衛兵隊長の依頼
怪我人の手当を終え、エリスと手分けして馬車の中から荷物を出す。乗客の手荷物が大半で、村から町へ運ぶだけの荷物は木箱が三つだけ。中身は村で採れた果物だが、全部潰れてしまい、甘い香りを漂わせていた。
「何、たいした物じゃ無い」
「死んじまったら元も子もないからな」
そんな話をしているところへ、街から衛兵たちがやって来た。少し後ろから馬車も着いてきている。
「大丈夫か?!怪我人は?」
隊長らしい先頭の男が馬から下りるのももどかしいほどにデカい声を上げた。
「御者が一人亡くなりました。もう一人はこちらに。腕を折って重傷です。あと何人かが怪我をしています。応急処置はしてありますが、早めに医者に」
「君は?」
「通りがかりの者です」
「そうか……衛兵隊長のクロヴァンだ。協力感謝する。で、ドラゴンが出たはずだが……アレか」
そう言って様子を見に行くので、何となくついていった。
「御者と……馬か」
一瞥するとドラゴンを確認。
「一つ聞きたいのだが」
「はい」
「この首、誰が落としたんだ?」
「……」
「……」
おっさんと見つめ合うとか、誰得だよ。
「パパ!」
「んあっ?!」
隊長の足元に先ほどの女の子が飛びついていた。
「アンヌ?!この馬車だったのか?!」
「ええ、そうよ」
女の子を抱き上げた隊長についてきた母親が答える。
「あー、えーと……」
こちらをジロリと睨む。んー、素性はバレてるな。
「わかった、何とかする」
そう言って女の子を母親に渡す。
「パパ?」
「アンヌ、パパはもう少しお仕事だ。ママと一緒に待っててくれるか?」
「うん!」
「よし、いい子だ」
デレッデレの顔で頭をなでた後、部下たちの方へ向き直る。
「全員馬車に乗せたらすぐに街へ向かえ!怪我人はそのあと医者へ!」
「「「ハイ!」」」
「十人残れ!ドラゴンを回収する!」
「「「ハイ!」」」
指示を受けて衛兵たちが動き出す。微笑ましい物を見せてもらいましたという空気を漂わせながら。
「あのお……僕ら、もう行っていいですか?」
「とりあえず一緒に馬車に乗って街まで行ってくれ」
「はあ……はい」
「そのあとは……エレノア、頼む」
「わかったわ」
隊長さん宅にご招待という流れらしいが……大丈夫なのだろうか?
衛兵たちが引っ張ってきた馬車の一つに乗せられて街まで向かうが、どう考えてもこれ、入り口で調べられてアウト、って流れじゃ無いのかと思ったのだが、意外なことに何も調べられずに中に入ることが出来た。
衛兵の詰め所前で、怪我の無いものが降ろされ、そこで解散。
「さ、こちらです。すぐ近くですから」
「はい」
隊長の奥さん、エレノアさんに連れられて街の中を歩いて行く。
すぐ近くという言葉通り、五分も歩いたら二階建ての集合住宅にある隊長さんの自宅に到着。手作りの焼き菓子とお茶で一息ついたところに隊長さんが帰宅し……事情聴取が始まった。うん、当然だけど冒険者だってのはバレてた。
「知っているとは思うが、ストムでは冒険者は……その……なんだ」
「ですよね」
「だが、俺のできる限りで隠蔽する」
「うわ、仮にも領主直属でそれなりの役職の人が隠蔽とか言っちゃったよ」
「言うさ。俺の家族の恩人だ」
「しかも個人的な理由だし」
「違うぞ」
「え?」
「エレノアもアンヌも俺のかけがえ無い家族。それは間違いないが、この街、周辺の村の住人も大事な家族だと思っている」
結構意識高めの人だった。
「リョータは賢そうだからわかると思うが、あのドラゴンが仮に街まで来たらどうなると思う?」
「うーん……衛兵総出でかかれば倒せますよね?」
「まあな」
「でも、かなりの被害が出る。衛兵は勿論、衛兵以外にも死者、重傷者が多数」
「……」
「どのくらいの被害になるかは……想像出来ません」
「人間ってのは助け合って生きているからな。誰かが欠けたらそれを誰かが埋めなきゃならんと動く。だが、大勢欠けたらそれもままならん。アレが一暴れしたら街が落ち着くまで三年はかかっただろう」
「三年……」
結構な被害になるんだな。
「それが、馬一頭に御者一人。決して小さい被害では無いが、それだけで済んだ。そんな恩人をちょいとばかし上に嘘言ってごまかすだけ。役人の賄賂の方が余程悪質だろ?」
「まあ、そう……ですね」
「それに、そもそもドラゴンを二人で倒せるような実力者の機嫌を損ねたらそれこそ街が滅ぶ。違うか?」
「……」
否定はしない。ウォルテでは情報が少なすぎて流れに身を任せたが、この街で拘束されるようなことになったら全力で脱出する予定だった。それこそ街中破壊しながら。
「ただ、ごまかすにあたって一つだけ飲み込んで欲しいことがある」
「何でしょう?」
「ドラゴンの素材だ。済まないが、渡すことは出来ない」
「いいですよ。何とか間に合った衛兵が仕留めたってことにするんでしょ?」
「いいのか?」
「面倒事はゴメンなので、それで色々片付けてくれるなら」
「感謝する」
「いえいえ」
ドラゴンは皮も骨も肉も全て色々と使えるので、スモールドラゴンの大きさでも丸ごと売れば中金貨数枚にはなる。リョータ達二人を見逃すだけで、それだけ貴重な素材が入手出来るのなら安い物だ、というのがクロヴァンの考えである。そして、衛兵全員に箝口令も敷いた。
「あの二人相手に無傷で勝てる自信がある奴は吹聴すればいい」
そう言ったら、全員が
「いやぁ、あのドラゴン、強かったなぁ」
「俺の剣捌き見たか?こう、ずばっと」
「おいおい、とどめを刺したのは俺だぜ?」
衛兵たちの間では簡単に話がまとまり、リョータもすんなり同意してくれた。上をごまかすのはなんとでもなる。安心していいとクロヴァンは告げた。
「それと、これだ」
「手紙?」
「非公式に作った正式な文書だ」
「何言ってるのかよくわかりませんが……」
「グクローの衛兵隊長が正式に作成したが、作成したという記録が国内に一切残っていない文書だよ」
「これをどうしろと?」
「モンブールへ持って行って、出来るだけ責任、力のある人物に渡して欲しい」
「いきなりそんなこと言われても」
「出来そうだけどな」
「何を根拠に?」
「スモールサイズとは言え、ドラゴンを二人で討伐出来る時点で相当な実力があるはず。冒険者の制度には詳しくないが、初めて行った街でもそれなりに顔が利くんじゃ無いか?」
「……やってみます」
「決して損はさせない内容だ、頼む。ちなみに報酬は……」
「報酬は?」
「妻の自慢の手料理でどうだ?」
断るという選択肢は無かった。
夕食に並んだ料理はこのあたりでは伝統的な家庭料理だが、クロヴァンが「自慢の」と言うだけあってどれも絶品。
「お味はいかが?」
「とっても美味しいです」
「このお魚!噛めば噛むほど味が染み出てきて!」
エリスが頬に手を添え笑顔で「んーっ」と感激している。
「おかわりありますからね」
「はい!」
食事をしながらリョータ達の冒険譚を面白おかしく語る。エグい感じの魔物討伐やらはまだ幼いアンヌの教育上よろしくないので避け、当たり障りの無さそうな物を選んでいるのだが、ストムでは魔の森が身近で無いために、森の中での出来事全般がおとぎ話のようなもの。ホーンラビットを追い回すだけの話でもキャッキャとはしゃぎながら聞いてくれる。アンヌがはしゃぎ疲れて眠るまで、ストムに来て初めての穏やかで楽しい時間を二人は過ごしたのだった。
祝日もいつも更新してますが、今回は諸事情により見送ります。
詳しくは活動報告で。




