」
走竜はとても賢いのかもしれないな。
西門まで来ると
「おうっ!おはよう!カエデ、魔導ライトありがとうな」
王国警備隊第4隊長のグレイさんが声を掛けてきた。
「おはようございます。グレイさん」
「騎獣に乗ってるってことは遠出か?」
騎獣に乗って目線が高いせいかグレイさんを見下ろす形になっている。
なんか新鮮な気持ちだ。
「はい、遠出して材料採取にでも行こうかと思いまして」
「そうか気おつけろよ。それと南には行き過ぎるな。あそこら辺はな最近、魔物の出没が多くて物騒だからな」
なんか嫌な情報聞いたな~…
「わかりました。ありがとうございます…では」
「おう、ケガすんなよ」
グレイさんと部下の兵士さん達が手を振り見送ってくれる。
「目指すは南西の奇岩地帯。疲れない程度で走って」
「クルッ!」
やはり言葉が通じているようだ。
走竜の歩行速度が速くなっていく…
「お、お〜!けっこう速い!」
体感速度で30キロくらい出ているだろうか、しかも整備された道を無視して草原を南西に一直線に走っている。
「更に驚くはこの体幹だ」
この身体のポテンシャルは今だにわかっていない、草原とはいえ舗装されてはいない悪路である。
それなのにまったくバランスが崩れないのだ。
「ある意味この身体に怖さを感じるよ……うん?」
少し先から魔物の気配を感じる…たぶん第10位の魔物だろうな。
「この先に魔物がいるみたいだから注意ね」
「クルッ!」
走竜に注意を促すと…走竜はスピードを更に上げだした。
「おお…お…50キロはいってるか?」
前方に魔物が見えてくる。
顔を凶暴にしたような鹿の魔物だ。
走竜はスピードを上げ魔物に近づき……蹴飛ばした。
鹿の魔物が宙を舞い地面に墜落する。
「助走蹴りが走竜の攻撃手段みたいだな」
どうやら第10位くらいの魔物では相手にならないようだ。
走竜頼もしい。
「すごい、すごい、よくやったね」
「クルルルル…」
走竜を撫でて褒めておく、喉を鳴らしているので嬉しいようだ。
蹴飛ばされた鹿魔物を回収して目的地へ再出発。
一時間ほど草原を走行している。
「疲れてない?」
「クル!」
どうやら疲れてはいないらしい、流石は走竜と言われているだけあるな。
俺の方も別に尻が痛くなったりはしていない…
「商社マンだった頃の俺だったら凄いことになってただろうな」
車ともバイクとも違う走竜の乗り心地…
「でも商社マンの頃は社用車くらいしか乗ってなかったか」
旅行なんて高校以来かもしれないな。
高卒で入社してからは忙しすぎて旅行の暇なんてなかった。
あと女性との出会いとかもなかったな…
でもそこら辺は割とどうでもよかった。
ゲームとラノベがあればそれで大満足な商社マン時代。
「ん~…こうして走竜に乗って旅をするのは悪くない」
ゲームやラノベがない世界で新たな趣味ができた感じがする。
更に一時間ほど移動した。
「おっ!川が見える。少しあそこで休憩しよう」
「クルル」
走竜から降りて川を確認すると、川幅は広いが浅く綺麗な川のようで
その川を多くの魚が逆方向に泳いでいた。
「…これは溯上しているのか?」
よく見ると魚は全部が同種で鮭のような姿をしている。
それの光景がたまにテレビで見る鮭の溯上によく似ていた。
「溯上しているって事は卵を持っているってことか……よし!獲ろう」
側に生えている木の枝から木製の銛を削り出す。
スキル[工作]のおかげで重量バランスなども完璧だ。
あとは狙いを定めて……投擲!
「よし!命中!」
商社マン時代では絶対にできない芸当である。
「あれ?これはオスか?」
腹が膨れてないし、顔も厳つい感じ…オスのようだ。
「クルル…」
何か走竜がこちらに期待を込めた目を向けてきている。
「食べる?」
「クルッ!」
走竜に魚をあげることにした。
一口で食べて美味しそうに咀嚼している。
「次こそはメスだ」
再度の投擲……見事にヒット!
「よしよし、今度はメスだ」
角ばっていない顔立ちに膨らんだ腹からは金色のイクラが少し出ていた。
「あと5匹は確保したい、食料調達だ」
それから銛投げを続ける。
走竜にも2匹ほど食べさせながらメス5匹にオス2匹を食料として確保した。
「身はオスの方が美味しいって聞いたしな…でも鮭じゃないから食べてみないとわからないか」
今日の夕食は魚で決まりだな。
「よし、進もうか」
「クルッ」
魚を食べて更に元気になった走竜に乗り川を渡り先に進む。
「暗くなってきたし今日はここらで野宿かな」
平原を抜け、林に入りしばらくすると陽が沈む頃合いになっていた。
林に一つだけ大きな石を見つけたので、そこで野宿することにする。
簡易的なテントを張り
雑貨屋で買った火打石で火を点けたき火を焚く、
意外と簡単にできたので拍子抜けである。
魚をさばき、そこら辺の枝で串を作り魚の切り身を刺して焼くことにした。
「商社マン時代の1人暮らしの経験が役に立つとはな…」
アイテムボックスから自作のスパイスを取り出して、焼いている魚に振りかける。
「自作だから合うかどうか…」
「うん…ピリ辛でいけるな」
焼けたので食べてみると自作ながらなかなかのできのスパイスになっていた。
スキルの効果が出たのかもしれないな。
焼けた魚を食べたそうにしていた走竜にもおすそ分けしてみると美味しそうに食べている。
「明日の昼あたりには遺跡につくかな?」
綺麗な夜空を見上げながら焼けた魚を食べるのもなかなか乙なものだ。
食べたら後にはすることはない、手づくりした魔物除けの香を炊き眠りにつく事にする。
「おやすみ走竜」
「クル…」




