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  作者: ひじきとコロッケ
ストム
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久しぶりの冒険者ギルド

「色々ありがとうございました」

「いいえ、大したことも出来ませんでして」

 そんな挨拶をしながらクロヴァンと共に家を出る。アンヌがかなりグズったが何日も滞在すると隠しきれなくなる。「また今度来るから」と言い聞かせて何とか落ち着かせた。


「さてと……あの馬車だ」


 クロヴァンの示す先には今からちょうど隣の村まで向かおうとしている馬車が停まっていた。


「話は通してある。乗っていてくれ」


 そう言って、詰め所に入っていった。

 馬車に近づいていくと御者もこちらに気づき笑顔で迎えてくれた。


「話は聞いています。大きな声では言えませんが、あの二人のこと、私からも礼を言わせてください」


 昨日ドラゴンに襲われた馬車の御者は言うまでも無く、同じ定期馬車を運行する同僚。今回はたまたまあの二人が襲われたが、日が違えば自分が襲われていたのは間違いなく、それは他の馬車も同様だ。

 一人が亡くなり、もう一人が重傷だが、街が守られたというのも大きく、詳細を聞かされた御者は恩を感じている。

 馬車の乗客はリョータたちの他五人。軽く挨拶をして空いている席に座ると、程なくして馬車が走り出した。

 ストムの町と村を結ぶ定期馬車は基本的に乗るときに身分のチェックをしているので、門を出るときはノーチェック。つまり、衛兵と御者が裏で手を組めば、出入りは自由と言う辺りがザルと言えばザル。だが、実際には馬車に乗るときの衛兵のチェックは複数が行うし、衛兵がいつどこの門を担当するかは当日にならないと決まらないので、不正は簡単では無い。

 今回は隊長が率先しているし、他の衛兵たちも協力的だからこそ出来た事とも言える。




 馬車は順調に進み、昼頃に一つ目の村に到着。乗客の乗り降りの後、出発してその先の村へ日暮れ前に到着。

 ストムとモンブールの国境はこの先だが、特に国境線が明示されているわけでも無く、出入国を厳重に管理しているわけでも無い。タダの荒れ地を徒歩で三日の距離。国境線としてはこれで充分らしい。

 言うまでも無く、村には宿の類いは無いのでリョータたちはそのまま村を出ると近くの森へ入り、転移魔法陣で工房へ向かった。


「これでやっとストムを抜けられるってわけだ」

「大変でしたね」

「ホントだよ。ひどい国だった」

「でも、隊長さんたち、良い人でしたよね」

「ああ」


 もう一度会いに行くのは難しいだろうが、機会があれば行ってもいいかもな、と思っている。だが、下手に街に入ろうとすると、シーサーペント討伐に駆り出されるのは火を見るより明らか。


「それを解決できる糸口になるといいんだけど」


 クロヴァンから託された手紙を眺めながら思う。

 中身は見ていないが、おそらくストムでの冒険者の扱いについて書かれているだろう。

 今まであらゆる方法で外部に漏れることを防いできたのだろうが、とうとうそれが破られる。

 それによってどんなことが起こるのか見当もつかない。


「ま、難しいことは偉い人たちが考えるでしょ」


 国と国の関係、冒険者ギルドの立ち位置。いろいろな事情が絡み合って現状の実に微妙なバランスが保たれているのだが、それが崩れたらどうなるか。

 最悪、戦争が起きるかも知れない。

 が、そんなこと、リョータたちの知ったことでは無い。


「ねえリョータ」

「ん?」

「荷車、どうしよう?」

「うん、無理」

「ふえ……?」


 さすがに全損は想定していなかったので、予備はありません。

 モンブール西端のバスキの街に着くまでは無理だし、この先も使うかというと微妙だよと伝えておく。


「はう……残念」


 ひどい罪悪感に(さいな)まれるんですけど!!




 翌日から荒れ地を歩き始める。三日分の食料などを用意しているが、だいぶ野営にも慣れてきているので荷物はだいぶコンパクトにまとまっている。

 ただ歩くだけでは勿体ないので、色々と魔法の練習をしながら歩く。


「んー、重力魔法は無理か」


 転移魔法陣はいわゆる瞬間移動では無く、超高速移動。移動時の加速度、俗に言うGを軽減して長距離を移動する魔法。だから、重力を操作する魔法も出来るかと思ったのだが、なかなか難しい。


「何が違うのかさっぱりわからん」


 それほど物理が得意でなかったリョータにはどうやればいいか見当がつかない。が、今のところ重力魔法……つまり相手の自重で押しつぶさなければならないような魔物を相手にしたことはないし、今後もそう言うことは無いだろうと勝手に思っている。

 魔の森は奥に行けば行くほど魔物が強くなる、というのが定説。だが、ドラゴンでさえも魔の森に入って徒歩で三、四日程度のあたりに生息している。魔の森の中心部なんてどんな魔物がいるのか想像もつかないが、そんなところまで行くつもりも無い。つまり、今のところドラゴン相手に困らない程度の攻撃力があれば十分。

 現状で、火の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法に雷の魔法を使えるようになり、単体攻撃だけでなく範囲攻撃も出来る。つまり、無理して重力魔法を実現しなくても問題ないが……


「ロマンなんだよなぁ、重力魔法」


 もう少し真面目に物理を勉強しておけば良かったと少し後悔しながら空を見上げる。

 どこまでも青い空なのだが、その空をポンポンとエリスが飛び跳ねている。百メートル以上の高さにいるようだが……ま、いいか。




 モンブール西端の街、バスキには予定通り到着。リョータはCランクなので到着報告をしに冒険者ギルドへ向かう。ついでに手紙の扱いについても相談しようか。


「何だかずいぶん冒険者ギルドを見ていなかったような気がする」

「そうですねえ」


 しみじみと言葉を交わしながら建物を見上げる。初めて訪れたはずなのに、まるで実家に帰ってきたかのような安心感に少し浸った後、並んで中へ入る。

 今までに見てきたギルドのように、右側に酒場、左側に受付カウンター。

 日はまだ高く、酒場は人もまばらだが、入ってきたリョータとエリスという、ここらでは見かけない二人を(いぶか)しむ視線を感じる。

 何はともあれ到着の報告と、手紙の扱いについて話をしようと受付に足を向けたら、目の前に頭三つ分は大きな体格の男が二人、立ちはだかった。


「おうおう、坊ちゃん嬢ちゃん。ここは子供の遊び場じゃねえぞ」


 こういうテンプレイベントは、いつになったら終わるんだろうか。


「おっと、先に名乗る方がいいか?俺様はアドム、泣く子も黙る実力者さ」

「そして俺がサンスム、二人とも今はDランクだが、それはたまたま運が悪いだけ。一年後にはAランクとしてこの街の顔さ。覚えておけ」


 妙なポーズに自己紹介。

 あー、これはあれだな。きちんと筋を通しておけば大丈夫かな?


「そうですか、ご丁寧にどうも。Cランク冒険者のリョータです。こっちはDランクのエリスです。よろしくお願いしますね」


 嘘ではない証拠に「Cランク」と刻まれた冒険者証を掲げてみせる。


「……」

「……」


 何か言えよ、と言いたいが相手の出方を待つ。


「あ、あーそう言えば、明日のための買い物しなきゃ行けないんだった」

「お、俺もちょっと用事を思いついた」

「その……何だ」

「お互い頑張ろうぜ」


 居心地悪そうに酒場へ戻っていった。


「買い物は?」


 ギクリ


「つーか、用事を思いつくってどういうことかと」


 ギクリ


「あ、あはははは……」


 ごまかすように笑い、隅っこの方へ。膝を抱えてうつむいてしまったのでこのくらいにしておこう。


 とりあえず、ひと仕事終えたので受付へ。


「と言うことでCランクのリョータ、到着しました」

「は、はい……って、どこから?!」

「え?」


 ヘルメスを始めとする大陸西側ではCランク冒険者の数はそこそこの数になるが、ここモンブールはいろいろな事情もあってCランク以上の数が非常に少ない。そのため、Cランク冒険者の名前はほとんどのギルド職員、特に受付は頭に入っているが、リョータという名のCランク冒険者に聞き覚えはない。聞き覚えが無いと言うことはここ数年の間、モンブールで活動していなかったと言うことであり、では東から流れてきたのだとしたら、途中の街をスルーしてきたと言う、あまり現実的でない移動をしてきたと言うことになる。

 と言うことはこの二人はどこから来たのか。東でないなら西、ストムからと言うことになる。だが、ストムへ向かった冒険者が帰ってきたことは無く、ストムから入ってきた冒険者もいない。少なくとも何十年もの間。


「あわわわ……えと……そのですね……」


 慌ててしまい、必要な書類を出そうとして手元がうまく定まらず、色々と散らかしてしまう。


「あの、落ち着いてくださいね」


 こんな少年に心配されるとは!と、受付嬢歴十年のシシリーがおかしな性癖にギリギリ目覚めなかったのはリョータにとって幸いだった。


「では本当にストムから……」

「それについて何ですが、実はこういう物がありまして」

「これは……手紙?衛兵隊長?のサイン……?は?」


 内容は確認していないこと、ある程度責任やら権力やらがある人に渡して欲しいと頼まれていることを告げると


「そ、そのままお待ちください!」


 と奥へ駆けていった。

 そのままって……あそこの椅子に座るくらいいいよな?

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